路地裏オメガの餌付け婚~味覚を失った最強公爵様は、僕の料理とフェロモンにだけ発情するようです~

水凪しおん

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第13話「肉の日、運命の番」

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 再び巡ってきた、二十九日。肉の日。

 あの日、路地裏で出会ってから一ヶ月が経っていた。

 屋敷のテラスには、二人だけの食卓が用意されていた。

 メインディッシュは、あの日と同じ、骨周りのクズ肉――いや、今や僕たちにとっての「思い出の極上肉」を使ったステーキだ。

 満月が美しく輝く夜。

「あの日、この匂いに釣られてよかった」

 レオンハルト様がワイングラスを傾けながら微笑む。

「僕もです。あの日、勇気を出してお肉を差し出してよかった」

 僕たちはステーキを切り分け、互いに口へ運ぶ。

 美味しい。何度食べても、この味は格別だ。

 食事を終えると、レオンハルト様は立ち上がり、僕の手を取った。

「ノア。食事は終わったが……俺はまだ満たされていない」

 その声のトーンが変わり、空気が一気に濃密になる。

 彼の瞳には、一ヶ月前と同じ、いや、それ以上に熱い「飢え」が宿っていた。

 ただし、それは食物への飢えではない。

「……準備は、できているか?」

 彼の問いの意味を理解し、僕は頬を染めて頷いた。

 あの日、保留にしていたこと。

 心と体、全てで結ばれること。

 彼は僕を横抱きにし、寝室へと連れて行った。

 ベッドの上、月明かりの下で、僕たちは重ね合う。

 彼の指が、唇が、熱を帯びて僕の肌を巡る。以前の発情期のような苦しさはなく、あるのは溶けるような甘美な痺れだけ。

「愛している、ノア」

「僕も……愛しています、レオン」

 名前を呼ぶと、彼は嬉しそうに目を細め、僕のうなじに顔を埋めた。

 そこにある、オメガにとって急所であり、聖域である場所。

 鋭い犬歯が当たる感触。

「お前は永遠に俺のものだ」

 チクリとした痛みの直後、爆発的な快楽と、魂が直接繋がるような深い充足感が押し寄せた。

 うなじに刻まれた、生涯消えることのない「番の証」。

 僕のフェロモンと彼のフェロモンが完全に混ざり合い、世界でたった一つの香りが部屋を満たしていく。

 肉の日。

 それは僕にとって、ただの感謝祭ではなくなった。

 狩人と獲物が出会い、料理人と食通が愛を育み、そして二つの魂が一つに溶け合った、かけがえのない記念日。

「おかわりは、いかがですか?」

 事後、まどろみの中で僕が冗談めかして聞くと、レオンハルト様は貪欲に笑って答えた。

「もちろん。朝までコースだ」

 幸せな夜は、まだ始まったばかりだった。
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