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勇者祭編
その89 勇者祭開幕
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カーンカーンと、巨大な鐘の音が鳴り響き、〈闘技場ネオ〉に勇者祭の開幕を告げる。
三学年合わせて、欠場者は十名ほど。
その多くは授業や訓練での負傷者だ。
集会の時と同様に、学園全体の生徒が〈闘技場ネオ〉に集まり、その瞳の奥の闘志を燃やしている。お互いに敵、お互いにライバル。ここで二日間にわたって繰り広げられるのは、壮絶な学園内バトルロイヤルだ。
『――学園長として、一言。対戦相手を殺すのは厳禁、だがそれ以外なら何でもオッケー。とはいえ、ここは勇者学園であることを忘れるでないぞ。優勝者には我と戦う権利を与える! 皆、全力を尽くすのである!』
いつもより遥かに長い学園長挨拶が終わると、生徒会長挨拶、審査員紹介、ルール説明、昨年優勝者白竜アレクサンダーによる優勝剣返還、選手宣誓などを経て。
遂に勇者祭が始まった。
「オスカー、まだ力不足なのはわかってるけど、今日はライバルとして、キミに挑むよ」
「当然だ。自分の実力がどれほど通用するのか、この勇者祭はそれを知るいい機会になる。俺もその挑戦を真正面から受け止めよう」
ここでグレイソンとは一旦お別れだ。
無造作に待機室に呼ばれ、予選を個人の力で勝ち抜かなくてはならない。いつまでも友人とお喋りに興じている時間はないのだ。
グレイソンはしっかり俺と握手を交わし、覚悟を決めた表情で待機室へ移動していった。
俺とは逆方向だ。
当然、セレナ達とも離れることになる。
「私だって、グレイソン君に負けないように頑張るから……絶対、グレイソン君にだけは負けないから……!」
なぜかグレイソンに猛烈なライバル心を見せるセレナ。
「あたちは、このクルリン・タガーでかちすすむのです!」
新たに手に入れた短剣を片手に、ブンブン振り回すクルリン。とりあえず危険だからやめて欲しい。
「わたしのことも、忘れないでくださいね」
どこか控えめに、柔らかい微笑みを向けるミクリン。
忘れるわけないだろ、と言い返し、俺は彼女の肩を優しく撫でた。
「むぅ。ミクリンだけズルいのです! あたちのこともなでてなのです!」
拗ねたクルリンが一層強く短剣を振り回し始めたので、頭を撫でるついでに短剣を鞘に収めてやる。小さな少女はぷはーと顔を綻ばせると、鞘に封じられた短剣をまた振り回す。
彼女にとって、その短剣は子犬の尻尾みたいなものなんだろうか。
「じー」
セレナはじーと言いながら俺のことをじーと見つめている。
頭を撫でるのも何か違うと思ったので、頬に手を当て、激励の視線を注いでおいた。
セレナはクルリン以上にチョロいので、顔をすぐ真っ赤に染めて、満足そうに待機室に向かっていった。
「わたしだけだと思ったのに……」
セレナが去るのを確認すると、ミクリンは頬を膨らませ、これまでに見せたことのない、拗ねた表情を俺に向けてきた。
ついうっとりしてしまうほど、可愛かった。
普段は自分の気持ちを押し殺し、冷静に周囲を気遣っている彼女が俺に見せる、初めての自我だったのかもしれない。
俺はクルリンが短剣を振り回すのに夢中になっていることを確認し、そっとミクリンを抱き寄せた。
「え、ちょっと、オスカー君……?」
まさかの抱擁に、驚いた声を上げるミクリン。
「少し我慢ができなかった」
顔と顔の距離が違い。
彼女の青色の長髪は、シナモンのような香りがした。甘さがありつつも、どこか刺激的な、そんな香りだ。
クルリンに気づかれないうちに、さっと離れる。
だが、ミクリンは俺の制服の袖を引っ張り、名残惜しそうに瞳を揺らしていた。
***
ひとりで待機室に向かう。
すれ違うのは知らない生徒ばかりだ。その多くが先輩で、そのうちの数名はそれなりに強い魔力を纏っていた。
