捨てられたオメガの参謀、野良犬王子に拾われる。言葉の魔法で選挙に勝ったら、次期国王に溺愛されて逃げられません!

水凪しおん

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第11話「牙と誇り」

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 コウガの登場に、倉庫内の空気が一変した。

 それは単なる恐怖ではない。生物としての格の違いを魂に刻み込まれるような、本能的な畏怖。

 ジェラルドの雇ったゴロツキたちは、アルファの威圧に当てられ、膝を震わせて後ずさった。ベータである彼らでさえこうなのだ。当事者であるジェラルドの顔色は、蝋のように白くなっていた。

「な、なぜここが……警察はどうした! まだ到着していないはずだ!」

「警察? そんなまどろっこしいモン待ってられるか。俺が直接来た」

 コウガは一歩踏み出した。

 ただ歩くだけで、周囲の空気が重くなる。

 彼は武器など持っていない。その身一つが、最強の凶器だった。

「や、やれ! 殺せ! 撃ち殺せ!」

 ジェラルドが金切り声を上げる。

 一人の男がナイフを構えてコウガに飛びかかった。

 だが、コウガは視線すら向けなかった。

 男が間合いに入った瞬間、コウガの裏拳が閃く。

 ゴッ、という鈍い音と共に、男はボロ雑巾のように壁まで吹き飛ばされた。

「……遅くなったな、ミナト」

 コウガは倒れた男たちを跨いで、俺の元へ歩み寄った。

 その目は、先ほどの修羅のような険しさから一転、痛ましいほどに優しく細められていた。

「怪我はないか。……頬が腫れているな。あいつか?」

「大したことありません。それより、こんな所に一人で来て、もし写真でも撮られたら……」

「まだそんなことを言っているのか」

 コウガは俺を縛っていたロープを引きちぎると、俺を抱き上げた。

 お姫様抱っこだ。

 恥ずかしさで抗議しようとしたが、彼の腕の強さと温もりに、言葉が出なかった。

「ま、待て! コウガ!」

 ジェラルドが腰を抜かしたまま、震える手でスマートフォンを向けた。

「こ、これを生配信しているんだぞ! お前がオメガを抱えている姿が全国に流れる! 政治生命の終わりだ!」

「……そうか」

 コウガは足を止め、カメラに向かってゆっくりと顔を向けた。

 逃げも隠れもしない。

 堂々とした、王者の風格。

「国民よ、よく見ておけ。これが俺だ」

 コウガはカメラ越しに、国中の人々に向かって語りかけた。

「俺は、この男を愛している。彼はオメガだ。だが、それがどうした? 彼は俺よりも賢く、俺よりも勇敢で、誰よりもこの国を愛している。性別や身分がなんだ。そんなくだらない物差しで、人の価値を決めつける時代はもう終わりだ!」

 コウガは俺を強く抱き締め直した。

「俺はこのミナトをパートナーとして選ぶ。文句がある奴はかかってこい。俺の愛も、この国の未来も、誰にも指図はさせない!」

 宣言だった。

 それは政治的な演説ではなく、一人の雄としての、魂の叫びだった。

 ジェラルドは口をパクパクとさせ、スマートフォンを取り落とした。

 画面の向こうのコメント欄が、賛否両論、驚愕と称賛の嵐で埋め尽くされていることなど知る由もない。

 ただ、コウガの目には、俺しか映っていなかった。

「行くぞ、ミナト。家に帰る」

 コウガはジェラルドを一瞥もしないまま、背を向けて歩き出した。

 外からは、ようやく駆けつけたパトカーのサイレンが聞こえてきた。

 俺は彼の胸に顔を埋め、こらえきれずに涙を流した。

 この人は、本当に馬鹿だ。

 そして、世界で一番かっこいい、俺のヒーローだ。
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