【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった

水凪しおん

文字の大きさ
3 / 24

第2話「伝説のトマトと小さな噂」

しおりを挟む
 辺境での生活は、驚くほど快適だった。近くの森で薪を拾い、澄んだ小川で水を汲む。夜は満点の星空の下で、質素なスープを飲む。誰にも邪魔されない、穏やかな毎日だった。

 そして、僕の畑は信じられないような奇跡を見せていた。
 種を植えてから、たったの三日。普通ならようやく芽が出るかどうかという時期に、僕の畑のトマトの苗はぐんぐんと蔓を伸ばし、青々とした葉を茂らせていた。そして一週間も経つ頃には、ぷっくりとした緑色の実をつけ始めたのだ。

「成長が早いなあ。僕のスキル、思ったよりすごいのかも」

 なんて、のんきに考えていたけれど、本当の驚きは収穫の時にやってきた。
 蔓になったトマトは、まるで宝石のルビーのように真っ赤に輝き、太陽の光を浴びてキラキラと光っている。手のひらに乗せると、ずっしりとした重みと、生命力に満ちた張りを感じた。
 僕はその場で一つ、もぎってかぶりついた。
 パリッと小気味よい音を立てて皮が弾け、果汁が口の中に溢れ出す。

「――っ、あま……!」

 脳がとろけるような、濃厚な甘さ。そして、それを追いかけるように広がる、爽やかな酸味と深い旨味。ただのトマトとは思えない、まるで極上の果物のような味わいだった。
 実はこれ、文献にしか存在しない幻の品種『太陽の雫』というトマトだったが、もちろん当時の僕が知るはずもなかった。

「うん、ちょっと出来のいいトマトだな。これならスープも美味しくなりそうだ」

 僕は収穫した野菜で自給自足の生活を送り、時々、月に一度ほど訪れる行商人のロルフさんから、塩や保存食などを買っていた。
 その日も、ロルフさんはロバを連れて僕の小さな家にやってきた。

「やあ、フィン坊。元気にやってるかい? 相変わらず何もないところだが」

「ロルフさん、こんにちは。これ、よかったらどうぞ」

 僕は採れたてのトマトを一つ、彼に差し出した。

「お、トマトかい。ありがとよ」

 ロルフさんは無造作にトマトを受け取ると、服の袖で軽く拭いて、ガブリと一口。
 その瞬間、彼の動きがピタリと止まった。

「…………え?」

 見開かれた目が、信じられないものを見るかのようにトマトと僕の顔を交互に行き来する。そして、残りを夢中で頬張り、ゴクリと飲み込んだ後、彼は絶叫した。

「な、なんだこれは! うますぎるじゃないか! こんなトマト、王宮の晩餐会でも食べたことないぞ!」

「え、そうですか? ちょっと出来がいいだけだと……」

「馬鹿野郎! これが『ちょっと』なものか! なあ坊主、このトマト、俺に売ってくれ! いくらでも出す!」

 結局、僕のトマトはロルフさんが持っていた銀貨のほとんどと交換で買い取られていった。彼は「絶対にまた来るからな!」と興奮冷めやらぬ様子で去っていった。
 僕はと言えば、思いがけない収入に喜びながらも、「そんなにすごかったのかな?」と首を傾げるばかりだった。

 この出来事がきっかけで、「辺境に奇跡の野菜を作る若者がいる」という小さな噂が、商人たちの間で静かに流れ始めたことを、僕自身はまだ知らなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「嵐を呼ぶ」と一族を追放された人魚王子。でもその歌声は、他人の声が雑音に聞こえる呪いを持つ孤独な王子を癒す、世界で唯一の力だった

水凪しおん
BL
「嵐を呼ぶ」と忌み嫌われ、一族から追放された人魚の末王子シオン。 魔女の呪いにより「他人の声がすべて不快な雑音に聞こえる」大陸の王子レオニール。 光の届かない深海と、音のない静寂の世界。それぞれの孤独を抱えて生きてきた二人が、嵐の夜に出会う。 シオンの歌声だけが、レオニールの世界に色を与える唯一の美しい旋律だった。 「君の歌がなければ、私はもう生きていけない」 それは、やがて世界の運命さえも揺るがす、あまりにも切なく甘い愛の物語。 歌声がつなぐ、感動の異世界海洋ファンタジーBL、開幕。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

