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81 きみよ奇跡の意味を知れ 【本編・完】 *有*
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「ではわたしもそろそろお暇いたします」
今後についてひとしきり説明を終え、お茶も飲み終わったころ。
ニコロはそう言って笑顔で立ち上がった。
連れて、向かいに座っていたリィも立ち上がる。
扉まで見送ると、「世話になった」と頭を下げた。心からの感謝を込めて。
「本当に……とても世話になった。これからも色々と助言願うことがあるかと思うが、よろしく頼む」
リィが言うと、優秀な若い医師は実際の歳よりもさらに若く見える顔で「もちろんです」と頷いた。
「まだ完治というわけではありませんし、色々と決めなければならないこともありますから」
その言葉に、リィは深く頷く。けれど、傍に立つルーランは他人事のような顔だ。
そんな態度にリィが溜息をつくと、ニコロは小さく笑った。
「まあ、騏驥が医師嫌いなのは仕方のないことですから。白衣を見て固まってしまったり逃げ出さないだけマシです。ではまた後日」
「ああ」
リィは頷くと、隣のルーランにも無理やり頭を下げさせる。
階段を降りていったニコロの姿が見えなくなると、扉を閉めた。
訪問者が他の者だったなら——例えば、今日今までにやってきたGDやヴォエンやルュオインだったなら、階下まで見送っただろう。実際にそうした。
だが、魔術師の彼なら大丈夫だろうと思ったのだ。
この「館」であっても無事に出口までたどり着けるだろう、と。
(GDたちは入ることもできなかったからな……)
騎士学校の敷地内にありながら、全くの異空間に存在しているともいえる、この「館」だ。
(卒業生なのに「こんな場所があったのか」って驚いていたっけ)
昼間、わざわざ引越し祝いを持って来てくれた友人の顔を思い出し、リィは一人微笑む。
ルーランは、と探せば、彼はもう自分の寝室に戻っているようだった。
リィは広い(というかなんだか広さがよくわからない。そんなはずはないのに、とても奥行きがあるように感じられるのだ)居間と、そこに積まれている荷物を眺め、ふう、と息をついた。
なんだか不思議だ。
まさかルーランがこの「館」で暮らすことになるなんて。
そう。
彼が意識を回復して、それから約半月。
病室を出ることになった彼は、なんと、元の馬房ではなく、ここに住むことになったのだった。
理由は、リィがニコロと話した折に口にした、例のルーランの魔術の件だった。
目を覚ましてからこの半月の間、彼は身体と心の両面について様々なチェックを受けることになった。
医師はもちろん、病室には魔術師もやってきて半ば事情聴取のようなことが行われたのだが、それにより、彼が魔術が使えるらしいということが判明したのだった。
本来ならありえないことだった。
騏驥が魔術を使えては、魔術師の魔術が破られる可能性があるからだ。
だが、実際に使えた。
そしてさらにそれを調べるうち、一つのことが判明したのだ。
彼は、やはり魔術は使えない。
ただ、特別な条件下では魔術が使える。
騎士が側にいるときは、それを媒介とする形で魔術が使えるようだ、と。
魔術の使用には、技術とともに当然意思の力が必要になる。
その意思の力の解放の鍵が騎士だと判明したのだった。
と言うわけで。
特異な性質を持った騏驥として『塔』の特別管理下に置かれ、観察対象となったルーランは、普通の騏驥や馬からは隔離される形で、ここ住むこととなったのだった。
もし万が一、彼の魔術力や騏驥としての力に何かあったとしても、魔術師たちが住むこの「館」なら、すぐに制御できるであろうと考えられて。
(確かに)
リィは思う。
ここはカドランド師をはじめとした高位の魔術師たちが住んでいる。
ある意味『塔』に次ぐ魔術師たちの巣窟だ。
よくわからない魔術力を持ってしまった騏驥を住まわせておくには一番のところだろう。下手に厩舎に置いていては、他の騏驥に影響する可能性がある。
そんなわけで、病室から——さらには馬房からの引っ越しが終わったのが今日。
リィは監視も兼ねて手伝いにやって来たのだが、元々ルーランの荷物はさほど多くなかったため、手伝いよりもむしろ、ルーランの回復と引越しを知った数少ない友人や知人たちの訪問の応対をする方が忙しかった。ありがたいことに、皆お祝いを持ってきてくれたのだ。
そして、その最後がニコロだったというわけだ。
もっとも、彼は医師としてあれこれと生活の助言もしてくれたわけだが。
リィが寝室に足を踏み入れると、ルーランは寝台に横になってその天蓋を見上げていた。
それまで誰も住んでいなかった部屋であるが故に、まるで他の住人たちの倉庫のように使われていたここは、誰のものなのか何に使うのかわからない様々な荷が押し込められている。だが、それらが幅を利かせている居間と違い、この奥の寝室は、寝台が一つあるきりだ。
大きく豪奢なこの寝台は、引っ越すにあたってルーランが譲らなかった唯一のものだ。
当初はまだ身体が辛いから高価で良質な寝台の方がいいのだろうか、とか、ひょっとしたら馬の姿の時もここで眠りたいのだろうか……と想像していたのだが、単に「せっかく広い場所に引っ越すんだから広い寝台がいい」ということだったらしい。
実際、身体は一部を除いてもうほとんど問題ないようだし、馬の姿で眠るための場所は階下に別に用意しているようだった。
「妙な感じだな」
リィの姿を見ると、彼は不思議そうに言った。
「厩舎地区が特別好きだったわけでもないのに、出てみるとなんとなく寂しい気がするよ」
騏驥になってから、ずっとあそこにいたからかな。
呟くルーランの目は、どこか遠くを見ているようにも感じられる。
リィは大きな寝台のその端に、そっと腰を下ろした。
「住まいはここに移っても、調教ではたびたび行くことになるだろう。この騎士学校の施設だけでは不十分だからな」
「ん……」
返事をしながら、彼は伸びた前髪をかきあげる。
はずみでチラリと見えた右目は、まだ包帯が巻かれている。
腕には、もう薬符はない。ただ、傷跡は残っている。
病室からここに移る前の様々な検査の際、馬の姿で騎士を乗せずに軽く走った時には特に問題はなかったようだが……。
全力で駆けた時どうなのかは、リィにもまだわからない。
騎士はまだ騎乗しないようにと言われている。
いざ乗る日が来た時が、楽しみなような怖いような、だ。
「? なに?」
「あ、いや」
いつの間にかじっと見つめてしまっていたらしい。
組んだ腕を枕がわりにしている彼に不思議そうに尋ねられ、慌てて目を逸らした。
あの日。病室で彼が目を覚まして。
嬉しくて嬉しくて泣いて泣いて泣いて。
気づけば、彼に誘われるままに唇を重ねていた。
それはとても自然なことだったように思うし、後悔なんか微塵もない。むしろ、今でもあの時の幸福感を思い出すたび胸が熱くなるほどだ。
——けれど。
けれど。
それ以降、二人の間には何もなかった。
(当たり前、だが……)
リィはまたチラリとルーランを見る。
彼は、ただじっと天蓋を見上げている。
端正な横顔からは、何を考えているのかは読めなかった。
そう。
何もなかった。
当たり前のように。
何もなかった。
それはリィの心をいたずらに掻き乱すことのなかった反面、寂しさを感じさせてもいた。
あれは、彼も興奮してつい行ってしまったことなのだろう。
あれは、彼も意識を取り戻したばかりでつい……。
衝動的に行われたことなのだと頭ではわかっていても、重ねられた唇の感触は未だリィの胸の中に残っていて、だから苦しくなってしまう。
幸せだから、苦しい。
(早く、気にしないようにしなければいけないのに)
気づけばついつい彼をじっと見てしまうようだ。
(彼の方がよほど理性的で良識があるじゃないか……)
思わず溜息をつきそうになり。リィは慌ててそれを噛み殺す。
せっかくの彼の再出発——ではないが、居も移して、また新たに元気に生活していこうという晴れの日なのだ。
暗い雰囲気になるのは避けたい。
彼の騎士として、ずっと乗っていられるならそれで十分だ。
この素晴らしい騏驥に再び乗れるのなら、それだけで。
「あ、そういえば」
リィは、ずっと上を見ているルーランを見て思い出した。この「館」の上に住む、魔術師のことを。
「いずれカドランド師にもご挨拶に伺わなければな。今日はご不在で残念だった」
だが、ルーランはリィのその言葉に微かに眉を寄せる。
「んー。まあそうなんだけどさ。またあそこに行くの、嫌なんだけどな」
「何言ってる。こういうことはきちんとすべきなんだ。新参者なのだし、周りの方々に迷惑をかけるなよ」
心配だ、という顔でリィが言うと、ルーランは、
「わかってるって」
と、苦笑しながらリィを見つめてくる。
首を巡らせ、横になったまま見上げるようにして見つめてくるその視線に、リィはなんだか落ち着かない気持ちになってしまう。