『やあやあオスカー君、ボクのこと捜した?』
なんとなくその予感はしていたが、白竜が突撃してきた。
まさかの前回覇者の登場。そして親しげに一年生に話しかける姿。
それを見た上級生及び、俺とクラスの違う同級生はどう思っただろう。まさか、あの黒髪の少年が噂の西園寺オスカーなのか、と動揺しているだろうか。
「エイダンの件は、生徒会全体としてはどうなった?」
「そうだね……ボクは彼の実力を見込んで勧誘した身だから、凄く残念かな。でも、エイダン君と彼の弟君との関係については、ボクも思うところがある」
「確かに、あの二人の関係は最悪だ」
「これまでも何度か弟君のことを話題に上げたりしてたんだけど、それでどうなったのかはきみにも想像できるだろ?」
白竜が疲れたように笑う。
要するに、エイダンは弟のことを話題に出されると怒り狂って暴走する、ということだ。
「奴は頑ななまでに弟を認めようとしない。テオはこの勇者祭で兄のエイダンに認められようと必死だが……それが報われるのかはわからない」
「そればかりは兄弟の問題だから、ボク達が迂闊に介入するのも良くないわけだ、まったく。こういう時は、自分の無力さを実感するよね」
白竜は本気で考えているようだった。
テオを兄から救う方法を。
いつもの快活さが消えたわけではないが、ここまで真剣な表情で語りかけてくるなんて意外だった。
彼自身、この件に関してさほど力になれないことを残念に思っているのかもしれない。
俺は一度呼吸を整え、白竜にわざわざ背を向けて台詞を放った。
「確かに俺達にはどうすることもできない。無力だ。だが、見守ってやることはできる……折れそうになってしまった心を癒し、秩序の崩壊から守ってやることはできる」
「オスカー君……きみってロマンチストだねぇ。それとも、チューニ病なのかな?」
「チューニ病だと? 俺はそんな病に侵された記憶はない」
「オッケー、今ので確定したよ」
せっかく放った俺の台詞が、白竜の手で相殺されてしまう。
そういう意味では、彼は俺の一番の宿敵だ。
「直接対決できるといいね。きみが決勝トーナメントに残るつもりなら、ボクは予選ではきみを避けて、楽しみを残しておくつもりだけど、どうするつもりかな?」
「無論、そのつもりだ。まずはエイダン。その後は……まあ、気が向いたらお前と戦うのも悪くない」
「そうこなくっちゃ! ボクは気長に待つよ。もし今回戦えなかったとしてもね。それに、今年はなかなか癖の強い勇者祭になる。なにせ、きみの学級には、一ノ瀬グレイソン君、それに、獅子王レオン君もいるからね」
どうやら白竜と待機室がかぶったらしい。
まったく同じ区画に向かって歩みを合わせる俺達。
周囲からの注目は集めっぱなしだ。とはいえ、会話の内容まで耳をすませて聞いている奴はいないだろう。
「獅子王レオンか。確かに、実力者の風格はあるようだな」
クラスメイトを見定める俺。
獅子王は先日エイダンが二度目の教室襲撃をした際、前方の席で雰囲気にそぐわない大欠伸をかましていた生徒だ。普段の様子から、彼の持つ自信と余裕は本物だと感じていた。
流石はストーカーが趣味の白竜。
それなりに強そうな生徒はしっかり把握できている。
「他に気になる生徒はいないのか?」
「きみの学級だったら、まあそんな感じかな。とは言っても、総合的に考えて〈1-A〉が一年生で頭ひとつ分抜けていることは確実だね。魔王殺しのきみはさておき、グレイソン君、レオン君――この二人の存在も大きい」
「それで、白竜はその二人に勝つ自信はあるのか?」
「ちょいちょい、ちょっと傷ついたよ。ボクときみの仲じゃないか! ボクのことは『白竜』じゃなくて、『アレク』と愛称で呼びたまえ」
彼はわかりやすく衝撃を受けたような表情を偽造し、大袈裟に言った。
俺は、はぁ、と溜め息をつき、改めて言い直す。
