Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜

桐嶋いろは

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Side 2ーaffairー

7(金城心春)

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「心春さん。母乳は出てる?これ母乳がよく出るお茶なんですって」
義実家へ行くのは苦痛だ。
しかし、孫の顔を見せに行かないと大量の電話と、自宅への訪問がある。
あれやこれやと子育てグッズや子育て情報を渡される。

「これね颯太が赤ちゃんの時の写真なんだけど・・・あら・・・あんまり似てないわね。
そういえば心春さんにもあんまり似てない?」

私の顔を凝視しながら問う義母が恐ろしい。

「そんな子供の顔なんてコロコロ変わるだろ・・・」
義父は呆れながら言う。

(もしかして、感づいている・・・?)


義実家からの帰り道、力尽きた私はマンションの近くの公園のベンチに座った。
たくさんの子供連れが公園で遊んでいる。おそらくもう産まれた地点で、いや産まれる前からもうママ友のネットワークは始まっている。ほとんどがいくつかのグループに分かれていて楽しそうに話をしているが、その中に割り込んでいく能力は持ち合わせていない。
今まで、どんなに仕事を頑張っていようが私はただの母親で、誰にも評価されずに見返りのない労働を続けているようだ。私は、きっと子育てに向いていないんだと思う。
何も楽しくないし、成長が嬉しくない。

子供なんて可愛くない・・・・


「大丈夫?」
その声に顔を見上げると、蓮がいた。

はっきり言って今一番会いたくない。

「うん。別に・・・・」
そういって私は、蓮の顔を見ないように公園を去ろうとする。その顔を見たら涙が出そうだから。

しかし、私の手を蓮は掴む。

(こんな人目につくところで何してんの?)


「ちょっと俺んちおいでよ。お茶でもしない?」

「彼女にバレたらどうすんの?ご近所の目もあるし」

「あいつは別に彼女じゃない。ご近所って言っても下の階に住んでるんだから、上の階で俺たちが会っててもわからないだろう。」

そう言って、私は強引な蓮の後をついていく。
気がつけば私たちはなんだか逆転している気がする。入社したての頃は私からグイグイ誘っていたわけだし


最上階だけあって、我が家よりも広く窓から見える景色も違う。
机の上には、最新のパソコンが3台ほど並べられており、株価が表示されている。
必要最低限の洗練された家具と、綺麗に片付けられた部屋はあの頃住んでいた1Kのボロアパートとは違った。
自分の力で「富」を手にした彼の背中が遠いところにある気がした。

「子供ここに転がしなよ。重いでしょ。」
そう言って、長座布団の上にタオルを敷いて簡易的な布団を作ってくれた。

「この間はそういう空気じゃなかったからそのまま帰ったけれど・・・心春に聞きたいことがいっぱいある・・・」
蓮は、少し怒った様子だった。


「なんでいきなり去っていった?なんで結婚したんだよ・・・やっと忘れられたと思ったのになんで突然俺の前に・・・」

「私だって、離れたくなかった。でも・・・」

言いかけた私に、「借金だろ?」と蓮は答える。

「あの後、会社に残って結果出して社長には借りたお金を全額返した。いなくなった俺の親も見つけて、今通院してるし、会社やめて起業して、株で儲けて、このタワマンの最上階買った。家柄なんて関係ないこと証明してやりたかったから。それで、心春の父親に認めてもらって心春と結婚するつもりだった。」

「ごめん・・・」

「心春は今、幸せ・・・?」


(苦しい、辛い、逃げ出したい、助けて・・・全然幸せなんかじゃない。毎日息が詰まりそう・・・)


「幸せだよ・・・」
私の頬から涙がつたう。その涙を蓮は優しく指で拭った。


「そっか・・・よかった・・・これでお前のこときっぱり諦められるわ・・・」

そう言って、蓮は涙をこらえながら笑った。

(下手な嘘だって気づいているくせに・・・)

「それだけわかれば充分。ごめん人妻を呼び止めちゃって・・・お前、一人で抱えこみ過ぎ。男はこれやってあれやってって指示しないとわからないんだから。旦那のこともっといいように扱えよ。」

