15 / 27
第十四話「王太子の切り札」
しおりを挟む
王国の歴史に残るであろう、世紀の裁判が始まろうとしていた。被告は、王太子の婚約者でありながら、国家反逆罪という大罪に問われたルキウス・フォン・エアハルト。法廷は、この歴史的瞬間を見届けようとする貴族たちで埋め尽くされていた。
被告席に立つルキウスは、痩せはしたものの、その背筋をまっすぐに伸ばし、毅然とした態度を崩さなかった。数日前までの絶望は、彼の心から消えていた。アレクシスの「必ず、助ける」という言葉が、彼を支えていたからだ。
裁判は、告発者であるダリウス大公の主張から始まった。彼は、事前に用意した偽の証人や証拠を次々と提示し、いかにルキウスが反乱を企てていたかを雄弁に語ってみせた。その巧妙な話術に、法廷内の空気は完全に「ルキウス有罪」へと傾いていく。誰もが、若き悪役令息の末路を確信していた。
そして、ついに弁護側――アレクシスが証言台に立つ番が来た。
「私がここに提出するのは、一つの真実のみです」
アレクシスは、静かに、しかしホール全体に響き渡る声で語り始めた。彼は、まず、エアハルト領で発見された毒草と、犯人である行商人が持っていた金貨を証拠として提示した。
「この金貨には、ダリウス大公家の紋章が刻まれています。これは、大公こそが、領地の混乱を引き起こした張本人であることの、動かぬ証拠です」
その言葉に、法廷が大きくどよめいた。しかし、ダリウス大公は慌てない。
「それは、私を陥れるために、貴殿らが仕組んだ偽りの証拠であろう! そのようなもの、何の意味もない!」
「では、これはどうかな?」
アレクシスは、次の切り札を切った。彼が掲げたのは、一枚の羊皮紙だった。
「これは、隣国であるガルニア帝国との間で交わされた、密約書です」
その言葉に、今度こそ大公の顔色が変わった。
「そこには、こう書かれています。『ヴァインベルク王国の王位を譲り渡すことを条件に、我がガルニア帝国は、ダリウス大公の王位簒奪に全面的に協力する』と」
法廷内は、水を打ったように静まり返った。国王でさえ、玉座から身を乗り出している。
「ば、馬鹿な! でっち上げだ! そのようなもの、どこに……!」
狼狽する大公に、アレクシスは冷たい視線を向けた。
「長年、叔父上が密偵として使っていた商人がおりましたな。彼は、非常に優秀だった。しかし、金にはもっと忠実だった。貴方が彼に支払う報酬よりも、私が提示した額の方が、ほんの少しだけ上回っていた、というだけの話です」
アレクシスは、ゆっくりと大公に歩み寄る。
「貴方は、長年にわたり、王位を簒奪する機会を伺っていた。エアハルト領での一件も、聖女を巡る一件も、すべては王宮内を混乱させ、その隙に事を起こすための布石に過ぎなかった。そして、そのすべての罪を、扱いやすい駒だと思っていた私の婚約者、ルキウスになすりつけ、邪魔者である我々を一度に排除しようとした」
アレクシスの言葉が、一つ、また一つと、大公の罪を暴いていく。
「ルキウスへの偽りの告発は、貴方の巨大な陰謀を隠すための、最後の策略だったのですよ、叔父上」
もはや、反論の言葉はなかった。大公は、顔面蒼白にさせ、その場にへたり込んだ。
形勢は、一瞬にして、劇的な逆転を遂げた。
偽りの反逆者は、救国の英雄となり、聖人君子の仮面を被った男こそが、真の国賊だった。
ルキウスは、ただ唖然として、その光景を見つめていた。自分のために、たった一人で、巨大な悪に立ち向かってくれた婚約者の姿を。
彼の瞳には、いつの間にか、熱いものがこみ上げていた。
被告席に立つルキウスは、痩せはしたものの、その背筋をまっすぐに伸ばし、毅然とした態度を崩さなかった。数日前までの絶望は、彼の心から消えていた。アレクシスの「必ず、助ける」という言葉が、彼を支えていたからだ。
裁判は、告発者であるダリウス大公の主張から始まった。彼は、事前に用意した偽の証人や証拠を次々と提示し、いかにルキウスが反乱を企てていたかを雄弁に語ってみせた。その巧妙な話術に、法廷内の空気は完全に「ルキウス有罪」へと傾いていく。誰もが、若き悪役令息の末路を確信していた。
そして、ついに弁護側――アレクシスが証言台に立つ番が来た。
「私がここに提出するのは、一つの真実のみです」
アレクシスは、静かに、しかしホール全体に響き渡る声で語り始めた。彼は、まず、エアハルト領で発見された毒草と、犯人である行商人が持っていた金貨を証拠として提示した。
「この金貨には、ダリウス大公家の紋章が刻まれています。これは、大公こそが、領地の混乱を引き起こした張本人であることの、動かぬ証拠です」
その言葉に、法廷が大きくどよめいた。しかし、ダリウス大公は慌てない。
「それは、私を陥れるために、貴殿らが仕組んだ偽りの証拠であろう! そのようなもの、何の意味もない!」
「では、これはどうかな?」
アレクシスは、次の切り札を切った。彼が掲げたのは、一枚の羊皮紙だった。
「これは、隣国であるガルニア帝国との間で交わされた、密約書です」
その言葉に、今度こそ大公の顔色が変わった。
「そこには、こう書かれています。『ヴァインベルク王国の王位を譲り渡すことを条件に、我がガルニア帝国は、ダリウス大公の王位簒奪に全面的に協力する』と」
法廷内は、水を打ったように静まり返った。国王でさえ、玉座から身を乗り出している。
「ば、馬鹿な! でっち上げだ! そのようなもの、どこに……!」
狼狽する大公に、アレクシスは冷たい視線を向けた。
「長年、叔父上が密偵として使っていた商人がおりましたな。彼は、非常に優秀だった。しかし、金にはもっと忠実だった。貴方が彼に支払う報酬よりも、私が提示した額の方が、ほんの少しだけ上回っていた、というだけの話です」
アレクシスは、ゆっくりと大公に歩み寄る。
「貴方は、長年にわたり、王位を簒奪する機会を伺っていた。エアハルト領での一件も、聖女を巡る一件も、すべては王宮内を混乱させ、その隙に事を起こすための布石に過ぎなかった。そして、そのすべての罪を、扱いやすい駒だと思っていた私の婚約者、ルキウスになすりつけ、邪魔者である我々を一度に排除しようとした」
アレクシスの言葉が、一つ、また一つと、大公の罪を暴いていく。
「ルキウスへの偽りの告発は、貴方の巨大な陰謀を隠すための、最後の策略だったのですよ、叔父上」
もはや、反論の言葉はなかった。大公は、顔面蒼白にさせ、その場にへたり込んだ。
形勢は、一瞬にして、劇的な逆転を遂げた。
偽りの反逆者は、救国の英雄となり、聖人君子の仮面を被った男こそが、真の国賊だった。
ルキウスは、ただ唖然として、その光景を見つめていた。自分のために、たった一人で、巨大な悪に立ち向かってくれた婚約者の姿を。
彼の瞳には、いつの間にか、熱いものがこみ上げていた。
142
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない
波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。
異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。
強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。
彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。
しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。
「俺に触れられるのは、お前だけだ」
呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。
となります。
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる