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第3話「呪われた領地への訪問」
魔竜公ダリウスの心に小さなさざ波を立てることに成功してから数日後、俺は次の一手を打つべく、執務室で彼の領地に関する資料を読み込んでいた。
彼の領地、ナイトレイヴン公爵領の北端には「嘆きの森」と呼ばれる広大な森が存在する。
古代の呪いがかかっているとされ瘴気が立ち込め、凶暴な魔物が跋扈する危険な場所だ。
ゲームではこの森の呪いがダリウスの魔力を不安定にさせ、彼の孤立をさらに深める原因となっているという設定だ。
そしてこの呪いを浄化するイベントこそが、ダリウスの信頼を得るための重要なターニングポイントなのだ。
「よし、これで行こう」
俺は計画をまとめると宰相として公式に「嘆きの森の瘴気問題に関する現地調査」を布告し、俺自身が調査団を率いてナイトレイヴン領を訪問することを決定した。
もちろん表向きは国民の安全と国土の安定のためという大義名分を掲げている。
当然、貴族たちは騒然となった。
あの悪徳宰相が自ら危険な魔竜公の領地へ赴くというのだから。
ある者は俺の正気を疑い、またある者は何か裏があると勘繰った。
だが宰相である俺の決定を覆すことは誰にもできない。
数日後、最小限の護衛だけを連れた俺は、ナイトレイヴン領の古城の門を叩いていた。
重々しい城門が開き、現れたのは当主であるダリウス本人だった。
彼はいつもの無表情で俺を見下ろすと、低い声で言った。
「……何の用だ、宰相閣下。瘴気の調査など建前だろう」
彼の赤い瞳は俺の魂の奥底まで見透かしているかのようだ。
小手先の嘘は通用しない。
「ええ、その通りです。森の調査は目的の一つに過ぎません。本当の目的は貴方と話をすることです、ダリウス公爵」
俺が彼の名をはっきりと口にすると、彼の眉がわずかに動いた。
「俺と?」
「ええ。この国の宰相として、強大な力を持つ貴方との連携は不可欠だと判断しました。嘆きの森の問題は、そのための最初の共同作業といきましょう」
俺はまっすぐに彼の瞳を見つめ返して言い放った。
ダリウスはしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐くと、背を向けて城の中へと歩き始めた。
「……好きにしろ」
拒絶ではない。
それは暗黙の許可だった。
城の中に通された俺は、その内装の殺風景さに驚いた。
壮麗な外観とは裏腹に、中はほとんど装飾がなく、ただだだっ広く静まり返っている。
まるで長い間、主の帰りを待つ巨大な柩のようだ。
彼の孤独がこの城そのものに表れている気がした。
案内された部屋で俺は早速、用意してきた森の浄化計画について説明を始めた。
「森の呪いの中核は、古代の魔術的な結界が弱まっていることに起因します。この結界を修復することができれば、瘴気は自然と消え去るはずです」
これもゲームで得た知識だ。
俺が広げた古い地図に記されたポイントを指し示しながら説明すると、ダリウスは腕を組んだまま、疑わしげな目で俺を見ていた。
「戯言を。その結界とやらをどうやって修復すると言うのだ」
「ええ。それには特殊な魔力を持つ者の協力が不可欠となります。具体的に言えば、竜の血を引く貴方の魔力が」
俺の言葉にダリウスの周りの空気がピリッと張り詰めた。
竜の血は彼にとって最大の力であり、同時に最大のコンプレックスでもある。
軽々しく触れていい話題ではない。
「……お前はどこまで知っている」
地を這うような声で彼は問うた。
その瞳にはあからさまな警戒と、わずかな好奇心が混じり合っているように見えた。
「宰相として知るべきことは。貴方の力は呪いではなく、この国を守るための祝福となり得ます。俺はそれを証明したいのです」
俺は一歩も引かなかった。
この交渉は俺の命運だけでなく、彼の未来にも関わっているのだから。
ダリウスは長い沈黙の後、俺から視線を逸らした。
「……勝手にしろ。だが俺の領地で死んでも知らんぞ」
それは彼の不器用な同意の言葉だった。
こうして俺はラスボスである魔竜公の懐に、さらに一歩深く踏み込むことに成功した。
