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第4話「秘めたる力、守りたい背中」
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「アレン。今度の休み、領地の視察に行かないか。君にも、私の世界を知ってほしい」
ルシウス様にそう誘われたのは、公爵邸での生活にも少しずつ慣れてきた頃だった。僕の返事を待たず、彼は「君が着る服も、馬車も、全て私が手配しよう。君はただ、私の隣で笑っていてくれればいい」と、いつもの調子で準備を進めてしまった。
グランヴェル公爵領は、王都から馬車で数日の距離にある。道中、ルシウス様は僕が退屈しないようにと、景色の良い場所で馬車を止めたり、その土地の歴史を話して聞かせてくれたりした。彼の隣にいる時間は、とても穏やかで、満ち足りていた。
領地は、驚くほど豊かで活気に満ちていた。広大な麦畑は黄金色に輝き、街は清潔で、行き交う人々の表情は明るい。そして、彼らが領主であるルシウス様に向ける視線は、心からの敬愛に満ちていた。
「ルシウス様!」「公爵様、おかえりなさいませ!」
道端で遊んでいた子供たちまでもが、彼に駆け寄ってくる。ルシウス様は、僕の前で見せる顔とは違う、厳格で威厳のある領主の顔で彼らに応えながらも、その目元は優しく細められていた。
僕は、そんな彼の姿を見て、胸が温かくなるのを感じていた。この人は、本当に領民から愛されているんだな、と。
視察の最終日、僕たちは森に近い小さな村に立ち寄った。しかし、村の空気はどこか不穏で、村人たちの顔には不安の色が浮かんでいる。
「最近、森の魔物が妙に活発でして…」
村長の話を聞いている、まさにその時だった。
ゴゴゴゴゴ……ッ!
突如、大地が激しく揺れ、森の奥から地鳴りのような咆哮が響き渡った。木々がなぎ倒され、おびただしい数の魔物が、津波のように村へと溢れ出してくる。
「スタンピードだ!」「魔物の大暴走だ!」
悲鳴が上がる。護衛の騎士たちがすぐさま剣を抜き、隊列を組む。
「アレン、私の後ろに!」
ルシウス様は僕を背中にかばい、自らも剣を抜いた。彼の剣が振るわれるたび、絶対零度の冷気が魔物を凍てつかせ、氷の彫刻へと変えていく。さすがは王国最強の騎士。その力は圧倒的だった。
しかし、魔物の数はあまりにも多い。ゴブリン、オーク、そして巨大なオーガ。次から次へと現れる魔物に、騎士たちは奮戦するものの、少しずつ押し込まれていく。
「ぐあっ!」
騎士の一人が、オーガの棍棒に弾き飛ばされる。それを見たルシウス様が、一瞬でオーガとの間合いを詰め、その首を刎ねた。
だが、その隙を別の魔物が見逃さなかった。死角から飛び出してきた鋭い爪が、ルシウス様の肩を深く切り裂く。
「っ…!」
鮮血が、彼の騎士服を赤く染めた。
その光景を見た瞬間、僕の中で何かが弾け飛んだ。
頭の中に響く声。それは、怒り、悲しみ、そして、守りたいという強い衝動。
――ルシウスさんを、傷つけさせない!
今まで、面倒ごとを避けるために、この力は固く閉ざしてきた。魔力なしと蔑まれ、石を投げられても、ただ耐えてきた。だが、もう我慢できない。初めて僕に居場所をくれた、この優しい人を、失いたくない。
僕は、初めて愛しい人のために、この力を解放することを決意した。
僕がルシウス様の前へ一歩踏み出し、天に手をかざす。
詠唱も、魔法陣も必要ない。ただ、心の中で命じるだけ。
――応えて。
その瞬間、世界が僕に応えた。
大地から無数の岩の槍が突き出し、オークの体を串刺しにする。風は真空の刃となり、ゴブリンの群れを切り刻む。そして、暗雲が立ち込めた空からは、浄化の雷が雨のように降り注ぎ、魔物の軍勢を焼き払った。
それは、魔法ではなかった。森羅万象、全ての属性の精霊たちが、僕の呼び声に応えてくれたのだ。これが、僕の本当の力。【全属性の寵愛者】の力。
まるで天変地異のような光景に、騎士も、村人も、そして魔物でさえも、動きを止めて呆然と空を見上げていた。
やがて、全ての魔物が塵と化し、森に静寂が戻る。
力を使い果たした僕は、膝から崩れ落ちそうになった。その体を、驚愕と、それ以上の熱を宿した瞳のルシウス様が、力強く抱きとめる。
