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【番外】離宮へ(12)
しおりを挟む「ル……どうしたのだ、お前は……突然に……」
「兄上、あの……さっきはあまりお話が出来なかったから……」
お話ししたいなと思ってやってきたのです!
期待に輝くような、はじけるような笑顔でルゥイは言うと、シィンの側に駆け寄ってくる。両腕に抱えているのは本……だろうか? 表紙には騏驥の絵が見える。おそらく、まだ目が見えていたころに読んでいたものだろう。
昔から、ルゥイは騏驥が好きだった。
いつものシィンなら、ルゥイの希望に快く応じていただろう。だが今は——母とあんな対面をした今は、ルゥイと会っているのは辛い。しかも、騏驥絡みの話をしたいのだとしたらなおさらだ。
「……ルゥイ……すまないが、今夜は……」
「ええ~。だってさっきも母上を追って出て行ってしまわれたではないですか。僕、もっと兄上とお話ししたかったのに……」
「それは……」
「久しぶりなのですし、色々とお話ししたいです。騏驥のことも——お城のことも」
そう言うと、ルゥイはシィンが止めるより早くシィンの寝台に上がりこむと、そこに本を広げ始める。
「おい……ルゥイ……」
シィンは戸惑うしかない。
ちらと見れば、ルゥイが持ってきたのはやはり昔読んでいた本だ。絵本もあれば、それよりももう少し詳しいものもある。シィンに見覚えのあるものもあれば、初めて見るものも。しかも、どれも目が悪くても魔術で読めるようになっている。その上、魔術石も幾つかあるから、あれにも本の内容が吹き込まれているのだろう。
その中には、シィンが贈ったものもあった。
(…………)
見ていると、母に咎められたことを思い出す。
シィンは顔を曇らせたが、ルゥイはそんなシィンの心境には全く気付かない様子で「兄上! 早く!」とあくまで無邪気だ。
「騏驥についても、色々と勉強したのです。それで、兄上にも話したいことや尋ねたいことがあって……」
弾む声。
シィンと会うことを、話すことを心待ちにしていたことがひしひしと伝わってくる声だ。きっと表情も喜色満面といったところだろう。
わかっている。ルゥイは自分に会いたがっていた。ずっと。会いたいと思ってくれていた。いつも。シィンがそうであるように。
けれど——。
今は会っているのが辛いし、声を聞くのが苦しい。
「兄上!」
「ルゥイ……すまないが、今はそんな気分ではなく……」
「でもなかなか話せなくて寂しかったのです! せっかく兄上が来てくださったのですから、もっともっとお話ししたいです。僕、兄上と話すのを楽しみにしてたんですよ」
「…………」
「例えば、兄上と騏驥は普段どんな話をしているのか、とか。兄上の騏驥はどれほど強いのか、とか。本で読んだだけではわからないことを、色々とお訊きしたいのです」
「ルゥイ……それは……」
シィンは眉を寄せた。
母は「望んでも手が届かないものは初めから遠ざけておいたほうがいい」と思ってルゥイから騏驥を遠ざけようとしているようだが、それはあまり上手くいってはいない。彼はずっと騏驥が好きだ。自分はもう騎士になれはしないと解っているだろうに、それでも騏驥に対して興味が尽きないようなのだ。
そしてシィンはそれを知っていたから、今までは苦心しながらもなるべく彼の希望を叶えていた。ただを捏ねられて困ることがあっても、ルゥイの喜ぶ顔が見たくて。
けれど……そうして彼の希望を叶えようとして母に叱られるのは、シィンの方なのだ。
(どうして……)
——理不尽だ。
シィンはますます眉を寄せる。
『断るべきだったとは、思わなかったのですか』
ルゥイのために騏驥を連れて来たシィンに対して、母は言った。
本当は「断りました」と言い返したかった。「何度も断りました」と。
けれど結局、ルゥイの頼みを聞いてしまったのは、断って、悲しい顔をさせたくなかったからだ。がっかりさせたくなかったからだ。
——なのに。
(ルゥイを喜ばせるためにしたことなのに、どうしてわたしが責められなければならないのか……)
ルゥイが、駄々を捏ねたからなのに。
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