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51 再遠征(4)ここにいない騏驥、ここにいる騏驥 2
しおりを挟む「……今回のこの遠征は、既に那椅国側に侵攻している本隊の応援という形になっている。だが、実際は違う。援軍ではあるが、那椅国を攻めるためのそれではない。撤退のための援軍だ」
「…………」
「出発の前に説明をしなかったのは、無用な混乱を避けるためだ。お前の士気にも関わっただろう。意気込んでの遠征が、こんな形のものではな……」
リィの言葉を、ダンジァは黙って聞いている。その瞳には微かに動揺が窺えるが、彼はまっすぐにリィを見つめ、視線を外さない。
リィも彼を見つめ、そして続けた。
「とはいえ、これも大切な任務に代わりはない。前線では今も那椅国と睨み合ってるようだし、そこからなるべく多くの兵や騎兵、馬たちを無事に撤退させるためには、わたしたちの働きが不可欠だ。——わかるな」
「——はい」
「お前の初遠征が、こんな形になってしまったこと申し訳なく思う。お前の能力ならば、華々しい戦果も夢ではなかっただろう。それなのに、偽るような真似をして——」
「いいえ」
そのとき。
リィの言葉を遮るように、ダンジァが声を上げた。
普段の礼儀正しい彼にしては珍しい行為だ。
彼は戸惑うリィにも構わず、「いいえ」と繰り返し、大きく頭を振った。
「謝ったりなどなさらないでください。自分は、一日も早くリィ様と一緒に遠征に出てみたかったのです。調教場で乗ってもらうだけでなく、こうして外で……」
「ダンジァ……」
「調教でどれほど動けても、それはあくまで調教でのことです。実戦では違うだろうことは、自分にも想像が付いていました。だからこそ、少しでも早く出たかったのです」
熱の篭もった声で、瞳で、彼は続ける。
「調教でどれほど乗ってもらったとしても、実戦を伴わなければ――共に遠征に出ることがなければ、『あなたに乗ってもらった』と言うことは出来ません。ですからそんな風に謝ったりなんかなさらないで下さい。どんな形であれ、自分はこうしてあなたと共に遠征に出られたことが嬉しいのです。あなたがこの遠征に、自分を選んで下さったことが。たとえ……『代わり』であっても」
「! ダンジァ!」
代わり、という言葉にリィは思わず声を上げたが、ダンジァは達観した面持ちのままだ。
自分を卑下しているわけでもなく、リィを責めているわけでもない。
ただ「ありのまま」に受け取っているのだという貌。
その顔を見つめたまま、リィは小さく息をついた。
彼の言う通りだ。どう取り繕っても彼は「代わり」に過ぎなかった。出発までは。
けれど、今は——。
「ダンジァ」
リィは彼の騏驥を見つめたまま、心を込めてその名を呼んだ。
「今のわたしの騏驥はお前だ。わたしは与えられた任務を果たすべくお前を使う。わたしのためにその能力を発揮してほしい」
「はい。喜んで」
リィの言葉にダンジァは歯切れ良く答え、笑顔で頷く。
一片の曇りもない笑顔。眩いほどの。
だからこそ、ここにいない騏驥を思い出してしまう。
リィは胸の中で暴れる騏驥の面影を強引に排除するかのように、ダンジァに意識を集中する。
誠実で精悍な貌。恵まれた体躯。
その首に嵌められている「輪」。彼を騏驥たらしめてる枷。
人ではない証——。
それを除けば、何一つ、人と変わりはない姿なのに。
(だが彼は、騏驥なのだ)
どれほど堪えようとしても、人の姿で居続けることはできない。馬の姿に変わってしまう騏驥。
人であり人でなく、獣であり獣でなく、騎士に使役されるための、ただの兵器。
ただの——兵器……?
