2 / 12
第1話「悪役令息、断罪される」
しおりを挟む
「リヒト・フォン・ヴァイス! 貴様との婚約を、今この時をもって破棄する!」
豪華絢爛な王城の大広間に、アルトゥル王子の甲高い声が響き渡った。金色の髪を輝かせ、整った顔を怒りで歪ませた彼が指さす先には、俺――リヒト・フォン・ヴァイスが、ただ一人静かに立っていた。
ああ、やっぱりこうなったか。俺は内心でため息をついた。
この光景、見覚えがある。それは俺が前世でプレイしていた乙女ゲーム『君と紡ぐ聖なる恋詩』の断罪イベントそのものだった。
俺は過労死したしがないサラリーマンだった。そして目が覚めたら、このゲームの悪役令息、リヒトに転生していたのだ。公爵家の次男にして、王子の婚約者。そして、男性でありながら妊娠可能なオメガという希少な性。将来は王妃となり、次代の王を産むための存在。それが、この世界での俺の役割だった。
悪役令息リヒトは、ヒロインをいじめ抜き、最後は王子に断罪されて辺境送りにされるという運命を辿る。それを知っていた俺は、破滅フラグを回避するために必死だった。王子には誠実に尽くし、ヒロインである聖女リリアナとは極力関わらないようにしてきた。
それなのに、どうしてこうなった。
ちらりと視線を向ければ、王子の隣にはリリアナが儚げな表情で寄り添っている。潤んだ瞳で俺を見つめ、か細い声で「リヒト様、どうしてあんな酷いことを…」とつぶやく姿は、庇護欲をかき立てる完璧なヒロインそのものだ。彼女の腕には、痛々しい包帯が巻かれている。もちろん、俺は彼女に指一本触れていない。
「聖女リリアナを階段から突き落とそうとするとは! 嫉妬に狂った貴様のような女々しいオメガは、次期王妃にふさわしくない!」
王子はリリアナを庇うように抱き寄せ、俺を蔑みの目で見下ろす。周囲の貴族たちも、冷ややかな視線やひそひそとした嘲笑を俺に向けていた。弁解の余地など、与えられる雰囲気ではない。
「何か言うことはあるか、リヒト」
「……ございません。アルトゥル殿下のお心のままに」
抵抗は無駄だと悟っていた。ここで何を言っても、王子はリリアナの言葉しか信じないだろう。ならば、潔く罪を受け入れる方がいい。ゲームのシナリオ通りなら、俺は死罪ではなく、極寒の辺境への追放で済むはずだ。
俺のあっさりとした態度が気に食わなかったのか、王子は眉を吊り上げた。
「反省の色も見えぬか! 本来ならば死罪に値するが、長年国に尽くしてきたヴァイス公爵家に免じて、追放処分とする。二度と王都の土を踏むことは許さん!」
その言葉を待っていた。俺は静かに頭を下げ、裁きを受け入れた。
公爵家からも勘当され、最低限の荷物だけを持たされた俺は、その日のうちに一台の質素な馬車に乗せられた。目指すは、魔物がうろつくという国の最北端、シュヴァルツ辺境領。そこは、『氷の騎士』と呼ばれる恐ろしい騎士団長が治める土地だと聞く。
馬車に揺られながら、俺はこれからの生活に思いを巡らせた。悪役令息としての役目は終わった。これからは、ただのリヒトとして生きていくのだ。前世では叶わなかった、穏やかで静かな暮らし。そう、スローライフだ。辺境も、考えようによっては悪くない。しがらみだらけの王都を離れられるのは、むしろ好都合かもしれない。
料理は得意だ。前世では唯一の趣味だった。辺境の新鮮な食材を使って、美味しいものを作って暮らそう。小さな家でいい。暖炉があって、温かいスープを毎日飲めるような、そんなささやかな幸せが手に入れば、それで十分だ。
様々な思いを胸に、俺は北の地へと向かう。希望と少しの不安を抱えながら、俺の第二の人生が、今、静かに始まろうとしていた。
豪華絢爛な王城の大広間に、アルトゥル王子の甲高い声が響き渡った。金色の髪を輝かせ、整った顔を怒りで歪ませた彼が指さす先には、俺――リヒト・フォン・ヴァイスが、ただ一人静かに立っていた。
ああ、やっぱりこうなったか。俺は内心でため息をついた。
この光景、見覚えがある。それは俺が前世でプレイしていた乙女ゲーム『君と紡ぐ聖なる恋詩』の断罪イベントそのものだった。
俺は過労死したしがないサラリーマンだった。そして目が覚めたら、このゲームの悪役令息、リヒトに転生していたのだ。公爵家の次男にして、王子の婚約者。そして、男性でありながら妊娠可能なオメガという希少な性。将来は王妃となり、次代の王を産むための存在。それが、この世界での俺の役割だった。
悪役令息リヒトは、ヒロインをいじめ抜き、最後は王子に断罪されて辺境送りにされるという運命を辿る。それを知っていた俺は、破滅フラグを回避するために必死だった。王子には誠実に尽くし、ヒロインである聖女リリアナとは極力関わらないようにしてきた。
それなのに、どうしてこうなった。
ちらりと視線を向ければ、王子の隣にはリリアナが儚げな表情で寄り添っている。潤んだ瞳で俺を見つめ、か細い声で「リヒト様、どうしてあんな酷いことを…」とつぶやく姿は、庇護欲をかき立てる完璧なヒロインそのものだ。彼女の腕には、痛々しい包帯が巻かれている。もちろん、俺は彼女に指一本触れていない。
「聖女リリアナを階段から突き落とそうとするとは! 嫉妬に狂った貴様のような女々しいオメガは、次期王妃にふさわしくない!」