やけに胸がざわざわして、なんとなく居心地が悪くなって、リィは慌てて立ち上がった。
「で、ではわたしもそろそろ帰る。病室を出たとはいえ、大怪我のあとなのだし、ちゃんと眠るんだぞ」
ルーランを見ているのかいないのか自分でもわからないような状態で口早に言うと、いそいそと寝室を出る。
だが帰ろうとして、上着がないことに気づいた。
確か、引っ越しの荷物運びを手伝い、来客の応対していた最中に脱いで……。
どこにあるのだろうか、と困っていると、
「どうしたの」
背後から声がかかる。
ルーランがやって来たのだ。見送ってくれるつもりだったのだろうか。
上着が……とリィが言うと、彼も一緒に探してくれる。
「かけておかないから」
「お前にかけておいてくれと頼んだはずなのだが」
「そうだっけ」
覚えてないなあ、と頭をかくルーランに眉を寄せつつリィが探していると、積み上げられた箱の向こうにちらりとそれらしきものが見える。
——あった。
雑に積まれている荷物の数々を乗り越え、箱をどけて上着を取ろうとした時。
その箱の中から、サラ……と微かな音を立てながら零れ落ちてきたものがあった。
「あっ」
花弁のように舞い落ちてくるそれらの一つを、リィは咄嗟に掬う。
その瞬間、息を呑んだ。
仄かに漂う甘い香り。
リィの掌の上、花弁と見紛うそれは、薄く切られて干された林檎だった。
林檎の欠片。
幾つものそれらが、リィが与えたハンカチーフに包まれてあったのだ。
「リィ? 見つかった?」
「ルーラン……」
リィは、それをそっと持ったまま振り返る。
ルーランが瞠目した。
それで確信する。
これはきっと、以前、初めて彼の馬房に行った時に渡した林檎だ。
彼のために持って行き、彼に渡した幾つかの林檎のうちの……。
あれを——あれを彼はずっとこうして……。
リィの目頭が熱くなる。
そんなリィに、ルーランが微笑んで言う。
「あの林檎、美味しかったからさ……。あんたから初めて貰ったものだし……食べ終えるのが惜しくて、こうやって取っておいたんだよ。もう少なくなっちゃったけど……」
「っ——ルーラン」
堪らず、リィはルーランの名を呼ぶと彼の側へと足を向けた。
想いが——彼への想いが体の奥から込み上げてくる。
もう、抑えておくのは無理だ。
だが、思い切って開こうとしたその口は、ルーランの掌に塞がれた。
——どうして。
戸惑うリィに、ルーランはふっと目を細めた。
「俺が先」
そしてゆっくりと手を離すと、目を丸くするリィの前で静かに微笑んだ。
「俺が先だよ。俺が先に言う。————あんたが好きだ、リィ」
その声は、強く、そして真っ直ぐにリィの胸に届く。
ルーランはリィを見つめたまま、はっきりとした口調でそう言うと一層じっとリィを見つめて続ける。
「あんたのことが好きだ、リィ。すごく好きだ。すごくすごく——誰にも渡したくないくらい好きだ。他のどんな騏驥にも乗ってほしくないし、他のどんな騎士にも魔術師にもそれ以外の奴らにも、どんな奴らにも渡したくない」
「…………」
「ずっと一緒にいて、ずっと俺の騎士でいてほしい。ずっと……俺のリィでいてほしい……」
「…………」
告げられる言葉は、これ以上ないほどの真摯な響きを湛えていて、リィは息をする事も忘れてしまう。
向けられた瞳は燃えるようだ。でもその中に優しさがある。強引さだけでなく、包むような優しさがある。そう、いつもリィに触れてくる彼の手の、その優しさのように。
心臓が、歓喜に早鐘を打っている。
耳の奥がわんわん響いている。なんだか頭がぼうっとしてきた。
見つめあっているはずなのに彼の顔が見えているのかいないのかよくわからない。
見えているけれど、これは現実なのだろうか。また何かの幻覚では?
だって。
——だって。
「なんで……」
気づけば、リィはぽつりと口にしていた。
「『なんで』?」
不思議そうに、ルーランが問い返す。
リィは彼の胸に取り縋り、背伸びするようにして訴えた。
「だって、お前はわたしを好きじゃないだろう」
「え」
「好きではないだろう?」
だって。
だって彼は。
繰り返すと、ルーランは訝しそうに目を瞬かせた。
「……好きでもないやつを命懸けで助けるほど俺は良い騏驥じゃないんだが……」
「でも」
「ん?」
「騎士は嫌いだ、と」
「そりゃ、今までは碌な奴に会わなかったからな。だからあんたに会えたのは奇跡だと思ってる」
取り縋っているリィの腰に、そっとルーランの片腕が回される。
抱き寄せられ、抱きしめられ、身体がくっつく。
大事なものを護るように、彼の腕がリィを抱く。
されるままになりながら、その腕の心地よさに泣きたくなるほどの嬉しさを感じながら、「でも」とリィは言葉を継いだ。
「でも……お前は、『だめだろ』って」
あのとき、お前は、『だめだろ』って……。
思い出して泣きそうになりながらリィが言うと、ルーランは苦笑した。
「ああ——うん。あんたのことを考えればだめだろうと思うさ。俺のせいであんたに肩身の狭い思いさせたくなかった。今でも……そう思わないわけじゃない」
でも。
両腕でリィを抱きしめ、胸の中に閉じ込めるようにしながらルーランは言った。
「でも——それはわかっててもあんたのことが好きだ。こうやって抱きしめて、ずっと離したくないぐらいにさ」
「……」
「本当言うと、さっきのさっきまで迷ってた。別に、騎士と騏驥のままでもいいのかな、なんてさ。俺たちなら、そういういい相棒同士としてやっていけるだろうし。でも……」
言葉を切り、じっとリィを見つめてルーランは言う。
「でも、それで本当にいいのかな、って思ってさ。死にかけて生き返って、そんな経験しておいて我慢するなんて、そんなの……俺らしくないよな、って」
俺は、俺の好きなようにやる。
言うと、ルーランは口の端を上げて笑う。
自信たっぷりの笑顔で。彼のいつもの笑顔で。
「俺はどうせろくでもない騏驥だし最悪だし、でも、だったら……思ったまま生きようと思ったんだ。俺は、忠誠心はないけど愛はある。あんたのことを愛してる。だから——あんたを護る。あんたのことを傷つける全部から、絶対に絶対に護ってやる」
ぎゅっとぎゅっと抱きしめられる。
「あんたを助けたみたいに、これからもずっとあんたのことを守るよ。大事だから離れるんじゃなくて、大事だから護る。こうやって護って、誰にも傷つけさせない」
紡がれる言葉は、まるで誓いのようだ。
愛の囁きというには荒っぽく、強引で、なのに胸を打つ、この世に二つとない誓いの言葉。
彼らしい、とリィは思った。
抱きしめられたまま髪を梳かれ、額に口付けられる。
瞳を覗き込まれ、「どう?」と視線で尋ねられる。
そんなもの、答えは決まっている——。
リィはルーランを見つめたまま微笑むと、「わかった」と頷いた。
「では、わたしはそんなお前を守るとしよう。騎士として、騏驥の安全には留意しなければ」
と、ルーランがくすりと笑った。
「俺があんたを護って、あんたが俺を護って? 終わらないじゃん」
「ああ、そうだ」
リィは微笑む。
それでいい。それがいいのだ。
抱きしめられて息が苦しくなることさえ幸せなのだと今初めて知りながら、リィはそう思っていた。
終わらなくていい。
ずっとずっと、お互いを想いあっていればいい。
そんな相手に巡り会えた幸せは、ずっと終わらなければいい。
見つめると、見つめ返される。
抱きしめられて抱きしめ返すと、また、どちらからともなく笑いが溢れる。
ルーランが、甘えるような目をして言った。
「許可が出たらさ、また一緒にどこかに走りに行こう。俺、あんたに乗られるのがすごく好きなんだ」
「ん……。わたしもお前に乗るのは好きだ」
「気持ちいい?」
「ああ。——とても」
思い出して言うと、最後に彼に乗った日が懐かしくなる。
もう一度——。また。
また、彼に乗って思い切り駆けたい。
それはどれほどの気持ち良さだろう。
想像していると、
「早く行きたいな」
ルーランも同じことを思っていたような顔で言う。
そして顔を寄せてくると、
「なあ、口付けていい?」
囁くように尋ねてきた。
「もうしたじゃないか」
意識を取り戻したときに。
リィがそう言うと、
「あの時はあの時だよ」
ルーランは言って、そっと口付けてくる。
以前交わした時よりもなお甘い——甘い口付け。
けれどこれは、禁忌の口づけでもあるのだ。
リィが微かに震えると、その身体をしっかりと抱きしめられた。
大丈夫。
そんな怖さも感じなくなるぐらい、俺はあなたを幸せにする。
あなたのためなら死んでも構わないと思ったぐらい、それほどの幸せをくれたあなただから、だから今度は俺が絶対に幸せにしてみせる。
どんな恐怖も近づけないぐらい幸せに——。
幸せに、する。
心の中に声が聞こえた気がして、リィはいつしかぎゅっと瞑っていた目を開ける。
ルーランの瞳が、自分を見つめていた。
ひとすじの陰りもない瞳が、自分を見つめている。
瞳。
彼の瞳。
この一つは、わたしに捧げられたもの。
躊躇なく。
その上、彼は命すら惜しまないと言わんばかりに——。
