白く光るサマーエンド

花壇苦楽

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暑さとバス停

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 日差しが強い。アスファルトに溜まった熱がもうもうと立ち上って体温をさらに上げていた。
 熱を逃がすように一つ結びをした髪に指を通した。首元に風が抜ける。

 目の前の道路の先を眺めるが車一つ来ない、バスはまだ来る気配が無かった。
 「あぁ…あつい…」
 うなだれつつセーラーの裾をはためかせた。あまり効果はない。あつい。
 横目で後ろをさりげなく見てみるとバス停近くの木陰に、うちの学校の制服の男子が立っている。2人入れるほどの日影ではあるのだが、知り合いではないあの人の隣に並ぶ勇気はなかった。
 イヤホンをつけて涼しそうに佇んでいる彼は最近からこのバス停を使うようになったらしく気づいたら私の唯一の日陰は彼のものとなっていた。
 つい、じっと見ていたらしい。目がばっちりあってしまった。
 すると、彼はふっと笑うと
「こっちきたら?あついでしょ」
と言った。隣を空けるように横にずれてくれた。
「あ、ありがとう」
私は、そっと隣に並ぶ。
 もともと、私の場所だったんだけどね
と心の中だけでつぶやく。
 もともとこの辺りでこの学校行きのバスを使う生徒は少なく、この時間に待っていたのは今まで私1人だけだったのだ。何でこんな時期にいきなり使うようになったんだろうと私は不思議に思っていた。
 「あ、あの、ここの辺りに住んでるの?」
 彼はこっちを向くと、少し不思議そうな顔をした。数秒してからにやりと笑うとこう言った。
「俺先輩だよ。2年生くん」
「えっあっすいません!」
すると、大笑いし出した。軽快な笑い声に私は目を丸くする。
「あははっ。嘘だよ。俺も2年生だよ」
私の目は更に丸くなったあと半分に下がった。
「は?」
「あれ、怒った?ごめん、仲良くなろうと思って」
 意味がわからない。
「そうですか。別に怒ってません。」
「えっちょっと、タメだってば」
 慌てたように手を振ったが、声は慌てていない。無視したらそれ以上話しかけてこなかった。肩を落として大人しく並んだ。ああ、こっちが悪い気になるじゃん。
「あの、」
「あっバスきた。行こう」
 促すようにこちらを軽く振り向くとさっさと日陰を出て行った。何でもないような顔。
 何なんだ。こいつは。もやもやした気持ちのままバスの後ろの席に乗り込んだ。やつは隣に座ることなくいつものように前の方に座っていた。外を眺めているのか、椅子の背から見える頭は横を向いているように見える。真似をして外を見てみた。窓の外の景色は相変わらず変わり映えしない。


 緊張が最高潮のまま、壇上に上がった。心臓の音が耳の近くでする。一歩一歩、歩くたび大丈夫と自分に言い聞かせる。大丈夫人前でしゃべるのは慣れてるでしょう。マイクの前に立って前を向いた。不思議と一人一人の顔がよく見えた。そのせいで人の多さがよくわかった。何度も練習した、頭の部分を半分無意識に声に出した。堂々と言えてる、声は出てるのだろうか。わからない。心臓の音が聞こえないのに胸がどくどく激しく動いているのがわかる。息が吸えない。次の言葉はでなかった。

 がたんと大きく車体が揺れ、目を開けるともうすぐ学校だった。荒い息をゆっくり整え、額に触れた。
 久しぶりにあの夢を見た。平常心を乱されたからだ、と前をちらりと見た。相変わらず静かに座っている男と話たのがずいぶん前に感じられた。
 思い出すことは少なくなっていたのに、最近また心の奥が揺さぶられる事があった。もう忘れたいのに。あんな自分のことは。一つため息をつくと鞄に手を回し顔を埋めた。
 
 教室にはまだ誰も来ておらず、がらんとしている。
 隣町からくるバスがあの時間しかなく、この早い時間に来る人は誰もいなかった。それでももうすぐ人は来るだろう。自分の席に座るとぼんやり窓を眺めた。
 そういえば朝の男は何組なんだろう。私が2年だって知っていたのだ。廊下ですれ違ったりしたのだろうか。私は全然知らなかったな。あっちは知っていたのに。窓から机の上にに目を落とした。
 雨雲がだんだん空を覆っている。あの強かった日差しは隠れてしまった。教室は薄く暗い幕に包まれた。
 
 
 
 
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