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第6話「決意の告白」
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魔術対抗戦は、ケイトの独壇場となった。彼は次々と現れる貴族の対戦相手を、その圧倒的な魔力でねじ伏せていく。噂を信じて彼を侮っていた者たちは、その桁違いの実力に言葉を失い、観客席からは次第に驚嘆と賞賛の声が上がり始めた。
ケイトは一切の手加減をしなかった。これはただの試合ではない。セシルと自分の未来をかけた、戦いなのだ。
そして、運命の決勝戦。ケイトの前に立ったのは、やはりゼノン・ヴァレンシュタインだった。会場のボルテージは最高潮に達していた。事実上の学園最強を決める戦い。誰もが固唾を飲んで、二人のアルファを見つめていた。
「ようやくここまで這い上がってきたか、虫けら。だが、お前の栄光もここまでだ」
ゼノンは、余裕の笑みを浮かべて言い放つ。
「試合開始!」
審判の合図と同時に、ゼノンが動いた。しかし、彼が放ったのは、対抗戦で通常使われるような元素魔法ではなかった。観客席の誰もが息をのむ。それは、相手の生命力を直接蝕む、ルールで固く禁じられている危険な闇系統の魔術だった。
「なっ……!?」
審判が制止の声を上げるよりも早く、漆黒の魔力の槍がケイトに襲いかかる。あまりにも卑劣で、あまりにも殺意に満ちた一撃。ケイトは咄嗟に防御障壁を張るが、闇の魔術はそれをいとも容易く貫通し、彼の肩を深く抉った。
「ぐっ……!」
激痛が走り、ケイトはその場に膝をついた。傷口からどす黒い瘴気が立ち上り、彼の体力を容赦なく奪っていく。立っていることすらままならない。
「終わりだ、平民」
ゼノンは勝利を確信し、とどめの一撃を放とうと、さらに巨大な闇の塊をその手に集束させた。
会場が絶望的な沈黙に包まれる。誰もが、勝負は決まったと思った。
その、瞬間だった。
「やめてっ!」
悲痛な叫び声が、観客席から響き渡った。声の主は、セシルだった。彼はVIP席から飛び出すと、ためらいもなく闘技場へと駆け下りていった。
周囲が騒然とする中、セシルは倒れ伏すケイトのそばに駆け寄ると、その傷ついた身体をかき抱いた。そして、彼の身体から、ふわりと柔らかな黄金の光が溢れ出したのだ。
それは、どんな攻撃魔術よりも温かく、生命力に満ちた治癒の魔法だった。光がケイトの傷口に触れると、闇の瘴気はたちまち浄化され、裂かれた皮膚がみるみるうちに塞がっていく。
会場の誰もが、信じられないものを見る目でその光景を見つめていた。
「あれは……伝説の治癒魔法……?」
「オメガが、命を賭して番となるアルファを守る時にしか使えないという……」
貴族の中の物知りたちが、震える声で呟く。
必死に魔法を注ぎ込むあまり、セシルの髪を留めていた華やかな髪飾りがはらりと落ちた。すると、まとめられていたプラチナブロンドン髪がほどけ、その下から現れたのは、本来の彼の姿である、短い髪だった。
令嬢の優雅な髪型の下に隠されていた、紛れもない、少年の髪。
「え……?」
「セシリア様は……男……?」
会場は、先ほどとは比べ物にならないほどの混乱と衝撃に包まれた。完璧な令嬢、セシリア・クラインフェルトは、男だったのか?