そう。
禁忌を犯すことは怖い。怖かった。父のようになることは。
けれどそれ以上に彼を愛し愛されることは幸福だ。
何も怖くない——。
そう思うぐらいに。
わたしはすでに溢れるほどの幸福の中にいる。
彼が与えてくれた幸福の中にいる。
どんな禁忌も畏れることなどないほどの。
「……ありがとう」
ルーランを見つめ返して、リィは言った。
噛み締めるように、リィは言った。
「ありがとう、ルーラン。わたしは、幸せだ」
お前がいるから。
お前に愛されているから。
するとルーランは目を細めて微笑み、
「もっと幸せにする」
自信たっぷりに言い、強く——強くリィを抱きしめる。
込み上げて来る想いのまま抱きしめ返すと、再び口付けられる。
そのままふわりと抱き上げられた。
「ぁ……」
さっきまで彼が寝ていた寝台に運ばれたかと思うと、そっと横たえられ、また口付けられる。
「ん、んっ……」
体重をかけないようにのしかかってきたルーランに口内を貪られ、リィはそのたび、切れ切れに喘ぐような声を溢す。
今までの口付けも気持ちよくとろけるようだったけれど、今はなんだかそれまで以上だ。
彼の舌が舌に触れるたび、気持ちよさに掠れた声が零れてしまう。
舌先を吸われ、甘く噛まれるたび、身体の奥に見えない熱が置かれるようだ。
身体の内側から、じわじわ炙られているような……。
「ふ……ぁ……」
離れていく唇が寂しくて、思わず引き留めるような声をあげてしまうと、その恥ずかしさに真っ赤になった。
熱くなっている頬をそっと撫でられ、途端、自分の置かれている状況の生々しさに、身体が強張る。
「あ……」
「怖い?」
何度も何度もリィの髪を梳きながら、ルーランが囁くように尋ねてきた。
確かめるように頬に触れながら、気遣うように見つめてくる。
「顔が強張ってる。このままあんたの全部を俺のものにしたいけど……怖いならまた——」
だがそう言いかけた言葉を止めるように、リィはルーランの手を握った。
「怖……く……ない、とは言わない。でも怖いと言うよりも……その……緊張すると言うか……は、恥ずかしく、て……」
「恥ずかしい?」
「へ、変な声が、出るし……変な顔をしてる、気がして……」
モゴモゴとリィが言うと、ルーランは笑ってまたちゅっと口付けてきた。
「声も顔も可愛らしいよ。綺麗だし可愛いし、俺は好きだけど」
「好き……?」
「好き」
笑顔で言われ、少しほっとする。
人前でしたことのないことばかりをしているから、自分がどうなっているかわからないし、おかしいことをして嫌われたらと思うと緊張してしまう。
と、今度は着乱れて露わになった肩に唇が落とされた。
そんなところにも口付けられるなんて……と思うとますます胸がドキドキする。
「優しくする。……なるべく」
そのままリィの纏っているものをスルリと脱がせながら、ルーランは言った。
そして、思い出したように付け加える。
「ああ、そうだ。馬にはならないから安心してくれ。安定剤を使ってるから明日までは人のままだ」
「安定剤?」
「ん。医療用の……人の姿か馬の姿か、どっちかに定着させる薬だよ。大きな傷の治療をするときは、治療中に姿が変わると困るだろ。だからどちらかの姿に強制的変えられ続けてる格好になるんだ。人の姿でよかったよ。馬の姿だったら告白もままならなかった」
笑いながら言うルーランに、
「馬の姿で告白されても同じように答えたぞ」
リィがそう答えると、彼は「そう?」と嬉しそうに目を細める。
そんな顔を見ていると、さっきまでの緊張も柔らかく解けていくようだ。
一糸纏わぬ姿にされ、心許ないような恥ずかしいような想いに少しだけ震えたけれど、同じように全て脱ぎ落とした彼に抱きしめられると、肌と肌の触れ合う心地よさに全てを忘れられるようだ。
「不思議だ……」
抱きしめられたまま、リィは言った。
頬に、額に、熱を残すようにして口付けてきていたルーランがふと顔を上げる。
その頰を両手で掬い、今度はリィの方から彼の額に口付けると、リィは言った。
「こうしていると、なんだかドキドキしているのにホッとするような気分になる……」
さっきまで緊張していたはずなのに、それ以上に触れ合う嬉しさが胸の中に満ちている。
リィが言うと、ルーランは満足そうに笑って言った。
「だから”もっと幸せにする”、って言っただろ?」
こんなものじゃないけどな。
そう言うと、彼はもう何度目になるかわからない口づけをリィの唇に落としてきた。
しかも——それは今度は今まで以上に熱っぽく激しいそれだ。
「ん……っ、んんっ——」
目眩がするような口付けにすっかり翻弄されていると、彼の唇はリィの唇からそ首筋に、鎖骨に、そして胸元へと熱を移していく。
やがて、忙しなく上下している胸の、その小さな突起を含まれた瞬間。
「っあ——ッ」
リィは初めて経験する痺れるような甘い刺激に大きく身をくねらせ、その唇から高い嬌声を迸らせていた。
「ぁ、ゃ、ゃ、ぁ、ああッ——!」
舌先で捏ねるように弄られるたび、それまで上げたことがないほどの甘ったるく淫らな声が口をつく。思わず口元を抑えたがそれは止まらず、指の隙間から恥ずかしい声が次々と漏れてしまう。
「ゃ……っぁゃ……っんっ……ひぁ……ああっ」
「リィ、ダメだよ。もっとちゃんと声を聞かせてくれないと」
「っそ……ゃ、だっ……ゃだ、ん……ぁん……」
「初めてなんだから。俺にちゃんと教えてくれないと。リィの嫌なことはしたくないんだからさ」
「で、も……でも、あ、ぁやぁ……っ」
小さな胸の突起を音を立てて吸われ、かと思うと押し潰すようにして強く舐められ、性的な刺激に不慣れなリィは立て続けの快感にあっという間に攫われていく。
恥ずかしいと思うのに、我慢しなければと思うのに、ルーランの言葉のせいで声を殺すことにも戸惑ってしまう。
でも、でも、と思う間にますます気持ちよさは増していき、リィの身体は、ルーランの舌に、指に触れられ弄られるたび、いっそう敏感になっていく。
「ぁ……あ、ぁ……」
「大丈夫。リィ——安心して。全部俺のものだ、って確かめたいだけなんだから」
声と共に、唇は、指は、リィの身体の隅々まで触れていく。
肩、腕、腰、背、太腿、膝、脹脛、爪先——。
一つ一つの形と感触を確かめるように、愛おしげルーランは触れていく。
そんなところ触れるところじゃない、と止めても「好きなようにさせてくれよ」と言われればそれ以上は何も言えなくなる。
そしてそれは、恥ずかしかったけれどとても気持ちが良くて、安心して幸せになる。
リィは熱い息を零すと、ルーランの愛撫に幾度もその身をくねらせた。
ふわふわして、ふわふわして、気持ちがいい。
しかしその心地よさは、ルーランが性器に触れた途端、一気に深い官能の沼に引き込まれるような強すぎる刺激に変わる。
「ァ——あ」
既に形を変えていたそこを掴まれ、びくりと慄いた次の瞬間、ぬるりと温かなものに包まれ、一層高い声が出る。
ルーランの口内に含まれたのだと理解すると、リィは真っ赤になって頭を降った。
「っル……ぁ、ゃ……だめ、だ……っ」
イヤイヤをするように何度も頭を振り、引き剥がそうとするが指に力が入らない。
身体は正直に快感を示していて、ルーランの舌が、唇が性器を刺激するたび、腰が熱くなって溶けそうになる。
「いっぱい溢れてきた」
「ル……ぁ、あひぁ……あァあっ——」
ルーランが頭を上下させるたび、ヂュ、ヂュ、と聞いていられないほどの淫らな音が響く。
ビクビクと腰が跳ね、覚えのある熱が、腹の奥から込み上げてくる。
気持ちがいい。
気持ちがいい。
同じ意識ばかりが繰り返され、頭の中がぼうっとする。
だが直後。ルーランの手の中で達したことを思い出し、リィは暴れるように身を捩る。
(だめ)
気持ちがいい。
(だめ)
気持ちがいい。
(だめ)
このままだと。
このままだとルーランの口に——。
「ゃ……ル、だめ、ぇ……ッ——」
ぶるぶると一際激しく頭を振ったその瞬間、リィは耐えられず激しく腹を波打たせ、ルーランの口の中に精を放っていた。
言葉にならないほどの快感に、一瞬、頭の中が真っ白になる。
吐精の余韻の荒い息の中、羞恥と気持ち良さの狭間で涙目になっているリィの目に、顔を上げたルーランの喉が上下するのが見える。
「ル……」
慌てて身を起こし、飲んだのか、と訊きたいものの訊けずにあわあわしていると、そんなリィの前でルーランはにっこりと意味深に笑う。
「……飲んでも大丈夫なのか……?」
ようようリィが尋ねると、
「体液だからね」
と、ルーランはよくわからない答えを返す。
が、表情は変わらず満足そうだ。
「あんたのものならなんでも欲しいんだよ、俺は」
そしてそう言って、リィの長い髪をくしゃくしゃと撫で回す。
やがて、
「続けていい?」
リィの顔を覗きこんで尋ねてきた。
ドキ、と心臓がまた跳ねる。
思わず俯いてしまった。
男女の営みについての知識は、流石のリィにも多少はある。多少はあるので、男女以外でも「そう」できることまでは知っている。
