過労死転生、辺境で農業スローライフのはずが、不愛想な元騎士団長を餌付けして溺愛されてます

水凪しおん

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第6話「溶ける心と、初めての夜」

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 家路を急ぐ道中、僕とレオンハルトの間には一言も会話がなかった。ただ、固く繋がれた手だけが、お互いの存在を確かめ合っている。彼の大きな背中を見つめながら、僕の心臓は今にも破裂しそうなほど激しく脈打っていた。
 祭りの高揚感とアルコールのせいとはいえ、とんでもないことをしてしまった。後悔と、それ以上の期待が入り混じって、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
 ようやく見慣れた僕たちの小屋にたどり着く。レオンハルトは、僕の手を引いたまま中に入ると、振り返りざまに僕を壁に追い詰めた。
 ドン、と背中に硬い木の壁が当たる。目の前には、逆光で表情の読めない彼の顔。でも、その瞳に宿る熱だけは、暗闇の中でもはっきりと分かった。
「ユキナリ」
 低く、かすれた声が僕の名前を呼ぶ。
「……はい」
 答える声が、情けなく震えた。
「さっきのキス……どういう意味だ」
 まっすぐな問いかけに、僕は言葉に詰まる。どういう意味かなんて、自分でもよく分からない。ただ、彼に触れたいと、そう思っただけで……。
「……お前の気持ちを、聞かせろ」
 逃げ場はない。彼の真剣な瞳が、僕の答えを待っている。僕は観念して、覚悟を決めた。
「……好き、です。レオンハルトさんのことが」
 絞り出した声は、自分でも驚くほど小さかった。でも、静かな室内では、それははっきりと響いた。
「初めて会った時から、ずっと……あなたの不器用な優しさに、惹かれてました」
 言ってしまえば、あとはもうどうにでもなれ、という気持ちだった。もし、彼が僕のことを同じように思っていなかったとしても、この気持ちだけは伝えたかった。
 沈黙が、やけに長く感じられた。
 やがて、レオンハルトの大きなため息が聞こえた。
「……そうか」
 彼の反応に、僕の心臓が冷えていく。やっぱり、迷惑だっただろうか。男に好きだなんて言われて、気持ち悪かったに違いない。
「ごめんなさ……」
 謝罪の言葉を口にしようとした瞬間、強い力で唇を塞がれた。
 今度のキスは、さっきまでとは比べ物にならないほど激しかった。舌がこじ開けられ、僕の中を掻き回す。彼の焦燥と、長い間堰き止められていたであろう熱情が、洪水のように僕の中へと流れ込んでくる。息が苦しくて、彼の背中を叩くと、名残惜しそうに唇が離れた。
「はっ……ぁ……」
「……俺もだ」
 息も絶え絶えな僕に、レオンハルトが囁く。
「俺も、お前が好きだ。初めてお前の作ったスープを飲んだ日から……いや、もっと前から、お前の存在が気になっていた」
 彼の告白に、僕の目から涙がこぼれた。嬉しい。こんなに嬉しいと思ったのは、生まれて初めてかもしれない。
「俺は、騎士団を追われ、人を信じることをやめた。このまま誰とも関わらず、静かに朽ちていくつもりだった。だが、お前が……ユキナリが、俺の凍てついた心を溶かしてくれた」
 彼は僕の頬を優しく撫で、こぼれた涙を親指で拭う。
「お前は、俺の光だ。だから……もうどこにも行かせん。お前は、俺だけのものだ」
 その言葉は、呪縛のように甘く僕の心に染み渡った。
 レオンハルトは、まるで壊れ物を扱うかのように、そっと僕を抱き上げた。驚いて彼の首にしがみつくと、寝室へと運ばれる。粗末なベッドに優しく降ろされ、見下ろしてくる彼の瞳には、燃え盛るような独占欲が宿っていた。
「……怖いか?」
 僕の戸惑いを感じ取ったのか、彼が問う。僕は、ふるふると首を横に振った。怖くなんてない。むしろ、この人に全てを委ねたいと、心の底から思っていた。
 僕の答えに満足したようにうなずくと、彼はゆっくりと僕の服の紐に手をかけた。一枚、また一枚と脱がされていくたびに、夜の冷たい空気が肌を撫でる。けれど、すぐに彼の唇がその熱を上書きしていく。
 首筋に、鎖骨に、胸元に。彼の唇が触れるたびに、びくりと体が震え、甘い疼きが全身を駆け巡った。今まで感じたことのない感覚に、僕はただ彼のなすがままになるしかない。
 不器用な手つきで、でも、一つ一つの動きに愛情がこもっているのが分かる。彼は僕を傷つけないように、大切に、大切に扱ってくれていた。
 やがて、全てを曝け出された僕の体に、彼の熱が重ねられる。たくましい筋肉に覆われた硬い体。僕とは全く違う、男の体だ。その事実が、僕をさらに興奮させた。
「ユキナリ……愛している」
 耳元で囁かれた言葉と共に、僕の体は彼のものになった。初めての痛みと、それ以上の快感が僕を貫く。彼の動きに合わせて、軋むベッドの音と僕たちの喘ぎ声だけが、静かな夜に響き渡った。
 何度も求められ、与え続けた。彼の独占欲は留まることを知らず、僕が彼のものだと刻みつけるように、夜が明けるまで抱きしめ続けた。
 意識が蕩ける中で、僕は確かに感じていた。僕たちは、今、身も心も完全に一つになったのだと。
 この不愛想で、不器用で、でも誰よりも優しい人が、僕の運命の人なのだと。辺境の地で始まった僕の新しい人生は、彼の腕の中で、最高の幸せに満たされていくのだった。
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