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第15話 クリスの元カノ(1)
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「エルフの直感より、俺の直感が正しかったみたいだな」
ゲチハデ王国での一件の後、クリスとジャックは他の三人からの総攻撃を食らうことになった。
ちなみに、シエナの引き裂かれたスカートは、すぐに縫い直してある。
「確かに、すまない」クリスが何度も言う。
これに関しては何も反論はできなかった。
ジャックはいつも通りクールな表情で黙り込んでいる。
「ちょっと! ジャックも何か言ったらどうなの?」ランランはぷんぷんだ。
ジャックがため息をつく。「すまなかった。これでいいか?」
「むー」
「まあ、ゲチハデ王国の協力も確定したし、結果オーライだよな」アキラが言った。「あの変態親父を見張っておくこともできるし」
「キモいやつに体をさわられたあたしたちの気持ちはどうなのよ! どれだけ体を洗っても、記憶からは洗い流せないんだけど!」
「それは……申し訳ないが、起きてしまったことだ」アキラがうつむく。「俺がもう少し早く登場してれば――」
「そうよ! なんでもっと早くこなかったの!」
「ランラン」シエナが落ち着いた声で言う。「助けにきてくれたんだからいいじゃない」
ランランは頬を膨らませ、アキラを見た。「確かに……ごめん」
「二人の気持ちはわかる。謝らなくてもいい」
クリスとジャックはその後の二日間、女性二人に何も言えなかった。
アジトから三キロも離れていない街の商店街では、一人の女がパンを買っていた。
「おっ、お客さんは美人だねー」パン屋の職員が目を大きく開く。「そったら、一つサービスだ。よい一日を!」
「嬉しいわ」
美人と絶賛された女はエルフだった。
エルフ特有のとがった耳に、透明感のある白い肌。高くて完璧な鼻に、半月型で緑色の目をしていて、とても整った顔立ちだ。
彼女の名前はロレーライ。エルフの街からはるばるここまでやってきた。
その旅の目的地は、デイブレイクのアジトだ。
「ねえねえ、クリス」やっと機嫌が戻ったランランが、クリスを呼んだ。「クリスって、杖士になる前はどんなことしてたの?」
今まで誰も聞いてこなかった質問だ。
杖士は過去のことはあまり振り返らず、前を見る。そういう教えがあったので、掟に縛られていた頃にはメンバーの過去などあまり聞いたことがなかった。
「アキラに聞けばわかるんじゃないか?」クリスが言う。
「そうじゃなくて、もっと前の話――アキラに会う前の」
「あ、そうそう! 俺も気になってたんだよな、クリスの過去」とアキラ。
「俺は興味ないな」ジャックは読書に集中していた。
シエナも同じく読書中だ。もちろん読んでいる本は、あのとき図書館で借りた恋愛の本である。
「お願い! いいでしょ?」
「うーん」クリスはしばらく考えた。「わかった。手短に話すよ」
「やったー!」
「僕はエルフの街で、貴族として生まれた。五七十年前にね」クリスが話し始めた。「そうやって百歳くらいまでは街で暮らしていたんだけど、だんだん嫌になってきたんだ。貴族っていう暮らしが。だから両親に杖士になりたいって打ち明けた。当然、反対されたけどね、特に父親には。だから、家出して、長い旅をしながら杖士の道場までたどり着いたよ。まあ、その間にもいろいろあったんだけど、結果的には家出して三年で道場に着いたんだ」
「そのいろいろ、ってのが気になるな」アキラがツッコんだ。「道場に行けばとことん訓練が始まるだろ? だからそのシーンをカットして、その『いろいろ』ってのを詳しくよろしく」
「あたしも同じく!」
「まあまあ」クリスが笑ってごまかす。「道場を出てからもいろいろとドラマはあったさ。道場を出てから、アキラと出会うまでのことは知りたくないのか?」
「いやー、なんか怪しいな。道場の前、が知りたい」
「ね、いいでしょ?」
「そう言われても……」
クリスが返答に困っていたとき、ちょうど玄関のドアがノックされた。
クリスの、少し前にはまったく役に立たなかった直感が働く。まさか……。
「こんな時間に誰?」ランランが口をとがらせた。「せっかくいいとこだったのに!」
「ていうか、今は夜中だぞ!」アキラが疲れた表情で言う。「仕事の依頼なら明日にしてくれ!」
クリスはソファーから立ち上がり、慎重に玄関まで歩いていった。
読書中のジャックとシエナは無関心だ。
シエナにいたっては、今度アキラに試す必殺の恋愛テクニックのイメージを入念に確認していた。
「はい」クリスがドアの前で言う。「どなたですか?」
しかし、なんとなく誰だかわかっていた。そう、エルフの直感が役に立ったようだ。
「クリス?」ドアの反対側から透き通った女性の声が聞こえる。「ローレライよ」
