帝王アラタの再転生

たまゆき

文字の大きさ
3 / 10
1章

第2話 英雄たちの国

しおりを挟む
アラタは、少女に導かれるまま重厚な神殿の中を歩いていた。

壁は滑らかに削られた灰色の石で造られており、その表面には古代文字のような模様が彫られている。
ところどころには蔦が伸び、自然の侵食を受けながらも、その荘厳な雰囲気を保っていた。

足元は厚く敷かれた石の床。歩くたび、裸足の足裏に冷たく硬い感触が伝わる。
廊下の左右には燭台が並び、オレンジ色の松明の灯りが、まるで心臓の鼓動のように静かに揺れていた。

目の前――遥か先には、昼光のような白い輝きが満ちている。外へと続く出口だ。

アラタは、少しだけ眉をひそめて呟く。

「しかし驚いたのう……まさか、織田信長がこの世界におるとはな。
しかも戦っている相手がアレクサンダー大王とは……」

その名を口にした瞬間、かつて教科書で学んだ歴史上の偉人たちの顔が頭に浮かぶ。
織田信長――天下布武を掲げ、戦国の乱世を駆け抜けた破壊と創造の王。
アレキサンダー大王――わずか数年で世界を掌握し、若くして去った希代の征服者。

“あの二人が、この異世界で再び相まみえている”

その事実だけで、この世界のスケールが計り知れないことをアラタは悟った。

少女は、神殿の静寂の中に、明るい声を響かせた。

「だいたいの日本人はびっくりするよね。私も最初は信じられなかったもん。
信長様が転生してきたときはね、元々この国をまとめてた“なんとかって元総理大臣”がトップだったんだけど……アレキサンダー軍が現れた途端、逃げちゃったの」

「ふむ……。わしが生きていた時代の日本も、情けない政治家が多かったからのう。
その中の誰かだったのかもしれん」

アラタの声には、苦笑が混じっていた。
長く異世界で政治を行ってきた自分だからこそ、日本の脆弱な国家運営の記憶がどこか他人事に思えてしまう。

少女は続ける。

「でも、信長様は違った。侵略されるのを見過ごせなかったんだよ。
逃げなかった人たちをまとめて、アレキサンダー軍に立ち向かったの。
火縄銃が、何千丁も空に浮かんで……一斉に放たれたらしいよ。
まるで天から鉄の雨が降るみたいだったって」

その情景を思い描き、アラタは瞼を細めた。

(――スキルか。なるほど、信長ほどの男なら、この世界で力を得ても不思議ではないのう)

先ほど確認した自分のステータスが、脳裏に浮かぶ。

小佐々 新 レベル:999
HP:536500 / 956500
MP:936500 / 1553000
スキル:救世帝の覇気/魔力解放/剣聖/異界召喚……

新たに加わったスキル【異界召喚】――その正体は、まだ不明だ。
だが、明らかにこれまでの自分とは違う何かが生まれている。

(ふむ……この世界に来たことで、わしの魂にも変化が起きたのかもしれん。
だが――今は人前でステータスを確認するのはやめておこう)

神殿の廊下はやがて終わりを告げ、石造りの重厚な扉が目の前に現れる。
その隙間から差し込む光が、アラタの足元を照らしていた。

少女は軽やかに扉の一部を押し開け、振り返る。

「この外に出たら、すぐ街が広がってるよ。
『英雄の間』って呼ばれてるこの神殿は、特別な場所だから、街の中央に建ってるの。
まずは“人別帳”への登録が必要。戸籍がないと、うっかり捕まっちゃうからね!」

「人別帳か……なかなか秩序が整っておるのう。電子機器が使えんのは残念じゃが……」

アラタは肩を落とすように嘆いた。

「やっと、積みゲー消化できると思ったのに……」

少女は吹き出した。

「アハハ、みんな言うよそれ。スマホ動かない、ゲームできない、ネットも無し! ってね。
役所の人たちも紙とペンで苦労してるんだから」

「まぁ、それもまた一興じゃな」

アラタは軽く頷き、最後の一歩を踏み出す。

扉の向こうには、まばゆい光とともに、新たな世界が広がっていた。

石造りの門の先には、石畳の道が続き、木造の民家や露店が立ち並んでいた。屋根には茅や瓦が使われており、どこか懐かしい中世日本の城下町を思わせる風情がある。町人たちの顔つきも、服装も、確かにすべて日本人。だが、彼らは時代や文化が混在しているようで、和装の隣を近代風の制服姿の者が歩いていたりと、不思議な光景が広がっていた。

壮大な風景に、アラタは思わず息をのんだ。

(……ここが、わしの新たな世界か)

その胸中には、少しの不安、だが確かな期待と希望があった。

かつて彼は異世界で勇者となり、王となり、そして帝王として民を導いた。

だが――この世界では、まだ何者でもない。

(よかろう……ならば、この世界でもう一度、始めてみようかのう)

陽光の中、アラタの目が静かに輝きを増していく。
彼の“第三の人生”が、静かに――だが確かに動き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

最弱弓術士、全距離支配で最強へ

Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」 剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。 若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。 リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。 風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。 弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。 そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。 「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」 孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。 しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。 最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!

処理中です...