ただ、自分が「そう」いうことをするとは思っていなかっただけで。
リィは自分の耳が熱くなるのを感じていた。
気持ちは決まっている。リィだってルーランが欲しい。
でも言葉にするのは恥ずかしい。
そっと顔を上げ、縋るようにルーランを見る。
と。
忠誠心の代わりに深い愛を持つという特異なリィの騏驥は、正確にリィの意を察し幸せそうに微笑んだ。
「ありがとう」
そう言うと、
「口付けていい?」
なぜか、また許可を求めて尋ねてくる。
リィは一瞬「なぜ今更」と不思議に思ったが、それが、彼がリィの零したものを飲んだためだと気づき、甘酸っぱいような愛しさに胸がいっぱいになる。
もちろん、と頷くと、微笑みの形の唇が同じ形の唇に触れる。
ちゅ……ちゅ……と繰り返し啄まれ、身体は再び昂り始める。
「口、吸われるの好きだね」
再び夜具の上にリィを横たえながら、ルーランが言う。
リィが「ん」と頷くと、口付けの合間に「気持ちいい?」と尋ねられる。
「気持ちがいいというか、なんだか幸せだから」
うっとりと息を零しながら答えると、「俺も」と微笑まれる。
「じゃあ、いっぱいしよう」
そして彼はそう言ったとおり、幾度も唇を降らせてきた。
甘く、優しく、激しく——。
その度、リィは悦びに身体中を戦慄かせて応じる。
それは、二人を繋ぐ柔らかな部分を丁重に愛撫されている時も同じで、身体の内側も外側も、全てが歓喜に震えていた。
好きで好きで好きで。
愛しくて愛しくて愛しくて。
自分がこんなに誰かを愛せることを——そして愛されることを喜びながら、リィはルーランを抱きしめ、そして彼の巧みな性技に身悶える。
膝裏を掬われ、苦しい格好になっても不思議と苦しくなかった。
恥ずかしい、と思ったのもほんの一瞬。彼に見つめられると早く彼が欲しくて堪らなくなる。
「リィ」
「ぁ、ルーラン、ルーラン........っ」
繋がろうとする逞しい身体を自分から求めるように掻き抱く。
首筋に腕を絡め、好き、好き、と何度も繰り返し名前を呼ぶと、滲んでいた涙に口付けられ、また涙が出る。
大好き。
好き。
いかないで。
ずっと。
愛してる。
胸の中に次々と満ちてくる想いで身体が弾けそうだ。
いや、もう弾けているかもしれない。弾けて、溶けて、きっとどこかでルーランと混じり合っている。
気持ちが混じり合っている。だって彼は、今もこんなにも優しい。
「ぁ……っ——」
挿し入ってくる熱い肉の感触に、背筋がさざめく。
苦しさに思わず息をつめると、ルーランは動きを止め、切なげに眉を寄せながらも、あやすようにリィの顔に口づけを降らせてくる。
頬、額、唇、鼻。目尻——。
一生分の口付けをされている気分だ。
もうだいじょうぶ、とリィが微笑むと、それを褒めてくれるように唇に音を立てて口付けられる。
そして再びゆっくりゆっくりと挿入され、やがて深々と嵌められた彼の楔はリィの身体中をいっぱいにした。
「は……ぁ……」
「リィ……大丈夫、か……」
「ん……」
リィはルーランを抱きしめたまま、こくんと頷いた。
「気持ち……い……」
悦びと切なさに泣きそうになりながら言葉を紡ぐと、その身体を強く強く抱きしめられる。
「俺も、すごく気持ちいい。あんたの中……すごく……」
情欲に掠れた声音で囁かれ、それだけで背筋がゾクゾクする。
抱きしめた腕に力を込めると、頬に、耳殻に、首筋に熱っぽい口付けが降ってくる。
「リィ……リィ——」
「ルー……ぁ……」
「リィ——好きだ……好きだ——」
律動とともに繰り返される声は、信じられないほどの密度と熱でリィの理性を焼き尽くしていく。
どれほど——どれほど——どれほど彼が自分を愛してくれているか。
どれほど自分が愛されているか。
それが痛いほどに伝わってきて、幸せで怖いぐらいだ。
彼が動くたび、彼の熱さを感じられるのが嬉しい。
彼の欲望の形を刻まれるのが嬉しい。
激しく幾度も揺さぶられ、ぞくりと大きく仰け反ると、露わになった喉元に優しく歯を立てられる。
その頭を抱き、彼にされたように彼の髪に指を通して梳き上げる。
艶のある、濃緑のような濃茶の髪。
全部に触れたくなるのは本当なのだな、とリィは思った。髪の一筋一筋まで全てに触れて、確かめたい。全てに触れて好きだと伝えたい。
そうしていると、彼の前髪の隙間から右目を覆う白い包帯が覗く。
そこはまだ治療中のはずだ。
失われた、彼の瞳。
ツキンとリィの胸が痛んだ。
思わず手を止めてしまうと、心地良さそうに閉じられていたルーランの瞼がふっと上がる。
「……気になる?」
尋ねられ、リィは小さく頷く。
ルーランが苦笑した。
「まあ、あんまり見栄えの良いものじゃないからな」
「そんなことはない」
リィは今度は頭を振った。
そんなことはない。
そんなつもりで言ったんじゃない。
「そんなことはない。ただ……わたしのせいで……お前がこんなことに、と……」
「それこそ『そんなことはない』だ。リィ」
すると、リィを見つめたまルーランは笑った。
繋がっているからか、そうして微笑まれただけでも全身がゾクゾクする。
思わず息を呑んでしまったリィに、ルーランは笑みのまま続ける。
「これは、俺が決めて俺がやったことだ。あんたのせいじゃない。これっぽっちも」
「……」
「”これ”でも俺のことを嫌がらずにいてくれるなら、それでもう十分だよ」
「……嫌なわけが、あるか」
そんなわけがあるか。ばか。
リィは泣きそうになるのを堪えて言うと、微かに窪んでいる眼窩にそっと口付ける。
「お前は、どんな姿でも見惚れるぐらい立派だ」
そして、今は唯一のものとなった彼の蜂蜜色の瞳を見つめて言うと、その目は柔らかく蕩けていく。
もう何度目になるか解らない口づけを交わし、愛情を伝え合うと、待ちきれなくなったようにルーランが律動を再開する。
「ぁ……っは、ぁ……っ……」
彼が動くたび全身を駆け巡る快感に、リィの唇から悦びに濡れた声が上がる。
初めてのリィを相当に気遣ってくれているのだろう。ルーランは決して焦らずじわじわと、じわじわとリィを追い上げていく。
苦痛も苦しさもまるでなく、ただ快感だけが充填されていく。
「ルーラ……ン……ぁ——」
「可愛い、リィ。もっと声聞かせてよ。あんたが俺と繋がって、俺と一緒にいて、気持ちよくなってる声が聞きたい」
「っん……あ、あぅ……あァッ——」
より深い繋がりを求めるかのように幾度も抜き挿しされたと思うと、絡み付く肉壁の感触を確かめるかのようにねっとりと腰を使われ、リィの口の端からは啜り泣くような喘ぎがひっきりなしに零れる。
身体の全て気持ちがいい。汗も涙も吐息も鼓動も香りも全部。身体の全部が彼を欲し、全部が彼に応えている。
繋がって隙間なくぴったりと抱き合い、息も溶かして口づけ合っていると、お互いの境目がわからなくなるようだ。
揺さぶられて声をあげて名前を呼んで呼ばれて身をくねらせて突き上げられて。
奥深くまで暴かれて晒して求めて求められて与えて与えられて。
息も絶え絶えになるほどの無比の快楽。熟れてヒクつく狭い肉筒を幾度となく抜き挿しされ、濃く深い強烈な快感に目の奥に白い火花が散る。
腹の奥でうねる欲が、解放を求めて込み上げてくる。
「ぁ、あ、ァ——ぁ、ルーラン……っ——」
「っ——リィ……っ」
そして一際激しく突き上げられ、奥の奥まで穿たれたその衝撃に大きく背を逸らした刹那。
「っあ、あ、ァ、あぁぁあ——ッ」
二人の身体の間で擦られていた性器から、再び絶頂の証が迸る。
滴る雫が二人の身体を濡らす間に、背が軋むほど抱きしめられ、身体の奥にルーランの熱情が注がれる。
「リィ……」
掠れた声で名前を呼ばれ、しゃくり上げながら口付けると、まだ熱を持ったままの唇同士はまたすぐに擦れ合い、濡れた舌同士が絡み合う。
「ん……ぅ……」
「無理させるのに……離せないな……」
気だるさと情欲の混じる酔うような口付けの合間。
そう言いながらリィの髪を梳くルーランに、リィはまだ乱れた息もそのまま、悪戯っぽく笑って囁いた。
「離さなくて、いい」
目が合うと、リィの唯一の騏驥はその精悍な貌をとろかすように微笑んで、
「——御心のまま」
嬉しそうに、幸せそうに囁き返した。
繰り返される抱擁は、まるで見えない手綱のようだ。
二人を強く、硬く、結び続ける。
それは、きっと「愛情」と呼ばれているもの。
その夜、リィは夢を見た。
彼の腕の中、幸せな夢を見た。
世界の果てまで続くかと思われる草原を、彼とともに、どこまでもどこまでも駆けていく夢だ。
二人で一緒に。二人で一つに。
何を恐れることもなく、ただ心地よさに包まれて。
離れることなく。笑みを交わして。
ずっとずっと。どこまでもどこまでも。
「彼」はわたしに特別な悦びを与えてくれる危険な兵器。
「彼」は俺に格別の陶酔をもたらす唯一の騎士。
出会うべくして出会った二人。
かけがえのない互いの特別。互いの唯一。
きみよ奇跡とともにあれ。
END
——————————————
本編ENDです。
以降はちょこちょことした後書きののち、番外&他騏驥編に参ります。