やっぱり。クリスの予感は的中した。
ゆっくりとドアを開ける。「や――やあ」
「クリス!」美しいローレライはクリスにハグした。「会えて嬉しいわ! 相変わらずハンサム!」
「おっとー! これは面白くなってきたぞ!」アキラが叫ぶ。
「うそでしょ……」ランランは、うそでしょ、しか言えなくなっていた。
そんなこともわからないアキラは、クリスとエルフの女の方まで飛んでいく。「どうも! クリスの友人のアキラです!」
「あら、どうも」ローレライはアキラを見下すような表情だ。「あなた、小さいわね」
実際にローレライはアキラを見下ろしていた。アキラよりも十センチほど身長が高い。
「まあな」アキラには動揺した様子などなかった。「それが俺のポイントさ」
「ローレライ、アキラに失礼じゃないか」クリスが注意した。
「いやいや、気にすんな。俺、自分のこと気に入ってんだ」
「ごめんなさいね、アキラ」ローレライはまさしくお嬢様という口調だった。「ただ思っただけよ。だけど、クリスのお友達ってだけで、あなたが素敵な青年であることはわかったわ」
「それは嬉しいね」アキラが笑う。「もしかして、クリスの彼女とか?」
ローレライが上品に笑った。「それなら最高なんだけど、わたくし、彼が杖士になる前にフラれたの」
「あー、なんかごめん」
「構わないわ」
「なるほど。あの『いろいろ』あった三年は、そういうわけか」
「いろいろ?」
「あ、いや、気にしなくていいよ」クリスが慌てて言い、アキラをにらむ。
「ごめん。ちょっと意外だったもんで」
クリスはローレライを洋間に案内した。
「ここが僕たちのアジトだよ。まあまあ広いし、快適だ」
「素敵ね」ロレーライが言う。「でも、エルフの街にはもっと素敵な家があるわ」
ランランはさっきから黙っていたが、ついに我慢の限界がきた。「あたしたちのアジトを侮辱しないで! ていうか、ここに何しにきたの!?」
「あら、あなた、名前は?」
「ランラン」
「いい名前ね。気に入ったわ」
「んー。いいから、あたしの質問に答えて! ここになんの用?」
「わからないの?」ローレライは上機嫌だ。「わたくしのクリスを取り戻しにきたのよ」
★ ★ ★
~作者のコメント~
新しく出てきたローレライ。
魅力的なエルフであることは間違いありません。
ですが、なんといってもお嬢様で、少しばかり性格に難がありそうです(いやいや、これは偏見ですね。やめておきましょう)。
次回はパート2で、さらに盛り上がります。よろしくお願いいたします。
ゲチハデ王国での一件の後、クリスとジャックは他の三人からの総攻撃を食らうことになった。
ちなみに、シエナの引き裂かれたスカートは、すぐに縫い直してある。
「確かに、すまない」クリスが何度も言う。
これに関しては何も反論はできなかった。
ジャックはいつも通りクールな表情で黙り込んでいる。
「ちょっと! ジャックも何か言ったらどうなの?」ランランはぷんぷんだ。
ジャックがため息をつく。「すまなかった。これでいいか?」
「むー」
「まあ、ゲチハデ王国の協力も確定したし、結果オーライだよな」アキラが言った。「あの変態親父を見張っておくこともできるし」
「キモいやつに体をさわられたあたしたちの気持ちはどうなのよ! どれだけ体を洗っても、記憶からは洗い流せないんだけど!」
「それは……申し訳ないが、起きてしまったことだ」アキラがうつむく。「俺がもう少し早く登場してれば――」
「そうよ! なんでもっと早くこなかったの!」
「ランラン」シエナが落ち着いた声で言う。「助けにきてくれたんだからいいじゃない」
ランランは頬を膨らませ、アキラを見た。「確かに……ごめん」
「二人の気持ちはわかる。謝らなくてもいい」
クリスとジャックはその後の二日間、女性二人に何も言えなかった。
アジトから三キロも離れていない街の商店街では、一人の女がパンを買っていた。
「おっ、お客さんは美人だねー」パン屋の職員が目を大きく開く。「そったら、一つサービスだ。よい一日を!」
「嬉しいわ」
美人と絶賛された女はエルフだった。
エルフ特有のとがった耳に、透明感のある白い肌。高くて完璧な鼻に、半月型で緑色の目をしていて、とても整った顔立ちだ。
彼女の名前はロレーライ。エルフの街からはるばるここまでやってきた。
その旅の目的地は、デイブレイクのアジトだ。
「ねえねえ、クリス」やっと機嫌が戻ったランランが、クリスを呼んだ。「クリスって、杖士になる前はどんなことしてたの?」
今まで誰も聞いてこなかった質問だ。
杖士は過去のことはあまり振り返らず、前を見る。そういう教えがあったので、掟に縛られていた頃にはメンバーの過去などあまり聞いたことがなかった。
「アキラに聞けばわかるんじゃないか?」クリスが言う。
「そうじゃなくて、もっと前の話――アキラに会う前の」