その瞬間、リィの脳裏になにかが――まだ形にも言葉にもならないなにかが――漠然とした考えのような想いのようなものがぼんやりと浮かぶ。浮かびかける。
そのとき。
「リィ様……?」
不意にダンジァから声をかけられ、リィは小さく息を呑んで目を瞬かせた。
浮かびかけていた「なにか」が途端に消える。
不思議そうな顔でこちらを見つめているダンジァと目が合う。
途端、彼は悲しそうな表情になった。
(あ……)
ルーランのことを考えていた、とでも思ったのだろうか。
違うのだが——違うと思うのだが、他のことを考えていたのは間違いなく、リィは胸がチクチク痛むのを感じた。
「すまない。その……」
「いえ、大丈夫です。お気になさらないでください」
「……」
そう言われても。
リィは少し考えてふっと息を吐くと、
「ではお前のことを尋ねても……?」
と、話題を変えた。
「もちろん、答えたくないことは答えなくていい。だがわたしはあまりにもお前のことを知らなさすぎる。今後のためにも少し訊いておいて構わないだろうか」
「は、はい」
ダンジァは緊張しつつも神妙に頷く。
リィは微笑んで続けた。
「そうだな……お前の家族は? 生まれはどの辺りだ」
「家族は、両親と姉が一人います。生まれたのは王都の西の、山間の街です」
「体格がいいのは昔からか」
「そう、だと思います。友人たちの中では一番背が高かったので」
「体を動かす事は? 得意だったか」
「走るのは昔から好きでしたし得意でした。街の同じぐらいの年のもので自分よりも早い者はいなかったと思います」
聞きながら、うん、うんとリィは頷く。
こんな風に騏驥の個人的なことを尋ねるのは初めてだ。
今までは「必要ない」と思っていたから。
そんなことを知っても仕方がない、と。理解できない相手なのだから、と。「理解しようとすること」さえ避けていて……。
今のこの対応が正しいのかどうかはわからない。
けれど、自分は嫌だと思わなかった。そして多分、ダンジァもそう思ってくれているのではないだろうか。
(そういえば)
ふと、気になった。
「そういえば……お前は自分のことを『自分』と言うな。あれは何故だ?」
「ご不快ですか?」
「いや、そうじゃない。そういう風に言う者は初めてだったから」
リィが言うと、ダンジァは少し黙り、微かに笑って口を開いた。
「騏驥の中には、たまにおります。リィ様は、まだ乗ったことがないのだと思います」
「そうなのか……?」
「はい。自分が初めてだったのだと……」
「…………」
「自分も、人の時は『俺』でしたから」
付け足すように言われたその言葉に、リィは息を呑む。ダンジァは苦笑して続けた。
「騏驥になったときに——正確に言えば騏驥としての馴致を受けるために育成施設に移ったときに改めました。もう以前とは違うのだから、と」
「…………」
「もちろん変えない者も多いのですが。……自分はそんな風にしないと自分が変わってしまったことを受け入れられなくて」
それまでと同じでいられるほど強くなかったので……と伏し目がちに続けるダンジァに、リィは胸が締め付けられる思いがした。
彼は過去形で話してはいる。
いるが、だからといって自分に起ったことの全てに納得し、気持ちの整理をつけられているわけではないのだろう。
有望だ、高い能力がある、素晴らしい、と口々に褒めそやされている現在であっても。
リィが黙ってしまったからだろう。
「ぁ……で、ですがそんなに大したものではないので……リィ様がお嫌なら、改めます」
慌てたようにダンジァが言い添えてくる。
リィは彼を見つめると「いいや」と頭を振った。
「そんなことはない。気にするな。というか……わたしのことは気にしなくていい、お前が改めたいと思えば改めればいいのだし、このままの方がいいというならそうしていればいい」
「…………」
「なにもかも、わたしに合わせる必要は——」
「ですが、少しでもあなたに気に入られたいのです」
言いかけたリィの言葉が、ダンジァのそれに奪われる。
重ねて無礼だ。
だが彼の面持ちは、リィにそれを言わせない——思わせない必死さがあった。
ダンジァはリィの前に片膝を付いたまま、訴えるように続ける。
「……騏驥は……おそらく自分に限らずみな、心の中では願い続けているのです。たった一人の騎士に見いだされ、その『誰か』に好まれ続け、ずっと乗ってもらうことを」
「…………」
「騏驥となった身では、もはや普通の生活は望めません。そんな中で唯一願い続けていることが、いつか自分と手の合う騎士に出会い、その人に乗り続けてもらうことなのです。その人の役に立ち続けることなのです」
「…………」
「もちろん、大勢の騎士を乗せることに喜びを見いだす者もおりましょう。ですがそんな騏驥も、きっと本心では誰かとずっと一緒にいることを望んでいるのではないかと思うのです。自分を一番理解してくれている、ただ一人の騎士と」
ダンジァは熱に浮かされたような表情と口調で続ける。
リィはその熱に気圧され、制することも出来ない。
「……ですから自分は、少しでもリィ様に気に入られたいと思うのです。また乗りたいと、乗り続けたいと思って頂けるように。…………騏驥としての能力では……まだ至らないことも多いかと思うので」
そこまで言うと、ダンジァは小さく苦笑する。
リィは、彼から向けられたあまりに大きな期待に言葉をなくしてしまう。
彼は、騏驥としての自分の存在の全てを賭けてリィに騎乗し続けてもらいたいと望んでいるのだ。
それは騎士として喜ぶべき事だろう。だが……。
そんな風に訴えられて、どんな言葉を返せばいい?
