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一学期期末テスト編
その19 遅刻の言い訳
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俺は〈生存学〉の授業に五分遅刻した。
焦ることもなく堂々と授業に遅れて現れた西園寺オスカー。
その様子にマスター・鬼塚こと、スキンヘッドの鬼塚イーサンが激怒する。
鬼塚は六十手前の貫禄ある熱血教師で、ギラギラとした真っ赤な目を燃やし、俺を怒鳴りつけてきた。生徒指導担当ということもあり、彼の〈生存学〉の授業では絶対に遅れてはならない、というのが暗黙の了解なのだ。
いいのか悪いのか、他の生徒はもう実習のために森の各地に散らばっていて、俺が怒られる様子を見ることができる幸運な生徒はいない。
「西園寺、聞いているのか!!」
「はい、師匠」
「どうして遅刻したのか言ってみろ!!」
俺がこうして鬼塚に怒られるのは初めてではない。
実は前に一度だけある。
その時は遅刻ではなく、授業を勝手に休んだからだ。
病気をしていたわけでも、授業が嫌になっていたわけでもなかった。ただ、たまにふと授業を休む生徒――理由も告げず、何かやるべきことがあるかのように、いるべきところにいない生徒――を演じてみたかっただけなのだ。
「生徒会の月城ルーナ先輩に話しかけられておりました」
鬼塚の尋問に、正直に答える。
だが、はいそうですか、と穏やかに対応してくれるような教師ではない。
「くだらん言い訳をするな!! お前達が受けている儂の〈生存学〉は、そんな甘くはない!! 少しでも気が緩んでしまえば死ぬかもしれん!」
「仰る通りです」
「儂は……教え子が死んでいくのを見たくない……」
ここで鬼塚が、遠い過去を思い出すように、渋い表情になった。
俺の場合は適当にそれっぽい雰囲気を出すために使っている「渋い表情」だが、彼の場合は本物だろう。
長い人生の中で、自分の教え子達が呆気なく魔王軍に殺されていく経験をしたことで、ここまで普段の授業に熱が入るのだ。
鬼塚が抱えている壮絶な過去。
今後の参考に知りたいとも思う。
だが、俺としては、ここで彼に負けたままではいられない。こっちもこっちで、壮絶な過去を匂わせようではないか。
「師匠……すみませんでした。実は、月城先輩に話しかけられた、というのは嘘であります」
「──ッ!」
「実はまだ……過去の清算を、終えていなくて……」
「過去の清算、だと……?」
「はい。師匠のことは信頼しておりますが、これ以上は……言うことができないのです」
今にも涙しそうな、苦しみを抱えている表情を作る。
左手で目頭を押さえ、声を震わす。その震えは鬼塚にも伝わり、彼の過去との調和を生み出した。
俺の表情を見て、これは嘘なんかではなく、本気だ、と悟る鬼塚。
拳を握り締め、俺より先に涙を流した。
「そうか……すまない、西園寺。お前もお前で、いろいろ抱えていたんだな……それを汲み取ってやることができなかったのは、儂の責任だ」
「師匠……」
「これ以上は聞かん。今からでも授業に参加しろ。お前にどんな過去があろうと、遅刻は遅刻だ。減点はさせてもらう」
驚いたように、俺は鬼塚の目を見た。
我ながら完璧な演技だ。少し前にグレイソンの素晴らしい役者ぶりを見て、刺激を受けたからだろうか。
「いいのですか!? 罰則は──」
「儂もそこまで鬼じゃないぞ、西園寺! 話は以上だ! さっさと行け!!」
「はい!」
鬼塚に背を向け、森の奥に向かって走る。
そんな俺は、壮絶な過去ムーブをかませたことへの充実感を感じていた。
焦ることもなく堂々と授業に遅れて現れた西園寺オスカー。
その様子にマスター・鬼塚こと、スキンヘッドの鬼塚イーサンが激怒する。
鬼塚は六十手前の貫禄ある熱血教師で、ギラギラとした真っ赤な目を燃やし、俺を怒鳴りつけてきた。生徒指導担当ということもあり、彼の〈生存学〉の授業では絶対に遅れてはならない、というのが暗黙の了解なのだ。
いいのか悪いのか、他の生徒はもう実習のために森の各地に散らばっていて、俺が怒られる様子を見ることができる幸運な生徒はいない。
「西園寺、聞いているのか!!」
「はい、師匠」
「どうして遅刻したのか言ってみろ!!」
俺がこうして鬼塚に怒られるのは初めてではない。
実は前に一度だけある。
その時は遅刻ではなく、授業を勝手に休んだからだ。
病気をしていたわけでも、授業が嫌になっていたわけでもなかった。ただ、たまにふと授業を休む生徒――理由も告げず、何かやるべきことがあるかのように、いるべきところにいない生徒――を演じてみたかっただけなのだ。
「生徒会の月城ルーナ先輩に話しかけられておりました」
鬼塚の尋問に、正直に答える。
だが、はいそうですか、と穏やかに対応してくれるような教師ではない。
「くだらん言い訳をするな!! お前達が受けている儂の〈生存学〉は、そんな甘くはない!! 少しでも気が緩んでしまえば死ぬかもしれん!」
「仰る通りです」
「儂は……教え子が死んでいくのを見たくない……」
ここで鬼塚が、遠い過去を思い出すように、渋い表情になった。
俺の場合は適当にそれっぽい雰囲気を出すために使っている「渋い表情」だが、彼の場合は本物だろう。
長い人生の中で、自分の教え子達が呆気なく魔王軍に殺されていく経験をしたことで、ここまで普段の授業に熱が入るのだ。
鬼塚が抱えている壮絶な過去。
今後の参考に知りたいとも思う。
だが、俺としては、ここで彼に負けたままではいられない。こっちもこっちで、壮絶な過去を匂わせようではないか。
「師匠……すみませんでした。実は、月城先輩に話しかけられた、というのは嘘であります」
「──ッ!」
「実はまだ……過去の清算を、終えていなくて……」
「過去の清算、だと……?」
「はい。師匠のことは信頼しておりますが、これ以上は……言うことができないのです」
今にも涙しそうな、苦しみを抱えている表情を作る。
左手で目頭を押さえ、声を震わす。その震えは鬼塚にも伝わり、彼の過去との調和を生み出した。
俺の表情を見て、これは嘘なんかではなく、本気だ、と悟る鬼塚。
拳を握り締め、俺より先に涙を流した。
「そうか……すまない、西園寺。お前もお前で、いろいろ抱えていたんだな……それを汲み取ってやることができなかったのは、儂の責任だ」
「師匠……」
「これ以上は聞かん。今からでも授業に参加しろ。お前にどんな過去があろうと、遅刻は遅刻だ。減点はさせてもらう」
驚いたように、俺は鬼塚の目を見た。
我ながら完璧な演技だ。少し前にグレイソンの素晴らしい役者ぶりを見て、刺激を受けたからだろうか。
「いいのですか!? 罰則は──」
「儂もそこまで鬼じゃないぞ、西園寺! 話は以上だ! さっさと行け!!」
「はい!」
鬼塚に背を向け、森の奥に向かって走る。
そんな俺は、壮絶な過去ムーブをかませたことへの充実感を感じていた。
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