隠れオメガの騎士は、極北の砦で秘密の野菜を作りたい~抑制剤が切れたら、冷徹王子に胃袋ごと溺愛されました~

水凪しおん

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第11話「襲撃と王子の激昂」

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 戦場は混沌を極めていた。
 だが、その中心で圧倒的な輝きを放つ存在があった。
 アレクセイだ。
 彼の振るう剣は、雷を纏い、一振りで十数体の魔物を消し炭に変えていく。

「雑魚が群れるな! 消え失せろ!」

 アレクセイの咆哮と共に、強烈な覇気が放たれ、周囲の魔物たちが恐怖で硬直する。
 最強のアルファとしての資質が、戦場を支配していた。
 だが、彼の神経は尖りきっていた。
 ルカの気配が、安全なはずの天幕から移動し、こちらへ近づいているのを感じ取ったからだ。

「馬鹿者! なぜ出てきた!」

 アレクセイが叫んだ瞬間、彼の死角から漆黒の影が飛び出した。
 先ほど畑で見かけた特殊部隊のリーダー格と思われる男だ。
 男は短剣を構え、アレクセイではなく、その背後から現れたルカを狙って跳躍した。

「見つけたぞ、豊穣の器!」

 男の手から放たれた魔法の鎖が、ルカに向かって伸びる。

「ルカッ!!」

 アレクセイは自分の目の前の敵を無視し、身を挺してルカの元へ飛び込んだ。
 だが、距離がある。間に合わない。
 鎖がルカの手足を縛り上げようとした、その時だった。

「――させない!」

 ルカは叫び、両手を地面に叩きつけた。
 その瞬間、地面から巨大な植物の根が噴出した。
 砦の石畳を突き破り、コンクリートのように硬い根が壁となって、魔法の鎖を弾き返したのだ。

「なっ……!?」

 襲撃者が驚愕する。
 ルカ自身も驚いていた。
 これは自分の意思ではない。お腹の子が、母親を守るためにルカの魔力を暴走させて、周囲の植物(おそらく地下茎で繋がっていた畑の野菜たち)を操ったのだ。

「グオォォォッ!」

 さらに、地面から生えたツルが襲撃者の足に絡みつき、彼を空中へ吊り上げた。
 ただの野菜のツルではない。鋼鉄のように硬く、魔力を帯びている。

「よくやった、ルカ!」

 その隙を見逃すアレクセイではない。
 雷光と共に移動した彼は、一瞬で襲撃者の間合いに踏み込み、その首元に剣を突きつけた。

「俺の番に、汚い手で触れようとした罪……万死に値する」

 冷徹な声と共に、剣閃が走る。
 襲撃者は悲鳴を上げる間もなく吹き飛ばされ、壁に激突して動かなくなった。

 アレクセイは血振りをすると、剣を収め、崩れ落ちそうになるルカを抱き止めた。

「無茶をしやがって……! 地下へ行けと言っただろう!」

 怒鳴り声には、隠しきれない安堵と恐怖が混じっていた。
 ルカはアレクセイの胸に顔を埋め、荒い息を吐いた。

「ごめんなさい……でも、地下に行ったら捕まってた気がして……」

「……お前の勘は正しい。今しがた、地下通路に侵入者がいたとの報告があった」

 アレクセイは強くルカを抱きしめた。
 震えているのは、ルカだけではない。アレクセイの腕も微かに震えていた。
 愛する者を失うかもしれないという恐怖。
 それが、最強の男をここまで揺さぶるのだ。

「もう離さない。俺の背中に張り付いていろ」

 アレクセイはルカを片腕で抱えたまま、再び剣を抜いた。
 周囲には、まだ残党の魔物たちが群がっている。
 だが、今の彼らに恐れるものは何もなかった。

「総員、反撃開始! 我が軍の勝利を、そして我が愛する者の安寧を、この剣で切り開く!」

 アレクセイの号令に、砦中の騎士たちが奮い立つ。
「うぉぉぉぉ!」
 叫び声が上がり、戦況は一気に逆転へと向かった。
 ルカはアレクセイの腕の中で、彼の放つ黄金の魔力に守られながら、不思議な光景を見ていた。
 飛び散る火花と血しぶきの中で、地面から次々と緑の芽が吹き出し、砦全体を覆うように花を咲かせていくのを。

「綺麗……」

 それは、死と破壊の場に生まれた、あまりにも不釣り合いな生命の奇跡だった。
 ルカのお腹の子が、戦場の死の気配を嫌い、浄化しようとしているかのようだった。

 だが、その力の放出は、ルカの体に最後の限界をもたらした。

「あっ……!」

 鋭い痛みが下腹部を走り、温かいものが脚の間を伝う。
 破水だ。

「殿、下……生まれる……!」

「なっ、今か!?」

 アレクセイが目を見開く。
 戦場のド真ん中で出産。
 前代未聞の事態に、さすがの王子も顔を引きつらせたが、すぐに覚悟を決めた表情になった。

「周りを固めろ! ここを死守する! ガルド、天幕を持ってこい! いや、結界を張る!」

 アレクセイはルカを抱え、安全な物陰へと滑り込んだ。
 周囲の植物たちが、まるでゆりかごを作るように二人の周りをドーム状に覆っていく。
 これはもう、野菜作りなんてレベルではない。
 伝説の「世界樹」の誕生にも似た、神話的な光景だった。
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