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勇者祭編
その90 前回覇者との戯れ
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学年も学級も関係ない。
この勇者祭では、経験の差などお構いなしに、全員が入り乱れて競い合う。
俺とアレクは〈闘技場ネオ〉の西側にある〈待機室デルタ〉で、一次予選の説明を聞かされていた。
『いいか、よく聞け! お前達にはこれから二次予選に進むための戦いを繰り広げてもらう!』
真っ赤な目を文字通り炎にして説明するのは、生徒指導の鬼塚だ。
スキンヘッドなので、髪という概念はない。
そこには太陽のように燃えたぎる、鬼塚という人間の純粋な熱が存在している。
説明役には適しているのかもしれないが、いろいろとうるさくて、なかなか内容が頭に入ってこない。
きっと他の待機場所では、別の教師が説明に当たっていることだろう。正直に言えば、冷静な立花や桐生の方が良かった。
「今年は例年と違い、一次予選でか・な・り大幅に落とす! 二次予選が過酷だからな。勝ち抜いた屈強な奴じゃないと、即死の戦いだ!」
鬼塚の言葉に、多くの生徒が動揺を見せる。
勇者候補とはいえ、ここには臆病な者も実力を持たない者もいるのだ。
そんな生徒達も、アレクやアリア、俺といった強敵と、平等に争う――それが勇者祭。
そこに情けなどない。
「ルールは簡単だ! おいそこ! 話を聞け!!」
過酷だという二次予選に怯えているのか、ひそひそと話し合う生徒二人に、鬼塚が唾を飛ばす。
二人とも三年生の先輩だった。
恐ろしいまでの睨みをぶつけ、呼吸を整えてから鬼塚が続ける。
「――まず、戦場には今、王都を再現した街が作られている! あらゆる状況での戦闘を体験してもらうための試みだ! その街の中で、お前達にはある刺客と戦ってもらう!」
『――刺客!?』
ひとりの生徒が悲鳴を上げた。
またあの三年だ。残念だが、彼はこの一次予選で脱落するだろう。勇者候補の風格などまるでない。
「それは戦場に入ってからのお楽しみだ! 禁止事項は他の生徒の妨害をすること! 一次予選では得点を競う! 刺客の数はここにいるお前達の数より遥かに多い!」
この〈待機室デルタ〉には、ぱっと見た限り五十名ほどの生徒が集められていた。
均等になるように分けられているとしたら、六つの待機グループが存在することになる。
鬼塚によると、一次予選はこのグループで戦場に入り、刺客と戦うらしい。
刺客にはそれぞれポイントが振り分けられていて、見ればすぐにわかるようになっているとのこと。そいつを倒せば、ポイントが得られる仕組みだ。
三百人という人数を扱うのはなかなか難しい。よって、得点制にすることで、たとえ戦場に入れる人数制限を設けたとしても、全員平等に審査できるというわけだ。
そう、このグループはただ人が多いから分けられただけであって、結局は全体で競い合うことになる。
俺の隣にいるアレクは、両手を頭の後ろで組みながら、余裕の雰囲気を醸し出していた。
近くの生徒達が異種族を見るような目で彼を見ている。
「このグループは四番目の入場だ! 時間は十五分。その間にできるだけ刺客を倒せ! 終わったらそのまま退場し、必ず観客席に上がるように! 他を応援するかどうかは個人の自由だ!」
こうして、鬼塚のいちいちうるさい説明は終わった。
それが合図であるかのように、戦場から生徒達のどよめきが聞こえてくる。最初のグループは入場し、刺客との戦いを始めたんだろう。
残念なことに、この待機室からは何も見れない。
公平さを大事にするため、事前に刺客を確認してじっくり対策を練ることはできない。
もう始まったのだ。
ずっと待ち望んでいた、勇者祭が。
「四番目かぁ。待つの暇だね。しりとりでもする?」
