虐げられΩの僕は、貢物として冷酷非情な氷血皇帝に嫁いだはずが、どうやら万に一つの「運命の番」だったらしく、過保護に溺愛されています

水凪しおん

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第2話:氷の皇帝

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 ガルディア帝国の帝都は、ルナリアとは比べ物にならないほど壮大で、活気に満ちていた。しかし、人々が僕の乗る馬車に向ける視線は、好奇心と、そして侮蔑が入り混じっていた。小国から来た、貢物のΩ。その視線が、僕の心を針で刺すように痛めつける。

 皇宮は、天を衝くほどの白亜の城だった。あまりに壮麗で、豪華絢爛。けれど、その美しさは人を寄せ付けない冷たさを放っていた。まるで巨大な氷の彫刻のようだ。磨き上げられた床に映る自分の姿が、あまりにもみすぼらしくて、消えてしまいたかった。

 通された謁見の間は、だだっ広く、静寂に満ちていた。高い天井から吊るされた巨大なシャンデリアだけが、きらきらと光を放っている。その光の元、玉座に一人の男が座っていた。
 彼が、皇帝カイロス。

 息を、呑んだ。
 噂以上の存在感だった。漆黒の髪は夜の闇を溶かしたようで、鍛え上げられた体躯は、玉座に座っていてもなお威圧感を放っている。そして、何よりも目を引くのは、その瞳。
 射抜くような、鋭い金の光を宿した瞳。
 感情というものが一切抜け落ち、ただそこにあるものを観察し、分析し、断罪する。そんな非情な光。

「ルナリアのリエルか」
 地を這うような低い声が、静寂を切り裂いた。僕はびくりと肩を震わせ、かろうじて頭を下げる。声が出ない。喉が張り付いて、うまく息もできなかった。

 皇帝はゆっくりと立ち上がると、長い脚で悠然とこちらへ歩いてくる。一歩近づかれるたびに、心臓が凍り付いていくような恐怖に襲われた。目の前で止まった皇帝は、僕の顎を無遠慮に掴み、顔を上向かせる。

「……なるほど。貢物にしては、見れる顔か」
 その言葉には、何の感情も籠っていなかった。まるで品定めをするように、僕の顔を検分する。その金色の瞳に映る僕は、ただの「物」だった。彼が僕を見ているのではない。彼が「道具」を見ているのだと、はっきりと分かった。

「今夜、床を共にしてもらう。番(つがい)の儀式だ」
 淡々と告げられた言葉に、僕は全ての望みを絶たれた。ああ、やはりそうなのか。儀式という名の、ただの義務。子を成せる体かどうかを確かめるための行為。そこに愛も情けも存在しない。

 掴まれた顎が痛い。しかし、それ以上に心が痛くて、叫びだしそうだった。
 カイロスは僕の反応など意にも介さず、興味を失ったように手を離すと、背を向けた。
「下がらせろ。夜になったら寝室へ連れてこい」

 側近の騎士にそう命じると、彼は二度と僕を振り返ることはなかった。
 残された僕は、ただその場で立ち尽くすしかなかった。
 死を覚悟していた。
 けれど、殺されるよりも残酷な現実が待っているのかもしれない。感情のない人形として、ただ利用されるだけの未来。
 冷たく、威圧的な皇宮の空気が、僕の体を芯から冷やしていく。
 もう、いっそ今すぐ殺してほしい。
 そんな虚しい願いだけが、胸の中で木霊していた。
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