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フロストハウル編
第128話 ランクが一時的に上がるとかいうチートすぎる赤い液体
フロストハウルこと氷室澪奈は、昼の12時前に清明高校に到着した。
午前中は美容室で仕事をしていたが、午後からは完全に休暇を取り、文化祭に足を運んだのだ。
氷室の服装は明らかに気合いの入ったものだった。
銀髪こそ黒髪にしているものの、普段はストレートなロングヘアはウェーブ巻きにして仕上げ、普段は真ん中で分けている前髪も、今日は軽めに残している。
スタイリングの違いで大きく変わった氷室のヘアスタイル。
いつも絶世の美貌を解き放っているが、今日は一段と輝いていた。
道行く人は老若男女問わず振り返る。
「やべぇ。超美人だ……」
「悔しいですけど、認めざるを得ません」
「おい、惑わされるな! 今からあいつに復讐するんだぞ!」
「はい、すみません」
氷室が学校に入ってきたことを確認し、かなり前から張り込んでいた男2人も正門をくぐる。
「何のためにわざわざ日本に来たと思ってる? 組織から許可をもらうのにどれだけ苦労したか……」
「しかも飛行機で映画観れませんでしたし……」
「そうだよな! 格安の飛行機でイギリスから日本まで――って、そんなこたぁどうでもいい!」
男2人とは青ひげの男とノッポの男だ。
氷室の動向をうかがっているのは、彼女に復讐をするため。
というのも、2人は氷室と同じ組織で鍛えられた日本人で、氷室の先輩だった。
しかし、氷室は持ち前の才能でメキメキと実力を伸ばし、Sランク冒険者に成長。それに比べ、2人は彼女と比較された挙句、出来損ないと言われて負け犬扱いを受けてきた。
「この野郎……あいつがいなけりゃ、オレたちは普通の優等生だったんだ! だよな?」
「Aランク冒険者が負け犬と言われるなんて、普通はあり得ません」
後輩に異端児がいたことにより、本来注目されるはずだった2人は負け犬と言われるまでになってしまった。
氷室とこの2人に直接的な関わりはない。
顔を合わせたことはあれど、会話をしたこともなければ、訓練で一緒になったこともない。
しかし、幾度となく聞かされるフロストハウルの功績は、彼らに強烈な屈辱を与え続ける結果になってしまった。
そしてついに、組織からの許可を得て日本に飛ぶことができ、復讐を果たす時が来た、というわけだ。
青ひげの名前は江頭小太郎、ノッポの名前は安田長介といった。
「段取りはわかってるな? あの女好きがそこら辺の女子高生にメロメロになっている隙に、この暴走剤を注射し、撤収する。あとはあいつが暴れ回るのを高みの見物といこうじゃねぇか」
「さすがです江頭さん! 一生ついていきます!」
「おうよ!」
***
正門をくぐってすぐ、氷室は受付で足を止めた。
口をポカンと開け、固まっている。
「きみは……」
「はい?」
「なんて可愛いんだ……!」
受付の女子高生は困惑していた。可愛いからという理由で文化祭の受付係を頼まれたわけだが、急に美人にナンパされようとしているのだ。
――チャンス到来!
