悪役令嬢は肴を求めて三千里

遊佐

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まずは気付けの一杯に

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トゥリーチェは悶々としていた。
初の社交界、己の成人した姿のお披露目。
それはいい、伊達に15年公爵令嬢として生きてはいない。筆頭公爵…とまではいかないまでも貴族間での重要な立ち位置にいる公爵家が長女のお披露目である。陛下からの長い長いありがた迷惑なご忠節をトゥリーチェは今か今かと終わるのを待っている。
これが終われば今、この場に居るデビュタントに来た者たちは成人として認められる。
成人となればどのような出来であっても一人前の大人として見られる。以降夜会や公にされる社交の場には常識の範囲内で参加を認められる。
それすなわちお酒を飲め…いや、嗜めるのだ。


トゥリーチェはこの世界に生まれる前の前世の記憶があった。物語のように、なにか強い衝撃を受けた、運命的な出会いがあった、数日寝込んで生死の境をさ迷った!なんてことはなく、いきなりぽーんと、それこそ天啓を受けるように記憶が甦ってきたのだ。そしてこの世界が前世の喪女一般代表である自分が残業ばかりの仕事の後、酒を片手に肴にしていた乙女ゲームであったこと。そして浅く広くな趣味展開の自分はなにが筝線に触れたか分からないが爆笑しながらクリアを目指していたこと。その時飲んでいた八●山が至極美味しかったことを。

「ちっ…早く終らないのかしら…」
何故、偉い人の話しは長くなるのか。仮面のように貼り付けた淑女の微笑みとは裏腹に小さくぼやけば、隣に控える青年に嗜めるように頭を撫でられた。
ちろり、と見上げた先の困ったような苦笑を浮かべる美しい青年はトゥリーチェの兄であり、これまたテンプレではあるが攻略対象のトゥアレである。2つ上の兄は本日のエスコート役であった。
本来のゲームのストーリーではこの兄妹、あまり仲は良くなかったほうだ。嫌い合っていたわけではないが、思春期のあれやこれでお互いがお互いに気を使い合った結果ギクシャクし始め、最終的に家庭内別居のように会話がなくなっていくのだが…それはそれ。幼き日の天恵により現代っ子だったトゥリーチェは構わず兄へ突撃、年下特権とばかりに甘えに甘えまくったのち仲良しこよしの兄妹の出来上がりと相成った。初めは戸惑っていたトゥアレ。中身は喪女でも腐ってもゲーム世界の主要人物、そんな幼女時代のトゥリーチェは天使もかくやの美少女であるので、甘えられては両手を上げての降参であった。
「トーリ、ここは屋敷ではないのだから誰が聞いているかわからない…その可愛いお口はもうしばらくは閉じておいてくれ?」
「……わかりましたわ、兄さま」
身を屈めて耳元で囁かれれば、仕方ないとばかりにトゥリーチェは肩を竦める。
ふふっ、と微かな笑い声を洩らして背を正した兄から視線を反らしその先のテーブルへ置かれたオードブルを眺めることで時間を潰すとしようではないか。
一杯目はきっとシャンパンであるだろうから、それに見事マリアージュ出来る一品を見つけなければならない。それは酒飲みに課された任務のようなものであるのだから。

    
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