読んでいただきありがとうございました。
よろしければ引き続きよろしくお願いいたします。
今後についてひとしきり説明を終え、お茶も飲み終わったころ。
ニコロはそう言って笑顔で立ち上がった。
連れて、向かいに座っていたリィも立ち上がる。
扉まで見送ると、「世話になった」と頭を下げた。心からの感謝を込めて。
「本当に……とても世話になった。これからも色々と助言願うことがあるかと思うが、よろしく頼む」
リィが言うと、優秀な若い医師は実際の歳よりもさらに若く見える顔で「もちろんです」と頷いた。
「まだ完治というわけではありませんし、色々と決めなければならないこともありますから」
その言葉に、リィは深く頷く。けれど、傍に立つルーランは他人事のような顔だ。
そんな態度にリィが溜息をつくと、ニコロは小さく笑った。
「まあ、騏驥が医師嫌いなのは仕方のないことですから。白衣を見て固まってしまったり逃げ出さないだけマシです。ではまた後日」
「ああ」
リィは頷くと、隣のルーランにも無理やり頭を下げさせる。
階段を降りていったニコロの姿が見えなくなると、扉を閉めた。
訪問者が他の者だったなら——例えば、今日今までにやってきたGDやヴォエンやルュオインだったなら、階下まで見送っただろう。実際にそうした。
だが、魔術師の彼なら大丈夫だろうと思ったのだ。
この「館」であっても無事に出口までたどり着けるだろう、と。
(GDたちは入ることもできなかったからな……)
騎士学校の敷地内にありながら、全くの異空間に存在しているともいえる、この「館」だ。
(卒業生なのに「こんな場所があったのか」って驚いていたっけ)
昼間、わざわざ引越し祝いを持って来てくれた友人の顔を思い出し、リィは一人微笑む。
ルーランは、と探せば、彼はもう自分の寝室に戻っているようだった。
リィは広い(というかなんだか広さがよくわからない。そんなはずはないのに、とても奥行きがあるように感じられるのだ)居間と、そこに積まれている荷物を眺め、ふう、と息をついた。
なんだか不思議だ。
まさかルーランがこの「館」で暮らすことになるなんて。
そう。
彼が意識を回復して、それから約半月。
病室を出ることになった彼は、なんと、元の馬房ではなく、ここに住むことになったのだった。
理由は、リィがニコロと話した折に口にした、例のルーランの魔術の件だった。
目を覚ましてからこの半月の間、彼は身体と心の両面について様々なチェックを受けることになった。
医師はもちろん、病室には魔術師もやってきて半ば事情聴取のようなことが行われたのだが、それにより、彼が魔術が使えるらしいということが判明したのだった。
本来ならありえないことだった。
騏驥が魔術を使えては、魔術師の魔術が破られる可能性があるからだ。
だが、実際に使えた。
そしてさらにそれを調べるうち、一つのことが判明したのだ。
彼は、やはり魔術は使えない。
ただ、特別な条件下では魔術が使える。
騎士が側にいるときは、それを媒介とする形で魔術が使えるようだ、と。
魔術の使用には、技術とともに当然意思の力が必要になる。
その意思の力の解放の鍵が騎士だと判明したのだった。
と言うわけで。
特異な性質を持った騏驥として『塔』の特別管理下に置かれ、観察対象となったルーランは、普通の騏驥や馬からは隔離される形で、ここ住むこととなったのだった。
もし万が一、彼の魔術力や騏驥としての力に何かあったとしても、魔術師たちが住むこの「館」なら、すぐに制御できるであろうと考えられて。
(確かに)
リィは思う。
ここはカドランド師をはじめとした高位の魔術師たちが住んでいる。
ある意味『塔』に次ぐ魔術師たちの巣窟だ。
よくわからない魔術力を持ってしまった騏驥を住まわせておくには一番のところだろう。下手に厩舎に置いていては、他の騏驥に影響する可能性がある。
そんなわけで、病室から——さらには馬房からの引っ越しが終わったのが今日。
リィは監視も兼ねて手伝いにやって来たのだが、元々ルーランの荷物はさほど多くなかったため、手伝いよりもむしろ、ルーランの回復と引越しを知った数少ない友人や知人たちの訪問の応対をする方が忙しかった。ありがたいことに、皆お祝いを持ってきてくれたのだ。
そして、その最後がニコロだったというわけだ。
もっとも、彼は医師としてあれこれと生活の助言もしてくれたわけだが。
リィが寝室に足を踏み入れると、ルーランは寝台に横になってその天蓋を見上げていた。
それまで誰も住んでいなかった部屋であるが故に、まるで他の住人たちの倉庫のように使われていたここは、誰のものなのか何に使うのかわからない様々な荷が押し込められている。だが、それらが幅を利かせている居間と違い、この奥の寝室は、寝台が一つあるきりだ。
大きく豪奢なこの寝台は、引っ越すにあたってルーランが譲らなかった唯一のものだ。
当初はまだ身体が辛いから高価で良質な寝台の方がいいのだろうか、とか、ひょっとしたら馬の姿の時もここで眠りたいのだろうか……と想像していたのだが、単に「せっかく広い場所に引っ越すんだから広い寝台がいい」ということだったらしい。
実際、身体は一部を除いてもうほとんど問題ないようだし、馬の姿で眠るための場所は階下に別に用意しているようだった。
「妙な感じだな」
リィの姿を見ると、彼は不思議そうに言った。
「厩舎地区が特別好きだったわけでもないのに、出てみるとなんとなく寂しい気がするよ」
騏驥になってから、ずっとあそこにいたからかな。
呟くルーランの目は、どこか遠くを見ているようにも感じられる。
リィは大きな寝台のその端に、そっと腰を下ろした。
「住まいはここに移っても、調教ではたびたび行くことになるだろう。この騎士学校の施設だけでは不十分だからな」
「ん……」
返事をしながら、彼は伸びた前髪をかきあげる。
はずみでチラリと見えた右目は、まだ包帯が巻かれている。
腕には、もう薬符はない。ただ、傷跡は残っている。
病室からここに移る前の様々な検査の際、馬の姿で騎士を乗せずに軽く走った時には特に問題はなかったようだが……。
全力で駆けた時どうなのかは、リィにもまだわからない。
騎士はまだ騎乗しないようにと言われている。
いざ乗る日が来た時が、楽しみなような怖いような、だ。
「? なに?」
「あ、いや」
いつの間にかじっと見つめてしまっていたらしい。
組んだ腕を枕がわりにしている彼に不思議そうに尋ねられ、慌てて目を逸らした。
あの日。病室で彼が目を覚まして。
嬉しくて嬉しくて泣いて泣いて泣いて。
気づけば、彼に誘われるままに唇を重ねていた。
それはとても自然なことだったように思うし、後悔なんか微塵もない。むしろ、今でもあの時の幸福感を思い出すたび胸が熱くなるほどだ。
——けれど。
けれど。
それ以降、二人の間には何もなかった。
(当たり前、だが……)
リィはまたチラリとルーランを見る。
彼は、ただじっと天蓋を見上げている。
端正な横顔からは、何を考えているのかは読めなかった。
そう。
何もなかった。
当たり前のように。
何もなかった。
それはリィの心をいたずらに掻き乱すことのなかった反面、寂しさを感じさせてもいた。
あれは、彼も興奮してつい行ってしまったことなのだろう。
あれは、彼も意識を取り戻したばかりでつい……。
衝動的に行われたことなのだと頭ではわかっていても、重ねられた唇の感触は未だリィの胸の中に残っていて、だから苦しくなってしまう。
幸せだから、苦しい。
(早く、気にしないようにしなければいけないのに)
気づけばついつい彼をじっと見てしまうようだ。
(彼の方がよほど理性的で良識があるじゃないか……)
思わず溜息をつきそうになり。リィは慌ててそれを噛み殺す。
せっかくの彼の再出発——ではないが、居も移して、また新たに元気に生活していこうという晴れの日なのだ。
暗い雰囲気になるのは避けたい。
彼の騎士として、ずっと乗っていられるならそれで十分だ。
この素晴らしい騏驥に再び乗れるのなら、それだけで。
「あ、そういえば」
リィは、ずっと上を見ているルーランを見て思い出した。この「館」の上に住む、魔術師のことを。
「いずれカドランド師にもご挨拶に伺わなければな。今日はご不在で残念だった」
だが、ルーランはリィのその言葉に微かに眉を寄せる。
「んー。まあそうなんだけどさ。またあそこに行くの、嫌なんだけどな」
「何言ってる。こういうことはきちんとすべきなんだ。新参者なのだし、周りの方々に迷惑をかけるなよ」
心配だ、という顔でリィが言うと、ルーランは、
「わかってるって」
と、苦笑しながらリィを見つめてくる。
首を巡らせ、横になったまま見上げるようにして見つめてくるその視線に、リィはなんだか落ち着かない気持ちになってしまう。
やけに胸がざわざわして、なんとなく居心地が悪くなって、リィは慌てて立ち上がった。
「で、ではわたしもそろそろ帰る。病室を出たとはいえ、大怪我のあとなのだし、ちゃんと眠るんだぞ」