その様子をこっそり見ていた江頭は小さくガッツポーズをする。
自然な流れで受付ブースに近付き、袖の下に隠し持っている注射器を――。
「何をしているのかな?」
瞬間、可愛い女子生徒に言葉を失っていたはずの氷室が、江頭の手首をつかんだ。
それは、江頭の計画が綺麗に破綻した瞬間でもあった。
少し離れたところから見守っていた安田も、これからどうするべきかと動揺する。
「この野郎……一筋縄ではいかないってか」
「きみ、どこかで見たような……」
氷室の記憶の中で、彼らはぼんやりとしたものでしかない。話したこともないのだから、それもそのはず。
だが、このセリフが江頭の羞恥心にさらなる火をつけ、復讐心を燃やした。
「安田!」
「はい!」
急に声を張り上げる。
何事かと、周囲からの注目が江頭に寄せられた。
「プランBに移行する! やれ!」
江頭からの指示を受けた安田は、覚悟したような表情を見せると、ちょうど雷電舞姫の講演会が終わった頃の体育館へ向かっていく。
一方で氷室の前に立つ江頭は、憎しみを込めた視線を彼女に向けながら、半分壊れたような笑みを浮かべた。
「久しぶりだな、フロストハウル! ま、お前はオレのことなんか覚えてないんだろうけどよ!」
「……」
氷室は目の前の男が誰だか思い出せず、顔をしかめたままだ。
「この液体はな、超人の中の細胞を活性化させて、ランクが1つ上がったかのようなブースト状態を引き起こせるとんでもねぇ薬だ」
「――ッ」
江頭の手の中にある赤い液体の正体。
それはチートとも言える薬だった。
Aランクの者が注射で血液内に取り込めば、Sランク並みのステータスを一時的に引き出すことができる。
江頭を完全に警戒した氷室は、江頭の次の行動を予測したのかすぐに動いた。
常人の目では捉えられないほどの速さで、江頭に接近。そのまま注射器に手を伸ばす。
しかし、これでも江頭はAランクの超人。
氷室が動き出す前に距離を取り、自分の腕に注射器を打ち込んだ。
「待て――ッ」
「――理性も判断力もぶっ飛んで、暴走しちまうわけだけどな!」
江頭の理性あるセリフはそこまでだった。
セリフを言い終わった瞬間には、理性の崩壊した狂暴な超人がそこに立っていた。
最初の計画では氷室に薬を取り込ませ、暴走させる計画だった。
SSランク並みの力を持つことになる氷室が暴れれば、この場にいるであろう雷電や黒瀬でさえも抑制することができないだろう。
だが、その計画は失敗に終わり、今。
江頭と同様に薬を持っている安田もまた暴走を始め、文化祭を殺戮の宴へと変貌させようとしている。
「フロスト……ハウル……」
そして江頭の敵はただ1人。
受付の女子を庇うようにして剣を構えている、氷室澪奈だ。
午前中は美容室で仕事をしていたが、午後からは完全に休暇を取り、文化祭に足を運んだのだ。
氷室の服装は明らかに気合いの入ったものだった。
銀髪こそ黒髪にしているものの、普段はストレートなロングヘアはウェーブ巻きにして仕上げ、普段は真ん中で分けている前髪も、今日は軽めに残している。
スタイリングの違いで大きく変わった氷室のヘアスタイル。
いつも絶世の美貌を解き放っているが、今日は一段と輝いていた。
道行く人は老若男女問わず振り返る。
「やべぇ。超美人だ……」
「悔しいですけど、認めざるを得ません」
「おい、惑わされるな! 今からあいつに復讐するんだぞ!」
「はい、すみません」
氷室が学校に入ってきたことを確認し、かなり前から張り込んでいた男2人も正門をくぐる。
「何のためにわざわざ日本に来たと思ってる? 組織から許可をもらうのにどれだけ苦労したか……」
「しかも飛行機で映画観れませんでしたし……」
「そうだよな! 格安の飛行機でイギリスから日本まで――って、そんなこたぁどうでもいい!」
男2人とは青ひげの男とノッポの男だ。
氷室の動向をうかがっているのは、彼女に復讐をするため。
というのも、2人は氷室と同じ組織で鍛えられた日本人で、氷室の先輩だった。
しかし、氷室は持ち前の才能でメキメキと実力を伸ばし、Sランク冒険者に成長。それに比べ、2人は彼女と比較された挙句、出来損ないと言われて負け犬扱いを受けてきた。
「この野郎……あいつがいなけりゃ、オレたちは普通の優等生だったんだ! だよな?」
「Aランク冒険者が負け犬と言われるなんて、普通はあり得ません」
後輩に異端児がいたことにより、本来注目されるはずだった2人は負け犬と言われるまでになってしまった。
氷室とこの2人に直接的な関わりはない。
顔を合わせたことはあれど、会話をしたこともなければ、訓練で一緒になったこともない。
しかし、幾度となく聞かされるフロストハウルの功績は、彼らに強烈な屈辱を与え続ける結果になってしまった。
そしてついに、組織からの許可を得て日本に飛ぶことができ、復讐を果たす時が来た、というわけだ。
青ひげの名前は江頭小太郎、ノッポの名前は安田長介といった。
「段取りはわかってるな? あの女好きがそこら辺の女子高生にメロメロになっている隙に、この暴走剤を注射し、撤収する。あとはあいつが暴れ回るのを高みの見物といこうじゃねぇか」
「さすがです江頭さん! 一生ついていきます!」
「おうよ!」
***
正門をくぐってすぐ、氷室は受付で足を止めた。
口をポカンと開け、固まっている。
「きみは……」
「はい?」
「なんて可愛いんだ……!」
受付の女子高生は困惑していた。可愛いからという理由で文化祭の受付係を頼まれたわけだが、急に美人にナンパされようとしているのだ。
――チャンス到来!