冤罪で追放された悪役令息、北の辺境で幸せを掴む~恐ろしいと噂の銀狼将軍に嫁いだら、極上の溺愛とモフモフなスローライフが始まりました~

水凪しおん
BL
「君は、俺の宝だ」 無実の罪を着せられ、婚約破棄の末に極寒の辺境へ追放された公爵令息ジュリアン。 彼を待ち受けていたのは、「北の食人狼」と恐れられる将軍グリーグとの政略結婚だった。 死を覚悟したジュリアンだったが、出会った将軍は、噂とは真逆の不器用で心優しいアルファで……? 前世の記憶を持つジュリアンは、現代知識と魔法でボロボロの要塞を快適リフォーム! 手作りスープで将軍の胃袋を掴み、特産品開発で街を救い、気づけば冷徹将軍から規格外の溺愛を受けることに。 一方、ジュリアンを捨てた王都では、破滅の足音が近づいていて――。 冤罪追放から始まる、銀狼将軍との幸せいっぱいな溺愛スローライフ、ここに開幕! 【オメガバース/ハッピーエンド/ざまぁあり/子育て/スパダリ】

処刑されたくない悪役宰相、破滅フラグ回避のため孤独なラスボス竜を懐柔したら番として溺愛される

水凪しおん
BL
激務で過労死した俺が転生したのは、前世でやり込んだBLゲームの悪役宰相クリストフ。 しかも、断頭台で処刑される破滅ルート確定済み! 生き残る唯一の方法は、物語のラスボスである最強の”魔竜公”ダリウスを懐柔すること。 ゲーム知識を頼りに、孤独で冷徹な彼に接触を試みるが、待っていたのは絶対零度の拒絶だった。 しかし、彼の好物や弱みを突き、少しずつ心の壁を溶かしていくうちに、彼の態度に変化が訪れる。 「――俺の番に、何か用か」 これは破滅を回避するためのただの計画。 のはずが、孤独な竜が見せる不器用な優しさと独占欲に、いつしか俺の心も揺さぶられていく…。 悪役宰相と最強ラスボスが運命に抗う、異世界転生ラブファンタジー!

もふもふ守護獣と運命の出会い—ある日、青年は異世界で大きな毛玉と恋に落ちた—

なの
BL
事故に巻き込まれ、雪深い森で倒れていた青年・ユナ。 命の危険に晒されていた彼を救ったのは、白銀の毛並みを持つ美しい人狼・ゼルだった。 ゼルは誰よりも優しくて、そして――独占欲がとにかく強い。 気がつけばユナは、もふもふの里へ連れていかれる。 そこでは人狼だけでなく、獣人や精霊、もふもふとした種族たちが仲良く暮らしており、ユナは珍しい「人間」として大歓迎される。 しかし、ゼルだけは露骨にユナを奪われまいとし、 「触るな」「見るな」「近づくな」と嫉妬を隠そうとしない。 もふもふに抱きしめられる日々。 嫉妬と優しさに包まれながら、ユナは少しずつ居場所を取り戻していく――。

オメガだと隠して地味なベータとして生きてきた俺が、なぜか学園最強で傲慢な次期公爵様と『運命の番』になって、強制的にペアを組まされる羽目に

水凪しおん
BL
この世界では、性は三つに分かたれる。支配者たるアルファ、それに庇護されるオメガ、そして大多数を占めるベータ。 誇り高き魔法使いユキは、オメガという性を隠し、ベータとして魔法学園の門をくぐった。誰にも見下されず、己の力だけで認められるために。 しかし彼の平穏は、一人の男との最悪の出会いによって打ち砕かれる。 学園の頂点に君臨する、傲慢不遜なアルファ――カイ・フォン・エーレンベルク。 反発しあう二人が模擬戦で激突したその瞬間、伝説の証『運命の印』が彼らの首筋に発現する。 それは、決して抗うことのできない魂の繋がり、『運命の番』の証だった。 「お前は俺の所有物だ」 傲慢に告げるカイと、それに激しく反発するユキ。 強制的にペアを組まされた学園対抗トーナメント『双星杯』を舞台に、二人の歯車は軋みを上げながらも回り出す。 孤独を隠す最強のアルファと、運命に抗う気高きオメガ。 これは、反発しあう二つの魂がやがて唯一無二のパートナーとなり、世界の理をも変える絆を結ぶまでの、愛と戦いの物語。

不吉な『影』の力で追放された僕、流れ着いた砂漠の国では『聖なる天蓋』と呼ばれ、若き王に『我が国の至宝だ』と溺愛されています

水凪しおん
BL
不吉な『影』の力を持って生まれたノア。家族に虐げられ、一族から追放された彼が流れ着いたのは、灼熱の太陽に苦しむ砂漠の国だった。 そこで彼の呪われたはずの力は、人々を救う『聖なる天蓋』と呼ばれる奇跡となる。 「君こそ我が国の至宝だ」 ――孤独だった青年の影が、太陽のように眩しい若き王に見初められ、その運命が色鮮やかに輝き出す。 虐げられた日陰者の青年が、唯一無二の愛を見つける、極甘BLファンタジー!

処理中です...