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一章 人間の領土~首都コルトランド~

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「難しいな…」
 一歩踏み込む事が死にゆく階段のように、重く圧し掛かってきます。何せ、相手の事を良く知らないわけですからね!ビギナーズラックという言葉が頭を過ります!魔物は動物、相手にも命があります!命あるものはどんな行動をするか分からない!ゲームとは違うひりひりとした感覚が襲ってきます。ただ、相手に背を向けて逃げるなんて、殺してくれ!と言っているのと同じ!頭で考え、最善の手を導き出さねばなりません!
 おっと、魔物は次の段階に入ったのか、前足で地面を蹴っている!これは、突進の前に見せる行動と一緒なのか!じっと目を凝らします。緊急回避、危機一髪です!気づけば魔物の顔が目の前にありました!恐怖画像を画面一杯に出されるあの感覚!怖いも怖いです、しかし、チャンスであるには変わらない!攻撃の一手を仕掛けます。咄嗟に避けた事によって、鹿に一瞬の隙が生まれます!オーキチ選手を見失い、きょろきょろと周りを見ている!今がチャンスだ、とばかりに切りかかる!角が地面に落とされました!
「よし!」
 しかし!魔物もまた、強者だった!角が無くなったことを一瞬で気づき、頭をぶんぶん振り回す!この行動になんの意味があるか全く理解できない!オーキチ選手、一瞬立ち尽くしてしまったのが運の尽き、胴に渾身のタックルを受けてしまった。腹が痛い…立ち上がれない…少しばかりもがいてすぐに立ち上がる!
「う…油断した」
 鹿はまだまだ、発狂モード!頭をぐるぐる回転させて、こちらを追いかけてきます!その様はまさにホラーゲーム!何があってあの行動をとっているのか、本当に不可解すぎる!意味も分からないが、慎重になるオーキチ選手はここで、鹿の頭に目掛けて、剣を投擲!鹿の頭にクリーンヒット!鹿は声を上げて、倒れこみました!オーキチ選手、二連勝です!
「何…これ?この鹿、怖すぎる」
 二体の魔物を村に引きずり込む。村人は「ひぃぇぇぇぇ?!」と声を上げていた。なんのこっちゃ分からない。まぁ、強敵であったのは確かだけど。こんなに苦戦したのは初めてかもしれない。大体は倒すのにあまり苦労しなかったから。魔物に苦労しているぐらいだと、もしかしたら人間の方が…。
「こ、これは!ホラーディアじゃないですか?」
「ぶは!そのまんまなのね」
「……?どうされました?」
 村人は首を傾げて不思議そうにしている。思わず吹いてしまったよ、名前に。この世界では当たり前なのかな?だって、暗がりでこっちをじっと見ていたり、角が折れたら頭ぐるぐる回して突進してくるんだよ?恐怖の鹿でしょ。失敗したら、死んでたからね。意味わからな過ぎて、初めて攻撃受けたんだから。
「ホラーディアとナイトベアには困らされていたんです」
「まぁ…強いですからね?」
「そうです!ところで角はお持ちですか?」
「あ、ありますよ」
 大樹から取った木の枝のような立派な角を渡す。きっと滋養強壮にいいんだろうな、そんなことを考えていた。
「これ、このままで武器になるんです」
「……はい?」
「振り回せばいい槍なんですよ」
 面白すぎる、ネタですか?それ、横からの攻撃にめっぽう弱いから、槍として使うには弱くないか…?だったらナイトベアの爪とかの方が使えそうな気がするけど?あ、武器がダメだからって事?爪は武器になりえるけど、角はあくまで角?まぁ、喜んでくれるならいいんだけどさ。
「嬉しいなら…何よりです」
「後、肉はかなり栄養がありますからね!」
「それはそうですね」
「ええ、ありがとうございます!」
「はい、じゃあ、今日は寝床を借りますね」
「ええ、どうぞどうぞ!」
 別に何かを言われたわけではないけど、匿ってもらうみたいな感じになるし。ただ、笑顔を向けられるのは嬉しいな。ちょっと、角の件は笑っちゃったし、その後も笑いを堪えるのに必死だったけど…。今も、ちょっと面白い。あんなに枝別れしてる槍があってたまるか。
 夜が明けるか明けないかぐらいの時に村を出た。もし仮に、ここに居る事がバレれば、すぐに来てしまう可能性もあるし。もし、魔法とか使えるのなら、明朝なんて言ってられないだろう。せっかく、領土を越えられそうな所で捕まるのも嫌だし。第二の人生を楽しみたい。そういえば、何か腰に違和感が…?あ、地図が入ってる?!まさか気づかない間に取ったとか…?見ると、メモが挟まっていた。
 ”ありがとうございました、無事に出られることを祈って”
 いい人だ…。俺が一回の善行を行っている間に、二回も善行を行うなんて、あそこの人達には危害が加わらない事を祈るばかりだ…。地図を見ると、さっきの村から丁度、南北のあたりを目指せば獣人の領土に着きそうだ。もう少し歩いて頑張ってみようか。
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