「うん」

「じゃあな。もう会わないようにしような・・・」
そう言った声が涙ぐんでいた。


息子を抱き上げようとした瞬間に蓮は私を抱き寄せた。
蓮の温もりと香りを懐かしく思う。





「嘘つくなよ・・・幸せなわけないだろ・・・心春のそんな悲しそうな顔見たことないよ・・・」

抱きしめる力が強くなる。

「だって・・・もうあの時には戻れない・・・」

「俺、待つから・・・また二人でやり直せる時を・・・」

「え・・・・」

「嘘じゃない・・・本気だから・・・」

「だめだよ・・・・」


蓮は私の唇を奪う。


「やめて・・・・」
私は、蓮を突き飛ばす。

「好きだ・・・」


スヤスヤと眠っていた息子が目を覚まし、泣き出した。


「ごめん、帰って授乳しなきゃ・・・・蓮に一つだけ言っておきたいことがある。
この子のお父さんは蓮かもしれない・・・・まだ、検査とかしてないから分からないけれど・・・」

「え・・・?」

「多分、最後に蓮とシタ時に出来た。旦那ともしてるから疑ってはいないからこれからも隠すつもり・・・だからさ、ここで蓮が出てくるとややこしくなるの・・・」

そう言い捨てて部屋を後にした。
このことは別に言うつもりはなかった。言う必要もなかったはずだった。
それでも私は蓮の心を繋ぎ止めておきたかったのだ。
自分は、他の男と結婚して周りから見れば「幸せな家庭」を持っていて、何一つ不自由もない。
子育てにはいっぱいいっぱいだけれども・・・

蓮のことを裏切っているはずなのに、蓮が他の女と結婚して子供ができて、蓮が育児に協力するいい夫と幸せに暮らす女のことを考えただけで吐き気がする。
結局のところ、蓮のため、親のためだと言い聞かせながらも未練はタラタラなのだ。


どうしてこんな時に目の前に現れるの?
どうして何もかもが上手くいかないの?

どうしてこんなに好きなの?


「待てよ・・・」
追いかける蓮が私を後ろから抱きしめる。


「こんな風に思うのはいけないことかもしれないけれど、嬉しい・・・産んでくれてありがとう・・・」


私の頬に涙が伝う。


その日からだった。私たちは越えてはいけない線を超えた。
でも、もう後戻りなんてできなかった。

少しだけが1時間・・・1時間が3時間・・・・3時間が半日・・・
その抑えられない気持ちがズルズルと・・・




「もう、私の体は蓮が知っている体じゃない。妊娠中についたお腹の肉は戻らないし、髪もボサボサで美容院も行ってないし、白髪も見つけたし、化粧もしてないし・・・・」

「あとは?」

蓮は私のマイナスな言葉ばかりを優しく受け止めた。

「大丈夫、俺が元に戻してやるよ・・・」

最後にしたセックスは、息子の妊娠発覚の前後だった。

体は、忘れてしまっている。
あんな風に男の体を求めていた自分が今日に至るまで別人のようだった。
制欲など皆無で、キスどころか触れられるのも嫌だった。

それなのに、どうしてだろう。
蓮が、触れる度にあの頃の記憶や感覚が一気に戻っていく。
この肌もキスの仕方も変わらない。

(母親じゃない・・・私は女だ・・・)

少しの物音で起きてしまう息子は今日は別人のようにスヤスヤと眠っている。
彼も小さいながらに自分の父親を本能で認識しているのだろうか・・・



「心春・・・胸からめっちゃ母乳出てる」
気がつくと、お互いの体がベタベタになるくらいに胸から母乳が溢れ出していた。

「ごめん・・・・」

「やばい・・・興奮する・・・・」

私の胸に吸い付き母乳を吸い尽くしていく。

「なんかこれってすごい背徳感・・・」

スヤスヤと眠る我が子を横目に、旦那と眠るベッドで元彼と体を重ねて、シーツにはお互いの汗と私の母乳が染み出していく。

(やめなくちゃ・・・いけないことなのに・・・)
そう思いながらも、お互いに止まることはできない。

溺れて・・・溺れて・・・もう呼吸ができない・・・

(蓮が好き・・・愛してる・・・)



それから夫の目を盗んで続けた逢瀬は長く続かなかった。

急すぎる夫の帰宅に息が止まりそうだった。
100%悪いことをしているのは私なのに、全部を夫のせいにする最低な妻。

本当はもっと早く気がついて欲しかった。
こんな私を止めて欲しかった。そんな夫であることを望んだ。

でも、仕事仕事仕事・・・仕事が忙しいから・・・
私なんてどうでもよくて、他の男に恋をしていようが、夫婦の寝室で他の男とセックスしていようが考えていたのは
体裁だけ。
離婚することで自分の評価が落ちると言うこと、不倫をされたと言うダサさ、両親になんて説明しようかと言うこと。

「もう帰ってこなくていい・・・」
その一言で全てを察したのだ。


私は蓮と生きたい。
蓮と幸せになりたい。









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