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探偵たちに明日はない
探偵たちに明日はない 第1話
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二〇二四年七月六日。窓から差し込む陽の光が、大きなガラス窓を通り抜けて部屋の中を明るく照らし出していた。壁一面に飾られた絵画には光が当たり、鮮やかな色彩を放っている。テーブルには白いテーブルクロス、天井には豪華なシャンデリアが輝き、その光が窓から差し込む陽光と混ざり合って部屋を明るくしていた。テーブルの上に置かれた花瓶には色とりどりの花が生けられ、芳しい香りが漂っている。ここは、「セレスティアル・ドリーマー」のレストランである。
友香理の事件が解決したところで、スタッフたちの手が少し空いたのか、レストランが再開になった。
明日の夜は港に着く予定。
陽希が、旅の終わりにたくさん食べたいというので、理人も付き合いでやってきた。陽希はエッグベネディクトやスモークサーモンが特に気に入ったらしく、皿に山盛りにしていて、笑ってしまった。ドングリを口に詰め込んだリスのように、頬をぱんぱんにして食べている。理人はといえばチーズのクロワッサンを一つ、そして、濃い目の珈琲で充分だ。
珈琲と言えば水樹であり、ふと思い出した。
「水樹には、ここで私たちが食べるということを、連絡したのですよね?」
「うん。返信なかったけどねぇ」
「そうですか。ちょっと気がかりですね」
理人が、はむ、とクロワッサンを食む間、沈黙が流れる。陽希も陽希で、何とも言えない顔をしているので、改めてずっと気になっていたことを質問した。
「どうにも、友香理さんの事件があってから、水樹は様子がおかしかったですよね」
「そうかなぁ? 水樹ちゃん、いつも変わってるじゃん」
「陽希もちょっと妙です。何かを御存じならば、僕にも教えていただきたい」
陽希は僅かに目を見開いて、それからその目を右下に逸らし、五秒ほど口を真一文字に結んだ。
「……私も、無理に聞き出すつもりはありません。逆に、水樹は何があっても決して誰かから、強引に聞き出そうとはしない人ですから。しかし、これからも一緒に仕事をやっていくにあたり、重要なことでしょう?」
「いや、話すよ。俺が知っている範囲だけど」
それからまた五秒の間の後、意を決したように言葉を発する。
「実は、『探偵社アネモネ』の前の所長から聞いたんだけど……」
理人はコーヒーカップを置き、姿勢を正す。ようやく話す気になってくれた陽希に、中途半端な態度は示したくなかった。
「――友香理ちゃん、さ。先日死んだ人。水樹ちゃんの元恋人なんだ」
「え?」
瞬時に、理人の脳裏に一気に疑問が雪崩れ込んだ。ならば、彼女との再会を果たした水樹の態度は、そして彼女の死に際した水樹の態度は、冷静過ぎたのではないか。しかし、その全てを言葉にする前に、一人のメイドが、鶏をつるし上げたような声を上げながら、レストランに飛び込んで来た。大体三十代の、少しふくよかなメイドだった。食事をしていた客のほとんどの視線が、彼女に注がれる。
「お、お客様が、お客様が」
そういうと、とうとうへたり込んでしまった。別の店員が何人か、そのメイドに慌てて駆け寄り、背を撫でたり横に屈んだりして、話を聞いている。陽希は理人と目を見合わせてから、その渦中へ飛び込んだ。
「何かあったんですか」
「お客様のお部屋で、お、お客様が、亡くなっているんです!」
陽希の顔が、さっと青くなるのが分かった。理人も心臓が凍るような、息の詰まるような感覚になった。メイドが伝えた部屋の番号に、更に失神しかける。陽希が支えてくれたので何とか倒れずに済んだが、陽希だけがその部屋に走っていくことになった。
友香理の事件が解決したところで、スタッフたちの手が少し空いたのか、レストランが再開になった。
明日の夜は港に着く予定。
陽希が、旅の終わりにたくさん食べたいというので、理人も付き合いでやってきた。陽希はエッグベネディクトやスモークサーモンが特に気に入ったらしく、皿に山盛りにしていて、笑ってしまった。ドングリを口に詰め込んだリスのように、頬をぱんぱんにして食べている。理人はといえばチーズのクロワッサンを一つ、そして、濃い目の珈琲で充分だ。
珈琲と言えば水樹であり、ふと思い出した。
「水樹には、ここで私たちが食べるということを、連絡したのですよね?」
「うん。返信なかったけどねぇ」
「そうですか。ちょっと気がかりですね」
理人が、はむ、とクロワッサンを食む間、沈黙が流れる。陽希も陽希で、何とも言えない顔をしているので、改めてずっと気になっていたことを質問した。
「どうにも、友香理さんの事件があってから、水樹は様子がおかしかったですよね」
「そうかなぁ? 水樹ちゃん、いつも変わってるじゃん」
「陽希もちょっと妙です。何かを御存じならば、僕にも教えていただきたい」
陽希は僅かに目を見開いて、それからその目を右下に逸らし、五秒ほど口を真一文字に結んだ。
「……私も、無理に聞き出すつもりはありません。逆に、水樹は何があっても決して誰かから、強引に聞き出そうとはしない人ですから。しかし、これからも一緒に仕事をやっていくにあたり、重要なことでしょう?」
「いや、話すよ。俺が知っている範囲だけど」
それからまた五秒の間の後、意を決したように言葉を発する。
「実は、『探偵社アネモネ』の前の所長から聞いたんだけど……」
理人はコーヒーカップを置き、姿勢を正す。ようやく話す気になってくれた陽希に、中途半端な態度は示したくなかった。
「――友香理ちゃん、さ。先日死んだ人。水樹ちゃんの元恋人なんだ」
「え?」
瞬時に、理人の脳裏に一気に疑問が雪崩れ込んだ。ならば、彼女との再会を果たした水樹の態度は、そして彼女の死に際した水樹の態度は、冷静過ぎたのではないか。しかし、その全てを言葉にする前に、一人のメイドが、鶏をつるし上げたような声を上げながら、レストランに飛び込んで来た。大体三十代の、少しふくよかなメイドだった。食事をしていた客のほとんどの視線が、彼女に注がれる。
「お、お客様が、お客様が」
そういうと、とうとうへたり込んでしまった。別の店員が何人か、そのメイドに慌てて駆け寄り、背を撫でたり横に屈んだりして、話を聞いている。陽希は理人と目を見合わせてから、その渦中へ飛び込んだ。
「何かあったんですか」
「お客様のお部屋で、お、お客様が、亡くなっているんです!」
陽希の顔が、さっと青くなるのが分かった。理人も心臓が凍るような、息の詰まるような感覚になった。メイドが伝えた部屋の番号に、更に失神しかける。陽希が支えてくれたので何とか倒れずに済んだが、陽希だけがその部屋に走っていくことになった。
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