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10話

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「今、傷を治します。動かないでください」


ヘレナが教師の体に触れた。
明るい暖かい光が教師を包み、傷をいやしていく。


どうやら彼女もまだ逃げていなかったようだ。
戦闘は一切出来ないというのに。


さすが主人公様だ。
肝が据わっている。


「ウィル」


「すまない」


教師を治した後、ヘレナはウィルにも触れた。
よく見ると右腕からポタポタと血が垂れているのが見えた。


どうやらブレスを完全に防ぎ切れていいなかったらしい。
ヘレナが魔法を使い、傷を治していく。


いい感じになっている二人をみると、ムズムズする。
私的には、もっとふたりはいがみ合っていて欲しいのだ。


そのほうが安心できるというのに。


なにがウィル、すまない、だ。
ふざけるな。焼くぞ。


と、ドーパンミンが出ているせいか少し好戦的な愚痴を吐きつつ。
ドラゴンへの攻撃を続けていく。


無数の青い炎が、赤い氷が、ドラゴンを襲う。


「ガアアアアアアアアア!」


ドラゴンはたまらず空を飛んだ。
逃げてくれるのかと思ったが、でも違うようだ。


目はしっかりと私達を見つめている。


「あ、これ、やばい」


ドラゴンが口を開く。
その瞬間、ある事を唐突に思い出した。


原作において、主人公とウィルが共に遭難することになる攻撃。
ドラゴンが誇る最大火力の必殺技。


たしか、予備動作がこれだった気がする。
今現在、目の前で行われている、あの動作が。


「ガアアアア!!!」


ドラゴンがブレスを吐く。
先ほどまでとは違う、最大火力のブレスを。


「ッ!」


ウィルも異変に気づいたようだ。
たくさんの氷を生み出して、ブレスを防ごうとする。


しかし、氷達は最大火力のブレスを前に、簡単に解かされていた。


(やるしかない)


相手が全力ならば、こちらは全力以上でないと敵わない。
最大火力のさらに上。自分さえダメージを喰らう威力の炎を放つ。


代償として私の右手は、少し焦げた。


ブレスと青い炎がぶつかる。


「あっ!」


両者が当たった瞬間、大爆発が起きた。
前のとは比べものにならないほどの。


(やばい、これ、原作の!)


大地が崩れていく。
この野原のしたは、ちょうど洞窟で空洞になっているのだ。


それがこの爆発で崩落する。


本来ならドラゴンの本気のブレスで破壊されていたものが。
ヘレナとウィルだけを巻き込んで崩れるはずの大地が。


私を、巻き込んで。


「ウィル!」


「ヘレナ!」


二人が抱き合うのが見えた。


(う、うわあああああ!)


体がふわりと浮いた。
そしてそのまま落下していく。


まずいと思った時には、もう遅かった。


二人が大地に飲み込まれていく。


そして私も崩落に巻き込まれていく。
石が頭に直撃した。意識が薄れていった。


どうやら、フラグは簡単には折らせてもらえなそうであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「・・・ここは?」


顔に水滴のようなモノが落ちてきて、私は目を覚ました。


うっすらと見てくるのは岩石で出来た天井だ。
起き上がり、辺りを見回してみる。


真っ暗だった。


どうやら洞窟の中であるらしい。
炎を出して、辺りを照らした。


私の後ろは崩落した所であるらしく、埋まっていた。
前方には道が続いており、遙か遠くまで洞窟は続いているようだ。


一応、辺りを調べておく。
一緒に崩落に巻き込まれたヘレナとウィルがいるかもしれないからだ。


そして、その予想は的中していた。
瓦礫の中に赤い氷があるのが見えた。


瓦礫をどかしてみると球状になった赤い氷を発見する。
氷を溶かして中を見てみると二人が抱き合いながら気絶していた。


イベント通りになっていた。


あそこまで頑張ったというのに。
これでは台無しでは無いか。


はあ、とため息をつく。


ため息をつきながらも、二人は一応助け出しておいた。
あのまま瓦礫に押しつぶされてしまっても、目覚めが悪い。


それに下手に窮地に陥らせて、結束が深まるのも嫌だから。


(進むしかない、か)


洞窟の先を見ながら思った。


二人は気絶したままだ。
しばらく意識を取り戻す様子はない。


ここで無駄に時間を消費しておきたくはない。
どうせ一本道などだ。


先に行っていたとしても、合流はできるだろう。
洞窟を歩き始める。


原作と同じなら、この先はダンジョンだ。


たくさんのモンスター達が生息する魔境。
ここでヘレナとウィルはお互いを支え合いつつ、絆を深めていく。


予定変更だ。


ドラゴンでうまくいかなかったのなら、この先のフラグをへしを折ってやる。
そう胸に決意して、先へと進むのであった。

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