変われなかった俺が、ここにいる

鍋まこと

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7. 俺たちにできること

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「なあ、拓海。明日、ちょっと早めにグラウンド来れるか?」

放課後の練習終わり。ストレッチをしながら声をかけてきたのは、副キャプテンの渡辺だった。小柄ながら、誰よりも声を出し、誰よりも真剣な目をして練習に向かう人。その渡辺が、どこか意味ありげな笑みを浮かべている。

「え? はい、大丈夫ですけど……」

「よし。じゃあ明日朝7時、グラウンド集合な。ほかにも何人か声かけてある。ちょっとした“特別練習”だ」

翌朝──。

拓海が眠い目をこすりながらグラウンドに向かうと、すでに数人が集合していた。1年の同じポジションの中村、石井、そして2年生の中でも小柄な森田先輩と高倉先輩がいた。

「やっぱり、お前もか……」

中村が苦笑しながら拓海に声をかける。どうやら、渡辺から個別に声がかかっていたらしい。

そこへ、渡辺が姿を現す。普段と同じ、でも少しだけ熱のこもった声で言った。

「よし、全員そろったな」

そして、軽く深呼吸してから、ぽつりと語りはじめた。

「俺たちは──ラグビーに、愛されてねぇ」

拓海は、思わず顔を上げる。

「デカいやつらに吹っ飛ばされる。走っても追いつけない。タックルしても、手応えがねえ。……それでも、俺は諦めなかった。どんだけ食って、どんだけ筋トレしても、まだ足りねぇ。でもな」

渡辺は、空を仰ぐようにして言葉をつなぐ。

「それでも、ラグビーが好きなんだよ」

その言葉には、血のにじむような努力と、どうにもならない悔しさがにじんでいた。

「だから俺は決めた。自分に足りないもんは、全部、気迫で埋めてやるってな」

「……気迫で?」

中村が小さくつぶやく。

「ああ。走る、声を出す、誰よりもボールに食らいつく。ちびっ子だからこそ、やれることがある。俺たちは──小さくても、チームの歯車になれる」

渡辺の目が鋭くなる。

「だから、今日から始める。“ちびっ子特別練習”。俺たちがどこまでやれるか、見せてやろうじゃねぇか!」

そう言って、渡辺は走り出した。まだ朝の空気が肌寒いグラウンドに、掛け声が響く。

「アップ10周、いくぞォッ!!」

「は、はいッ!!」



走って、声を出して、倒れて、また立って。

それは地味で、キツくて、誰に見せるでもない、ただの泥くさい練習だった。

でも、誰も文句を言わなかった。

むしろ、奇妙な一体感があった。

石井が転倒すれば中村が手を差し伸べ、高倉先輩が「声が小さいぞ!」と喝を入れ、森田先輩がそれに続く。

そして拓海も──

「もうちょい、いける……まだいける!」

体の奥からわき上がる何かを感じていた。

練習後、渡辺がポンと拓海の肩を叩いた。

「悪くなかったぞ、三船。お前、走り込みが強みになるかもな」

「え……ホントですか?」

「チビがフィールドで目立つには、なにより走ることだ。誰よりも先に動け。誰よりも早く、声を出せ。チビにできることは、それしかねぇ」

そう言って渡辺は笑った。その笑顔が、やけに眩しく見えた。



その日の昼。拓海は食堂で裕也と向かい合っていた。裕也は豚丼大盛りに追加の唐揚げ。

「朝からなんかあった?」

「……ちょっと特別練習」

「はぁ!? なんで誘ってくれなかったの!?」

「いや……あれは、小さい人限定だから……」

「む、むぅ……!」

裕也は口を尖らせたが、すぐに笑って言った。

「まあ、いいさ。俺は俺のやり方で頑張るし、拓海も、いい顔してきたじゃん」

「えっ……」

「なんかさ、前より自信ついてきたっていうか、ちゃんとラガーマンの顔になってきた感じする」

そう言われて、拓海は顔が熱くなるのを感じた。

ちびっ子だって、やれることはある。

それを、今日の練習で確かに感じた。

“努力と筋肉は裏切らない”

……あの言葉が、少しだけ、胸にしみた気がした。
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