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第7話「穏やかな日々と、広がる噂」
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初めてレオンハルトと結ばれた翌朝、僕は彼の逞しい腕の中で目を覚ました。すぐそばにある寝顔は、いつも僕が見ている険しい表情とは違い、どこか幼くて無防備だ。昨夜の激しさが嘘のように穏やかな寝息を立てている。
昨夜の出来事を思い出すと、顔から火が出そうなくらい熱くなった。僕の体には、彼がつけた痕がいくつも残っている。それは、僕が彼のものであるという、甘い証のようだった。
そっとベッドから抜け出そうとすると、腰に回された腕にぐっと力が込められ、引き戻された。
「……どこへ行く」
いつの間にか目を覚ましていたらしいレオンハルトが、寝ぼけ眼で僕を見つめている。その声は朝のせいで低く、色っぽく響いた。
「あ、朝食の準備を……」
「……まだいいだろう」
彼はそう言うと、僕を再び胸の中に閉じ込めた。彼の心臓の音が、背中から伝わってくる。その規則正しいリズムが、僕の心を不思議と落ち着かせた。
「レオン」
彼の名前を呼ぶと、少しだけ気恥ずかしい。昨日まで「レオンハルトさん」と呼んでいたのだから。
「これからは、そう呼んでくれ」
僕の心を見透かしたように、彼が言う。背後から抱きしめる腕に、さらに力がこもった。
「はい、レオン」
僕がそう答えると、彼は満足そうに僕のうなじに顔を埋めた。くすぐったくて身じろぎすると、ちゅ、と小さなリップ音が響く。もう、朝から心臓がもたない。
この日から、僕たちの関係ははっきりと変わった。恋人、という言葉がしっくりくる。レオンの溺愛っぷりは日に日に加速し、僕は少し戸惑いながらも、その温かい愛情に満たされる毎日を送っていた。
畑仕事をしている時も、彼は必ずそばにいて、僕が少しでも重いカゴを持とうとすればすぐに奪っていく。食事の時は、僕の皿に「これも食え」「栄養がある」と言いながら、おかずをどんどん乗せてくる。そして夜は――思い出すだけで顔が熱くなるけれど、毎晩のように求められ、彼の深い愛情に包まれた。
「もう、過保護すぎますよ、レオンは」
「お前は細すぎる。もっと肉をつけろ」
そんな会話も、今では日常茶飯事だ。彼の不器用な愛情表現が、僕にはたまらなく愛おしかった。
そんな穏やかな日々が続いていたある日、一人の行商人が僕たちの小屋を訪れた。近くの村で、僕の作る野菜がとてつもなく美味しいと評判になっているのを聞きつけ、わざわざ足を運んでくれたらしい。
「こ、これは……!」
行商人の男は、僕が差し出したトマトを一口かじるなり、驚きのあまり目を見開いた。
「信じられん! こんなに甘く、瑞々しいトマトは王都の一級品でもお目にかかれないぞ!」
彼は興奮した様子で、僕の畑で育っている野菜を次々と鑑定し始めた。その結果、僕の作る作物はどれも、通常の物より遥かに多くの魔力を含んでいることが分かった。特に、僕が森で見つけて畑で栽培していた数種類の薬草は、回復ポーションの主原料として、破格の値段で取引される代物だという。
「お願いだ、兄さん! あんたの作る作物を、俺に売ってくれないか! もちろん、言い値で構わん!」
行商人は、目に涙を浮かべんばかりの勢いで僕に頭を下げた。
スローライフを送るつもりだったから、あまりお金儲けに興味はなかったけれど、生活が豊かになるに越したことはない。僕はレオンと相談し、収穫物の一部を彼に卸すことに決めた。
その日を境に、僕たちの生活は少しずつ変わり始めた。行商人が定期的に訪れるようになり、彼の持ってくる珍しい調味料や生活用品のおかげで、僕の料理の幅も、生活の質も向上した。
そして、彼が運ぶ「辺境の奇跡の作物」の噂は、瞬く間に近隣の街や村へと広まっていった。僕の野菜を求めて、辺境の村を訪れる人が増え、寂れた村は徐々に活気を取り戻し始めた。
村の人たちからはとても感謝され、僕はすっかり村の人気者になってしまった。
「ユキナリのおかげで、村が潤ったよ」
「いつも美味しい野菜をありがとう!」
そんな言葉をかけられるのは、少し照れくさいけれど、素直に嬉しかった。
僕の【万能農具】の力が、誰かの役に立っている。それは、ブラック企業で歯車のように働いていた頃には感じられなかった、確かなやりがいと充実感を僕に与えてくれた。
もちろん、僕の隣にはいつもレオンがいてくれる。僕が村の人たちと話している時、彼は少し離れた場所から、厳しいようでいて、どこか誇らしげな顔で僕を見守っていた。
夜、二人きりになると、彼は僕を強く抱きしめて言うのだ。
「あまり、他の男に笑顔を見せるな」
嫉妬深い彼のそんな一面すら、僕には愛おしくてたまらない。
穏やかで、満ち足りた日々。愛する人と共に、大地を耕し、美味しいものを食べる。これ以上ないほどの幸せを、僕は確かにこの手で掴んでいた。
この幸せが、永遠に続けばいい。
星空の下、レオンの腕の中で、僕は心からそう願った。