「アレク、もう一度聞こう。そんな大注目のグレイソンと獅子王に勝つ自信はあるのか?」
すると、アレクはニヤッと笑みを浮かべ、親指を力強く立てた。
「当たり前さ! 注目するのと警戒するのは全然違うからね」
三学年合わせて、欠場者は十名ほど。
その多くは授業や訓練での負傷者だ。
集会の時と同様に、学園全体の生徒が〈闘技場ネオ〉に集まり、その瞳の奥の闘志を燃やしている。お互いに敵、お互いにライバル。ここで二日間にわたって繰り広げられるのは、壮絶な学園内バトルロイヤルだ。
『――学園長として、一言。対戦相手を殺すのは厳禁、だがそれ以外なら何でもオッケー。とはいえ、ここは勇者学園であることを忘れるでないぞ。優勝者には我と戦う権利を与える! 皆、全力を尽くすのである!』
いつもより遥かに長い学園長挨拶が終わると、生徒会長挨拶、審査員紹介、ルール説明、昨年優勝者白竜アレクサンダーによる優勝剣返還、選手宣誓などを経て。
遂に勇者祭が始まった。
「オスカー、まだ力不足なのはわかってるけど、今日はライバルとして、キミに挑むよ」
「当然だ。自分の実力がどれほど通用するのか、この勇者祭はそれを知るいい機会になる。俺もその挑戦を真正面から受け止めよう」
ここでグレイソンとは一旦お別れだ。
無造作に待機室に呼ばれ、予選を個人の力で勝ち抜かなくてはならない。いつまでも友人とお喋りに興じている時間はないのだ。
グレイソンはしっかり俺と握手を交わし、覚悟を決めた表情で待機室へ移動していった。
俺とは逆方向だ。
当然、セレナ達とも離れることになる。
「私だって、グレイソン君に負けないように頑張るから……絶対、グレイソン君にだけは負けないから……!」
なぜかグレイソンに猛烈なライバル心を見せるセレナ。
「あたちは、このクルリン・タガーでかちすすむのです!」
新たに手に入れた短剣を片手に、ブンブン振り回すクルリン。とりあえず危険だからやめて欲しい。
「わたしのことも、忘れないでくださいね」
どこか控えめに、柔らかい微笑みを向けるミクリン。
忘れるわけないだろ、と言い返し、俺は彼女の肩を優しく撫でた。
「むぅ。ミクリンだけズルいのです! あたちのこともなでてなのです!」
拗ねたクルリンが一層強く短剣を振り回し始めたので、頭を撫でるついでに短剣を鞘に収めてやる。小さな少女はぷはーと顔を綻ばせると、鞘に封じられた短剣をまた振り回す。
彼女にとって、その短剣は子犬の尻尾みたいなものなんだろうか。
「じー」
セレナはじーと言いながら俺のことをじーと見つめている。
頭を撫でるのも何か違うと思ったので、頬に手を当て、激励の視線を注いでおいた。
セレナはクルリン以上にチョロいので、顔をすぐ真っ赤に染めて、満足そうに待機室に向かっていった。
「わたしだけだと思ったのに……」
セレナが去るのを確認すると、ミクリンは頬を膨らませ、これまでに見せたことのない、拗ねた表情を俺に向けてきた。
ついうっとりしてしまうほど、可愛かった。
普段は自分の気持ちを押し殺し、冷静に周囲を気遣っている彼女が俺に見せる、初めての自我だったのかもしれない。
俺はクルリンが短剣を振り回すのに夢中になっていることを確認し、そっとミクリンを抱き寄せた。
「え、ちょっと、オスカー君……?」
まさかの抱擁に、驚いた声を上げるミクリン。
「少し我慢ができなかった」
顔と顔の距離が違い。
彼女の青色の長髪は、シナモンのような香りがした。甘さがありつつも、どこか刺激的な、そんな香りだ。
クルリンに気づかれないうちに、さっと離れる。
だが、ミクリンは俺の制服の袖を引っ張り、名残惜しそうに瞳を揺らしていた。
***
ひとりで待機室に向かう。
すれ違うのは知らない生徒ばかりだ。その多くが先輩で、そのうちの数名はそれなりに強い魔力を纏っていた。
『やあやあオスカー君、ボクのこと捜した?』
なんとなくその予感はしていたが、白竜が突撃してきた。