呪われた森の先に、俺が生き延びる道があると信じて。
彼の領地、ナイトレイヴン公爵領の北端には「嘆きの森」と呼ばれる広大な森が存在する。
古代の呪いがかかっているとされ瘴気が立ち込め、凶暴な魔物が跋扈する危険な場所だ。
ゲームではこの森の呪いがダリウスの魔力を不安定にさせ、彼の孤立をさらに深める原因となっているという設定だ。
そしてこの呪いを浄化するイベントこそが、ダリウスの信頼を得るための重要なターニングポイントなのだ。
「よし、これで行こう」
俺は計画をまとめると宰相として公式に「嘆きの森の瘴気問題に関する現地調査」を布告し、俺自身が調査団を率いてナイトレイヴン領を訪問することを決定した。
もちろん表向きは国民の安全と国土の安定のためという大義名分を掲げている。
当然、貴族たちは騒然となった。
あの悪徳宰相が自ら危険な魔竜公の領地へ赴くというのだから。
ある者は俺の正気を疑い、またある者は何か裏があると勘繰った。
だが宰相である俺の決定を覆すことは誰にもできない。
数日後、最小限の護衛だけを連れた俺は、ナイトレイヴン領の古城の門を叩いていた。
重々しい城門が開き、現れたのは当主であるダリウス本人だった。
彼はいつもの無表情で俺を見下ろすと、低い声で言った。
「……何の用だ、宰相閣下。瘴気の調査など建前だろう」
彼の赤い瞳は俺の魂の奥底まで見透かしているかのようだ。
小手先の嘘は通用しない。
「ええ、その通りです。森の調査は目的の一つに過ぎません。本当の目的は貴方と話をすることです、ダリウス公爵」
俺が彼の名をはっきりと口にすると、彼の眉がわずかに動いた。
「俺と?」
「ええ。この国の宰相として、強大な力を持つ貴方との連携は不可欠だと判断しました。嘆きの森の問題は、そのための最初の共同作業といきましょう」
俺はまっすぐに彼の瞳を見つめ返して言い放った。
ダリウスはしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐くと、背を向けて城の中へと歩き始めた。
「……好きにしろ」
拒絶ではない。
それは暗黙の許可だった。
城の中に通された俺は、その内装の殺風景さに驚いた。
壮麗な外観とは裏腹に、中はほとんど装飾がなく、ただだだっ広く静まり返っている。
まるで長い間、主の帰りを待つ巨大な柩のようだ。
彼の孤独がこの城そのものに表れている気がした。
案内された部屋で俺は早速、用意してきた森の浄化計画について説明を始めた。
「森の呪いの中核は、古代の魔術的な結界が弱まっていることに起因します。この結界を修復することができれば、瘴気は自然と消え去るはずです」
これもゲームで得た知識だ。
俺が広げた古い地図に記されたポイントを指し示しながら説明すると、ダリウスは腕を組んだまま、疑わしげな目で俺を見ていた。
「戯言を。その結界とやらをどうやって修復すると言うのだ」
「ええ。それには特殊な魔力を持つ者の協力が不可欠となります。具体的に言えば、竜の血を引く貴方の魔力が」
俺の言葉にダリウスの周りの空気がピリッと張り詰めた。
竜の血は彼にとって最大の力であり、同時に最大のコンプレックスでもある。
軽々しく触れていい話題ではない。
「……お前はどこまで知っている」
地を這うような声で彼は問うた。
その瞳にはあからさまな警戒と、わずかな好奇心が混じり合っているように見えた。
「宰相として知るべきことは。貴方の力は呪いではなく、この国を守るための祝福となり得ます。俺はそれを証明したいのです」
俺は一歩も引かなかった。
この交渉は俺の命運だけでなく、彼の未来にも関わっているのだから。
ダリウスは長い沈黙の後、俺から視線を逸らした。
「……勝手にしろ。だが俺の領地で死んでも知らんぞ」
それは彼の不器用な同意の言葉だった。
こうして俺はラスボスである魔竜公の懐に、さらに一歩深く踏み込むことに成功した。
呪われた森の先に、俺が生き延びる道があると信じて。
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