帝王アラタの再転生

たまゆき

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1章

第7話 疾走する刃

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石畳の上に蹄の音が響く。
夕陽の光が傾きかけた中庭で、一頭の栗毛の馬が静かに待っていた。そのたくましい体躯はよく鍛えられ、軍馬としての資質は十分に見えたが、決して特別な品種ではない。

「これが…用意してもらった刀と馬か。」

アラタが刀を受け取り、手慣れた動きで鞘に納めると、軽く鞍に飛び乗った。
その様子を見ていた巴も躊躇しながら後ろに跨がる。背中越しに感じる彼の体温は、まだ少年のそれで、だが妙に頼もしくもあった。

(ほんとに…この子で大丈夫なの?)

巴は不安を胸に抱えたまま、軽く口を開く。

「アラタの言う通り、馬を用意したけど…正直、たった一頭で南の関所まで2日で着くなんて無理だよ。乗り継ぎもなしに全力で走らせたら、馬が途中で倒れちゃうかも。」

「大丈夫じゃ。時間も、たぶん2日もかからんじゃろ。」

アラタは気にも留めずに答えると、軽く刀の柄をなでながらつぶやいた。

「…せっかく用意してもろうた刀じゃが、やっぱり普通の鍛造品じゃのう。魔剣やら神器やら…そうそう落ちとらんもんか。」

ぶつぶつと文句を言いながら、アラタは身をかがめ、馬の前脚に手を当てた。

「しっかりつかまっとれよ、お嬢ちゃん。」

「え…?」

不意に、アラタの手から淡い光が広がった。
それはまるで月明かりのように柔らかく、馬の全身を包み込んでいく。馬が大きく嘶《いなな》いた。

「――なっ!」

鋭い風が頬を切り裂いた。
次の瞬間、馬が信じられない速度で地を蹴った。地面がぐんと下に沈み込んだかのような加速感に、巴は思わずアラタの腰にしがみついた。

「ちょっ、速すぎるってば!信長様が連れていった駿馬より…いや、それ以上じゃない!普通の馬だったはずよ!」

「わしのスキルでな――【全能力向上《ぜんのうりょくこうじょう》】というものじゃ。馬の走力も、体力も、反応速度も全部底上げされとる。これで死なずに目的地まで辿り着けるはずじゃ。」

そう言ってアラタは、まるで自分が風の一部になったかのように、馬の進行方向を見据えていた。

(全能力向上…そんなスキルがあったなんて…!)

巴は目を見開き、馬の背から流れる景色を見つめた。
樹々が風の中で後方に流れていく。地平線は揺れ、世界の速度が二倍にも三倍にも加速したように錯覚する。
たった今まで信じられなかった“2日で関所に到着”という話が、現実味を帯びてくる。

(このスキルがあれば…民や兵士を逃がすための時間稼ぎができるかもしれない…!)

馬の上、二人の背に吹き付ける風は、もはや風ではなく刃に近かった。
だがその刃は、彼らを裂くのではなく、前を斬り開いていく。

──そして、数時間後。

「おお、見えてきたぞ。あれが南の関所じゃな!」

アラタの声が乾いた空気を裂く。

日が落ちかけた空に、灰色の要塞のような関所が姿を現していた。高く積まれた石の壁、上で忙しく動く兵士たちの姿が確認できる。

「まるで小さな城じゃな。立派なもんじゃ。」

巴は、アラタの肩越しにその姿を見つめた。唇を引き結びながら、息を吐く。

「……まだ二時間も走ってないのに。信じられない、まさか本当に……」

「間に合ったようじゃな。さて、英雄殿に挨拶でもするかのう。」

「そうね。急いで会いましょう。関所を守ってくださっているのは――紫《むらさき》様。紫式部《むらさきしきぶ》様よ。」

「おお、平安の才女。まさかここに降り立っておったとは。」

アラタの瞳が光る。驚きと興味、そして一抹の懐かしさを湛えて。

「彼女のスキルは【歌人朗々《かじんろうろう》】。詠《よ》んでいる間だけ、広域に守備魔法陣を展開できるの。」

「ふむ…戦場に詩を持ち込むとは、また風流な。だが、長く詠み続けるには周囲の護衛も不可欠…そういうことじゃな?」

「うん。だから急がなきゃ。彼女が無事なら、まだ関所は落ちていない。」

アラタは力強く頷き、再び馬に気合を込めた。

「ならば、行こう。詠み人を戦の地に孤独にせぬためにもな。」



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