その喧騒の中、傷が完全に癒えたケイトが、ゆっくりと立ち上がった。彼は、まだ魔法を使い続けているセシルの手を、力強く握りしめる。セシルは驚いて彼を見上げた。その瞳には、恐怖と不安が浮かんでいた。
大丈夫だ、とケイトは視線で伝えた。もう、お前を一人にはしない。
ケイトはセシルの手を握ったまま、全ての生徒と、来賓として訪れている全ての貴族たち、そして憎むべきゼノンに向かって、高らかに言い放った。その声は、魔法で増幅され、闘技場の隅々にまで響き渡った。
「彼に触るな。セシルは、俺の番だ」
それは、ルールも、常識も、身分も、性別も、全てを超えた、ケイトの魂からの告白だった。
ただ一人、愛する人を守るための、世界への宣戦布告だった。
ケイトは一切の手加減をしなかった。これはただの試合ではない。セシルと自分の未来をかけた、戦いなのだ。
そして、運命の決勝戦。ケイトの前に立ったのは、やはりゼノン・ヴァレンシュタインだった。会場のボルテージは最高潮に達していた。事実上の学園最強を決める戦い。誰もが固唾を飲んで、二人のアルファを見つめていた。
「ようやくここまで這い上がってきたか、虫けら。だが、お前の栄光もここまでだ」
ゼノンは、余裕の笑みを浮かべて言い放つ。
「試合開始!」
審判の合図と同時に、ゼノンが動いた。しかし、彼が放ったのは、対抗戦で通常使われるような元素魔法ではなかった。観客席の誰もが息をのむ。それは、相手の生命力を直接蝕む、ルールで固く禁じられている危険な闇系統の魔術だった。
「なっ……!?」
審判が制止の声を上げるよりも早く、漆黒の魔力の槍がケイトに襲いかかる。あまりにも卑劣で、あまりにも殺意に満ちた一撃。ケイトは咄嗟に防御障壁を張るが、闇の魔術はそれをいとも容易く貫通し、彼の肩を深く抉った。
「ぐっ……!」
激痛が走り、ケイトはその場に膝をついた。傷口からどす黒い瘴気が立ち上り、彼の体力を容赦なく奪っていく。立っていることすらままならない。
「終わりだ、平民」
ゼノンは勝利を確信し、とどめの一撃を放とうと、さらに巨大な闇の塊をその手に集束させた。
会場が絶望的な沈黙に包まれる。誰もが、勝負は決まったと思った。
その、瞬間だった。
「やめてっ!」
悲痛な叫び声が、観客席から響き渡った。声の主は、セシルだった。彼はVIP席から飛び出すと、ためらいもなく闘技場へと駆け下りていった。
周囲が騒然とする中、セシルは倒れ伏すケイトのそばに駆け寄ると、その傷ついた身体をかき抱いた。そして、彼の身体から、ふわりと柔らかな黄金の光が溢れ出したのだ。
それは、どんな攻撃魔術よりも温かく、生命力に満ちた治癒の魔法だった。光がケイトの傷口に触れると、闇の瘴気はたちまち浄化され、裂かれた皮膚がみるみるうちに塞がっていく。
会場の誰もが、信じられないものを見る目でその光景を見つめていた。
「あれは……伝説の治癒魔法……?」
「オメガが、命を賭して番となるアルファを守る時にしか使えないという……」
貴族の中の物知りたちが、震える声で呟く。
必死に魔法を注ぎ込むあまり、セシルの髪を留めていた華やかな髪飾りがはらりと落ちた。すると、まとめられていたプラチナブロンドン髪がほどけ、その下から現れたのは、本来の彼の姿である、短い髪だった。
令嬢の優雅な髪型の下に隠されていた、紛れもない、少年の髪。
「え……?」
「セシリア様は……男……?」
会場は、先ほどとは比べ物にならないほどの混乱と衝撃に包まれた。完璧な令嬢、セシリア・クラインフェルトは、男だったのか?
その喧騒の中、傷が完全に癒えたケイトが、ゆっくりと立ち上がった。彼は、まだ魔法を使い続けているセシルの手を、力強く握りしめる。セシルは驚いて彼を見上げた。その瞳には、恐怖と不安が浮かんでいた。
大丈夫だ、とケイトは視線で伝えた。もう、お前を一人にはしない。
ケイトはセシルの手を握ったまま、全ての生徒と、来賓として訪れている全ての貴族たち、そして憎むべきゼノンに向かって、高らかに言い放った。その声は、魔法で増幅され、闘技場の隅々にまで響き渡った。
「彼に触るな。セシルは、俺の番だ」
それは、ルールも、常識も、身分も、性別も、全てを超えた、ケイトの魂からの告白だった。
ただ一人、愛する人を守るための、世界への宣戦布告だった。
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