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Side 2ーaffairー
逢坂蓮(おうさか・れん)
しおりを挟む男なら誰しもがスーツをビシッと決めてバリバリと仕事をすることに憧れを抱くはずだ。
俺も当然のようにそのうちの一人だが、就活のために購入したリクルートスーツはまだまだ体に馴染んでいない気がする。俺もいつか壇上で話す社長のように洗練されたスーツの着こなしができるだろうか。
今日は、待ちに待った入社式。
外資系の大手企業への採用が決まった。この件に関しては、俺の家族、友達、先生、親戚一同が驚いて言葉を失っていた。
現在、壇上で話す「社長」は俺の一番尊敬していて憧れの存在である金城要(きんじょうかなめ)氏だ。
彼は、この社長でありながら多くのビジネス書を出版し、ベストセラーになっていたり、たまにテレビ出演をしていたりする。俺も、全ての本をボロボロになるまで読み込んだ。
金城氏のようになりたくて、彼の背中を追いかけたくてようやくここまでたどり着いたのだ。といってもまだスタートラインに立ったばかりだけれども。
なぜ、この企業に就職できたことを俺の周りが驚いたかというと、両親がとてつもないくらいに「バカ」だからだ。
俺の両親は、18歳でデキ婚。高校在学中に妊娠していたが、学校には内緒にしたまま卒業したためあまり大騒ぎにはならなかったらしいが、「妊娠が先生にバレないように体育の授業も普通に受けた」と母はドヤ顔でよく話していた。両親は一応高卒だが勉強をした記憶は皆無らしい。
両親は、パチンコが大好きで休日はよくパチンコに行っていた。
俺は五つ下の妹と留守番をさせられていたが両親がパチンコから帰ってくるのが楽しみで仕方なかった。
なぜならば、パチンコの勝敗によって「焼肉食べ放題」か「焼肉のタレかけご飯」なのかが決まるからだ。
大体の結果が「焼肉のタレかけご飯」だったが、それでも家族4人はいつも笑っていた。何事も楽観的に考える両親といれば楽しかった。
しかし、中学に入り自分の両親の異常さに気付かされた。
これまでも、両親はちゃんと仕事をしているのにボロいアパートに住んでいたり、夕飯が豪華と質素と極端だったり、家族旅行にいったことがなかったり、たまに電気や水道が止まったりということがあったがどの家庭もこんなものだと思っていた。
しかし、友人からそんな話は聞いたことがなく不思議に思っていたが、両親への不信感はそこまで強く持っていなかった。
あの日までは・・・・
「ごめん・・・蓮・・・修学旅行行けない」
と母親が両手に軽く手を合わせて軽い感じで謝罪した。
俺はことの重大さを理解しておらず「なんで?」と聞き返した。
「いや~お金足りなくて、修学旅行の積立を滞納してて、お金もまとまって出せないから・・・本当ごめん・・・」
まず俺には滞納という言葉がわからなかったが、次の日に担任に呼び出され、説明されて事の重大さを理解した。
みんなが楽しそうに出かけていった修学旅行の間。
俺は下級生の目につかぬように登校し、なぜか国語の先生の教科準備室でひたすら自習させられた。
授業の時に、先生はいなくなったためひたすら眠ったり、落書きしたりを繰り返していた。
国語の先生も授業と授業の間は慌ただしそうに準備などを進めていたし、あまり俺に気にかけてくれず渡されたプリントに一切手をつけていなかった。
驚愕した国語の先生は、「今まで何やってたんだ」と大きな声で怒鳴るかと思ったが俺の肩をポンポンと叩いた。
「逢坂も修学旅行行きたかったよな・・・」
青春真っ只中で人と比べたがる中学生の大切な時期に両親のせいで修学旅行に行けなかった俺を哀れに思ったのだろう。先生は俺の横に座り黙って愚痴を聞いた。
両親のことを家族以外の人に話したのは初めてだった。
「先生・・・俺親みたいにバカになりたくない」
とボソッと呟いた俺に、先生は本を差し出した。
「バカになりたくなかったら読書が一番いいぞ。」
「俺、本嫌い。活字見るだけで頭痛くなる」
「1ページでもいいから読んでみ」といって渡したのが、金城要の本だった。
ページ数も多くて、難しい事ばかりが書かれていると俺は、本を開く事なく机に伏せた。
それでもと、パラパラとめくった中に【親は親、自分は自分 生まれながらにして違う人生を歩んでいる。
親に囚われ続ける必要はない。自分の人生は自分が決める】と書かれていた。
それから俺は1ページ目から本を読み、修学旅行の3日間でその本を読みきった。
初めて厚い本を読んだ達成感が忘れられず、国語の先生が読み終えた本や、オススメの本を片端から読むようになった頃にはテストの点数も上がっていき、「お前の成績じゃありえない」と担任に言われていた公立難関進学校に合格した。さらなる目標は、金城氏の卒業した大学へ進む事。
しかしながら、相変わらず親はバカで金銭感覚もおかしいので、大学の費用を負担することなどできないことがわかりきっていたため高校へ入学するとすぐにバイトを掛け持ちして学費を稼ぎ、勉強に励み見事大学も合格して、この企業への就職も決まった。
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