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第12話「予測不能な僕らの未来」
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ギガ・ソリューションズの不正は、公正取引委員会の調査によって白日の下に晒された。違法なデータ収集と独占禁止法違反の疑いで会社の幹部たちは次々と逮捕され、会社には巨額の課徴金が課せられた。業界の巨人はその信頼を完全に失墜させ、もはやネクストリープの脅威ではなくなった。
この一件で、ネクストリープの名前は業界内外に広く知れ渡ることになった。「巨大企業の不正を暴いた、正義のベンチャー企業」として、世間からの評価はうなぎのぼりだった。新規の取引依頼が殺到し、会社の業績はかつてないほどの急成長を遂げ始めた。
数ヶ月後、ネクストリープは臨時株主総会を開き、冬月理人が正式に取締役兼CDO(最高データ責任者)に就任することを発表した。
就任式当日、壇上に立った慎一は、集まった社員と株主、そして多くの報道陣を前に、感慨深げにスピーチを始めた。
「皆さん、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。今日、ここに我々の新しい仲間、冬月理人くんを取締役として迎えられることを、心から嬉しく思います」
慎一は、隣で少し緊張した面持ちで立つ理人に温かい視線を送った。
「正直に言います。数ヶ月前、この会社は倒産寸前でした。私自身の古い経営スタイルが、時代の変化についていけていませんでした。そんな時、彼は現れました。そして、冷徹なデータと共にこう言ったんです。『あなたの会社は、三年で潰れる』と」
会場から、笑いが起こる。
「最初は腹が立ちました。ですが、彼と出会って私は一つの大事なことを学びました。それは、数字は嘘をつかない、ということです。しかし同時に、こうも学びました。数字だけでは人の心は動かせない、と」
慎一の言葉に、社員たちは深くうなずいている。
「我々が乗り越えてきた危機は、データや理論だけでは決して乗り越えられなかったでしょう。そこには、社員一人一人の情熱と、正しいことをしたいという強い意志がありました。そして何より、私の隣にいるこの冬月理人という男の、データでは測れない熱い魂がありました」
慎一は、理人の方に向き直った。
「理人、君と出会って、俺は経営者として、一人の人間として生まれ変わることができた。君が教えてくれたんだ。どんな複雑な数式でも解けない変数――それが『恋愛感情』だということを。」
その言葉に、理人は顔を真っ赤にしてうつむいた。会場からは、温かい拍手と含み笑いが起こる。
マイクを渡された理人は、少し咳払いをしてからゆっくりと話し始めた。その声はまだ少し硬かったが、確かな自信に満ちていた。
「……ご紹介にあずかりました、冬月です。社長の過分なスピーチ、大変恐縮です。ただ、一つだけ訂正させていただきたいことがあります」
理人は、いたずらっぽく笑って慎一を見上げた。
「確かに、個人の恋愛感情をピンポイントで予測するのは困難です。しかし、社長、恋愛にも統計学は応用できるんですよ」
「ほう、どういうことや?」
「例えば、『単純接触効果』というものがあります。人は、毎日会うなど接触する頻度が高い相手に対して、好感度を抱きやすいということが統計的に証明されています。つまり、毎日会う頻度と好感度には、強い正の相関がある、ということです」
その言葉の意味を理解した瞬間、慎一はたまらず吹き出した。会場も、大きな笑いと拍手に包まれる。最高の切り返しだった。
慎一は、マイクを再び手に取ると高らかに宣言した。
「だ、そうです! じゃあ理人、これからも毎日一緒にいよう。仕事でも、プライベートでも!」
その宣言は、もはや業務命令なのかプロポーズなのか、誰にも分からなかった。ただ、壇上で照れながらも幸せそうに笑う二人の姿が、ネクストリープの明るい未来そのものを象徴しているようだった。
就任式が終わった夜、二人は社長室でささやかな祝杯をあげていた。
「今日のスピーチ、かっこよかったで」
慎一が言うと、理人はシャンパングラスを傾けながらそっけなく答えた。
「あなたこそ。公の場で、よくあんな恥ずかしいことが言えますね」
「事実やからしゃあないやろ」
慎一は笑って、理人の隣に座った。窓の外には、煌めく東京の夜景が広がっている。
「なあ、これから、どんな会社にしていこうか」
慎一が尋ねると、理人は少し考えてから答えた。
「数字と、感情。その両方を大切にする会社にしたいです。ロジックと、パッション。その二つが両輪となって進んでいくような」
「ええな、それ。まさに、俺たちみたいや」
「……そうですね」
理人は、素直にうなずいた。そして、慎一の肩にそっと頭を乗せる。
「私たちは、新しいビジネスモデルを立ち上げましょう。『エモーショナル・データ・マネジメント』。人の感情という、最も不合理で最も価値のあるデータを、ビジネスと社会の幸福のために活用するんです」
「エモーショナル・データ・マネジメント……。面白そうやないか」
慎一は、理人の髪を優しく撫でた。
「なあ、理人」
「はい」
「愛の期待値って、計算できるんか?」
慎一の問いに、理人はくすりと笑った。そして、最高の笑顔でこう答えた。
「できません。でも、一つだけ確かなことがあります」
