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第4話:皇帝の戸惑い
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目の前の現実が信じられなかった。
運命の番だと? この、小国から送られてきた、怯えた小動物のようなΩが?
馬鹿な。おとぎ話はとうの昔に捨てたはずだ。愛も、絆も、運命も、全ては人を欺き、裏切るための甘言に過ぎない。そうやって生きてきた。そうでなければ、この血塗られた玉座で生き残ることなどできなかった。
しかし、この体中を駆け巡る熱はなんだ。胸の奥から突き上げてくる、このΩを誰にも渡したくないという猛烈な所有欲は。このか細い体を腕の中に閉じ込めて、守り抜きたいという強烈な庇護欲は。
本能が叫んでいる。「私のものだ」と。
「……っ、離して、ください……」
腕の中で、リエルがかすれた声で呟いた。その声にハッと我に返り、見れば、自分の腕がリエルの体を強く抱きしめていることに気づく。俺の強すぎるαのフェロモンに当てられて、リエルの青い瞳は涙で潤み、恐怖に染まっていた。
まずい。怯えさせている。
そう思うのに、腕を緩めることができない。一度手に入れた宝物を、手放すことなどできるものか。
理性が「離せ」と命じ、本能が「離すな」と吠える。二つの感情が頭の中で激しくせめぎ合い、俺は混乱の極みにいた。
「氷血皇帝」などと呼ばれてきた俺が、たった一人のΩを前にして、我を失いかけている。なんという無様な姿だ。
「……部屋を出ていけ」
苦し紛れに、俺はそう命じた。しかし、それはリエルに対してではない。部屋の隅に控えていた侍従たちに対してだ。彼らは俺の豹変ぶりに驚きながらも、慌てて部屋から退出していった。
静寂が戻った部屋で、俺はリエルと見つめ合う。先ほどまでの冷たい無関心は消え、俺の金色の瞳には戸惑いと激情が渦巻いていた。リエルはそんな俺の見たこともない表情に、さらに怯えを増している。
「あ……の……」
「黙れ」
遮るつもりが、きつい口調になってしまった。リエルの肩がまた小さく震える。違う、そんなことを言いたいわけじゃない。
俺は乱暴にリエルから体を離すと、ベッドの反対側まで後ずさった。そして、頭を抱える。
どうすればいい。この感情をどう処理すればいいのか、全く分からない。
人を信じないと誓った。愛など求めないと決めた。それなのに、神は、運命は、なぜ今になってこんな残酷な悪戯をするのだ。
リエルは、ベッドの端で体を縮こまらせ、ただ俺の様子を窺っている。その姿が、嵐に怯える小鳥のようで、無性に庇護欲を掻き立てられる。
守らなければ。俺が。
しかし、その感情を認めることが、これまでの自分を否定することに繋がりそうで恐ろしかった。
「……今夜は、何もせん」
やっとの思いで絞り出した声は、自分でも驚くほど硬かった。
「お前はそこで寝ろ。俺はあちらで寝る」
そう言って、俺は寝室に併設された長椅子の方へ向かう。
リエルに背を向けながらも、意識は全て背後の小さな存在に集中していた。あの甘い花の香りが、俺の理性を狂わせる。早くこの場から離れたかった。
長椅子に体を横たえ、目を閉じる。しかし、眠れるはずもなかった。
脳裏に焼き付いて離れない、涙に濡れた青い瞳。か細い体。そして、俺の本能を揺さぶる甘い香り。
カイロス、お前はどうかしてしまったのか。
自問自答を繰り返す長い夜が、始まった。
一方のリエルもまた、カイロスの理解不能な豹変に怯えながら、巨大なベッドの上で眠れぬ一夜を過ごすことになったのだった。
運命の番だと? この、小国から送られてきた、怯えた小動物のようなΩが?
馬鹿な。おとぎ話はとうの昔に捨てたはずだ。愛も、絆も、運命も、全ては人を欺き、裏切るための甘言に過ぎない。そうやって生きてきた。そうでなければ、この血塗られた玉座で生き残ることなどできなかった。
しかし、この体中を駆け巡る熱はなんだ。胸の奥から突き上げてくる、このΩを誰にも渡したくないという猛烈な所有欲は。このか細い体を腕の中に閉じ込めて、守り抜きたいという強烈な庇護欲は。
本能が叫んでいる。「私のものだ」と。
「……っ、離して、ください……」
腕の中で、リエルがかすれた声で呟いた。その声にハッと我に返り、見れば、自分の腕がリエルの体を強く抱きしめていることに気づく。俺の強すぎるαのフェロモンに当てられて、リエルの青い瞳は涙で潤み、恐怖に染まっていた。
まずい。怯えさせている。
そう思うのに、腕を緩めることができない。一度手に入れた宝物を、手放すことなどできるものか。
理性が「離せ」と命じ、本能が「離すな」と吠える。二つの感情が頭の中で激しくせめぎ合い、俺は混乱の極みにいた。
「氷血皇帝」などと呼ばれてきた俺が、たった一人のΩを前にして、我を失いかけている。なんという無様な姿だ。
「……部屋を出ていけ」
苦し紛れに、俺はそう命じた。しかし、それはリエルに対してではない。部屋の隅に控えていた侍従たちに対してだ。彼らは俺の豹変ぶりに驚きながらも、慌てて部屋から退出していった。
静寂が戻った部屋で、俺はリエルと見つめ合う。先ほどまでの冷たい無関心は消え、俺の金色の瞳には戸惑いと激情が渦巻いていた。リエルはそんな俺の見たこともない表情に、さらに怯えを増している。
「あ……の……」
「黙れ」
遮るつもりが、きつい口調になってしまった。リエルの肩がまた小さく震える。違う、そんなことを言いたいわけじゃない。
俺は乱暴にリエルから体を離すと、ベッドの反対側まで後ずさった。そして、頭を抱える。
どうすればいい。この感情をどう処理すればいいのか、全く分からない。
人を信じないと誓った。愛など求めないと決めた。それなのに、神は、運命は、なぜ今になってこんな残酷な悪戯をするのだ。
リエルは、ベッドの端で体を縮こまらせ、ただ俺の様子を窺っている。その姿が、嵐に怯える小鳥のようで、無性に庇護欲を掻き立てられる。
守らなければ。俺が。
しかし、その感情を認めることが、これまでの自分を否定することに繋がりそうで恐ろしかった。
「……今夜は、何もせん」
やっとの思いで絞り出した声は、自分でも驚くほど硬かった。
「お前はそこで寝ろ。俺はあちらで寝る」
そう言って、俺は寝室に併設された長椅子の方へ向かう。
リエルに背を向けながらも、意識は全て背後の小さな存在に集中していた。あの甘い花の香りが、俺の理性を狂わせる。早くこの場から離れたかった。
長椅子に体を横たえ、目を閉じる。しかし、眠れるはずもなかった。
脳裏に焼き付いて離れない、涙に濡れた青い瞳。か細い体。そして、俺の本能を揺さぶる甘い香り。
カイロス、お前はどうかしてしまったのか。
自問自答を繰り返す長い夜が、始まった。
一方のリエルもまた、カイロスの理解不能な豹変に怯えながら、巨大なベッドの上で眠れぬ一夜を過ごすことになったのだった。
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