ルーランを見ているのかいないのか自分でもわからないような状態で口早に言うと、いそいそと寝室を出る。
だが帰ろうとして、上着がないことに気づいた。
確か、引っ越しの荷物運びを手伝い、来客の応対していた最中に脱いで……。
どこにあるのだろうか、と困っていると、
「どうしたの」
背後から声がかかる。
ルーランがやって来たのだ。見送ってくれるつもりだったのだろうか。
上着が……とリィが言うと、彼も一緒に探してくれる。
「かけておかないから」
「お前にかけておいてくれと頼んだはずなのだが」
「そうだっけ」
覚えてないなあ、と頭をかくルーランに眉を寄せつつリィが探していると、積み上げられた箱の向こうにちらりとそれらしきものが見える。
——あった。
雑に積まれている荷物の数々を乗り越え、箱をどけて上着を取ろうとした時。
その箱の中から、サラ……と微かな音を立てながら零れ落ちてきたものがあった。
「あっ」
花弁のように舞い落ちてくるそれらの一つを、リィは咄嗟に掬う。
その瞬間、息を呑んだ。
仄かに漂う甘い香り。
リィの掌の上、花弁と見紛うそれは、薄く切られて干された林檎だった。
林檎の欠片。
幾つものそれらが、リィが与えたハンカチーフに包まれてあったのだ。
「リィ? 見つかった?」
「ルーラン……」
リィは、それをそっと持ったまま振り返る。
ルーランが瞠目した。
それで確信する。
これはきっと、以前、初めて彼の馬房に行った時に渡した林檎だ。
彼のために持って行き、彼に渡した幾つかの林檎のうちの……。
あれを——あれを彼はずっとこうして……。
リィの目頭が熱くなる。
そんなリィに、ルーランが微笑んで言う。
「あの林檎、美味しかったからさ……。あんたから初めて貰ったものだし……食べ終えるのが惜しくて、こうやって取っておいたんだよ。もう少なくなっちゃったけど……」
「っ——ルーラン」
堪らず、リィはルーランの名を呼ぶと彼の側へと足を向けた。
想いが——彼への想いが体の奥から込み上げてくる。
もう、抑えておくのは無理だ。
だが、思い切って開こうとしたその口は、ルーランの掌に塞がれた。
——どうして。
戸惑うリィに、ルーランはふっと目を細めた。
「俺が先」
そしてゆっくりと手を離すと、目を丸くするリィの前で静かに微笑んだ。
「俺が先だよ。俺が先に言う。————あんたが好きだ、リィ」
その声は、強く、そして真っ直ぐにリィの胸に届く。
ルーランはリィを見つめたまま、はっきりとした口調でそう言うと一層じっとリィを見つめて続ける。
「あんたのことが好きだ、リィ。すごく好きだ。すごくすごく——誰にも渡したくないくらい好きだ。他のどんな騏驥にも乗ってほしくないし、他のどんな騎士にも魔術師にもそれ以外の奴らにも、どんな奴らにも渡したくない」
「…………」
「ずっと一緒にいて、ずっと俺の騎士でいてほしい。ずっと……俺のリィでいてほしい……」
「…………」
告げられる言葉は、これ以上ないほどの真摯な響きを湛えていて、リィは息をする事も忘れてしまう。
向けられた瞳は燃えるようだ。でもその中に優しさがある。強引さだけでなく、包むような優しさがある。そう、いつもリィに触れてくる彼の手の、その優しさのように。
心臓が、歓喜に早鐘を打っている。
耳の奥がわんわん響いている。なんだか頭がぼうっとしてきた。
見つめあっているはずなのに彼の顔が見えているのかいないのかよくわからない。
見えているけれど、これは現実なのだろうか。また何かの幻覚では?
だって。
——だって。
「なんで……」
気づけば、リィはぽつりと口にしていた。
「『なんで』?」
不思議そうに、ルーランが問い返す。
リィは彼の胸に取り縋り、背伸びするようにして訴えた。
「だって、お前はわたしを好きじゃないだろう」
「え」
「好きではないだろう?」
だって。
だって彼は。
繰り返すと、ルーランは訝しそうに目を瞬かせた。
「……好きでもないやつを命懸けで助けるほど俺は良い騏驥じゃないんだが……」
「でも」
「ん?」
「騎士は嫌いだ、と」
「そりゃ、今までは碌な奴に会わなかったからな。だからあんたに会えたのは奇跡だと思ってる」
取り縋っているリィの腰に、そっとルーランの片腕が回される。
抱き寄せられ、抱きしめられ、身体がくっつく。
大事なものを護るように、彼の腕がリィを抱く。
されるままになりながら、その腕の心地よさに泣きたくなるほどの嬉しさを感じながら、「でも」とリィは言葉を継いだ。
「でも……お前は、『だめだろ』って」
あのとき、お前は、『だめだろ』って……。
思い出して泣きそうになりながらリィが言うと、ルーランは苦笑した。
「ああ——うん。あんたのことを考えればだめだろうと思うさ。俺のせいであんたに肩身の狭い思いさせたくなかった。今でも……そう思わないわけじゃない」
でも。
両腕でリィを抱きしめ、胸の中に閉じ込めるようにしながらルーランは言った。
「でも——それはわかっててもあんたのことが好きだ。こうやって抱きしめて、ずっと離したくないぐらいにさ」
「……」
「本当言うと、さっきのさっきまで迷ってた。別に、騎士と騏驥のままでもいいのかな、なんてさ。俺たちなら、そういういい相棒同士としてやっていけるだろうし。でも……」
言葉を切り、じっとリィを見つめてルーランは言う。
「でも、それで本当にいいのかな、って思ってさ。死にかけて生き返って、そんな経験しておいて我慢するなんて、そんなの……俺らしくないよな、って」
俺は、俺の好きなようにやる。
言うと、ルーランは口の端を上げて笑う。
自信たっぷりの笑顔で。彼のいつもの笑顔で。
「俺はどうせろくでもない騏驥だし最悪だし、でも、だったら……思ったまま生きようと思ったんだ。俺は、忠誠心はないけど愛はある。あんたのことを愛してる。だから——あんたを護る。あんたのことを傷つける全部から、絶対に絶対に護ってやる」
ぎゅっとぎゅっと抱きしめられる。
「あんたを助けたみたいに、これからもずっとあんたのことを守るよ。大事だから離れるんじゃなくて、大事だから護る。こうやって護って、誰にも傷つけさせない」
紡がれる言葉は、まるで誓いのようだ。
愛の囁きというには荒っぽく、強引で、なのに胸を打つ、この世に二つとない誓いの言葉。
彼らしい、とリィは思った。
抱きしめられたまま髪を梳かれ、額に口付けられる。
瞳を覗き込まれ、「どう?」と視線で尋ねられる。
そんなもの、答えは決まっている——。
リィはルーランを見つめたまま微笑むと、「わかった」と頷いた。
「では、わたしはそんなお前を守るとしよう。騎士として、騏驥の安全には留意しなければ」
と、ルーランがくすりと笑った。
「俺があんたを護って、あんたが俺を護って? 終わらないじゃん」
「ああ、そうだ」
リィは微笑む。
それでいい。それがいいのだ。
抱きしめられて息が苦しくなることさえ幸せなのだと今初めて知りながら、リィはそう思っていた。
終わらなくていい。
ずっとずっと、お互いを想いあっていればいい。
そんな相手に巡り会えた幸せは、ずっと終わらなければいい。
見つめると、見つめ返される。
抱きしめられて抱きしめ返すと、また、どちらからともなく笑いが溢れる。
ルーランが、甘えるような目をして言った。
「許可が出たらさ、また一緒にどこかに走りに行こう。俺、あんたに乗られるのがすごく好きなんだ」
「ん……。わたしもお前に乗るのは好きだ」
「気持ちいい?」
「ああ。——とても」
思い出して言うと、最後に彼に乗った日が懐かしくなる。
もう一度——。また。
また、彼に乗って思い切り駆けたい。
それはどれほどの気持ち良さだろう。
想像していると、
「早く行きたいな」
ルーランも同じことを思っていたような顔で言う。
そして顔を寄せてくると、
「なあ、口付けていい?」
囁くように尋ねてきた。
「もうしたじゃないか」
意識を取り戻したときに。
リィがそう言うと、
「あの時はあの時だよ」
ルーランは言って、そっと口付けてくる。
以前交わした時よりもなお甘い——甘い口付け。
けれどこれは、禁忌の口づけでもあるのだ。
リィが微かに震えると、その身体をしっかりと抱きしめられた。
大丈夫。
そんな怖さも感じなくなるぐらい、俺はあなたを幸せにする。
あなたのためなら死んでも構わないと思ったぐらい、それほどの幸せをくれたあなただから、だから今度は俺が絶対に幸せにしてみせる。
どんな恐怖も近づけないぐらい幸せに——。
幸せに、する。
心の中に声が聞こえた気がして、リィはいつしかぎゅっと瞑っていた目を開ける。
ルーランの瞳が、自分を見つめていた。
ひとすじの陰りもない瞳が、自分を見つめている。
瞳。
彼の瞳。
この一つは、わたしに捧げられたもの。
躊躇なく。
その上、彼は命すら惜しまないと言わんばかりに——。
そう。
禁忌を犯すことは怖い。怖かった。父のようになることは。
けれどそれ以上に彼を愛し愛されることは幸福だ。
何も怖くない——。
そう思うぐらいに。
わたしはすでに溢れるほどの幸福の中にいる。