その様子をこっそり見ていた江頭は小さくガッツポーズをする。
自然な流れで受付ブースに近付き、袖の下に隠し持っている注射器を――。
「何をしているのかな?」
瞬間、可愛い女子生徒に言葉を失っていたはずの氷室が、江頭の手首をつかんだ。
それは、江頭の計画が綺麗に破綻した瞬間でもあった。
少し離れたところから見守っていた安田も、これからどうするべきかと動揺する。
「この野郎……一筋縄ではいかないってか」
「きみ、どこかで見たような……」
氷室の記憶の中で、彼らはぼんやりとしたものでしかない。話したこともないのだから、それもそのはず。
だが、このセリフが江頭の羞恥心にさらなる火をつけ、復讐心を燃やした。
「安田!」
「はい!」
急に声を張り上げる。
何事かと、周囲からの注目が江頭に寄せられた。
「プランBに移行する! やれ!」
江頭からの指示を受けた安田は、覚悟したような表情を見せると、ちょうど雷電舞姫の講演会が終わった頃の体育館へ向かっていく。
一方で氷室の前に立つ江頭は、憎しみを込めた視線を彼女に向けながら、半分壊れたような笑みを浮かべた。
「久しぶりだな、フロストハウル! ま、お前はオレのことなんか覚えてないんだろうけどよ!」
「……」
氷室は目の前の男が誰だか思い出せず、顔をしかめたままだ。
「この液体はな、超人の中の細胞を活性化させて、ランクが1つ上がったかのようなブースト状態を引き起こせるとんでもねぇ薬だ」
「――ッ」
江頭の手の中にある赤い液体の正体。
それはチートとも言える薬だった。
Aランクの者が注射で血液内に取り込めば、Sランク並みのステータスを一時的に引き出すことができる。
江頭を完全に警戒した氷室は、江頭の次の行動を予測したのかすぐに動いた。
常人の目では捉えられないほどの速さで、江頭に接近。そのまま注射器に手を伸ばす。
しかし、これでも江頭はAランクの超人。
氷室が動き出す前に距離を取り、自分の腕に注射器を打ち込んだ。
「待て――ッ」
「――理性も判断力もぶっ飛んで、暴走しちまうわけだけどな!」
江頭の理性あるセリフはそこまでだった。
セリフを言い終わった瞬間には、理性の崩壊した狂暴な超人がそこに立っていた。
最初の計画では氷室に薬を取り込ませ、暴走させる計画だった。
SSランク並みの力を持つことになる氷室が暴れれば、この場にいるであろう雷電や黒瀬でさえも抑制することができないだろう。
だが、その計画は失敗に終わり、今。
江頭と同様に薬を持っている安田もまた暴走を始め、文化祭を殺戮の宴へと変貌させようとしている。
「フロスト……ハウル……」
そして江頭の敵はただ1人。
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