氷の騎士団長は運命の番を離さない~過労死した薬剤師、オメガとして転生し、知識チートで国と最愛の人を救う~

水凪しおん

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エピローグ「二人の未来に咲く花」

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 あれから、十年という歳月が流れた。
 エルミナ王国は、平和と繁栄を謳歌していた。僕が築いた医療制度は、国中に根付き、多くの民が、その恩恵を受けている。
 薬師学校は、今や、大陸でも有数の教育機関となり、多くの国から、留学生が集まるようになっていた。
 僕は、王宮筆頭薬師として、今も、研究と後進の育成に励んでいる。

 そして、アレクは。
 彼は、騎士団長を引退し、今は、国王陛下の右腕として、宰相の地位に就いていた。
 氷の騎士と呼ばれた頃の冷徹さは、すっかり影を潜め、民からは、「賢相(けんそう)」として、深い尊敬と信頼を集めている。
 僕たちの関係も、変わることはなかった。いや、年月を重ねるごとに、その絆は、さらに深く、強いものになっていった。

 僕たちは、王都の郊外に、小さな家を建てて暮らしている。
 公務から離れれば、僕たちは、ただのリオとアレクに戻る。庭で薬草を育て、一緒に料理をし、暖炉の前で語り合う。
 そんな、穏やかで、幸せな毎日。

 その日、僕は、久しぶりに、コニル村を訪れていた。
 僕を育ててくれたギド爺さんが、天寿を全うしたという知らせを受けたからだ。
 村は、僕がいた頃とは、比べ物にならないほど、豊かになっていた。
 衛生的な井戸が掘られ、小さな診療所も建てられている。子供たちの顔色も良く、村中に、明るい笑い声が響いていた。

 ギド爺さんの墓前に、僕が育てた薬草の花を供える。
『爺さん、見ていますか。僕は、あなたの言った通り、たくさんの人を救うことができましたよ』
 心の中で語りかける。爺さんの、優しい笑顔が、目に浮かぶようだった。

 墓参りを終え、村を歩いていると、一人の若い女性が、僕に駆け寄ってきた。
「もしかして……リオ様、ですか?」

「はい、そうですが……」
「まあ! やっぱり! 私です、アンナです! 覚えていらっしゃいますか?」
 見れば、そばかすの可愛い少女だった面影が、確かに残っている。
 僕が、この世界で、最初に救った命。

「アンナちゃん……! こんなに、大きくなって」
 彼女は、今、この村の診療所で、薬師として働いているのだという。
 僕が作った薬師学校の、卒業生だった。
「リオ様が、私の命を救ってくれたあの日から、私は、ずっと、あなたに憧れていました。いつか、あなたのような薬師になりたいって」
 彼女は、誇らしげに、そう言った。

 僕が蒔いた種が、こうして、新しい芽を出し、花を咲かせている。
 その事実が、僕の胸を、熱い感動で満たした。

 王都への帰り道、夕焼けに染まる空を見上げながら、僕は、これまでの道のりを、静かに振り返っていた。
 過労死という、最悪の結末から始まった、僕の第二の人生。
 それは、決して、平坦な道ではなかった。けれど、たくさんの出会いと、そして、かけがえのない一人の人との出会いが、僕の人生を、最高に幸せなものに変えてくれた。

 家に帰ると、アレクが、玄関で僕を待っていてくれた。
「おかえり、リオ」

「ただいま、アレク」
 彼は、僕の外套を受け取ると、僕を、優しく抱きしめた。
 彼の腕の中が、僕の、世界で一番、安心できる場所。

「ギド殿の墓参りは、済んだか」
「はい。それに、嬉しい再会もありました」
 僕は、彼に、アンナのことを話した。
 彼は、僕の話を、優しい眼差しで、黙って聞いてくれる。

「そうか。お前の想いは、確かに、次の世代に受け継がれているんだな」
「はい」
 僕たちは、リビングへ向かい、いつものように、ソファに並んで座った。

「アレク」
「ん?」
「僕、この世界に来て、本当によかった」
 心からの、偽らざる想いだった。
「あなたに、会えたから」
 僕がそう言うと、彼は、愛おしそうに、僕の頬に触れた。

「俺もだ、リオ。お前がいない人生など、もう、考えられない」
 僕たちは、自然に、唇を重ねた。
 それは、十年という歳月を経ても、色褪せることのない、深く、優しいキスだった。
 これからも、僕たちの穏やかな日々は続いていく。
 時には、困難なこともあるかもしれない。けれど、二人でなら、どんなことでも乗り越えていける。

 僕が書き上げる未来への処方箋。
 その最後には、きっとこう記すだろう
『愛する人と共に、幸せに生きていくこと』、と。

 窓の外では、僕たちが一緒に植えたハーブが、夕暮れの風に揺れ、優しい香りを、運んでいた。
 それは、僕たちの未来が、これからも、幸せに満ち溢れていることを、約束してくれるかのような、希望の香りだった。
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