見つめてくる視線のまっすぐさと密度に耐えられず、リィは微かに目を逸らす。
ぼやくようにして言った。
「……お前……無口かと思えば随分と喋るんだな」
そして話を逸らした自分への気まずさを誤魔化すように、ダンジァを睨む。
すると、ダンジァは何が可笑しいのか、小さく笑いを零した。
嗤われたと思ったリィが顔色を変えると、
「——申し訳ありません」
ダンジァが即座に言った。
「不快な思いをさせるつもりではなかったんです。ただ、なんだか……」
「なんだ」
「ああ……いえ——なんだか、嬉しくて」
「?」
意表をつかれ、リィは眉を寄せる。
ダンジァは微笑んだまま続けた。
「リィ様が自分の前で感情を露わにされたのを見たのは初めてだったので……」
「……っ、そ、そんなことで嬉しがるな!」
リィは恥ずかしさに頬を染めながら、ぷいと唇を尖らせた。
こいつ……大人しく性格のいい騏驥かと思えば、やっぱり騏驥は騏驥だ。一癖ある。
それとも、自分がそういう騏驥を引き寄せてしまうのだろうか???
(まさか!)
そんなややこしい騏驥ばかりに囲まれるのはまっぴらだ——。
そう思いながら、リィはダンジァを睨んで言った。
「それは……お前が今までと違うからだ。やけに喋るし……」
何気なく訊いたことに、大事なことを言うし……と、ぼやくように言うと、ダンジァは軽く首を傾げて見せた。
「今までの騏驥とは……あまりお話しにはならなかったのですか?」
「…………」
リィは応えなかった。それが答えだ。
話さなかった。
ルーランと一番長く話したのは、多分……。
(…………)
リィは唇を噛む。
思い出したくない。
忘れていないから、思い出したくない。
と、そんなリィをダンジァは静かに見つめてくる。
その、寂しそうにも悲しそうにも見える面持ちが気になり、
「何が言いたい」
リィは微かに眉を寄せて言った。
ルーランのことを考えてしまったときの顔を見られる気まずさを、誤魔化すように。
しかもどうして、そんな顔で見る?
「何か言いたいことがあるんだろう。聞くから——ちゃんと話せ」
「…………」
「ダンジァ!」
黙ったままのダンジァに、堪らず声を荒らげると、彼は苦笑の表情で呟くように言った。
「羨ましいなと——思っていました」
「!?」
なにが、と視線で問うと、彼は一層寂しそうな貌で続ける。
「話さなくても、色々通じ合えていたのだな、と。そんな必要もないぐらい解り合えていたのだなと思うと、羨ましい限りです」
「な……」
ダンジァの言葉に、その思いもかけない内容に、リィは狼狽せずにいられなかった。
通じ合う? 解り合う?
騏驥を相手に?
あの騏驥を相手に?
