ブラック企業勤めの俺が転生したのは悪役令息(Ω)!? 追放先の辺境で無骨な騎士団長(α)に出会い、飯テロしながら胃袋と愛を掴み取りました

水凪しおん

文字の大きさ
4 / 12

第3話「不器用な優しさと、芽生える想い」

しおりを挟む
 俺の突然の申し出に、カイ団長は驚いたように金色の目を見開いた。しばらく黙って俺の顔を見つめていたが、やがて小さく、こくりと頷いた。
 どうぞ、と招き入れると、彼は少し窮屈そうにしながらも、俺の小さな家の食卓についた。屈強な彼が座ると、簡素な椅子がやけに小さく見える。
 ことことと音を立てる鍋から、湯気の立つポトフを深皿によそう。ハーブのいい香りが、部屋いっぱいに広がった。黒パンを添えて彼の前に置くと、「すまない」と短く言って、彼は木のスプーンを手に取った。
 大きな口でスープを一口運び、もぐもぐと野菜を咀嚼する。その間、彼は何も言わない。俺は、口に合わなかっただろうかと不安になりながら、彼の様子をうかがった。やがて、皿を空にした彼は、ふぅ、と満足げな息をついた。
「……温かいな」
 ぽつりと、彼がこぼした言葉は、スープの温度だけを指しているのではないように聞こえた。
「母がよく作ってくれた味に似ている」
 そう言って、彼は少しだけ表情を和らげた。その顔は、『氷の騎士』という異名からは想像もできないほど、穏やかで優しいものだった。俺は、彼の意外な一面に胸がとくんと鳴るのを感じた。
 それからというもの、カイ団長は時々、俺の家を訪れるようになった。最初は「見回りだ」とか「近くを通りかかっただけだ」とか、何かと理由をつけていたが、そのうち何も言わずにふらりと現れては、俺の作る食事を食べていくようになった。
 彼は多くを語らない人だったが、一緒に食卓を囲む時間は、不思議と心地よかった。俺が料理の話をすると、彼は静かに耳を傾け、時折、辺境で採れる食材について教えてくれた。彼との会話は、俺にとって辺境での生活に彩りを与えてくれる、大切な時間になっていた。
 ある日、俺は森へキノコ採りに出かけた。夢中になっているうちに、思いのほか森の奥深くまで入り込んでしまったことに気づく。陽が傾き始め、急に心細くなったその時、ガサリと背後の茂みが揺れた。振り返ると、そこには涎を垂らした巨大な狼型の魔物が立っていた。
 血の気が引いた。腰が抜けて、声も出ない。もうだめだ、と思った瞬間、一陣の風が吹き抜け、銀色の閃光が走った。俺の目の前で、魔物は断末魔の叫びを上げて崩れ落ちる。
 呆然とする俺の前に立ったのは、剣を構えたカイ団長だった。
「無事か、リヒト」
 いつもの無愛想な声。けれど、その声には確かな安堵の色が滲んでいた。彼は俺のそばに膝をつき、震える俺の肩を大きな手でそっと抱いた。
「なぜ、ここに…」
「お前が森に入っていくのが見えた。日が暮れても戻らないから、心配になって探しに来た」
 彼の腕の中は、驚くほど温かくて、安心できる場所だった。強張っていた体の力が抜け、俺は彼の胸に顔をうずめていた。彼から香る、森と土のような、力強いアルファの匂い。その香りに包まれていると、恐怖で冷え切っていた心がじんわりと溶けていくようだった。
「すまない、怖かっただろう」
 彼は俺の銀色の髪を、不器用に、けれど優しく撫でた。その手つきは、まるで壊れ物を扱うかのようで、俺の心臓はこれまでになく大きく高鳴った。
 この人は、俺がただの追放された罪人であるにもかかわらず、一人の人間として心配し、守ってくれた。王都では誰も見せてくれなかった、まっすぐな優しさ。
 気づけば、俺の心は、この無骨で不器用な騎士団長に、どうしようもなく惹かれ始めていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました

ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。 落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。 “番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、 やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。 喋れぬΩと、血を信じない宰相。 ただの契約だったはずの絆が、 互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。 だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、 彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。 沈黙が祈りに変わるとき、 血の支配が終わりを告げ、 “番”の意味が書き換えられる。 冷血宰相×沈黙のΩ、 偽りの契約から始まる救済と革命の物語。

異世界転生した悪役令息にざまぁされて断罪ルートに入った元主人公の僕がオメガバースBLゲームの世界から逃げるまで

0take
BL
ふとひらめいたオメガバースもの短編です。 登場人物はネームレス。 きっと似たような話が沢山あると思いますが、ご容赦下さい。 内容はタイトル通りです。 ※2025/08/04追記 お気に入りやしおり、イイねやエールをありがとうございます! 嬉しいです!

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

処理中です...