ふわぁーと欠伸をしながら、リラックスした状態でアレクが言ってきた。それは虚勢ではなく、本気の余裕から生まれるものだ。
この待機室に、俺達が注目するような生徒はいない。
近くの生徒と喋って緊張をほぐしている様子はよく見るが、誰ひとり、しりとりなどという気楽な遊びには興じていなかった。
これは面白そうだ。
「いいだろう。前哨戦だと思って本気で来るといい」
こうして、アレクとの真剣勝負が幕を開けた。
***
ここに時計はないのでわからないが、俺の感覚で四十分くらいたった。
まだしりとりは続いている。
そして、おそらく戦場では、三番目のグループが刺客との戦いを繰り広げているはずだ。
『そろそろ準備をしろ! もうすぐこの扉が開くぞ!』
鬼塚の声が、緊張を張り巡らせた。
流石のアレクも、やれやれと立ち上がる。
そう、俺達は他の生徒達がその場に立ってそわそわしている中、地面に腰を下ろしてしりとりをしていた。
「勝敗はつかなそうだね。まあでも、楽しかったよ、オスカー君」
「豊富な語彙だ。この調子なら一週間は続けられそうだ」
「だね。きっと飽きると思うけど」
アレクが美男子の笑みを浮かべ、背筋を伸ばす。
俺とアレクの身長は三CМくらいしか変わらない。
「健闘を祈る」
「一次予選で落ちたりしないでね。まあ、ボクもまだわからないけど」
そう。
一次予選、軽く突破できると思っていたが、その刺客がわからない以上、どうなるかはわからない。
人数を削るための戦いなので、強過ぎる敵ではないだろう。
とはいえ、相性が悪かったら? 自分の攻撃が通用しなかったら?
――いいや。
そんな心配はない。
ただ、勝ち進むだけだ。
俺は今まで多くの神をこの手で殺めてきた。これ以上の経験はない。
鬼塚によって超硬金属でできた扉が開かれる。
「あれは……」
扉の向こうに広がっていたのは、いつも訓練している〈闘技場ネオ〉の戦場とは思えない、違和感のない綺麗な街。
そして、そこに待っていたのは――。
目を光らせ、俺達を排除すると言わんばかりに存在感を放っている、刺客達だった。
この勇者祭では、経験の差などお構いなしに、全員が入り乱れて競い合う。
俺とアレクは〈闘技場ネオ〉の西側にある〈待機室デルタ〉で、一次予選の説明を聞かされていた。
『いいか、よく聞け! お前達にはこれから二次予選に進むための戦いを繰り広げてもらう!』
真っ赤な目を文字通り炎にして説明するのは、生徒指導の鬼塚だ。
スキンヘッドなので、髪という概念はない。
そこには太陽のように燃えたぎる、鬼塚という人間の純粋な熱が存在している。
説明役には適しているのかもしれないが、いろいろとうるさくて、なかなか内容が頭に入ってこない。
きっと他の待機場所では、別の教師が説明に当たっていることだろう。正直に言えば、冷静な立花や桐生の方が良かった。
「今年は例年と違い、一次予選でか・な・り大幅に落とす! 二次予選が過酷だからな。勝ち抜いた屈強な奴じゃないと、即死の戦いだ!」
鬼塚の言葉に、多くの生徒が動揺を見せる。
勇者候補とはいえ、ここには臆病な者も実力を持たない者もいるのだ。
そんな生徒達も、アレクやアリア、俺といった強敵と、平等に争う――それが勇者祭。
そこに情けなどない。
「ルールは簡単だ! おいそこ! 話を聞け!!」
過酷だという二次予選に怯えているのか、ひそひそと話し合う生徒二人に、鬼塚が唾を飛ばす。
二人とも三年生の先輩だった。
恐ろしいまでの睨みをぶつけ、呼吸を整えてから鬼塚が続ける。
「――まず、戦場には今、王都を再現した街が作られている! あらゆる状況での戦闘を体験してもらうための試みだ! その街の中で、お前達にはある刺客と戦ってもらう!」
『――刺客!?』
ひとりの生徒が悲鳴を上げた。
またあの三年だ。残念だが、彼はこの一次予選で脱落するだろう。勇者候補の風格などまるでない。
「それは戦場に入ってからのお楽しみだ! 禁止事項は他の生徒の妨害をすること! 一次予選では得点を競う! 刺客の数はここにいるお前達の数より遥かに多い!」
この〈待機室デルタ〉には、ぱっと見た限り五十名ほどの生徒が集められていた。
均等になるように分けられているとしたら、六つの待機グループが存在することになる。
鬼塚によると、一次予選はこのグループで戦場に入り、刺客と戦うらしい。
刺客にはそれぞれポイントが振り分けられていて、見ればすぐにわかるようになっているとのこと。そいつを倒せば、ポイントが得られる仕組みだ。
三百人という人数を扱うのはなかなか難しい。よって、得点制にすることで、たとえ戦場に入れる人数制限を設けたとしても、全員平等に審査できるというわけだ。
そう、このグループはただ人が多いから分けられただけであって、結局は全体で競い合うことになる。
俺の隣にいるアレクは、両手を頭の後ろで組みながら、余裕の雰囲気を醸し出していた。
近くの生徒達が異種族を見るような目で彼を見ている。
「このグループは四番目の入場だ! 時間は十五分。その間にできるだけ刺客を倒せ! 終わったらそのまま退場し、必ず観客席に上がるように! 他を応援するかどうかは個人の自由だ!」
こうして、鬼塚のいちいちうるさい説明は終わった。
それが合図であるかのように、戦場から生徒達のどよめきが聞こえてくる。最初のグループは入場し、刺客との戦いを始めたんだろう。
残念なことに、この待機室からは何も見れない。
公平さを大事にするため、事前に刺客を確認してじっくり対策を練ることはできない。
もう始まったのだ。
ずっと待ち望んでいた、勇者祭が。
「四番目かぁ。待つの暇だね。しりとりでもする?」
ふわぁーと欠伸をしながら、リラックスした状態でアレクが言ってきた。それは虚勢ではなく、本気の余裕から生まれるものだ。
この待機室に、俺達が注目するような生徒はいない。
近くの生徒と喋って緊張をほぐしている様子はよく見るが、誰ひとり、しりとりなどという気楽な遊びには興じていなかった。
これは面白そうだ。
「いいだろう。前哨戦だと思って本気で来るといい」
こうして、アレクとの真剣勝負が幕を開けた。
***
ここに時計はないのでわからないが、俺の感覚で四十分くらいたった。
まだしりとりは続いている。
そして、おそらく戦場では、三番目のグループが刺客との戦いを繰り広げているはずだ。
『そろそろ準備をしろ! もうすぐこの扉が開くぞ!』
鬼塚の声が、緊張を張り巡らせた。
流石のアレクも、やれやれと立ち上がる。
そう、俺達は他の生徒達がその場に立ってそわそわしている中、地面に腰を下ろしてしりとりをしていた。
「勝敗はつかなそうだね。まあでも、楽しかったよ、オスカー君」
「豊富な語彙だ。この調子なら一週間は続けられそうだ」
「だね。きっと飽きると思うけど」
アレクが美男子の笑みを浮かべ、背筋を伸ばす。
俺とアレクの身長は三CМくらいしか変わらない。
「健闘を祈る」
「一次予選で落ちたりしないでね。まあ、ボクもまだわからないけど」
そう。
一次予選、軽く突破できると思っていたが、その刺客がわからない以上、どうなるかはわからない。
人数を削るための戦いなので、強過ぎる敵ではないだろう。
とはいえ、相性が悪かったら? 自分の攻撃が通用しなかったら?
――いいや。
そんな心配はない。
ただ、勝ち進むだけだ。
俺は今まで多くの神をこの手で殺めてきた。これ以上の経験はない。
鬼塚によって超硬金属でできた扉が開かれる。
「あれは……」
扉の向こうに広がっていたのは、いつも訓練している〈闘技場ネオ〉の戦場とは思えない、違和感のない綺麗な街。
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目を光らせ、俺達を排除すると言わんばかりに存在感を放っている、刺客達だった。
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