馬鹿げている——。
そうではなかったから、今、わたしは——。
「お——お前は何を言うかと思えば」
リィは回らない舌を無理やり動かすようにして言った。
「そんなわけがないだろう。勘違いもいいところだ。ルー……ランと話さなかったのは、別にそういう気にならなかっただけだ」
名前を口にするのに躊躇して、そんな自分にリィは眉を寄せる。
「話したいと思わなかっただけだ。あんな頭のおかしい騏驥と話をしたところで——」
「でも、ずっと騎乗してらした」
リィの声に被せるように、ダンジァが言う。虚をつかれたリィに彼は続ける。
「幸いにして自分はあまり経験がありませんが、手の合わない騎士を乗せ続けるのは苦痛だと……先輩たちから聞いたことがあります。もちろんおおっぴらにそんなことは言いませんが……。『合わないと大変だ』という愚痴ぐらいは耳にします。『上手いけれどどうも合わない』とか——乗る技術が巧みか否かとは少し別の、『合う・合わない』……。相性というやつなのでしょう。それは想像が付きます。まだ人間だったころの自分にも覚えがあることです。だから、相性のいい、手の合う騎士に乗ってもらうと嬉しくなるし、ずっと乗ってもらいたいと思います。そういうのは、リィ様たち騎士の側でもあるのではないかと思うのですが」
「…………」
ない、とは言えない。
リィが黙っていると、ダンジァは続ける。
「そんな状況で、ずっと一頭の騏驥に乗り続けているというのは、よほど手が合っているのだろうと思うのです。互いに相性がいいのだろう——と。しかもそれが度々話し合いの機会を持ち、互いを深く知り合い、要求や希望を摺り合わせてのことでなく、むしろ話などせずに自然にやっているとなれば……羨ましくもなります」
「……別に……それはお前が思っているほど大層なものじゃない」
ダンジァの言葉に、リィはすぐさま反論を試みた。
合わなかったとは言わない。確かにルーランとは手が合った。
最初に騎乗したときから、その暴れようと奔放さと気性の悪さに辟易させられたが、不思議と「嫌だ」とは思わなかったのだ。
むしろ高揚した。
その背の感触と手綱から伝わってくる生命力に。
けれど——。
「お前が言うような、そんないいものじゃない。わたしはただ……あれが強かったから乗り続けていただけだ。騎士として手柄を立てたかったら、だから……その一番手っ取り早い方法として……。もしかしたら、もっと手の合う騏驥だっていたかもしれない。でもわたしが知り、乗れる騏驥の中では、あれが一番強かったから……それだけだ」
それだけ。
——それだけ。
だからルーランのことを知ろうともしなかった。
彼が何に憤り、何を許せず、何を大切に思っているのか。そんなことすら。
「……でも事実、乗っていて、とてもよかったのではないのですか」
「…………」
「何を話さなくとも、いちいち事細かに指示しなくても、彼はあなたの望むような働きを見せた——」
「——ダンジァ」
堪らず、リィは騏驥の名を鋭く呼びつけた。
彼が息を呑む。
リィは目の前に跪く騏驥を見下ろして言った。
「口の利き方に気をつけろ。誰と話をしているのか忘れているのか? わたしがこうして騏驥であるお前と話をしているのは『騎士として』『その方がいい』と判断したからだ。それ以上の理由もそれ以外の理由もない」
「…………」
「それとも、ここでお前の問いに『そうだ』と応えてほしいのか? 自らの至らなさを、わざわざわたしの口から述べられたいと?」
「いえ」
言葉が過ぎたと気付いたのだろう。
ダンジァは立場をわきまえた様子で「失礼いたしました」と頭を下げる。
だが直後。
「ただ」
と、俯いたまま続けた。
「羨ましいのは本当です。自分もそんな風に、すべてを委ねられる騎士と出会いたいと……そう思っておりますのて。できればリィ様のような方と、そうした良い関係が築ければ……と」
「……それは、お前の働き次第だ」
いつになく饒舌なダンジァに戸惑いつつも、リィは応える。
まったく、どうして今日はこんなに喋るのだ?
