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第7話「剥がされた仮面」
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ケイトの衝撃的な告白と、セシルの正体が白日の下に晒されたことで、魔術対抗戦の決勝戦は前代未聞の結末を迎えた。会場は大混乱に陥り、クラインフェルト公爵家の当主は激怒のあまり顔を真っ赤にして卒倒し、ヴァレンシュタイン大公爵は忌々しげに舌打ちをしてその場を去った。
この事件は、瞬く間に貴族社会全体を揺るがす大スキャンダルとなった。世間を欺き、王家までをも巻き込んで婚約話を進めようとしていたクラインフェルト公爵家への非難は凄まじく、彼らはすぐさまセシルとの養子縁組を解消し、全ての責任を彼一人に押し付ける形で縁を切ることを宣言した。
「君のような恥さらしは、もはや我が学園の生徒ではない」
学園長からも冷たく言い渡され、セシルは全ての身分と居場所を失った。寮の部屋からは私物を全て運び出され、途方に暮れて立ち尽くすことしかできなかった。令嬢「セシリア」として与えられていた全てが、一夜にして幻のように消え去ったのだ。
絶望に打ちひしがれ、空っぽの目で地面を見つめるセシルの肩を、力強い腕が抱きしめた。
「しっかりしろ、セシル」
ケイトの声だった。
「僕は……全部、失った……」
掠れた声で呟くセシルに、ケイトはさらに強く力を込めて言った。
「違う。お前は何も失ってない。やっと、自分自身を取り戻したんだ。偽物のセシリアじゃなく、本物のセシルに。これからは、俺と生きよう」
その言葉に、セシルの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。失ったのではない。取り戻したのだ。この温かい腕の中で、自分は初めて、本当の人生を歩みだすことができるのかもしれない。
一方、ケイトに対しては、意外な展開が待っていた。罪の意識に耐えきれなくなったリアムが、学園の上層部と治安維持局に対し、ゼノンに脅されて嘘の噂を流したことを全て告白したのだ。さらに、決勝戦でのゼノンの禁術使用も問題視され、ケイトにかけられていた嫌疑は完全に晴れた。それどころか、彼は卑劣な手段に屈しなかった英雄として、一部の生徒たちから称賛されるまでになっていた。
しかし、ケイトにとって、もはやそんなことはどうでもよかった。学園の名誉も、貴族たちの評価も、彼には何の価値もない。ただ、愛するセシルと共に、自由に生きられる場所が欲しい。それだけだった。
「学園を、辞めます」
ケイトは、引き留める学園長に、きっぱりとそう告げた。
その夜、ケイトの部屋に、リアムが訪ねてきた。
「ケイト、本当にごめん……俺のせいで……」
「お前のせいじゃない。気にするな」
ケイトは友の肩を叩き、そして一つの頼みごとをした。
「俺たち、ここから逃げる。力を貸してくれないか」
リアムは、一瞬の躊躇の後、力強く頷いた。「もちろんだ! 今度こそ、俺は君の力になる!」
計画は、迅速に進められた。リアムが得意の情報収集能力を駆使し、学園の警備が手薄になる時間帯や、街の外へ続く安全なルートを割り出した。クラインフェルト公爵家と、面目を潰されたヴァレンシュタイン家が、黙ってセシルを解放するはずがない。きっと、口封じのために追手を放つだろう。
準備を整えた数日後の深夜。
ケイトと、男の姿に戻ったセシルは、リアムに見送られながら学園の裏口から抜け出した。
「ケイト、セシルさん、絶対に幸せになれよ!」
手を振る友に背を向け、二人は闇の中へと駆け出した。それは、甘く優しい逃避行などではない。身分も、財産も、保証された未来も、全てを捨てて、ささやかでも真実の幸せをその手で掴むための、命がけの逃避行の始まりだった。
冷たい夜風が、二人の頬を撫でていく。だが、隣で走る互いの手のぬくもりだけが、暗闇の中の唯一の道標となっていた。
この事件は、瞬く間に貴族社会全体を揺るがす大スキャンダルとなった。世間を欺き、王家までをも巻き込んで婚約話を進めようとしていたクラインフェルト公爵家への非難は凄まじく、彼らはすぐさまセシルとの養子縁組を解消し、全ての責任を彼一人に押し付ける形で縁を切ることを宣言した。
「君のような恥さらしは、もはや我が学園の生徒ではない」
学園長からも冷たく言い渡され、セシルは全ての身分と居場所を失った。寮の部屋からは私物を全て運び出され、途方に暮れて立ち尽くすことしかできなかった。令嬢「セシリア」として与えられていた全てが、一夜にして幻のように消え去ったのだ。
絶望に打ちひしがれ、空っぽの目で地面を見つめるセシルの肩を、力強い腕が抱きしめた。
「しっかりしろ、セシル」
ケイトの声だった。
「僕は……全部、失った……」
掠れた声で呟くセシルに、ケイトはさらに強く力を込めて言った。
「違う。お前は何も失ってない。やっと、自分自身を取り戻したんだ。偽物のセシリアじゃなく、本物のセシルに。これからは、俺と生きよう」
その言葉に、セシルの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。失ったのではない。取り戻したのだ。この温かい腕の中で、自分は初めて、本当の人生を歩みだすことができるのかもしれない。
一方、ケイトに対しては、意外な展開が待っていた。罪の意識に耐えきれなくなったリアムが、学園の上層部と治安維持局に対し、ゼノンに脅されて嘘の噂を流したことを全て告白したのだ。さらに、決勝戦でのゼノンの禁術使用も問題視され、ケイトにかけられていた嫌疑は完全に晴れた。それどころか、彼は卑劣な手段に屈しなかった英雄として、一部の生徒たちから称賛されるまでになっていた。
しかし、ケイトにとって、もはやそんなことはどうでもよかった。学園の名誉も、貴族たちの評価も、彼には何の価値もない。ただ、愛するセシルと共に、自由に生きられる場所が欲しい。それだけだった。
「学園を、辞めます」
ケイトは、引き留める学園長に、きっぱりとそう告げた。
その夜、ケイトの部屋に、リアムが訪ねてきた。
「ケイト、本当にごめん……俺のせいで……」
「お前のせいじゃない。気にするな」
ケイトは友の肩を叩き、そして一つの頼みごとをした。
「俺たち、ここから逃げる。力を貸してくれないか」
リアムは、一瞬の躊躇の後、力強く頷いた。「もちろんだ! 今度こそ、俺は君の力になる!」
計画は、迅速に進められた。リアムが得意の情報収集能力を駆使し、学園の警備が手薄になる時間帯や、街の外へ続く安全なルートを割り出した。クラインフェルト公爵家と、面目を潰されたヴァレンシュタイン家が、黙ってセシルを解放するはずがない。きっと、口封じのために追手を放つだろう。
準備を整えた数日後の深夜。
ケイトと、男の姿に戻ったセシルは、リアムに見送られながら学園の裏口から抜け出した。
「ケイト、セシルさん、絶対に幸せになれよ!」
手を振る友に背を向け、二人は闇の中へと駆け出した。それは、甘く優しい逃避行などではない。身分も、財産も、保証された未来も、全てを捨てて、ささやかでも真実の幸せをその手で掴むための、命がけの逃避行の始まりだった。
冷たい夜風が、二人の頬を撫でていく。だが、隣で走る互いの手のぬくもりだけが、暗闇の中の唯一の道標となっていた。
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