彼が与えてくれた幸福の中にいる。
どんな禁忌も畏れることなどないほどの。
「……ありがとう」
ルーランを見つめ返して、リィは言った。
噛み締めるように、リィは言った。
「ありがとう、ルーラン。わたしは、幸せだ」
お前がいるから。
お前に愛されているから。
するとルーランは目を細めて微笑み、
「もっと幸せにする」
自信たっぷりに言い、強く——強くリィを抱きしめる。
込み上げて来る想いのまま抱きしめ返すと、再び口付けられる。
そのままふわりと抱き上げられた。
「ぁ……」
さっきまで彼が寝ていた寝台に運ばれたかと思うと、そっと横たえられ、また口付けられる。
「ん、んっ……」
体重をかけないようにのしかかってきたルーランに口内を貪られ、リィはそのたび、切れ切れに喘ぐような声を溢す。
今までの口付けも気持ちよくとろけるようだったけれど、今はなんだかそれまで以上だ。
彼の舌が舌に触れるたび、気持ちよさに掠れた声が零れてしまう。
舌先を吸われ、甘く噛まれるたび、身体の奥に見えない熱が置かれるようだ。
身体の内側から、じわじわ炙られているような……。
「ふ……ぁ……」
離れていく唇が寂しくて、思わず引き留めるような声をあげてしまうと、その恥ずかしさに真っ赤になった。
熱くなっている頬をそっと撫でられ、途端、自分の置かれている状況の生々しさに、身体が強張る。
「あ……」
「怖い?」
何度も何度もリィの髪を梳きながら、ルーランが囁くように尋ねてきた。
確かめるように頬に触れながら、気遣うように見つめてくる。
「顔が強張ってる。このままあんたの全部を俺のものにしたいけど……怖いならまた——」
だがそう言いかけた言葉を止めるように、リィはルーランの手を握った。
「怖……く……ない、とは言わない。でも怖いと言うよりも……その……緊張すると言うか……は、恥ずかしく、て……」
「恥ずかしい?」
「へ、変な声が、出るし……変な顔をしてる、気がして……」
モゴモゴとリィが言うと、ルーランは笑ってまたちゅっと口付けてきた。
「声も顔も可愛らしいよ。綺麗だし可愛いし、俺は好きだけど」
「好き……?」
「好き」
笑顔で言われ、少しほっとする。
人前でしたことのないことばかりをしているから、自分がどうなっているかわからないし、おかしいことをして嫌われたらと思うと緊張してしまう。
と、今度は着乱れて露わになった肩に唇が落とされた。
そんなところにも口付けられるなんて……と思うとますます胸がドキドキする。
「優しくする。……なるべく」
そのままリィの纏っているものをスルリと脱がせながら、ルーランは言った。
そして、思い出したように付け加える。
「ああ、そうだ。馬にはならないから安心してくれ。安定剤を使ってるから明日までは人のままだ」
「安定剤?」
「ん。医療用の……人の姿か馬の姿か、どっちかに定着させる薬だよ。大きな傷の治療をするときは、治療中に姿が変わると困るだろ。だからどちらかの姿に強制的変えられ続けてる格好になるんだ。人の姿でよかったよ。馬の姿だったら告白もままならなかった」
笑いながら言うルーランに、
「馬の姿で告白されても同じように答えたぞ」
リィがそう答えると、彼は「そう?」と嬉しそうに目を細める。
そんな顔を見ていると、さっきまでの緊張も柔らかく解けていくようだ。
一糸纏わぬ姿にされ、心許ないような恥ずかしいような想いに少しだけ震えたけれど、同じように全て脱ぎ落とした彼に抱きしめられると、肌と肌の触れ合う心地よさに全てを忘れられるようだ。
「不思議だ……」
抱きしめられたまま、リィは言った。
頬に、額に、熱を残すようにして口付けてきていたルーランがふと顔を上げる。
その頰を両手で掬い、今度はリィの方から彼の額に口付けると、リィは言った。
「こうしていると、なんだかドキドキしているのにホッとするような気分になる……」
さっきまで緊張していたはずなのに、それ以上に触れ合う嬉しさが胸の中に満ちている。
リィが言うと、ルーランは満足そうに笑って言った。
「だから”もっと幸せにする”、って言っただろ?」
こんなものじゃないけどな。
そう言うと、彼はもう何度目になるかわからない口づけをリィの唇に落としてきた。
しかも——それは今度は今まで以上に熱っぽく激しいそれだ。
「ん……っ、んんっ——」
目眩がするような口付けにすっかり翻弄されていると、彼の唇はリィの唇からそ首筋に、鎖骨に、そして胸元へと熱を移していく。
やがて、忙しなく上下している胸の、その小さな突起を含まれた瞬間。
「っあ——ッ」
リィは初めて経験する痺れるような甘い刺激に大きく身をくねらせ、その唇から高い嬌声を迸らせていた。
「ぁ、ゃ、ゃ、ぁ、ああッ——!」
舌先で捏ねるように弄られるたび、それまで上げたことがないほどの甘ったるく淫らな声が口をつく。思わず口元を抑えたがそれは止まらず、指の隙間から恥ずかしい声が次々と漏れてしまう。
「ゃ……っぁゃ……っんっ……ひぁ……ああっ」
「リィ、ダメだよ。もっとちゃんと声を聞かせてくれないと」
「っそ……ゃ、だっ……ゃだ、ん……ぁん……」
「初めてなんだから。俺にちゃんと教えてくれないと。リィの嫌なことはしたくないんだからさ」
「で、も……でも、あ、ぁやぁ……っ」
小さな胸の突起を音を立てて吸われ、かと思うと押し潰すようにして強く舐められ、性的な刺激に不慣れなリィは立て続けの快感にあっという間に攫われていく。
恥ずかしいと思うのに、我慢しなければと思うのに、ルーランの言葉のせいで声を殺すことにも戸惑ってしまう。
でも、でも、と思う間にますます気持ちよさは増していき、リィの身体は、ルーランの舌に、指に触れられ弄られるたび、いっそう敏感になっていく。
「ぁ……あ、ぁ……」
「大丈夫。リィ——安心して。全部俺のものだ、って確かめたいだけなんだから」
声と共に、唇は、指は、リィの身体の隅々まで触れていく。
肩、腕、腰、背、太腿、膝、脹脛、爪先——。
一つ一つの形と感触を確かめるように、愛おしげルーランは触れていく。
そんなところ触れるところじゃない、と止めても「好きなようにさせてくれよ」と言われればそれ以上は何も言えなくなる。
そしてそれは、恥ずかしかったけれどとても気持ちが良くて、安心して幸せになる。
リィは熱い息を零すと、ルーランの愛撫に幾度もその身をくねらせた。
ふわふわして、ふわふわして、気持ちがいい。
しかしその心地よさは、ルーランが性器に触れた途端、一気に深い官能の沼に引き込まれるような強すぎる刺激に変わる。
「ァ——あ」
既に形を変えていたそこを掴まれ、びくりと慄いた次の瞬間、ぬるりと温かなものに包まれ、一層高い声が出る。
ルーランの口内に含まれたのだと理解すると、リィは真っ赤になって頭を降った。
「っル……ぁ、ゃ……だめ、だ……っ」
イヤイヤをするように何度も頭を振り、引き剥がそうとするが指に力が入らない。
身体は正直に快感を示していて、ルーランの舌が、唇が性器を刺激するたび、腰が熱くなって溶けそうになる。
「いっぱい溢れてきた」
「ル……ぁ、あひぁ……あァあっ——」
ルーランが頭を上下させるたび、ヂュ、ヂュ、と聞いていられないほどの淫らな音が響く。
ビクビクと腰が跳ね、覚えのある熱が、腹の奥から込み上げてくる。
気持ちがいい。
気持ちがいい。
同じ意識ばかりが繰り返され、頭の中がぼうっとする。
だが直後。ルーランの手の中で達したことを思い出し、リィは暴れるように身を捩る。
(だめ)
気持ちがいい。
(だめ)
気持ちがいい。
(だめ)
このままだと。
このままだとルーランの口に——。
「ゃ……ル、だめ、ぇ……ッ——」
ぶるぶると一際激しく頭を振ったその瞬間、リィは耐えられず激しく腹を波打たせ、ルーランの口の中に精を放っていた。
言葉にならないほどの快感に、一瞬、頭の中が真っ白になる。
吐精の余韻の荒い息の中、羞恥と気持ち良さの狭間で涙目になっているリィの目に、顔を上げたルーランの喉が上下するのが見える。
「ル……」
慌てて身を起こし、飲んだのか、と訊きたいものの訊けずにあわあわしていると、そんなリィの前でルーランはにっこりと意味深に笑う。
「……飲んでも大丈夫なのか……?」
ようようリィが尋ねると、
「体液だからね」
と、ルーランはよくわからない答えを返す。
が、表情は変わらず満足そうだ。
「あんたのものならなんでも欲しいんだよ、俺は」
そしてそう言って、リィの長い髪をくしゃくしゃと撫で回す。
やがて、
「続けていい?」
リィの顔を覗きこんで尋ねてきた。
ドキ、と心臓がまた跳ねる。
思わず俯いてしまった。
男女の営みについての知識は、流石のリィにも多少はある。多少はあるので、男女以外でも「そう」できることまでは知っている。
ただ、自分が「そう」いうことをするとは思っていなかっただけで。
リィは自分の耳が熱くなるのを感じていた。
気持ちは決まっている。リィだってルーランが欲しい。
でも言葉にするのは恥ずかしい。