「あ、そうそう! 俺も気になってたんだよな、クリスの過去」とアキラ。
「俺は興味ないな」ジャックは読書に集中していた。
シエナも同じく読書中だ。もちろん読んでいる本は、あのとき図書館で借りた恋愛の本である。
「お願い! いいでしょ?」
「うーん」クリスはしばらく考えた。「わかった。手短に話すよ」
「やったー!」
「僕はエルフの街で、貴族として生まれた。五七十年前にね」クリスが話し始めた。「そうやって百歳くらいまでは街で暮らしていたんだけど、だんだん嫌になってきたんだ。貴族っていう暮らしが。だから両親に杖士になりたいって打ち明けた。当然、反対されたけどね、特に父親には。だから、家出して、長い旅をしながら杖士の道場までたどり着いたよ。まあ、その間にもいろいろあったんだけど、結果的には家出して三年で道場に着いたんだ」
「そのいろいろ、ってのが気になるな」アキラがツッコんだ。「道場に行けばとことん訓練が始まるだろ? だからそのシーンをカットして、その『いろいろ』ってのを詳しくよろしく」
「あたしも同じく!」
「まあまあ」クリスが笑ってごまかす。「道場を出てからもいろいろとドラマはあったさ。道場を出てから、アキラと出会うまでのことは知りたくないのか?」
「いやー、なんか怪しいな。道場の前、が知りたい」
「ね、いいでしょ?」
「そう言われても……」
クリスが返答に困っていたとき、ちょうど玄関のドアがノックされた。
クリスの、少し前にはまったく役に立たなかった直感が働く。まさか……。
「こんな時間に誰?」ランランが口をとがらせた。「せっかくいいとこだったのに!」
「ていうか、今は夜中だぞ!」アキラが疲れた表情で言う。「仕事の依頼なら明日にしてくれ!」
クリスはソファーから立ち上がり、慎重に玄関まで歩いていった。
読書中のジャックとシエナは無関心だ。
シエナにいたっては、今度アキラに試す必殺の恋愛テクニックのイメージを入念に確認していた。
「はい」クリスがドアの前で言う。「どなたですか?」
しかし、なんとなく誰だかわかっていた。そう、エルフの直感が役に立ったようだ。
「クリス?」ドアの反対側から透き通った女性の声が聞こえる。「ローレライよ」
やっぱり。クリスの予感は的中した。
ゆっくりとドアを開ける。「や――やあ」
「クリス!」美しいローレライはクリスにハグした。「会えて嬉しいわ! 相変わらずハンサム!」
「おっとー! これは面白くなってきたぞ!」アキラが叫ぶ。
「うそでしょ……」ランランは、うそでしょ、しか言えなくなっていた。
そんなこともわからないアキラは、クリスとエルフの女の方まで飛んでいく。「どうも! クリスの友人のアキラです!」
「あら、どうも」ローレライはアキラを見下すような表情だ。「あなた、小さいわね」
実際にローレライはアキラを見下ろしていた。アキラよりも十センチほど身長が高い。
「まあな」アキラには動揺した様子などなかった。「それが俺のポイントさ」
「ローレライ、アキラに失礼じゃないか」クリスが注意した。
「いやいや、気にすんな。俺、自分のこと気に入ってんだ」
「ごめんなさいね、アキラ」ローレライはまさしくお嬢様という口調だった。「ただ思っただけよ。だけど、クリスのお友達ってだけで、あなたが素敵な青年であることはわかったわ」
「それは嬉しいね」アキラが笑う。「もしかして、クリスの彼女とか?」
ローレライが上品に笑った。「それなら最高なんだけど、わたくし、彼が杖士になる前にフラれたの」
「あー、なんかごめん」
「構わないわ」
「なるほど。あの『いろいろ』あった三年は、そういうわけか」
「いろいろ?」
「あ、いや、気にしなくていいよ」クリスが慌てて言い、アキラをにらむ。
「ごめん。ちょっと意外だったもんで」
クリスはローレライを洋間に案内した。
「ここが僕たちのアジトだよ。まあまあ広いし、快適だ」
「素敵ね」ロレーライが言う。「でも、エルフの街にはもっと素敵な家があるわ」
ランランはさっきから黙っていたが、ついに我慢の限界がきた。「あたしたちのアジトを侮辱しないで! ていうか、ここに何しにきたの!?」
「あら、あなた、名前は?」
「ランラン」
「いい名前ね。気に入ったわ」
「んー。いいから、あたしの質問に答えて! ここになんの用?」
「わからないの?」ローレライは上機嫌だ。「わたくしのクリスを取り戻しにきたのよ」
★ ★ ★
~作者のコメント~
新しく出てきたローレライ。
魅力的なエルフであることは間違いありません。
ですが、なんといってもお嬢様で、少しばかり性格に難がありそうです(いやいや、これは偏見ですね。やめておきましょう)。
次回はパート2で、さらに盛り上がります。よろしくお願いいたします。
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