まさかの前回覇者の登場。そして親しげに一年生に話しかける姿。
それを見た上級生及び、俺とクラスの違う同級生はどう思っただろう。まさか、あの黒髪の少年が噂の西園寺オスカーなのか、と動揺しているだろうか。
「エイダンの件は、生徒会全体としてはどうなった?」
「そうだね……ボクは彼の実力を見込んで勧誘した身だから、凄く残念かな。でも、エイダン君と彼の弟君との関係については、ボクも思うところがある」
「確かに、あの二人の関係は最悪だ」
「これまでも何度か弟君のことを話題に上げたりしてたんだけど、それでどうなったのかはきみにも想像できるだろ?」
白竜が疲れたように笑う。
要するに、エイダンは弟のことを話題に出されると怒り狂って暴走する、ということだ。
「奴は頑ななまでに弟を認めようとしない。テオはこの勇者祭で兄のエイダンに認められようと必死だが……それが報われるのかはわからない」
「そればかりは兄弟の問題だから、ボク達が迂闊に介入するのも良くないわけだ、まったく。こういう時は、自分の無力さを実感するよね」
白竜は本気で考えているようだった。
テオを兄から救う方法を。
いつもの快活さが消えたわけではないが、ここまで真剣な表情で語りかけてくるなんて意外だった。
彼自身、この件に関してさほど力になれないことを残念に思っているのかもしれない。
俺は一度呼吸を整え、白竜にわざわざ背を向けて台詞を放った。
「確かに俺達にはどうすることもできない。無力だ。だが、見守ってやることはできる……折れそうになってしまった心を癒し、秩序の崩壊から守ってやることはできる」
「オスカー君……きみってロマンチストだねぇ。それとも、チューニ病なのかな?」
「チューニ病だと? 俺はそんな病に侵された記憶はない」
「オッケー、今ので確定したよ」
せっかく放った俺の台詞が、白竜の手で相殺されてしまう。
そういう意味では、彼は俺の一番の宿敵だ。
「直接対決できるといいね。きみが決勝トーナメントに残るつもりなら、ボクは予選ではきみを避けて、楽しみを残しておくつもりだけど、どうするつもりかな?」
「無論、そのつもりだ。まずはエイダン。その後は……まあ、気が向いたらお前と戦うのも悪くない」
「そうこなくっちゃ! ボクは気長に待つよ。もし今回戦えなかったとしてもね。それに、今年はなかなか癖の強い勇者祭になる。なにせ、きみの学級には、一ノ瀬グレイソン君、それに、獅子王レオン君もいるからね」
どうやら白竜と待機室がかぶったらしい。
まったく同じ区画に向かって歩みを合わせる俺達。
周囲からの注目は集めっぱなしだ。とはいえ、会話の内容まで耳をすませて聞いている奴はいないだろう。
「獅子王レオンか。確かに、実力者の風格はあるようだな」
クラスメイトを見定める俺。
獅子王は先日エイダンが二度目の教室襲撃をした際、前方の席で雰囲気にそぐわない大欠伸をかましていた生徒だ。普段の様子から、彼の持つ自信と余裕は本物だと感じていた。
流石はストーカーが趣味の白竜。
それなりに強そうな生徒はしっかり把握できている。
「他に気になる生徒はいないのか?」
「きみの学級だったら、まあそんな感じかな。とは言っても、総合的に考えて〈1-A〉が一年生で頭ひとつ分抜けていることは確実だね。魔王殺しのきみはさておき、グレイソン君、レオン君――この二人の存在も大きい」
「それで、白竜はその二人に勝つ自信はあるのか?」
「ちょいちょい、ちょっと傷ついたよ。ボクときみの仲じゃないか! ボクのことは『白竜』じゃなくて、『アレク』と愛称で呼びたまえ」
彼はわかりやすく衝撃を受けたような表情を偽造し、大袈裟に言った。
俺は、はぁ、と溜め息をつき、改めて言い直す。
「アレク、もう一度聞こう。そんな大注目のグレイソンと獅子王に勝つ自信はあるのか?」
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