いよいよ明日は国境を越えるということで、気分が高揚しているのだろうか?
だとしたら、あまりいい傾向じゃない。「普段と違う」というのは、ろくなことがないのだ。
気になってリィが尋ねると、ダンジァは「そうかもしれません」と苦笑した。
「なにしろすべてが初めてですから。ですが、自分が饒舌なのだとしたら、その一番の理由は、こうして話す機会を与えられたからです。そして、こうした機会は次にいつあるかわからないからです」
「いつあるかなど……そんな心配は無用だ。お前とは随時コンタクトを取るつもりだと言ったはずだ。お前はまだいろいろと不慣れなのだし……」
「はい。ありがとうございます。ですが、リィ様がそうお考え下さっていたとしても、自分は『次』まで生きているかどうかわかりませんから」
「!」
さらりと、けれど確かな重みをもって口にされた言葉に、リィは息が止まる。
そんなリィを見上げながら、若い騏驥は続けた。
「もちろん、自分もすぐに死ぬつもりはありません。これからもリィ様に乗って頂いて、もっともっと成果を上げて……ずっと乗って頂きたいと思っていますから。でも、命のことばかりは誰にもなんの保証もできないことです。……残念ながら」
「…………」
リィはダンジァを見つめ返したまま、静かに唇を噛んだ。
人の姿の時はともかく、いったんその姿を変えれば、騏驥は馬の何倍もの体格と屈強さを誇る存在になる。ほんの少しその蹄で蹴りやっただけで、あらゆるものを死に至らしめることが出来る、まさに最強の兵器と呼ぶにふさわしいほどに。
だが。
だからと言って、死なないわけではない。
むしろ急死する者も少なくはない。
人の姿と巨大な馬の姿との変身を繰り返しているのだ。あらゆる面で負担が大きいのだろう。
昨日まで元気だった騏驥が翌朝馬房の中で冷たくなっていた話や、調教中に心臓麻痺を起こして死んだ話は、リィも以前から何度も聞いている。
自分が関わった騏驥がそうならなかったのは単なる偶然の幸いで、本当は、ダンジァが言ったように「次」の保証などないのが騏驥なのだ。
加えて、遠征中は何が起こるかわからない……。
自分は騏驥を使い捨てるつもりはない。
そんなつもりで乗ってはいない。けれど。
もし結果として「そう」なってしまったなら。
自分はそれを「仕方のないこと」として割り切れるだろうか……?
「――リィ様」
と、つい考え込んでしまいかけたリィに、ダンジァの声がした。
顔を向けると、彼は困ったように眉を寄せていた。
「そんなお顔をなさらないで下さい。つまりは、せっかくこうして機会を頂けたのですから、悔いのないよう話をしておこうと……そう思っただけのことなのですから」
「…………」
見つめてくる騏驥を、リィもじっと見つめ返す。
彼の不安、高揚、期待、畏れ——。
騏驥が抱くそれらを、全てを受け止めるために。
腹を括った気でいても、自分は騎士としてどう騏驥と対峙していくのかまだ迷うことはある。
それでも、今目の前にいる自分の騏驥の能力を最大限引き出したい、最高の形でその力を発揮させたいという思いは変わらない。
「……そうか」
リィは、視線を外さないまま言った。
「そうか。それで——満足したか? 話し足りないことはないか」
「——ありません」
「本当に?」
「本当です。あとは明日もまたお役に立てるよう、一心に努めるだけです」
真っ直ぐにリィを見上げ、そう続けるダンジァを暫く見つめると、リィは無言で深く頷いた。
話が済めば、あとは騎士として騏驥に騎乗し、最善を尽くすのみだ。
騏驥もそれを望んでいるなら、なおさらに。
ふっと息をつくと、改めてぐるりと周囲を見まわす。
「少し長居しすぎたな。このペースでは辺りを見回り終える前に夜が明けてしまう。お前が長々と話をするからだ。そんなつもりではなかったのに」
肩を竦め、再び歩き始めると、すぐにダンジァも立ち上がる。
傍をついて来ながら「申し訳ありません」と平謝りの彼に、リィは小さく笑った。
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