悪役令息に転生したので断罪回避します!のはずが、氷の王太子からの溺愛が止まりません

水凪しおん

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第十四話「王太子の切り札」

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 王国の歴史に残るであろう、世紀の裁判が始まろうとしていた。被告は、王太子の婚約者でありながら、国家反逆罪という大罪に問われたルキウス・フォン・エアハルト。法廷は、この歴史的瞬間を見届けようとする貴族たちで埋め尽くされていた。
 被告席に立つルキウスは、痩せはしたものの、その背筋をまっすぐに伸ばし、毅然とした態度を崩さなかった。数日前までの絶望は、彼の心から消えていた。アレクシスの「必ず、助ける」という言葉が、彼を支えていたからだ。
 裁判は、告発者であるダリウス大公の主張から始まった。彼は、事前に用意した偽の証人や証拠を次々と提示し、いかにルキウスが反乱を企てていたかを雄弁に語ってみせた。その巧妙な話術に、法廷内の空気は完全に「ルキウス有罪」へと傾いていく。誰もが、若き悪役令息の末路を確信していた。
 そして、ついに弁護側――アレクシスが証言台に立つ番が来た。
「私がここに提出するのは、一つの真実のみです」
 アレクシスは、静かに、しかしホール全体に響き渡る声で語り始めた。彼は、まず、エアハルト領で発見された毒草と、犯人である行商人が持っていた金貨を証拠として提示した。
「この金貨には、ダリウス大公家の紋章が刻まれています。これは、大公こそが、領地の混乱を引き起こした張本人であることの、動かぬ証拠です」
 その言葉に、法廷が大きくどよめいた。しかし、ダリウス大公は慌てない。
「それは、私を陥れるために、貴殿らが仕組んだ偽りの証拠であろう! そのようなもの、何の意味もない!」
「では、これはどうかな?」
 アレクシスは、次の切り札を切った。彼が掲げたのは、一枚の羊皮紙だった。
「これは、隣国であるガルニア帝国との間で交わされた、密約書です」
 その言葉に、今度こそ大公の顔色が変わった。
「そこには、こう書かれています。『ヴァインベルク王国の王位を譲り渡すことを条件に、我がガルニア帝国は、ダリウス大公の王位簒奪に全面的に協力する』と」
 法廷内は、水を打ったように静まり返った。国王でさえ、玉座から身を乗り出している。
「ば、馬鹿な! でっち上げだ! そのようなもの、どこに……!」
 狼狽する大公に、アレクシスは冷たい視線を向けた。
「長年、叔父上が密偵として使っていた商人がおりましたな。彼は、非常に優秀だった。しかし、金にはもっと忠実だった。貴方が彼に支払う報酬よりも、私が提示した額の方が、ほんの少しだけ上回っていた、というだけの話です」
 アレクシスは、ゆっくりと大公に歩み寄る。
「貴方は、長年にわたり、王位を簒奪する機会を伺っていた。エアハルト領での一件も、聖女を巡る一件も、すべては王宮内を混乱させ、その隙に事を起こすための布石に過ぎなかった。そして、そのすべての罪を、扱いやすい駒だと思っていた私の婚約者、ルキウスになすりつけ、邪魔者である我々を一度に排除しようとした」
 アレクシスの言葉が、一つ、また一つと、大公の罪を暴いていく。
「ルキウスへの偽りの告発は、貴方の巨大な陰謀を隠すための、最後の策略だったのですよ、叔父上」
 もはや、反論の言葉はなかった。大公は、顔面蒼白にさせ、その場にへたり込んだ。
 形勢は、一瞬にして、劇的な逆転を遂げた。
 偽りの反逆者は、救国の英雄となり、聖人君子の仮面を被った男こそが、真の国賊だった。
 ルキウスは、ただ唖然として、その光景を見つめていた。自分のために、たった一人で、巨大な悪に立ち向かってくれた婚約者の姿を。
 彼の瞳には、いつの間にか、熱いものがこみ上げていた。
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