異世界転生チートに反旗を翻せ!

三原 柚木

文字の大きさ
4 / 52
炎の大陸編

世界と勇者と旅立ちと

しおりを挟む
 無事洞窟を出た陽介は、ここまで来た経緯と曇天の町で起きたことをフラムに話した。
「……状況は理解した。だが、君もこのままというわけにもいかないだろう。私がいれば安全だ、行こう」
 フラムの言う通り、このままではどうにもならない。もう襲われるのはこりごりだと文句を垂れながら曇天の町へ戻ると、入口で住民たちが既に待ち構えていた。

「異世界から来たものは皆殺す」「殺す」「邪魔者は殺す」
「待て、お前たち」
 陽介の肩から降りたフラムが空に向かって炎を吐くと、暗雲は消え去り空は晴れやかな青に染まった。
「殺す……ころ……あれ、俺たちなんでこんなところに立ってるんだ?」
 空が晴れた途端住民たちから殺気が消え、正気を取り戻した。フラムの姿を見ると炎の精霊様が戻られたと驚き喜んだが、後ろにいる陽介に疑惑の眼差しを向ける。連れ去った犯人ではなかろうかと。

「皆安心しろ、こいつは私を助けたのだ」
 洞窟の水晶玉に閉じ込められていたところを叩き割って救出した話をして、ようやく人々の顔から怪訝そうな表情が消えた。

 ほっとした拍子に陽介の腹が鳴き、こんなところで立ち話ではと大衆食堂へ場を移し、ようやく飯にありつくことが出来た。
「何食っても美味い! 最高だ~」
「どうぞどうぞ。フラム様の恩人とは知らず、突然襲い掛かってしまったお詫びです」
 出される料理はパスタやドリアなどの洋食で、味も元いた世界とほとんど変わらず食べやすい。スープで流し込みつつキッチンへ目をやると、火が付くようになり喜ぶ料理人の様子が見えた。

「……あれから何年経った」
 フラムは出された料理に少しだけ口をつけて、顔をしかめ皿を端によけて言った。
「もう三年になります」
 店主がうつむきがちに話を始めた。

 陽介が来る三年ほど前から、この世界はおかしくなっていった。原因と思しき男の名はエルメス・アラート。地方没落貴族の出身だが、幼少の頃より剣術にも魔術にも長け、人望も厚く誰にでも好かれるような人物だという。人々の平和と安寧を脅かす魔族を神から授かった力で撃ち払い、壮大な戦いの末に魔王を討伐し勇者となった。その後世界の中心に「聖都」を築き、世界に幸福をもたらした……はずだった。

 だが、彼の強大な力は災いをも振り撒いた。水の大陸では水源が枯れ、風の大陸では汚れた空気が留まって流れなくなり、土の大陸は草木も生えぬ不毛の土地になってしまった。ここ炎の大陸も火が付かず、寒さに凍える日々が続いた。

 そうなることを知っていたかのように供給機が設置され、水も空気も土も火も、それら四元素の魔法を扱える人間達も全て聖都の管理下に置かれた。不満を訴えようとしたものは殺されるか、洗脳されて手駒になって戻ってきた。事を憂えたフラムたち精霊は、エルメスの横暴を止めるべく聖都へ向かった。

「それで、水晶玉の中に閉じ込められたんだな」
「うむ。一刻も早く奴を止めねば、ますます悪化していくだろう。陽介、都合のいいことを言うかもしれないが、どうか私と共に奴を止めてくれないか。異世界からやってきた君だけが頼りだ」
 全く知らない世界の、それもたった今話を聞いただけの男の横暴を止める大役を担うことに、二つ返事ではいと言うわけにはいかない。だが、断ればこの世界は遠くないうちに壊れてしまうだろうし、そうなれば元の世界に戻ることも叶わない。陽介は腕を組んでしばらくの間考え込んでいたが、わかったと呟いた。

「感謝する。早速出発したいところだが、その恰好はよくないな。見たところ動きやすそうではあるが地味だ。誰か見繕ってやってくれ」
「地味っていうなよ、結構気にしてるんだぞ。仕事の関係で、黒か灰色か白くらいしか着られないんだ」
 陽介の服装は黒いパーカー、白長袖シャツ、黒ズボンにグレーのスニーカー。職場では私服であっても派手な色が禁止されていたために、こういったものを選ぶようになっていた。見かねたフラムが服を脱がせ、長旅に耐えられるものを持ってこさせた。ふうと吹いた炎に包まれて、揺らめく赤色を宿した服に変わっていく。

「やはりこの方がよい。黒や灰色では情熱が足りないからな。どうだ? 着心地は」
「肌触りがめっちゃよくて思ってたより軽い! マントとか初めて着た! ブーツも長いけど動きやすいよ! ありがとうフラムさん!」
 最近は金欠なこともありコーディネートを楽しめなくなっていた陽介は、子供の様にはしゃぐ。元々着ていた服は、帰るときに必要だろうからと店で預かってくれることになった。
 店主が旅のお供にと差し出した肩掛けのかばんを下げて、陽介とフラムは町を出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーレムです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

処理中です...