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2. 筋肉痛とプロテインの味
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放課後のグラウンド。夕焼けに染まった土の匂いが鼻に心地よく残る。
ラグビー部の練習を見学したその日の帰り道、三船拓海は裕也と並んで歩いていた。
「……やばかったな、あの佐々木先生」
「うん。完全に“やのつく人”だと思った」
「でも、やさしいんだよな……あの笑顔で『ナイスファイト!』とか言われるとさ」
二人して笑いながら靴を鳴らして歩く。心地よい疲労感が足元から伝わってくる。見学だけだったのに、軽いアップと見よう見まねのパス練で、すでに足が張っていた。
「……入部、する?」
「お前は?」
「……やってみようかなって思ってる。バレー部じゃ補欠のまま終わったし。今度こそ、何か……変われるかもしれないって」
裕也は少し黙った後、ふう、と息を吐いた。
「俺も……ダイエットとかそんな軽い気持ちだったけどさ、あの先輩たち見てたら、やってみたくなった」
翌日、二人でそろって職員室へ入部届を提出した。受け取った佐々木先生は、ニッコリと例の筋肉の笑顔を浮かべた。
「ナイス判断! 身体は裏切らない。鍛えれば必ず応えてくれる」
そう言って親指をぐっと立てるその腕は、まるで阿修羅像のようだった。あとで拓海が調べたところ、ボディビルダー界隈ではあれが“普通”らしい。……普通って、なんだろう。
翌週から本格的な練習が始まった。
ウォームアップ、ストレッチ、基礎的なパス練習、そして走り込み。最後はウェイト器具がそろった部室の一角で筋トレ。ラグビー部と聞いていたが、実際のところ、筋トレ部のような一面もあった。
その日の練習後、ロッカールームで足をさすっていた拓海のもとに、後藤先輩がやってきた。
「筋肉痛、きてる?」
「バリバリです……」
「よし、効いてる証拠だな!」
手渡された水筒の中身はクエン酸入りのドリンクだった。少し酸っぱいが、身体の奥に染み込むような感覚があった。
その後、着替え終わった拓海と裕也は、部室の前で先輩たちに挨拶した。
「新入部員の三船です。よろしくお願いします!」
「鈴木です、頑張ります!」
「おー、よく来たな!」と声をかけてきたのは、田村先輩だった。
「俺が主将の田村。ポジションはロック。でかくてぶつかる役。まあ見ての通り」
田村先輩は180センチ、90キロの体格で、文字通り壁のようだった。しかし、笑顔は人懐っこく、話し方もどこか関西系の軽さがあった。
「こっちは副部長の渡辺。うちの頭脳であり、魂だな」
渡辺先輩は、拓海よりも小柄だった。165センチ、60キロ。背も体格も、自分と大差ない。しかしその眼差しは鋭く、どこかキリリと引き締まっていた。
「よろしく。身体の大きさは関係ないよ。戦い方を知ってれば、活躍できる」
続いて仁村先輩。175センチ、80キロのガッチリした体格。口数は少なめだが、練習では力強くて、姿勢も良かった。
「よろしく。スクラムは姿勢が命」
最後に現れたのは、一ノ瀬先輩。170センチ、65キロ。雰囲気は柔らかく、どこか文化系にも見える。
「やる気さえあれば、楽しいよ、ラグビー。怖がらずにね」
拓海は、特に渡辺先輩に目を奪われていた。
(自分と同じくらいの体格……でも、声も大きいし、足がめちゃくちゃ速い……!)
