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第9話「愛しき者のために、神は人の姿を得る」
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俺の悲鳴を聞きつけて駆けつけたフェンリルの姿は、まさに怒れる神そのものだった。
全身の毛を逆立て、神聖な気――神気が嵐のように荒れ狂っている。その黄金の瞳は燃えるような怒りに満ち、村の若者たちを殺さんばかりに睨みつけていた。
「ひぃぃっ……!」
若者たちは神獣の放つ圧倒的な威圧感の前に腰を抜かし、その場にへたり込んでしまった。
誰もが死を覚悟しただろう。
だが、その中の一人が、恐怖のあまり、最も愚かな行動に出た。
へたり込んだまま、懐から取り出したナイフを、俺の首筋に突きつけたのだ。
「こ、こいつを返してほしければ、俺たちに手を出すな!」
震える声で叫ぶ若者。その刃の切っ先が、俺の白い首筋に触れ、ぷつりと皮膚を裂いた。
つ、と赤い線が走り、血が一筋、流れ落ちる。
「―――っ!」
それを見た瞬間、フェンリルの怒りは頂点に達した。
しかし、彼の身に起きたのは、破壊の衝動ではなかった。
まばゆい光が、フェンリルの巨体を包み込んだのだ。
それは、太陽が地上に降りてきたかのような、あまりに強く、神々しい光。
若者たちも、俺も、思わず目を細める。
光の中で、巨大な狼のシルエットが、みるみるうちに収縮していくのが見えた。
そして、光がふっと収まった時――。
そこに立っていたのは、もはや白狼の神獣ではなかった。
風に、絹のようにしなやかな銀の長髪をなびかせ、黄金の瞳を鋭く光らせた、一人の青年。
人間で言えば、二十代前半だろうか。すらりとした長身に、野性的でありながら、どこか神聖さも感じさせる、整いすぎた顔立ち。今まで身に纏っていた威圧感はそのままに、しかしその姿は、あまりにも美しかった。
「―――俺の番(つがい)に、何をしている」
初めて発せられた、人間の声。
それは、狼の時とは比べ物にならないほど明瞭で、低く、しかし凛とした威厳に満ちていた。
若者たちは、目の前で起きた超常現象に、完全に思考を停止させていた。
人型となったフェンリルは、彼らが反応するよりも早く、瞬く間に距離を詰め、俺の腕を掴んでいた若者の手を払い除ける。
そして、そのまま俺の身体を奪い返すと、その腕の中に、優しく、しかし力強く抱きしめた。
「フェン……リル…様…?」
「もう大丈夫だ、ユキ」
初めて感じる、人としての温もり。毛皮とは違う、硬く、それでいて優しい筋肉の感触。
俺の背中に回された腕の力強さに、今まで張り詰めていた緊張の糸が、ぷつりと切れた。
驚きと、安堵と、そして言いようのない愛しさが込み上げてきて、俺は彼の胸に顔をうずめ、子供のように声を上げて泣いた。
「うわあああぁぁ……!よかった……怖かった……!」
「すまない。遅くなった」
フェンリルは、泣きじゃくる俺の頭を、大きな手で優しく撫でてくれる。
その仕草一つ一つが、今までとは違う、確かな熱を持っていた。
正気を取り戻した若者たちは、目の前の美しい青年が、あの神獣フェンリルであると理解し、ただただ震えながら平伏するしかなかった。
「も、申し訳……ございません……!」
フェンリルは俺を抱きしめたまま、彼らに冷たい視線を向ける。
「二度と、ユキに近づくな。そして、この森を侵すな。……消えろ」
その一言は、絶対的な力を持つ王の命令だった。
若者たちは這うようにして立ち上がると、一目散に村へと逃げ帰っていった。
嵐のように現れた招かれざる客が去り、森には再び、静寂が戻る。
フェンリルは、それでも俺を抱きしめる腕を、離そうとはしなかった。
全身の毛を逆立て、神聖な気――神気が嵐のように荒れ狂っている。その黄金の瞳は燃えるような怒りに満ち、村の若者たちを殺さんばかりに睨みつけていた。
「ひぃぃっ……!」
若者たちは神獣の放つ圧倒的な威圧感の前に腰を抜かし、その場にへたり込んでしまった。
誰もが死を覚悟しただろう。
だが、その中の一人が、恐怖のあまり、最も愚かな行動に出た。
へたり込んだまま、懐から取り出したナイフを、俺の首筋に突きつけたのだ。
「こ、こいつを返してほしければ、俺たちに手を出すな!」
震える声で叫ぶ若者。その刃の切っ先が、俺の白い首筋に触れ、ぷつりと皮膚を裂いた。
つ、と赤い線が走り、血が一筋、流れ落ちる。
「―――っ!」
それを見た瞬間、フェンリルの怒りは頂点に達した。
しかし、彼の身に起きたのは、破壊の衝動ではなかった。
まばゆい光が、フェンリルの巨体を包み込んだのだ。
それは、太陽が地上に降りてきたかのような、あまりに強く、神々しい光。
若者たちも、俺も、思わず目を細める。
光の中で、巨大な狼のシルエットが、みるみるうちに収縮していくのが見えた。
そして、光がふっと収まった時――。
そこに立っていたのは、もはや白狼の神獣ではなかった。
風に、絹のようにしなやかな銀の長髪をなびかせ、黄金の瞳を鋭く光らせた、一人の青年。
人間で言えば、二十代前半だろうか。すらりとした長身に、野性的でありながら、どこか神聖さも感じさせる、整いすぎた顔立ち。今まで身に纏っていた威圧感はそのままに、しかしその姿は、あまりにも美しかった。
「―――俺の番(つがい)に、何をしている」
初めて発せられた、人間の声。
それは、狼の時とは比べ物にならないほど明瞭で、低く、しかし凛とした威厳に満ちていた。
若者たちは、目の前で起きた超常現象に、完全に思考を停止させていた。
人型となったフェンリルは、彼らが反応するよりも早く、瞬く間に距離を詰め、俺の腕を掴んでいた若者の手を払い除ける。
そして、そのまま俺の身体を奪い返すと、その腕の中に、優しく、しかし力強く抱きしめた。
「フェン……リル…様…?」
「もう大丈夫だ、ユキ」
初めて感じる、人としての温もり。毛皮とは違う、硬く、それでいて優しい筋肉の感触。
俺の背中に回された腕の力強さに、今まで張り詰めていた緊張の糸が、ぷつりと切れた。
驚きと、安堵と、そして言いようのない愛しさが込み上げてきて、俺は彼の胸に顔をうずめ、子供のように声を上げて泣いた。
「うわあああぁぁ……!よかった……怖かった……!」
「すまない。遅くなった」
フェンリルは、泣きじゃくる俺の頭を、大きな手で優しく撫でてくれる。
その仕草一つ一つが、今までとは違う、確かな熱を持っていた。
正気を取り戻した若者たちは、目の前の美しい青年が、あの神獣フェンリルであると理解し、ただただ震えながら平伏するしかなかった。
「も、申し訳……ございません……!」
フェンリルは俺を抱きしめたまま、彼らに冷たい視線を向ける。
「二度と、ユキに近づくな。そして、この森を侵すな。……消えろ」
その一言は、絶対的な力を持つ王の命令だった。
若者たちは這うようにして立ち上がると、一目散に村へと逃げ帰っていった。
嵐のように現れた招かれざる客が去り、森には再び、静寂が戻る。
フェンリルは、それでも俺を抱きしめる腕を、離そうとはしなかった。
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