変われなかった俺が、ここにいる

鍋まこと

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8. 汗と泥と小さな自信

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「おい、鈴木。いまのパス、なかなかよかったぞ!」

仁村先輩が笑いながら、裕也の背中を軽く叩いた。少し痛そうに苦笑いする裕也だったが、どこか誇らしげな顔をしている。筋トレと練習の積み重ねが、ようやくプレーの形として見え始めていた。

夏が本気を出し始めたグラウンドでは、午前の練習がすでに終盤に差し掛かっていた。汗と土にまみれたユニフォームは、もう原型をとどめていない。

拓海も、渡辺副部長の指導のもとで実戦形式のメニューに食らいついていた。

「もっと声を出せ! ここは声の量で存在感を出すしかねぇぞ!」

「はいっ!」

返事だけはやたら大きいと笑われることもあったが、それでも拓海は自分なりにチームの中に溶け込もうとしていた。何より、プレーの流れを読んで素早くカバーに走ったり、隙間に入り込んで味方にチャンスを作ったりと、「地味だが効く動き」が増えてきていた。

佐々木先生も、そんな拓海のプレーに目を細めることがあった。



午後。
“ちびっ子特別練習”の時間がやってきた。今日のテーマは、「走って走って、走り抜けろ!」というシンプルで過酷なものだった。

グラウンドの端っこ。ちょっとくたびれたミニコーンがいくつも並べられ、地獄のシャトルランが始まる。

「よーい、スタート!」

田村主将が笛を吹くと、拓海、渡辺、副部長、一ノ瀬、そして2年のちびっ子メンバーたちが一斉に走り出した。

「うおおおお!!」
「は、はぁっ……!」

先にバテたのは2年の水野だった。

「くそっ、先輩ってすごいな……」
「水野、手ぇ抜いたら、渡辺先輩に怒鳴られるぞ!」

「気迫だ!お前ら、自分が相手より気迫で勝ってると思えないならラグビーやめちまえ!」

渡辺の怒号がグラウンドに響く。拓海は歯を食いしばりながら、まだ動く足に鞭を打った。

(遅くてもいい。止まらなければいい)

練習が終わった後、水をがぶ飲みしながら拓海は地面にへたり込んだ。そんな彼に、渡辺先輩がしゃがみ込んで声をかけた。

「なあ、拓海。お前、この前より速くなってるな」

「え……ほんと、ですか?」

「ああ。たった数秒かもしれん。でも、その“たった”を積み重ねられるヤツが、最後に笑うんだよ」

「……ありがとうございます」

そのとき、たしかに拓海の胸の中に、小さな火がともった。



数日後。
グラウンドの隅で、田村主将が練習メニューを掲示している。

「今週末、紅白戦やるぞー。1年生も何人か交代で入れていくからな」

「まじで!?」
「よっしゃあ!」
1年生たちがざわつく中で、拓海の胸も高鳴った。

(……もしかしたら、自分も出られるかもしれない)

誰もがそう思っていた。だが、同時に全員が知っていた。自分たちはまだまだ経験も力も足りないことを。

その夜。部室に戻ると、ホワイトボードの片隅に佐々木先生のメモがあった。

「努力と筋肉は、裏切らない」──
君たちの体は、まだまだ成長する。
でも、それより先に大きくなるのは“心”かもしれないな。

それを読んだ拓海は、自然と口元をゆるめた。

「よし……明日もがんばろう」

まだまだ未熟で、不安もたくさんある。
だけど、今日も全力で走り抜いた。
それだけは、ちゃんと自信にしてもいい気がした。
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