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第3話「雪原の洗礼と白い獣」
王都を出て一週間。俺は北へ向かう乗合馬車を乗り継ぎ、ついに雪深い国境の村までたどり着いていた。
ここから先は、馬車も通れない銀世界だ。
防寒具を重ね着し、スノーブーツの紐をきつく締める。吐く息は一瞬で凍りつきそうなほど冷たいが、リュックの重みと腰に下げたフライパンが俺を勇気づけてくれる。
最初の目標は、『幻の雪米』を手に入れること。
古書によれば、それは雪山の洞窟の奥深く、氷の精霊が守る泉のほとりに自生しているという。
「寒い……想像以上だ」
膝まで埋まる雪をかき分けながら進む。体力には自信があったはずの厨房仕事も、自然の猛威の前では無力に等しい。
風が唸りを上げ、視界を奪う。
遭難という二文字が頭をよぎったその時、目の前の雪山が不自然に盛り上がった。
ズズン、と地響きがする。
雪煙の中から現れたのは、巨大な白熊のような魔獣だった。ただの熊ではない。背中から氷柱のような棘が生え、目は赤く光っている。
「う、嘘だろ……」
俺は腰のフライパンを構えたが、相手は体長三メートルを超える化け物だ。調理器具で勝てる相手ではない。
魔獣が大きく口を開け、咆哮した。その衝撃波だけで体が吹き飛ばされ、俺は雪の上に無様に転がる。
終わった。
そう思った瞬間、俺のリュックから甘い香りが漂った。
旅の保存食として持ってきた、特製の蜂蜜漬け木の実のタルトだ。衝撃で容器の蓋が開いてしまったらしい。
魔獣の動きが止まる。
赤い瞳が、俺ではなくリュックの方を凝視し、巨大な鼻をヒクヒクさせている。
『まさか、腹が減っているのか?』
俺は咄嗟の判断で、タルトを掴み出し、魔獣の方へと放り投げた。
魔獣は空中でそれを器用にキャッチし、バリバリと音を立てて咀嚼した。次の瞬間、その凶暴だった顔が、まるで猫のように恍惚として緩んだではないか。
「グルルゥ……」
もっと寄越せ、と言わんばかりに鼻を鳴らす。
俺は震える手で、残りのおにぎりや干し肉を取り出した。
料理人としての本能が叫ぶ。こいつは敵じゃない。空腹の客だ。
俺はその場で携帯コンロを取り出し、雪を溶かしてお湯を沸かすと、干し肉と乾燥野菜を入れた即席スープを作り始めた。
温かな湯気が立ち上ると、魔獣はおとなしく俺の目の前に座り込んだ。まるで餌を待つ大型犬だ。
「……お待たせ。熱いから気をつけて」
鍋ごと差し出すと、魔獣は一気にそれを飲み干した。そして、満足げにゲップをすると、俺の顔をザラザラした舌で舐め回した。
どうやら気に入られたらしい。
魔獣は俺の前に背中を向け、しゃがみ込んだ。乗れ、と言っているのだろうか?
恐る恐るその背中にまたがると、魔獣は驚くべき速さで雪原を駆け出した。風を切り裂き、険しい斜面をものともせずに進んでいく。
俺は必死にしがみつきながら、思わぬ幸運に感謝した。
料理の腕が、剣よりも役に立つこともある。
この「白い獣」の背に乗って、俺は目的の洞窟へと一気に近づいていった。
ここから先は、馬車も通れない銀世界だ。
防寒具を重ね着し、スノーブーツの紐をきつく締める。吐く息は一瞬で凍りつきそうなほど冷たいが、リュックの重みと腰に下げたフライパンが俺を勇気づけてくれる。
最初の目標は、『幻の雪米』を手に入れること。
古書によれば、それは雪山の洞窟の奥深く、氷の精霊が守る泉のほとりに自生しているという。
「寒い……想像以上だ」
膝まで埋まる雪をかき分けながら進む。体力には自信があったはずの厨房仕事も、自然の猛威の前では無力に等しい。
風が唸りを上げ、視界を奪う。
遭難という二文字が頭をよぎったその時、目の前の雪山が不自然に盛り上がった。
ズズン、と地響きがする。
雪煙の中から現れたのは、巨大な白熊のような魔獣だった。ただの熊ではない。背中から氷柱のような棘が生え、目は赤く光っている。
「う、嘘だろ……」
俺は腰のフライパンを構えたが、相手は体長三メートルを超える化け物だ。調理器具で勝てる相手ではない。
魔獣が大きく口を開け、咆哮した。その衝撃波だけで体が吹き飛ばされ、俺は雪の上に無様に転がる。
終わった。
そう思った瞬間、俺のリュックから甘い香りが漂った。
旅の保存食として持ってきた、特製の蜂蜜漬け木の実のタルトだ。衝撃で容器の蓋が開いてしまったらしい。
魔獣の動きが止まる。
赤い瞳が、俺ではなくリュックの方を凝視し、巨大な鼻をヒクヒクさせている。
『まさか、腹が減っているのか?』
俺は咄嗟の判断で、タルトを掴み出し、魔獣の方へと放り投げた。
魔獣は空中でそれを器用にキャッチし、バリバリと音を立てて咀嚼した。次の瞬間、その凶暴だった顔が、まるで猫のように恍惚として緩んだではないか。
「グルルゥ……」
もっと寄越せ、と言わんばかりに鼻を鳴らす。
俺は震える手で、残りのおにぎりや干し肉を取り出した。
料理人としての本能が叫ぶ。こいつは敵じゃない。空腹の客だ。
俺はその場で携帯コンロを取り出し、雪を溶かしてお湯を沸かすと、干し肉と乾燥野菜を入れた即席スープを作り始めた。
温かな湯気が立ち上ると、魔獣はおとなしく俺の目の前に座り込んだ。まるで餌を待つ大型犬だ。
「……お待たせ。熱いから気をつけて」
鍋ごと差し出すと、魔獣は一気にそれを飲み干した。そして、満足げにゲップをすると、俺の顔をザラザラした舌で舐め回した。
どうやら気に入られたらしい。
魔獣は俺の前に背中を向け、しゃがみ込んだ。乗れ、と言っているのだろうか?
恐る恐るその背中にまたがると、魔獣は驚くべき速さで雪原を駆け出した。風を切り裂き、険しい斜面をものともせずに進んでいく。
俺は必死にしがみつきながら、思わぬ幸運に感謝した。
料理の腕が、剣よりも役に立つこともある。
この「白い獣」の背に乗って、俺は目的の洞窟へと一気に近づいていった。
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