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逃亡姫は負けヒロイン
十五話
しおりを挟む王都セピア オクカディア公爵家 兵士長視点
「まだ、アリエス姫は見つからんのか!この無能共が!」
ダンッ!
公爵家の執務室で怒声と机を叩く音が響き渡る。
その音を出した張本人は、今俺の目の前で怒りの形相を浮かべている男。オクカディア公爵家次男ゲースァ・オクカディア。
豚のように丸々と太った身体と濁った瞳が特徴的な男だ。
「申し訳ありません!ですが、目撃情報が全くなくては見つけようがありません」
アリエス姫は逃亡の際に王家のみが知る地下通路から抜け出したようで、誰にも見られてはおらず足取りは掴めていない。
王家に通路のことを尋ねたが、万が一のことを恐れ通路については何も答えてはくれなかった。その結果、現状かなり捜索が難航している。
「黙れ!あれだけ特徴的な髪色と誰もが振り向く美貌を持っているのだ。情報がないなどあり得ない!もう一度城から探し直せ」
「ハッ」
もう既に、この王都から出ていて無駄足に終わるだろうが上司の命令だ。捜索を続けよう。
俺は頭を下げ執務室を出ると、兵舎へと向かった。
「クソっ!せっかく勇者が異世界に戻り、白紙になっていた姫との婚約が戻ったというのに。今度は逃走だと!?ふざけるな!アリエスお前は俺の女だ!絶対に見つけその美貌をぐちゃぐちゃに歪めてやる!ブレア!お前も捜索に加われ!」
「はっ、かしこまりました」
◇
王都セピア ルヴァン宅 朝 アリエス視点
『ごめん!』
『キャッ!光輝様!?何を…』
戦闘の最中、突然体を突き飛ばされ私は困惑しました。
どうしてこのようなことを?
そう思い振り向いたとしたタイミングで、
『死ねや!「邪竜《ドラゴオス》の雷哮《ブロディロン》」!!』
魔族の特級魔法が放った巨大な黒雷に勇者様は飲み込まれてしまいました。
『イヤァーーーーーーーーーーーー!!!!!』
何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で!?
私を見捨てれば、魔王軍幹部の魔法使いを倒せたのに。そうすれば、皆んな助けることが出来たのに。
何で、私を助けたんですか!私は貴方に助けてもらえる程の人間じゃないのに!
お兄様やお姉様のように、剣や魔法が出来るわけでも、誰かを導けるわけでもない。何の取り柄もない私の命なんかで、人々を苦しませている魔王軍の幹部を討ち取れるのならそれで十分なのに。
『……「大回復《グランデヒール》」どうして?どうして!?私を助けたのですか光輝様!!?私何か死んでも良かったのに』
私は身体の全てを雷によって焼かれ、地に伏している光輝様に回復魔法をかけながら問いかけます。
『…死んでも……良い…なんて……そんな悲しい…ことは…言わないで………よ。アイツ…みたいに……。代わりなんて……ないん…だから…。誰かが…その隙間を…埋めることは…出来ないんだ。誰だろうと…。知らないだけで…僕達は……沢山の人に必要とされてる。…だからさ…もう一度言うよ。…死んでも良いなんてそんな悲しいこと言わないでよ』
相手が使った魔法の影響か、回復魔法が殆ど意味をなしていないなか勇者様はそう言って、フラフラと聖剣を支えに立ち上がりました。
『少なくとも…僕は君が…アリエスさんが必要で、死んで欲しくないから助けたんだ。…それに、これくらいどうってことないよ。……勇者《ヒーロー》はこれくらいじゃ負けないんだから。…そこで、見ててよ「ほんの少《リゴ》しの勇気《・クラギゴ》」』
安心させるような笑みを浮かべ、光輝様は魔族とモンスターの群れに歩いていきます。
一見すると、ボロボロで今にも倒れそうで頼りないかもしれません。
ですが、私にとってはこの時その背中はとてつもなく頼もしく、胸を高鳴らせるには充分でした。
私は視界が滲んでいてもなお、勇者様の姿を見続けました。戦いが終わるまで、ずっと、ずっと。
「……夢ですか」
窓の外から差してきた陽の光によって目を覚ました私は、ベッドの上で一人ポツリと呟きます。
あの夢は、世界を救った勇者 光輝様のことを私が好きになった時の記憶。そして、私の世界が鮮やかに彩どられた瞬間。
あの時から私の世界は輝き、生きたいと心の底から思えていました。
ですが、今はそうは思えません。
『僕は元いた世界へ帰らなきゃいけない。だから、ここでさよならだ』
「ッツ!」
勇者様の言葉を思い出し、ズキリと胸に鈍い痛みが走ります。
好きでもない人と結婚したくないことも、自由を手に入れたい気持ちも本当です。あの輝きをもう一度見たいのも本当。これに嘘偽りはありません。
確かに、それらを求め私は王城を飛び出しました。
けど、本当に本当はこんな辛い思いをずっとするくらいなら、必要としてくれる人がいないのなら私は………死にた……。
「アリエス姫。おはよう」
私が俯いていると、窓の外からルヴァンさんが挨拶をしてくれました。
「おはようございます。ルヴァンさん」
ぎこちない笑みを浮かべ、私はルヴァンさんに挨拶を返しました。
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