「アレン…君は、一体…」
彼の腕の中で、その心配そうな顔を見ながら、僕は安心して意識を手放した。
ルシウス様にそう誘われたのは、公爵邸での生活にも少しずつ慣れてきた頃だった。僕の返事を待たず、彼は「君が着る服も、馬車も、全て私が手配しよう。君はただ、私の隣で笑っていてくれればいい」と、いつもの調子で準備を進めてしまった。
グランヴェル公爵領は、王都から馬車で数日の距離にある。道中、ルシウス様は僕が退屈しないようにと、景色の良い場所で馬車を止めたり、その土地の歴史を話して聞かせてくれたりした。彼の隣にいる時間は、とても穏やかで、満ち足りていた。
領地は、驚くほど豊かで活気に満ちていた。広大な麦畑は黄金色に輝き、街は清潔で、行き交う人々の表情は明るい。そして、彼らが領主であるルシウス様に向ける視線は、心からの敬愛に満ちていた。
「ルシウス様!」「公爵様、おかえりなさいませ!」
道端で遊んでいた子供たちまでもが、彼に駆け寄ってくる。ルシウス様は、僕の前で見せる顔とは違う、厳格で威厳のある領主の顔で彼らに応えながらも、その目元は優しく細められていた。
僕は、そんな彼の姿を見て、胸が温かくなるのを感じていた。この人は、本当に領民から愛されているんだな、と。
視察の最終日、僕たちは森に近い小さな村に立ち寄った。しかし、村の空気はどこか不穏で、村人たちの顔には不安の色が浮かんでいる。
「最近、森の魔物が妙に活発でして…」
村長の話を聞いている、まさにその時だった。
ゴゴゴゴゴ……ッ!
突如、大地が激しく揺れ、森の奥から地鳴りのような咆哮が響き渡った。木々がなぎ倒され、おびただしい数の魔物が、津波のように村へと溢れ出してくる。
「スタンピードだ!」「魔物の大暴走だ!」
悲鳴が上がる。護衛の騎士たちがすぐさま剣を抜き、隊列を組む。
「アレン、私の後ろに!」
ルシウス様は僕を背中にかばい、自らも剣を抜いた。彼の剣が振るわれるたび、絶対零度の冷気が魔物を凍てつかせ、氷の彫刻へと変えていく。さすがは王国最強の騎士。その力は圧倒的だった。
しかし、魔物の数はあまりにも多い。ゴブリン、オーク、そして巨大なオーガ。次から次へと現れる魔物に、騎士たちは奮戦するものの、少しずつ押し込まれていく。
「ぐあっ!」
騎士の一人が、オーガの棍棒に弾き飛ばされる。それを見たルシウス様が、一瞬でオーガとの間合いを詰め、その首を刎ねた。
だが、その隙を別の魔物が見逃さなかった。死角から飛び出してきた鋭い爪が、ルシウス様の肩を深く切り裂く。
「っ…!」
鮮血が、彼の騎士服を赤く染めた。
その光景を見た瞬間、僕の中で何かが弾け飛んだ。
頭の中に響く声。それは、怒り、悲しみ、そして、守りたいという強い衝動。
――ルシウスさんを、傷つけさせない!
今まで、面倒ごとを避けるために、この力は固く閉ざしてきた。魔力なしと蔑まれ、石を投げられても、ただ耐えてきた。だが、もう我慢できない。初めて僕に居場所をくれた、この優しい人を、失いたくない。
僕は、初めて愛しい人のために、この力を解放することを決意した。
僕がルシウス様の前へ一歩踏み出し、天に手をかざす。
詠唱も、魔法陣も必要ない。ただ、心の中で命じるだけ。
――応えて。
その瞬間、世界が僕に応えた。
大地から無数の岩の槍が突き出し、オークの体を串刺しにする。風は真空の刃となり、ゴブリンの群れを切り刻む。そして、暗雲が立ち込めた空からは、浄化の雷が雨のように降り注ぎ、魔物の軍勢を焼き払った。
それは、魔法ではなかった。森羅万象、全ての属性の精霊たちが、僕の呼び声に応えてくれたのだ。これが、僕の本当の力。【全属性の寵愛者】の力。
まるで天変地異のような光景に、騎士も、村人も、そして魔物でさえも、動きを止めて呆然と空を見上げていた。
やがて、全ての魔物が塵と化し、森に静寂が戻る。
力を使い果たした僕は、膝から崩れ落ちそうになった。その体を、驚愕と、それ以上の熱を宿した瞳のルシウス様が、力強く抱きとめる。
「アレン…君は、一体…」
彼の腕の中で、その心配そうな顔を見ながら、僕は安心して意識を手放した。
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