王子はリリアナを庇うように抱き寄せ、俺を蔑みの目で見下ろす。周囲の貴族たちも、冷ややかな視線やひそひそとした嘲笑を俺に向けていた。弁解の余地など、与えられる雰囲気ではない。
「何か言うことはあるか、リヒト」
「……ございません。アルトゥル殿下のお心のままに」
抵抗は無駄だと悟っていた。ここで何を言っても、王子はリリアナの言葉しか信じないだろう。ならば、潔く罪を受け入れる方がいい。ゲームのシナリオ通りなら、俺は死罪ではなく、極寒の辺境への追放で済むはずだ。
俺のあっさりとした態度が気に食わなかったのか、王子は眉を吊り上げた。
「反省の色も見えぬか! 本来ならば死罪に値するが、長年国に尽くしてきたヴァイス公爵家に免じて、追放処分とする。二度と王都の土を踏むことは許さん!」
その言葉を待っていた。俺は静かに頭を下げ、裁きを受け入れた。
公爵家からも勘当され、最低限の荷物だけを持たされた俺は、その日のうちに一台の質素な馬車に乗せられた。目指すは、魔物がうろつくという国の最北端、シュヴァルツ辺境領。そこは、『氷の騎士』と呼ばれる恐ろしい騎士団長が治める土地だと聞く。
馬車に揺られながら、俺はこれからの生活に思いを巡らせた。悪役令息としての役目は終わった。これからは、ただのリヒトとして生きていくのだ。前世では叶わなかった、穏やかで静かな暮らし。そう、スローライフだ。辺境も、考えようによっては悪くない。しがらみだらけの王都を離れられるのは、むしろ好都合かもしれない。
料理は得意だ。前世では唯一の趣味だった。辺境の新鮮な食材を使って、美味しいものを作って暮らそう。小さな家でいい。暖炉があって、温かいスープを毎日飲めるような、そんなささやかな幸せが手に入れば、それで十分だ。
様々な思いを胸に、俺は北の地へと向かう。希望と少しの不安を抱えながら、俺の第二の人生が、今、静かに始まろうとしていた。
201
あなたにおすすめの小説
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
婚約破棄された令息の華麗なる逆転劇 ~偽りの番に捨てられたΩは、氷血公爵に愛される~
なの
BL
希少な治癒能力と、大地に生命を呼び戻す「恵みの魔法」を持つ公爵家のΩ令息、エリアス・フォン・ラティス。
傾きかけた家を救うため、彼は大国アルビオンの第二王子、ジークフリート殿下(α)との「政略的な番契約」を受け入れた。
家のため、領民のため、そして――
少しでも自分を必要としてくれる人がいるのなら、それでいいと信じて。
だが、運命の番だと信じていた相手は、彼の想いを最初から踏みにじっていた。
「Ωの魔力さえ手に入れば、あんな奴はもう要らない」
その冷たい声が、彼の世界を壊した。
すべてを失い、偽りの罪を着せられ追放されたエリアスがたどり着いたのは、隣国ルミナスの地。
そこで出会ったのは、「氷血公爵」と呼ばれる孤高のα、アレクシス・ヴァン・レイヴンだった。
人を寄せつけないほど冷ややかな瞳の奥に、誰よりも深い孤独を抱えた男。
アレクシスは、心に傷を抱えながらも懸命に生きようとするエリアスに惹かれ、次第にその凍てついた心を溶かしていく。
失われた誇りを取り戻すため、そして真実の愛を掴むため。
今、令息の華麗なる逆転劇が始まる。
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました
ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。
落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。
“番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、
やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。
喋れぬΩと、血を信じない宰相。
ただの契約だったはずの絆が、
互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。
だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、
彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。
沈黙が祈りに変わるとき、
血の支配が終わりを告げ、
“番”の意味が書き換えられる。
冷血宰相×沈黙のΩ、
偽りの契約から始まる救済と革命の物語。
【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です
ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。
理由は不明、手紙一通とパン一個。
どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。
そんな理由でいいのか!?
でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適!
自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない!
……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!
異世界転生した悪役令息にざまぁされて断罪ルートに入った元主人公の僕がオメガバースBLゲームの世界から逃げるまで
0take
BL
ふとひらめいたオメガバースもの短編です。
登場人物はネームレス。
きっと似たような話が沢山あると思いますが、ご容赦下さい。
内容はタイトル通りです。
※2025/08/04追記
お気に入りやしおり、イイねやエールをありがとうございます! 嬉しいです!
婚約破棄された公爵令嬢アンジェはスキルひきこもりで、ざまあする!BLミッションをクリアするまで出られない空間で王子と側近のBL生活が始まる!
山田 バルス
BL
婚約破棄とスキル「ひきこもり」―二人だけの世界・BLバージョン!?
春の陽光の中、ベル=ナドッテ魔術学院の卒業式は華やかに幕を開けた。だが祝福の拍手を突き破るように、第二王子アーノルド=トロンハイムの声が講堂に響く。
「アンジェ=オスロベルゲン公爵令嬢。お前との婚約を破棄する!」
ざわめく生徒たち。銀髪の令嬢アンジェが静かに問い返す。
「理由を、うかがっても?」
「お前のスキルが“ひきこもり”だからだ! 怠け者の能力など王妃にはふさわしくない!」
隣で男爵令嬢アルタが嬉しげに王子の腕に絡みつき、挑発するように笑った。
「ひきこもりなんて、みっともないスキルですわね」
その一言に、アンジェの瞳が凛と光る。
「“ひきこもり”は、かつて帝国を滅ぼした力。あなたが望むなら……体験していただきましょう」
彼女が手を掲げた瞬間、白光が弾け――王子と宰相家の青年モルデ=リレハンメルの姿が消えた。
◇ ◇ ◇
目を開けた二人の前に広がっていたのは、真っ白な円形の部屋。ベッドが一つ、机が二つ。壁のモニターには、奇妙な文字が浮かんでいた。
『スキル《ひきこもり》へようこそ。二人だけの世界――BLバージョン♡』
「……は?」「……え?」
凍りつく二人。ドアはどこにも通じず、完全な密室。やがてモニターが再び光る。
『第一ミッション:以下のセリフを言ってキスをしてください。
アーノルド「モルデ、お前を愛している」
モルデ「ボクもお慕いしています」』
「き、キス!?」「アンジェ、正気か!?」
空腹を感じ始めた二人に、さらに追い打ち。
『成功すれば豪華ディナーをプレゼント♡』
ステーキとワインの映像に喉を鳴らし、ついに王子が観念する。
「……モルデ、お前を……愛している」
「……ボクも、アーノルド王子をお慕いしています」
顔を寄せた瞬間――ピコンッ!
『ミッション達成♡ おめでとうございます!』
テーブルに豪華な料理が現れるが、二人は真っ赤になったまま沈黙。
「……なんか負けた気がする」「……同感です」
モニターの隅では、紅茶を片手に微笑むアンジェの姿が。
『スキル《ひきこもり》――強制的に二人きりの世界を生成。解除条件は全ミッション制覇♡』
王子は頭を抱えて叫ぶ。
「アンジェぇぇぇぇぇっ!!」
天井スピーカーから甘い声が響いた。
『次のミッション、準備中です♡』
こうして、トロンハイム王国史上もっとも恥ずかしい“ひきこもり事件”が幕を開けた――。
動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする
葉空
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。
前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち…
でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ…
優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる