悪役令嬢は肴を求めて三千里

遊佐

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そろそろカナッペ辺りが呼んでる

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加害者である令嬢の謎の反応にトゥアレは思わず顔をしかめたが、それすらもかの令嬢には効いたようで、何故か嬉しそうに笑顔を綻ばせている。
(訳が分からない…)
しかも、トゥアレに対する令嬢の反応を見た連れの伯爵令息はこちらを強く睨み付ける始末である。横恋慕でも疑っているのかもしれないが、ポーカーフェイスも崩れたしかめっ面のどこにそのような様子が見えるのか。甚だ疑問である。痛くなってきた頭にこめかみを押さえながら、大きな大きなため息を吐く。

「今…お前たちは何をしたのか…分かっているのか?」

底冷えするようなトゥアレの声は、いつの間にか静まり返ったホールの中でもって良く通った。冷たい声音は事実、物理的に冷気を纏っているのだが…それに気づいた令嬢が令息へ耳打ちをすると、やっと己達の仕出かしたことを思い出したかのようにはっ、とした表情で慌てて片膝を付き頭を下げた。
「も、申し訳ございません!」
「なっ…!?」
よりいっそう頭痛が増した気がする。たしかに非礼を詫びろ、と勧告すべく声は発しはしたが膝を折られる謂れはない。貴族が公の場で膝を折るのは王族列びに王への忠誠心のみ。個人邸にて非公式ならばいざ知らず、このような人の集まる場において、例え格上の公爵家にもせいぜい項を見せる礼が常識である。
状況を理解している周りの者達はあまりの非常識さに驚き息をのみ、やや離れている低位、中位貴族達は状況が分からず、まるで公爵家の者がその地位をもって非道にも強制させているように見えていることだろう。膝を付く男に、夢見るようにこちらを見る少女、見つめる先には麗しい青年。
「まさか…っ」
(意図的に狙った?!)
一人の少女を取り合う二人の男性、喜劇か悲劇か…さながらロマンス小説の一場面の出来上がりである。
ただし、隣でワナワナと震えているトゥリーチェを除いては。

幾分か時が経てば心境も落ち着いてきたが、次にトゥリーチェの心を占める感情は落胆であった。お酒との出会いは一期一会、同じ銘柄でも時や場所、温度や空気で味はがらりと変わる。何より一番飲みたいときに飲むお酒ほど美味しいものはないのに。ないのに!
「ふ、ふふ…貴方達…なんて事を仕出かしてくれたの?」
次の感情は怒りであった。しかも先程のトゥアレよりも更にしっかりと怒気の含まれた声は同伴で訪れている大人達も震え上がらせている。
伊達にこの国の四大公爵の令嬢をしているだけに、口は挟む者は誰もいない。
トゥリーチェが見咎めるように、今だ突っ立って小動物宜しく実兄を見つめる令嬢に視線をやれば、ひぃっ、と小さく声を漏らして床にへたりこんだ。
先程の加害者と被害者の関係が今、捕食者と被食者の構図に相成った。しかも逆転して。
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