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魔王セト襲来編
その43 一学期終了
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魔王セトはどうやらこの世界から消えたようだ。
王国の外に出ていた名の売れている勇者パーティが、あの後〈王国通り〉にやる気満々で駆けつけたらしいが、そこに残っていたのは蒸発してしまった魔王の微弱な魔力と、呆然とするゼルトル勇者学園の討伐隊だった。
たったひとりで魔王セトを倒した謎の勇者。
その存在は王国政府によって伏せられ、それを知るのは駆けつけた勇者パーティの五名と、学園からの討伐隊の十五名、そして密かに観戦していたグレイソン達のみ。
だが、そのうちの数名は謎の勇者の正体に気づいている。
素晴らしい。
俺の思い描いていた台本に限りなく近い展開だ。
『魔王は無事に勇者パーティの方々が討伐してくれたのである。つまり、一件落着であるな!』
一学期の終わりを告げる終業式。
学園の全学年の生徒が〈闘技場ネオ〉に集められ、クセが強い学園長、鳳凰イバンの演説が行われる。
俺の隣に腰を下ろしているのは、左にグレイソンと、右にセレナ。
前にはクルリンがちょこんと座り、ミクリンが姿勢良く腰掛けている。
魔王セトが倒されてから一日。
俺は彼らに心の整理をする時間を与えるため、あえて今日の朝まで顔を合わせないようにしていた。グレイソンの視線が以前よりもさらに崇拝的なものになったり、双子姉妹からさらに熱烈な視線を感じたりすることもあったが、セレナはまだ何も言葉を発していない。
俺が目を合わせようとしても、紅潮して視線をそらされるだけだ。
「グレイソン、あの戦いはどうだった?」
少し気まずいと思ったので、俺から話題を展開する。
「少し前の自分を思い出して、恥ずかしくなったよ。キミにとっては子供の遊び程度の実力で、調子に乗っていたわけだからね。魔王との戦いを見て、改めて思った。僕は少しでもキミに追いつけるように頑張りたい」
苦笑いしながら、目を輝かせながら、思いを言葉にするグレイソン。
彼は本当に変わった。
俺は教師ではないし、教師になったこともない。だが、教え子が成長して喜ぶ気持ちや、教えることのやり甲斐を知れたような気がする。
グレイソンを見ていると、自分も現状に満足せずに高みを目指そう、と気持ちを入れ直し、自らを奮起させることができるのだ。
実際、魔王セトと俺とでは、基本のスペックがまったく違った。
魔王が格上。
俺は格下。
今回俺が勝てたのは、〈可憐なる浄化〉と〈勝利の宴〉のおかげ。
この一言に尽きる。
「全てはグレイソンが自分を高めようと努力したからだ。それに、頑張るなら俺を超えるつもりでやれ」
「――ッ。そうだね、甘えていたら駄目だ。僕はキミを超えるよ」
「その意気だ」
グレイソンの師匠として、渋い表情で弟子を見つめる。
これを隣で見せられているセレナは今、どんな気持ちなのだろうか。
「オスカー、あのね……そのことなんだけど……」
何か言いたそうに、もじもじとする金髪の美少女。
「無理に言わなくていい。夏休みに入ってからでも、ゆっくり聞かせてくれ」
「……ありがと」
たった一日では気持ちの整理などつくはずもないか。
特にセレナに関しては、他の誰よりも複雑な気持ちになっていることだろう。俺にできることは、彼女が隣にいやすい環境を作ってやることくらいだ。
「隣はいつでも開けておく。お前のためにな」
俺がそう言うと、セレナは顔を伏せて――。
「ばか」
と言った。
前の席のクルリンがぷりぷりしていたことは割愛し、学園長の話に耳を傾ける。
『前代未聞の魔王襲来という事件もあったものの、今回は無事に夏休みに移行できるようで何より。夏休みに関して言えば、八月十三日から十五日にかけてのみ、学園からの外出を許可したいと思っているのである!』
――八月十五日。
そういえば、俺の誕生日だ。
あの〈破滅の森〉での三年間があって、すっかり意識しなくなっていた。
十七歳になったとしても、今までと何かが大きく変わるわけでもない。せっかくだから王都の街に外出でもして、闘技場で無双しようか。
そんなことを考えていると、夏休みが楽しみになってきた。
『さてさて、夏休み後に行われる九月初めの勇者祭に関しては、後日詳しく話したいと思っているのである。というのも、これ以上話も長くなるとみんな飽きるだろうと思うので、これぐらいにしておくのであるな』
学園長の独特な演説が終わり、今度は生徒会の八乙女アリアが注目を浴びた。
まずは清純で穢れのない笑顔で挨拶し、ファンを盛り上げる。
その後は学園長と同じく、例の魔王セトの件に少し言及した。
勿論、魔王の討伐に成功したのは途中で駆けつけた勇者パーティ――そういうことになっている。事前にしっかり話を合わせてあるようだ。
『――では、ゼルトル勇者学園の皆様、楽しい夏休みをお過ごしください』
最後の締めもあの笑顔。
視線は俺を向いていた。
ほんの一瞬だけだったが、気づいていますよ、と。