理人は、少しだけ背伸びをして、慎一の唇に自分からキスをした。
「愛の期待値は、計算できなくても、きっと無限大です」
予測不能な未来。不合理な感情。数式では決して解けない、複雑で愛おしいパラメータ。
二人の旅は、まだ始まったばかりだ。
この一件で、ネクストリープの名前は業界内外に広く知れ渡ることになった。「巨大企業の不正を暴いた、正義のベンチャー企業」として、世間からの評価はうなぎのぼりだった。新規の取引依頼が殺到し、会社の業績はかつてないほどの急成長を遂げ始めた。
数ヶ月後、ネクストリープは臨時株主総会を開き、冬月理人が正式に取締役兼CDO(最高データ責任者)に就任することを発表した。
就任式当日、壇上に立った慎一は、集まった社員と株主、そして多くの報道陣を前に、感慨深げにスピーチを始めた。
「皆さん、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。今日、ここに我々の新しい仲間、冬月理人くんを取締役として迎えられることを、心から嬉しく思います」
慎一は、隣で少し緊張した面持ちで立つ理人に温かい視線を送った。
「正直に言います。数ヶ月前、この会社は倒産寸前でした。私自身の古い経営スタイルが、時代の変化についていけていませんでした。そんな時、彼は現れました。そして、冷徹なデータと共にこう言ったんです。『あなたの会社は、三年で潰れる』と」
会場から、笑いが起こる。
「最初は腹が立ちました。ですが、彼と出会って私は一つの大事なことを学びました。それは、数字は嘘をつかない、ということです。しかし同時に、こうも学びました。数字だけでは人の心は動かせない、と」
慎一の言葉に、社員たちは深くうなずいている。
「我々が乗り越えてきた危機は、データや理論だけでは決して乗り越えられなかったでしょう。そこには、社員一人一人の情熱と、正しいことをしたいという強い意志がありました。そして何より、私の隣にいるこの冬月理人という男の、データでは測れない熱い魂がありました」
慎一は、理人の方に向き直った。
「理人、君と出会って、俺は経営者として、一人の人間として生まれ変わることができた。君が教えてくれたんだ。どんな複雑な数式でも解けない変数――それが『恋愛感情』だということを。」
その言葉に、理人は顔を真っ赤にしてうつむいた。会場からは、温かい拍手と含み笑いが起こる。
マイクを渡された理人は、少し咳払いをしてからゆっくりと話し始めた。その声はまだ少し硬かったが、確かな自信に満ちていた。
「……ご紹介にあずかりました、冬月です。社長の過分なスピーチ、大変恐縮です。ただ、一つだけ訂正させていただきたいことがあります」
理人は、いたずらっぽく笑って慎一を見上げた。
「確かに、個人の恋愛感情をピンポイントで予測するのは困難です。しかし、社長、恋愛にも統計学は応用できるんですよ」
「ほう、どういうことや?」
「例えば、『単純接触効果』というものがあります。人は、毎日会うなど接触する頻度が高い相手に対して、好感度を抱きやすいということが統計的に証明されています。つまり、毎日会う頻度と好感度には、強い正の相関がある、ということです」
その言葉の意味を理解した瞬間、慎一はたまらず吹き出した。会場も、大きな笑いと拍手に包まれる。最高の切り返しだった。
慎一は、マイクを再び手に取ると高らかに宣言した。
「だ、そうです! じゃあ理人、これからも毎日一緒にいよう。仕事でも、プライベートでも!」
その宣言は、もはや業務命令なのかプロポーズなのか、誰にも分からなかった。ただ、壇上で照れながらも幸せそうに笑う二人の姿が、ネクストリープの明るい未来そのものを象徴しているようだった。
就任式が終わった夜、二人は社長室でささやかな祝杯をあげていた。
「今日のスピーチ、かっこよかったで」
慎一が言うと、理人はシャンパングラスを傾けながらそっけなく答えた。
「あなたこそ。公の場で、よくあんな恥ずかしいことが言えますね」
「事実やからしゃあないやろ」
慎一は笑って、理人の隣に座った。窓の外には、煌めく東京の夜景が広がっている。
「なあ、これから、どんな会社にしていこうか」
慎一が尋ねると、理人は少し考えてから答えた。
「数字と、感情。その両方を大切にする会社にしたいです。ロジックと、パッション。その二つが両輪となって進んでいくような」
「ええな、それ。まさに、俺たちみたいや」
「……そうですね」
理人は、素直にうなずいた。そして、慎一の肩にそっと頭を乗せる。
「私たちは、新しいビジネスモデルを立ち上げましょう。『エモーショナル・データ・マネジメント』。人の感情という、最も不合理で最も価値のあるデータを、ビジネスと社会の幸福のために活用するんです」
「エモーショナル・データ・マネジメント……。面白そうやないか」
慎一は、理人の髪を優しく撫でた。
「なあ、理人」
「はい」
「愛の期待値って、計算できるんか?」
慎一の問いに、理人はくすりと笑った。そして、最高の笑顔でこう答えた。
「できません。でも、一つだけ確かなことがあります」
理人は、少しだけ背伸びをして、慎一の唇に自分からキスをした。
「愛の期待値は、計算できなくても、きっと無限大です」
予測不能な未来。不合理な感情。数式では決して解けない、複雑で愛おしいパラメータ。
二人の旅は、まだ始まったばかりだ。
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