そっと顔を上げ、縋るようにルーランを見る。
と。
忠誠心の代わりに深い愛を持つという特異なリィの騏驥は、正確にリィの意を察し幸せそうに微笑んだ。
「ありがとう」
そう言うと、
「口付けていい?」
なぜか、また許可を求めて尋ねてくる。
リィは一瞬「なぜ今更」と不思議に思ったが、それが、彼がリィの零したものを飲んだためだと気づき、甘酸っぱいような愛しさに胸がいっぱいになる。
もちろん、と頷くと、微笑みの形の唇が同じ形の唇に触れる。
ちゅ……ちゅ……と繰り返し啄まれ、身体は再び昂り始める。
「口、吸われるの好きだね」
再び夜具の上にリィを横たえながら、ルーランが言う。
リィが「ん」と頷くと、口付けの合間に「気持ちいい?」と尋ねられる。
「気持ちがいいというか、なんだか幸せだから」
うっとりと息を零しながら答えると、「俺も」と微笑まれる。
「じゃあ、いっぱいしよう」
そして彼はそう言ったとおり、幾度も唇を降らせてきた。
甘く、優しく、激しく——。
その度、リィは悦びに身体中を戦慄かせて応じる。
それは、二人を繋ぐ柔らかな部分を丁重に愛撫されている時も同じで、身体の内側も外側も、全てが歓喜に震えていた。
好きで好きで好きで。
愛しくて愛しくて愛しくて。
自分がこんなに誰かを愛せることを——そして愛されることを喜びながら、リィはルーランを抱きしめ、そして彼の巧みな性技に身悶える。
膝裏を掬われ、苦しい格好になっても不思議と苦しくなかった。
恥ずかしい、と思ったのもほんの一瞬。彼に見つめられると早く彼が欲しくて堪らなくなる。
「リィ」
「ぁ、ルーラン、ルーラン........っ」
繋がろうとする逞しい身体を自分から求めるように掻き抱く。
首筋に腕を絡め、好き、好き、と何度も繰り返し名前を呼ぶと、滲んでいた涙に口付けられ、また涙が出る。
大好き。
好き。
いかないで。
ずっと。
愛してる。
胸の中に次々と満ちてくる想いで身体が弾けそうだ。
いや、もう弾けているかもしれない。弾けて、溶けて、きっとどこかでルーランと混じり合っている。
気持ちが混じり合っている。だって彼は、今もこんなにも優しい。
「ぁ……っ——」
挿し入ってくる熱い肉の感触に、背筋がさざめく。
苦しさに思わず息をつめると、ルーランは動きを止め、切なげに眉を寄せながらも、あやすようにリィの顔に口づけを降らせてくる。
頬、額、唇、鼻。目尻——。
一生分の口付けをされている気分だ。
もうだいじょうぶ、とリィが微笑むと、それを褒めてくれるように唇に音を立てて口付けられる。
そして再びゆっくりゆっくりと挿入され、やがて深々と嵌められた彼の楔はリィの身体中をいっぱいにした。
「は……ぁ……」
「リィ……大丈夫、か……」
「ん……」
リィはルーランを抱きしめたまま、こくんと頷いた。
「気持ち……い……」
悦びと切なさに泣きそうになりながら言葉を紡ぐと、その身体を強く強く抱きしめられる。
「俺も、すごく気持ちいい。あんたの中……すごく……」
情欲に掠れた声音で囁かれ、それだけで背筋がゾクゾクする。
抱きしめた腕に力を込めると、頬に、耳殻に、首筋に熱っぽい口付けが降ってくる。
「リィ……リィ——」
「ルー……ぁ……」
「リィ——好きだ……好きだ——」
律動とともに繰り返される声は、信じられないほどの密度と熱でリィの理性を焼き尽くしていく。
どれほど——どれほど——どれほど彼が自分を愛してくれているか。
どれほど自分が愛されているか。
それが痛いほどに伝わってきて、幸せで怖いぐらいだ。
彼が動くたび、彼の熱さを感じられるのが嬉しい。
彼の欲望の形を刻まれるのが嬉しい。
激しく幾度も揺さぶられ、ぞくりと大きく仰け反ると、露わになった喉元に優しく歯を立てられる。
その頭を抱き、彼にされたように彼の髪に指を通して梳き上げる。
艶のある、濃緑のような濃茶の髪。
全部に触れたくなるのは本当なのだな、とリィは思った。髪の一筋一筋まで全てに触れて、確かめたい。全てに触れて好きだと伝えたい。
そうしていると、彼の前髪の隙間から右目を覆う白い包帯が覗く。
そこはまだ治療中のはずだ。
失われた、彼の瞳。
ツキンとリィの胸が痛んだ。
思わず手を止めてしまうと、心地良さそうに閉じられていたルーランの瞼がふっと上がる。
「……気になる?」
尋ねられ、リィは小さく頷く。
ルーランが苦笑した。
「まあ、あんまり見栄えの良いものじゃないからな」
「そんなことはない」
リィは今度は頭を振った。
そんなことはない。
そんなつもりで言ったんじゃない。
「そんなことはない。ただ……わたしのせいで……お前がこんなことに、と……」
「それこそ『そんなことはない』だ。リィ」
すると、リィを見つめたまルーランは笑った。
繋がっているからか、そうして微笑まれただけでも全身がゾクゾクする。
思わず息を呑んでしまったリィに、ルーランは笑みのまま続ける。
「これは、俺が決めて俺がやったことだ。あんたのせいじゃない。これっぽっちも」
「……」
「”これ”でも俺のことを嫌がらずにいてくれるなら、それでもう十分だよ」
「……嫌なわけが、あるか」
そんなわけがあるか。ばか。
リィは泣きそうになるのを堪えて言うと、微かに窪んでいる眼窩にそっと口付ける。
「お前は、どんな姿でも見惚れるぐらい立派だ」
そして、今は唯一のものとなった彼の蜂蜜色の瞳を見つめて言うと、その目は柔らかく蕩けていく。
もう何度目になるか解らない口づけを交わし、愛情を伝え合うと、待ちきれなくなったようにルーランが律動を再開する。
「ぁ……っは、ぁ……っ……」
彼が動くたび全身を駆け巡る快感に、リィの唇から悦びに濡れた声が上がる。
初めてのリィを相当に気遣ってくれているのだろう。ルーランは決して焦らずじわじわと、じわじわとリィを追い上げていく。
苦痛も苦しさもまるでなく、ただ快感だけが充填されていく。
「ルーラ……ン……ぁ——」
「可愛い、リィ。もっと声聞かせてよ。あんたが俺と繋がって、俺と一緒にいて、気持ちよくなってる声が聞きたい」
「っん……あ、あぅ……あァッ——」
より深い繋がりを求めるかのように幾度も抜き挿しされたと思うと、絡み付く肉壁の感触を確かめるかのようにねっとりと腰を使われ、リィの口の端からは啜り泣くような喘ぎがひっきりなしに零れる。
身体の全て気持ちがいい。汗も涙も吐息も鼓動も香りも全部。身体の全部が彼を欲し、全部が彼に応えている。
繋がって隙間なくぴったりと抱き合い、息も溶かして口づけ合っていると、お互いの境目がわからなくなるようだ。
揺さぶられて声をあげて名前を呼んで呼ばれて身をくねらせて突き上げられて。
奥深くまで暴かれて晒して求めて求められて与えて与えられて。
息も絶え絶えになるほどの無比の快楽。熟れてヒクつく狭い肉筒を幾度となく抜き挿しされ、濃く深い強烈な快感に目の奥に白い火花が散る。
腹の奥でうねる欲が、解放を求めて込み上げてくる。
「ぁ、あ、ァ——ぁ、ルーラン……っ——」
「っ——リィ……っ」
そして一際激しく突き上げられ、奥の奥まで穿たれたその衝撃に大きく背を逸らした刹那。
「っあ、あ、ァ、あぁぁあ——ッ」
二人の身体の間で擦られていた性器から、再び絶頂の証が迸る。
滴る雫が二人の身体を濡らす間に、背が軋むほど抱きしめられ、身体の奥にルーランの熱情が注がれる。
「リィ……」
掠れた声で名前を呼ばれ、しゃくり上げながら口付けると、まだ熱を持ったままの唇同士はまたすぐに擦れ合い、濡れた舌同士が絡み合う。
「ん……ぅ……」
「無理させるのに……離せないな……」
気だるさと情欲の混じる酔うような口付けの合間。
そう言いながらリィの髪を梳くルーランに、リィはまだ乱れた息もそのまま、悪戯っぽく笑って囁いた。
「離さなくて、いい」
目が合うと、リィの唯一の騏驥はその精悍な貌をとろかすように微笑んで、
「——御心のまま」
嬉しそうに、幸せそうに囁き返した。
繰り返される抱擁は、まるで見えない手綱のようだ。
二人を強く、硬く、結び続ける。
それは、きっと「愛情」と呼ばれているもの。
その夜、リィは夢を見た。
彼の腕の中、幸せな夢を見た。
世界の果てまで続くかと思われる草原を、彼とともに、どこまでもどこまでも駆けていく夢だ。
二人で一緒に。二人で一つに。
何を恐れることもなく、ただ心地よさに包まれて。
離れることなく。笑みを交わして。
ずっとずっと。どこまでもどこまでも。
「彼」はわたしに特別な悦びを与えてくれる危険な兵器。
「彼」は俺に格別の陶酔をもたらす唯一の騎士。
出会うべくして出会った二人。
かけがえのない互いの特別。互いの唯一。
きみよ奇跡とともにあれ。
END
——————————————
本編ENDです。
以降はちょこちょことした後書きののち、番外&他騏驥編に参ります。
読んでいただきありがとうございました。
よろしければ引き続きよろしくお願いいたします。
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