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【番外】騎士と騏驥の旅(6)

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 彼の存在自体が特別なものだと感じているし、出会えてから今までの全てのことが奇跡のように尊く大切だと思っている。そしてそれは、きっと彼も同じだろう。——そう信じている。
 だからこそ、彼がこんなやり方をするのは不可解に感じるのだ。
 まだ反発し合い、素直になりきれずにいた以前ならともかく、今はもうお互いの気持ちを伝えあい、相愛といえる関係になったはずだ。だからこそ。

(いったいどういうつもりで……)

 リィはルーランを見つめる。その瞳の奥を伺うように。
 彼は確かに気分屋で勝手で我儘で強引だ。騏驥とは思えないほど。リィもいつも困らされている。けれど——。
 こんな風に無理強いするようなことはなかったのだ。

「俺はあんたのことが大切なんだよ」——と、事あるごとに言っていたように、なによりこちらの意思を——リィの意思を、尊重してくれていたから。

 するとルーランはじっとリィを見つめ返し——。
 不意に、ふ、と小さく笑った。瞳は、柔らかく、悪戯っぽい光を宿している。

「俺が企むことなんて、いつだって一つしかないよ。あんたをもっともっと好きにさせること。——わかってるくせに」

「っ……ふざ……」

「ふざけてないって。俺の頭の中なんてそんなもんだよ。惚れてる相手に好かれたいと思うのは普通だろ」

 直近からストレートな言葉を聞かされ、つい頬が熱くなってしまう。
 リィは慌てて頭を振った。
 誤魔化されないぞ。

「お前は普通じゃないだろう」

 なにもかも。
 睨むようにして見つめると、ルーランは一瞬虚を突かれたような顔を見せたのち、苦笑した。

「バレた?」

 そしてバツが悪そうに苦笑を深めると、ちゅっと口付けてきた。
 ——甘い。
 味なんてしないはずなのに、甘いと感じる口づけだ。彼がとろけるよう瞳で見つめてくるから、こちらも溶かされてしまう。
 
「実は——単になんだよ。あるだろ? そういうこと」

「そ……」

「森の中って、宿屋よりむしろにさせられるっていうかさ。やっぱ野生っぽいからかな。それとも二人きりって感じがするからか——」

「ルーラン!」

 聞いていられず、リィは声を荒らげて言葉を遮る。

「お前……何か誤魔化そうとしてないか?」

 まっすぐに彼を見つめて問うた。

「何かやらかしたなら素直に言え。隠すとなおさら言い辛くなるんだぞ」

 しかしリィがそう尋ねても、返ってきたのは小さな苦笑だった。 

「何もないよ。企むだの誤魔化すだの、なんか扱い酷くない?」

「…………」

「俺のこと、信頼できない、とか?」

「そういうわけじゃない。だが……」

 今のお前は、なんだか変だから——。

 だがそう言いかけたリィの唇は、ルーランのそれに塞がれる。
 さっきよりも長い口づけ。
 ちゅ……と音を立てて唇を離すと、ルーランはそっとリィの頬に触れた。
 
「何もない。何もないから——何も考えずに寝ろよ。眠れるようにしてやるから——」

「ル……」

 身体をまさぐる手から逃げるように、リィは大きく身をよじった。
 触れられたくないわけじゃないけれど、強引がすぎるというものだ。

 いったい——今夜の彼はどうしたというのだろう?
 それとも本当にになっているだけなのだろうか。

 わからない。
 わからないけれど、なんだか彼が「いつもと違う」ことだけはわかる。

「っ……お前は前からそうやってなにかあったらこれで誤魔化そうとして……!」

 藻掻きながら、そんな言葉が口をついた瞬間。
 リィは自分に戸惑い、思わず全ての動きを止めてしまった。
(え……)
 
 ?
 
 そう発したとき、頭を過ぎったのは、以前の記憶。
 彼が目を喪ったときよりも、もっとずっと前のことだ。

(????)

 あの頃はまだ、自分とルーランとはそういう関係ではなかったはずで……。
 
(どういうことだ??)

 抵抗することも忘れ、リィが混乱に目を瞬かせていると、

「あんた、やっぱり眠くなってる。言ってることめちゃくちゃだし」

 くすくす笑いながら、ルーランが首筋に口づけて来た。
 優しい——けれどはっきりと欲を感じさせる口づけだ。「遊びは終わり」と告げる口づけ。その熱にリィがぞくりと背を震わせると、

「でも好きだよ」

 そっと額に額をつけるようにして、ルーランが囁いた。


 
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