上 下
50 / 50

49話 言い訳

しおりを挟む


暇だ。今日は休みだけど掃除も洗濯も終わっちゃったし、アイシャちゃんもどっか行っちゃったから、部屋の中でゴロゴロするしかやることがない。外に一人で遊びに……って言っても夜遊びがバレてからルイスさんにお金は取り上げられてるんだよな。欲しいものがあったら俺に言えば必要な分の金を渡してやるから、残りの給料は俺が預かっておくって。……あれ、これって搾取じゃね? もともと私が働いてもらったお金なんだから、なにに使おうと私の自由なはず。よし、抗議しにいこう。

「お金ください」
「なにに使う?」
「お菓子! あとジュース!」
「……仕事が終わったら俺が買ってきてやる」
「自分で買いに行きたい!」
「だめ」
「なんでー?」
「前科があるのを忘れたか? サトミに余計な金を渡すと変な遊びばっかりするからな」
「今は昼間です、門限までには絶対帰ってきますから!」
「信じない。一度裏切られたからな」

私は隊長室に突入すると、書類仕事中でいっさい私と目を合わせてくれないルイスさんとそんな母親と子どものようなやりとりを繰り広げていた。

「バカ! ケチ! あれは私のお金なのに! 泥棒!」
「……」

私が幼児のように駄々をこねると、ルイスさんは一瞬だけものすごく冷たい目を私に向けて、それ以降は全く取り合ってくれなくなった。しまった、そう思った時にはもう遅い。え? 私なにか悪いこと言った? でも、怒ってるよね。

「あの……」
「今忙しいから、出ていってくれ」
「わかり、ました」

流石の私もそれ以上は詰め寄ることができず、隊長室から退出した。それから次の日も、その次の日もルイスさんは私とまともに口を聞いてくれなかった。おやつ休憩の時間にお茶を持っていってもお疲れさまの一言で終わり。いつもなら五分か十分くらいは雑談の時間を取ってくれるのに。

そして三日後、明らかに態度がおかしいと感じた私は、庭で兵士さんたちに剣術の訓練をつけていたルイスさんに意を決して声をかけてみることに。

「あのっ、この前は怒ってごめんなさい」
「……ダメだよ」
「え?」
「あんなもん、普通なら殴り合いの喧嘩だ。
サトミがなにを求めているのかさっぱりわからない」

殴り合いの、喧嘩? 私そんなに酷い態度とっちゃったの? 弁解しようにも、ルイスさんはその言葉を最後にどこかにいってしまった。

もやもや、もやもや。お布団に入って寝る前も、ご飯を食べているときも、ルイスさんのあの氷のような目が忘れられない。

「……はぁー」
「どうかしたのか?」

門の前を箒で掃きながら、何度めかもわからないため息をつく、ふと顔を上げると、心配そうな顔をしたヨハンさんが私の肩を軽く叩いた。

「なんか、すげえ悲しそうな顔してるから」
「ここ数日、ルイスさんがまともに口を聞いてくれなくて」
「そうか、まぁ仕事中ってのもあるだろうが……心当たりは?」
「ルイスさん、私のお給料預かったまま全然返してくれないから、それで……つい怒鳴っちゃって」
「きちんと管理してんだろ、使い込んだりしねぇよ」
「でも」
「ルイスは悪いやつじゃない。誰よりもサトミのことを心配してる。少しやりすぎな部分はあるがな」
「……はい」
「ちゃんと仲直りしとけよー」

そう言って、ヨハンさんは建物の中に入って行った。そっか、ルイスさんは私のことを心配してくれているのか。でも、ルイスさんは私のお父さんじゃないし。じゃあなんだろ、恋人? 違う。自分にとって都合のいい言葉を当てはめるなら、友達。責任を取りたくないただの言い訳。

……どうにかとっ捕まえてルイスさんにもう一回ちゃんと謝ろう。そして、自分がどうしたいのか、話さなきゃ。


夜、私は門の前でルイスさんが通りかかるのを待った。寮に帰るときに必ずこの道は通るはず。

「お疲れさま、です」
「お疲れさま」
「まってください」

そのまま目を合わせずに通り過ぎようとするルイスさんの腕を掴む。逃げられては困るのだ。ルイスさんはびっくりしたような表情で私を見つめていたが、観念したのか、大きくため息をついて、その場に立ち止まってくれた。

「まだ怒ってますか」
「いや……もう怒っていないが」
「私がケチっていったから?」
「……あんなことを言われて俺が
怒らないとでも思ったのか」
「それ、どういう意味ですか?」
「俺がしてることは全部サトミのためを思ってのこと。なのにサトミはちっともそれを理解してくれない」
「理解はしてます。ですが、私は縛られるのは好きではありません」
「そんなつもりは……」
「とにかく、この間は調子に乗ってごめんなさい」 
「……まぁ、いいよ。ほら、もう暗いから部屋に戻りなさい」
「おやすみなさい」
「おやすみ」

とりあえず許してはもらえたみたい。私はルイスさんに頭を下げて寮への道を戻った。結局、私の要求は通らなかったし、ガチガチに縛られたイバラが緩んだわけでもない。……どうすればいいのかな。私はなにが欲しいんだろう。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

tomo
2022.10.15 tomo

十〇機関の……あれですね……KHですか?
個人的に好きなので、ちょっと嬉しかったです!

早く思いが繋がればいいなぁ〜( ´∀`)

島崎 桜
2022.10.22 島崎 桜

感想ありがとうございます♪

そうです、キング○ムハーツのアレです……。
そのほかにもちょいちょい現世のネタが散らばってぜひ!

解除

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。