スパイクを履いてダッシュを繰り返す渡辺先輩は、まるで獣のような勢いだった。体格の小ささを一切感じさせない。動きに迷いがなく、声の通りが全体に響いていた。
(……俺にも、できるかもしれない)
そんな気がした。
練習後の部室では、佐々木先生からプロテインが手渡された。
「はい、お疲れ。バニラ味。筋肉は材料がなきゃ育たない。飯・睡眠・プロテイン。これが三種の神器だ」
粉っぽさが少し気になったが、それも一口目だけだった。気がつけば飲み終えていた。
翌日、腕が上がらないほどの筋肉痛に襲われたが、それすら心地よかった。バレー部時代には感じなかった“自分を変えようとしている実感”が、今、確かにあった。
ラグビー部の練習を見学したその日の帰り道、三船拓海は裕也と並んで歩いていた。
「……やばかったな、あの佐々木先生」
「うん。完全に“やのつく人”だと思った」
「でも、やさしいんだよな……あの笑顔で『ナイスファイト!』とか言われるとさ」
二人して笑いながら靴を鳴らして歩く。心地よい疲労感が足元から伝わってくる。見学だけだったのに、軽いアップと見よう見まねのパス練で、すでに足が張っていた。
「……入部、する?」
「お前は?」
「……やってみようかなって思ってる。バレー部じゃ補欠のまま終わったし。今度こそ、何か……変われるかもしれないって」
裕也は少し黙った後、ふう、と息を吐いた。
「俺も……ダイエットとかそんな軽い気持ちだったけどさ、あの先輩たち見てたら、やってみたくなった」
翌日、二人でそろって職員室へ入部届を提出した。受け取った佐々木先生は、ニッコリと例の筋肉の笑顔を浮かべた。
「ナイス判断! 身体は裏切らない。鍛えれば必ず応えてくれる」
そう言って親指をぐっと立てるその腕は、まるで阿修羅像のようだった。あとで拓海が調べたところ、ボディビルダー界隈ではあれが“普通”らしい。……普通って、なんだろう。
翌週から本格的な練習が始まった。
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その日の練習後、ロッカールームで足をさすっていた拓海のもとに、後藤先輩がやってきた。
「筋肉痛、きてる?」
「バリバリです……」
「よし、効いてる証拠だな!」
手渡された水筒の中身はクエン酸入りのドリンクだった。少し酸っぱいが、身体の奥に染み込むような感覚があった。
その後、着替え終わった拓海と裕也は、部室の前で先輩たちに挨拶した。
「新入部員の三船です。よろしくお願いします!」
「鈴木です、頑張ります!」
「おー、よく来たな!」と声をかけてきたのは、田村先輩だった。
「俺が主将の田村。ポジションはロック。でかくてぶつかる役。まあ見ての通り」
田村先輩は180センチ、90キロの体格で、文字通り壁のようだった。しかし、笑顔は人懐っこく、話し方もどこか関西系の軽さがあった。
「こっちは副部長の渡辺。うちの頭脳であり、魂だな」
渡辺先輩は、拓海よりも小柄だった。165センチ、60キロ。背も体格も、自分と大差ない。しかしその眼差しは鋭く、どこかキリリと引き締まっていた。
「よろしく。身体の大きさは関係ないよ。戦い方を知ってれば、活躍できる」
続いて仁村先輩。175センチ、80キロのガッチリした体格。口数は少なめだが、練習では力強くて、姿勢も良かった。
「よろしく。スクラムは姿勢が命」
最後に現れたのは、一ノ瀬先輩。170センチ、65キロ。雰囲気は柔らかく、どこか文化系にも見える。
「やる気さえあれば、楽しいよ、ラグビー。怖がらずにね」
拓海は、特に渡辺先輩に目を奪われていた。
(自分と同じくらいの体格……でも、声も大きいし、足がめちゃくちゃ速い……!)
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(……俺にも、できるかもしれない)
そんな気がした。
練習後の部室では、佐々木先生からプロテインが手渡された。
「はい、お疲れ。バニラ味。筋肉は材料がなきゃ育たない。飯・睡眠・プロテイン。これが三種の神器だ」
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翌日、腕が上がらないほどの筋肉痛に襲われたが、それすら心地よかった。バレー部時代には感じなかった“自分を変えようとしている実感”が、今、確かにあった。
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