彼女の魔眼はそう語っていた。
俺は表情を変えずに落ち着いている。これこそが俺の望むことだった。アリアは俺の実力を知ったのだ。
王国の外に出ていた名の売れている勇者パーティが、あの後〈王国通り〉にやる気満々で駆けつけたらしいが、そこに残っていたのは蒸発してしまった魔王の微弱な魔力と、呆然とするゼルトル勇者学園の討伐隊だった。
たったひとりで魔王セトを倒した謎の勇者。
その存在は王国政府によって伏せられ、それを知るのは駆けつけた勇者パーティの五名と、学園からの討伐隊の十五名、そして密かに観戦していたグレイソン達のみ。
だが、そのうちの数名は謎の勇者の正体に気づいている。
素晴らしい。
俺の思い描いていた台本に限りなく近い展開だ。
『魔王は無事に勇者パーティの方々が討伐してくれたのである。つまり、一件落着であるな!』
一学期の終わりを告げる終業式。
学園の全学年の生徒が〈闘技場ネオ〉に集められ、クセが強い学園長、鳳凰イバンの演説が行われる。
俺の隣に腰を下ろしているのは、左にグレイソンと、右にセレナ。
前にはクルリンがちょこんと座り、ミクリンが姿勢良く腰掛けている。
魔王セトが倒されてから一日。
俺は彼らに心の整理をする時間を与えるため、あえて今日の朝まで顔を合わせないようにしていた。グレイソンの視線が以前よりもさらに崇拝的なものになったり、双子姉妹からさらに熱烈な視線を感じたりすることもあったが、セレナはまだ何も言葉を発していない。
俺が目を合わせようとしても、紅潮して視線をそらされるだけだ。
「グレイソン、あの戦いはどうだった?」
少し気まずいと思ったので、俺から話題を展開する。
「少し前の自分を思い出して、恥ずかしくなったよ。キミにとっては子供の遊び程度の実力で、調子に乗っていたわけだからね。魔王との戦いを見て、改めて思った。僕は少しでもキミに追いつけるように頑張りたい」
苦笑いしながら、目を輝かせながら、思いを言葉にするグレイソン。
彼は本当に変わった。
俺は教師ではないし、教師になったこともない。だが、教え子が成長して喜ぶ気持ちや、教えることのやり甲斐を知れたような気がする。
グレイソンを見ていると、自分も現状に満足せずに高みを目指そう、と気持ちを入れ直し、自らを奮起させることができるのだ。
実際、魔王セトと俺とでは、基本のスペックがまったく違った。
魔王が格上。
俺は格下。
今回俺が勝てたのは、〈可憐なる浄化〉と〈勝利の宴〉のおかげ。
この一言に尽きる。
「全てはグレイソンが自分を高めようと努力したからだ。それに、頑張るなら俺を超えるつもりでやれ」
「――ッ。そうだね、甘えていたら駄目だ。僕はキミを超えるよ」
「その意気だ」
グレイソンの師匠として、渋い表情で弟子を見つめる。
これを隣で見せられているセレナは今、どんな気持ちなのだろうか。
「オスカー、あのね……そのことなんだけど……」
何か言いたそうに、もじもじとする金髪の美少女。
「無理に言わなくていい。夏休みに入ってからでも、ゆっくり聞かせてくれ」
「……ありがと」
たった一日では気持ちの整理などつくはずもないか。
特にセレナに関しては、他の誰よりも複雑な気持ちになっていることだろう。俺にできることは、彼女が隣にいやすい環境を作ってやることくらいだ。
「隣はいつでも開けておく。お前のためにな」
俺がそう言うと、セレナは顔を伏せて――。
「ばか」
と言った。
前の席のクルリンがぷりぷりしていたことは割愛し、学園長の話に耳を傾ける。
『前代未聞の魔王襲来という事件もあったものの、今回は無事に夏休みに移行できるようで何より。夏休みに関して言えば、八月十三日から十五日にかけてのみ、学園からの外出を許可したいと思っているのである!』
――八月十五日。
そういえば、俺の誕生日だ。
あの〈破滅の森〉での三年間があって、すっかり意識しなくなっていた。
十七歳になったとしても、今までと何かが大きく変わるわけでもない。せっかくだから王都の街に外出でもして、闘技場で無双しようか。
そんなことを考えていると、夏休みが楽しみになってきた。
『さてさて、夏休み後に行われる九月初めの勇者祭に関しては、後日詳しく話したいと思っているのである。というのも、これ以上話も長くなるとみんな飽きるだろうと思うので、これぐらいにしておくのであるな』
学園長の独特な演説が終わり、今度は生徒会の八乙女アリアが注目を浴びた。
まずは清純で穢れのない笑顔で挨拶し、ファンを盛り上げる。
その後は学園長と同じく、例の魔王セトの件に少し言及した。
勿論、魔王の討伐に成功したのは途中で駆けつけた勇者パーティ――そういうことになっている。事前にしっかり話を合わせてあるようだ。
『――では、ゼルトル勇者学園の皆様、楽しい夏休みをお過ごしください』
最後の締めもあの笑顔。
視線は俺を向いていた。
ほんの一瞬だけだったが、気づいていますよ、と。
彼女の魔眼はそう語っていた。
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