だが、この小さくも確かな幸せに、黒い影が忍び寄っていることを、この時の僕はまだ知らなかった。僕の作る作物の噂は、僕が思うよりもずっと遠くまで、そして、最も届いてほしくない者たちの耳にまで、届いてしまっていたのだ。
昨夜の出来事を思い出すと、顔から火が出そうなくらい熱くなった。僕の体には、彼がつけた痕がいくつも残っている。それは、僕が彼のものであるという、甘い証のようだった。
そっとベッドから抜け出そうとすると、腰に回された腕にぐっと力が込められ、引き戻された。
「……どこへ行く」
いつの間にか目を覚ましていたらしいレオンハルトが、寝ぼけ眼で僕を見つめている。その声は朝のせいで低く、色っぽく響いた。
「あ、朝食の準備を……」
「……まだいいだろう」
彼はそう言うと、僕を再び胸の中に閉じ込めた。彼の心臓の音が、背中から伝わってくる。その規則正しいリズムが、僕の心を不思議と落ち着かせた。
「レオン」
彼の名前を呼ぶと、少しだけ気恥ずかしい。昨日まで「レオンハルトさん」と呼んでいたのだから。
「これからは、そう呼んでくれ」
僕の心を見透かしたように、彼が言う。背後から抱きしめる腕に、さらに力がこもった。
「はい、レオン」
僕がそう答えると、彼は満足そうに僕のうなじに顔を埋めた。くすぐったくて身じろぎすると、ちゅ、と小さなリップ音が響く。もう、朝から心臓がもたない。
この日から、僕たちの関係ははっきりと変わった。恋人、という言葉がしっくりくる。レオンの溺愛っぷりは日に日に加速し、僕は少し戸惑いながらも、その温かい愛情に満たされる毎日を送っていた。
畑仕事をしている時も、彼は必ずそばにいて、僕が少しでも重いカゴを持とうとすればすぐに奪っていく。食事の時は、僕の皿に「これも食え」「栄養がある」と言いながら、おかずをどんどん乗せてくる。そして夜は――思い出すだけで顔が熱くなるけれど、毎晩のように求められ、彼の深い愛情に包まれた。
「もう、過保護すぎますよ、レオンは」
「お前は細すぎる。もっと肉をつけろ」
そんな会話も、今では日常茶飯事だ。彼の不器用な愛情表現が、僕にはたまらなく愛おしかった。
そんな穏やかな日々が続いていたある日、一人の行商人が僕たちの小屋を訪れた。近くの村で、僕の作る野菜がとてつもなく美味しいと評判になっているのを聞きつけ、わざわざ足を運んでくれたらしい。
「こ、これは……!」
行商人の男は、僕が差し出したトマトを一口かじるなり、驚きのあまり目を見開いた。
「信じられん! こんなに甘く、瑞々しいトマトは王都の一級品でもお目にかかれないぞ!」
彼は興奮した様子で、僕の畑で育っている野菜を次々と鑑定し始めた。その結果、僕の作る作物はどれも、通常の物より遥かに多くの魔力を含んでいることが分かった。特に、僕が森で見つけて畑で栽培していた数種類の薬草は、回復ポーションの主原料として、破格の値段で取引される代物だという。
「お願いだ、兄さん! あんたの作る作物を、俺に売ってくれないか! もちろん、言い値で構わん!」
行商人は、目に涙を浮かべんばかりの勢いで僕に頭を下げた。
スローライフを送るつもりだったから、あまりお金儲けに興味はなかったけれど、生活が豊かになるに越したことはない。僕はレオンと相談し、収穫物の一部を彼に卸すことに決めた。
その日を境に、僕たちの生活は少しずつ変わり始めた。行商人が定期的に訪れるようになり、彼の持ってくる珍しい調味料や生活用品のおかげで、僕の料理の幅も、生活の質も向上した。
そして、彼が運ぶ「辺境の奇跡の作物」の噂は、瞬く間に近隣の街や村へと広まっていった。僕の野菜を求めて、辺境の村を訪れる人が増え、寂れた村は徐々に活気を取り戻し始めた。
村の人たちからはとても感謝され、僕はすっかり村の人気者になってしまった。
「ユキナリのおかげで、村が潤ったよ」
「いつも美味しい野菜をありがとう!」
そんな言葉をかけられるのは、少し照れくさいけれど、素直に嬉しかった。
僕の【万能農具】の力が、誰かの役に立っている。それは、ブラック企業で歯車のように働いていた頃には感じられなかった、確かなやりがいと充実感を僕に与えてくれた。
もちろん、僕の隣にはいつもレオンがいてくれる。僕が村の人たちと話している時、彼は少し離れた場所から、厳しいようでいて、どこか誇らしげな顔で僕を見守っていた。
夜、二人きりになると、彼は僕を強く抱きしめて言うのだ。
「あまり、他の男に笑顔を見せるな」
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穏やかで、満ち足りた日々。愛する人と共に、大地を耕し、美味しいものを食べる。これ以上ないほどの幸せを、僕は確かにこの手で掴んでいた。
この幸せが、永遠に続けばいい。
星空の下、レオンの腕の中で、僕は心からそう願った。
だが、この小さくも確かな幸せに、黒い影が忍び寄っていることを、この時の僕はまだ知らなかった。僕の作る作物の噂は、僕が思うよりもずっと遠くまで、そして、最も届いてほしくない者たちの耳にまで、届いてしまっていたのだ。
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