きみよ奇跡の意味を知れ 【本編完結・番外プチ連載5/14完結】

桜以和果

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75 忌むべき再会

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 あの、仮面の男——。
 思い出して、リィは背がゾッと冷たくなるのを感じた。
 
 魔術を使う怪しい男。なぜかリィに憎しみや恨みのような感情の篭った目を向けてくる男。
 噛み付くようにして彼の指に歯を立ててからというもの、男は姿を見せなかった。
 あの牢から逃げる時も逃げてからも一向に姿を見ないと思っていた。
 だから、もしかしたらもうどこかへ行ってしまったのかも、と淡い期待を抱いていたが——。

 追ってきた……。
 追ってきたのだ。
 こんなところまで。
 かなり逃げたはずなのに、こんなところまで。

 そういえば捕まったときもそうだった。
 なぜかわからないのに、この男たちのいる方へ誘導されるような格好になって。

 逃げられない……?

 不安が増して、動けなくなる。
 だが、そんなリィの身体は強引に引っぱり上げられ、ルーランの強い腕に抱き上げられた。
 横抱きにされ、戸惑ったのも一瞬。リィを抱えたままルーランは大きく跳躍する。

「ルーラン!? ———!」

 驚きの声を上げたリィは、直後、息を飲んだ。
 自分たちのいた場所に、さらに矢が降ってきたからだ。

「大丈夫だ」
 
 震えてしまったリィに、ルーランは励ますように言う。
 ぎゅっと抱きしめられた。

「とりあえず、あの小屋に戻ろう。あそこなら結界が……——っ」

 その時、闇から突き出してきた剣先が風を裂いて二人を掠める。
 あの剣。背の高い、もう一人の仮面の男だ。
 気づいた瞬間、まさにその男が音もなく姿を見せる。
 
 ルーランが警戒しながら距離を取る。
 リィは慌ててルーランが持っていた袋を探った。
 何か武器になるもの……何かないのか、何か何か何か……。
 ——見つからない。

 焦っていると、

「貸してみろ」

 今度はルーランがリィを片腕に抱え直してそれを探る。
 程なく、

「あった——」

 声とともに袋から出されたルーランの手には、見事な剣が握られていた。
 
「……」

 リィは目を丸くするしかない。
 だが慌てて、再び袋を探った。何か自分にもないかと思ったのだ。
 しかしリィには見つけられない。おそらく自分が矢を得たように、それぞれへ向けての武器も用意されていたということだろう。石か符に姿を変えて。

 武器を得たルーランは瞳を煌めかせている。満足そうだ。
 気配が闘気を帯びる。

「ルーラン、それはわたしが……」

 とりあえずリィは言ってみたが、ルーランは「ふん」という顔だ。渡す気はないらしい。
 剣を手に、片腕にリィを抱いたまま、ルーランは言った。

「ここに逃げてくる時はあんたに守ってもらった。だからこれからは俺が守る」
 
「……」

「俺が守る」

 真っ直ぐにリィを見つめるその瞳は、この上なく真摯で決意の感じられるものだ。声も、今もまさに守ってくれるようにリィ抱いている腕も。
 そう——。彼はリィを助けに来てくれた時も同じような目をしてはいなかったか。
 あの時は馬の姿だった。でも。
 だとしたら彼は、本当に本当に彼の意思で自分を助けにきてくれたということなのだろうか。自分を助け出そうと、守ろうと、そのために。
 だとしたら、自分は彼になんてことを——。
 
 惑うリィの視線の先、ルーランは「大丈夫だから」と微笑むと、次いでその顔を近づいてくる背の高い男の方へ向ける。
 横顔も視線の厳しさも、直前の彼とは別人のようだ。近くで見るリィの方が震えるような貌だ。
 
 そんなルーランに対して、男は無言のまま滑るように距離を詰めてくる。
 視線が絡んだかと思うと、男は素早く踏み込み、間を詰め、次々鋭い剣技を繰り出してきた。

(速い)

 その息つく間もない速さに、リィは瞠目した。
 しかも早いだけでなく一撃が重い。打ち合う剣のぶつかる音は、滅多に聞くことのない激しさだ。
 だがルーランはそんな男からの攻撃を、リィを庇いながら完璧に受け流している。得体の知れない相手を前にしていても、一歩も引かない。むしろ愉しそうだ。

 騏驥も人の姿の時は剣を佩くことができる。騎士が許せば。
 そしてリィはそれを許していたから、ルーランの剣の腕は知っていたつもりだった。
 だが。
 実戦になると彼はより力を増すようだ。しかも相変わらず、事態が難しくなればなるほど一層に。
 
 今だって、前後に、左右に、そして時には高く飛んで、ルーランは男の攻撃をかわす。けれどどれだけ激しく動いても、リィの身体はいつも彼の腕の中にあった。
 彼の腕に支えられ、抱きしめられ、不安など微塵も感じられない。
 そっと見やると、安心させてくれるかのような微笑みが返ってくる。

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