帝王アラタの再転生

たまゆき

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1章

第3話 役所と騒動

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「活気があり、いい街じゃな。それはそうとお嬢ちゃんの名前も聞いてなかったのう。わしはアラタと言う。小佐々新《こざさ あらた》じゃ。親切なお嬢ちゃんの名前をお伺いしてもいいかのう?」

にこやかに問いかけたアラタに、隣を歩く少女が笑みを浮かべて答えた。

「よろしくね、アラタ!私は巴《ともえ》だよ。送られてきた人のチェックや、あの建物の掃除が私の仕事だから気にしないで。あ、あとで道案内も兼ねて役所まで連れてくね」

そして少し照れたように、巴は口を尖らせる。

「……それにしても、見た目が私と同じくらいなのに“お嬢ちゃん”って呼ばれると、ちょっと違和感あるなぁ。年上のつもりでいたのに」

「おっと、これは失礼。じゃが、ワシにとっては子供に見えるんじゃ。見た目がどうあれ、心はもう立派な年寄りじゃでな」

冗談めかして笑うアラタに、巴は「もう!」と肩をすくめながらも笑い返す。

(見た目は同じくらい……ということは、思っていた以上に若返っておるのかも知れんのう)

アラタは内心でそう考える。転生後、自分の姿を鏡で確認することもしていない。だが巴の言い方からして、外見年齢は10代の若者といったところか。先程から妙に足取りが軽いのも、若返った肉体によるものかも知れない。

「ちなみにね、アラタが現れたあの部屋以外にも、いくつかあるんだよ。もっと普通の人たちが送られてくる場所もあるし、私も最初はその中の一人だったの」

そう言いながら巴は歩を進める。アラタもそれについていく。

「でも、もう随分前からこの場所にいるから、今では管理人みたいな立場になっちゃってる。あの信長様だって、最初に案内したのは私だったんだよ」

「なんと……信長殿までもが、か」

アラタは驚きつつも納得するように頷いた。歴史に名を刻んだ人物すら転生してくるこの世界。ならば自分のような一般人が来ても、おかしくはないのだろう。

道を歩きながら、アラタは行き交う人々を眺めていた。町人のような着流し姿の者、裃姿のような者、現代日本と異なる衣服が目を引く。そして、その中に一際目立つ者がいた。

全身に皮製の簡易な鎧をまとい、腰には明らかに実戦向きの武器を帯びている。

「あやつ……刀を携えておるが、兵士か何かかの?」

アラタが視線を向けながら問うと、巴は「あっ」と思い出したように口を開く。

「そうそう、忘れてた。たしかに兵士みたいに見えるけど、この世界では普通の人でも武器を持っていいんだ。というのもね――」

巴の声が少し真面目なものへと変わる。

「この世界には、“魔物”や“モンスター”と呼ばれる怪物が出るの。しかも噂では、ロキとかヘルっていう神様たちが、魔物を使役してるって話もあるんだよね」

「ほほう、ロキにヘル……北欧神話に出てくる神々じゃの。ますます、よく分からん世界じゃわい」

「ほんと、私も最初は混乱したよ。モンスターの情報はほとんどが現地の人の証言だから、全部が本当かどうかは分からないけど……でも、襲われて死んだ人や村があるのも事実。だから街では、ある程度の武装は黙認されてるの。自衛のためにね」

「なるほど、納得じゃ」

「でね、倒したモンスターが落とす宝石や素材は、役所で買い取ってくれるの。そういう“討伐者”って人たちが、生活の糧を得てるの。だからアラタも登録しておけば、まずは暮らしには困らないはずだよ」

そう語る巴の表情には、いくばくかの誇らしさがあった。自分たちがこの世界でどう生きているか、それをしっかりと理解し、アラタに伝えようとしている。

やがて、彼らは目的地へと到着した。

「ここが役所。登録も依頼の受け取りも、ぜんぶここでやってるよ」

アラタが顔を上げると、そこには周囲の和風建築とは一線を画す、西洋風の石造りの建物がそびえていた。重厚な木製の扉と、高く積み上げられた石壁が目を引く。

「信長様の発案で、初めて来た人でもすぐに分かるようにって、西洋風に建てたんだって」

「なるほど、理にかなっとるのう」

中へ足を踏み入れれば、そこはさらに異質だった。

広いロビーには無数の人々が行き交い、討伐依頼の紙を掲示板から取る者、報酬を受け取る者、窓口で何かを訴えている者……現代の役所というより、まさに“ギルド”のような空気だった。

「慌ただしいのう。いつもこんな調子なのか?」

「うーん……いや、違う。なんか……様子がおかしい」

その時だった。

一人の若い職員が、蒼白な顔で巴の元へ駆け寄ってくる。

「巴様! たい、たいへんです!」

「どうしたの?」

「南の関所から報告が入りました! ――軍勢が、軍勢が向かってきています!」

その言葉に巴の顔が一変する。笑顔が消え、声が一気に鋭さを増した。

「軍勢!? 待って、北は今、信長様がアレキサンダー軍を抑えてる……じゃあ南は……」

「華国《かこく》です……」

「バカな! 南の華国とは不可侵条約を結んでたはずでしょ!?」

「ですが、どうやらその華国が条約を破棄し、挙兵したようです。国境を越えて進軍中と……」

「な……どうして……?」

「そして……彼らは自らをこう名乗ったそうです。『華国という国など最早存在しない。我らは“新狼帝国《しんろうていこく》”なり』と」

その名に、場の空気が凍りついた。

「……新狼帝国……!?」

動揺を隠せない巴の声に、職員はさらに神妙な顔で続けた。

「兵数、およそ六万。しかも……人間の兵士だけではありません。どうやったのか分かりませんが、狼型の魔物と混成した軍勢とのことです。そして――」

職員は言いづらそうに一拍置いて、声を絞り出す。

「敵将は……董卓《とうたく》と名乗っています!!」

その名が発せられた瞬間、アラタの背中に冷たいものが走った。

董卓――
かつて、暴政を敷き、帝をも蔑ろにした中華の魔王。
力と欲望の化身。英雄と対を成す、悪しき“伝説”。

信長、アレキサンダー、そして董卓。

まるで時代も文化も超えた“歴史の歪み”が、この世界で交錯しようとしている。

「これは……只事ではないのう……」

アラタの呟きが、誰にも届くことなく、薄暗い役所の天井に吸い込まれていった。


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