実況配信中!没落オメガの通信魔術師と氷の騎士団長の契約結婚~迷宮の底でヒートしたら冷徹アルファの溺愛が始まった

水凪しおん

文字の大きさ
4 / 5

第3話「未踏破迷宮への第一歩」

しおりを挟む
 王国北部に位置する未踏破迷宮アビスロンドの入り口は、巨大な獣が口を大きく開けたような不気味な洞窟だった。
 太陽の光さえも拒絶するかのように、内部からは冷たく湿った風が絶え間なく吹き出している。
 風には古い土の匂いと、嗅覚を麻痺させるようなカビの臭い、そして微かな血の匂いが混じっていた。
 周囲の樹木は迷宮から漏れ出す魔力の影響を受け、黒くねじ曲がった奇妙な形に変異している。

 ルミナスは分厚い革の外套をしっかりと引き寄せ、足元のぬかるんだ土を踏みしめた。
 彼のすぐ数歩前には、抜けば冷気を放つような長剣を携えたレオンハルトが立っていた。
 その背中は岩山のように揺るぎなく、周囲の騎士たちも彼の存在に勇気づけられて隊列を整えていた。

「これよりアビスロンドへの進入を開始する。各自、油断するな」

 レオンハルトの低く通る声が響くと、騎士たちが一斉に剣の柄に手を当てた。
 ルミナスは背負っていた重い金属の鞄を下ろし、中から特殊な魔力通信端末を取り出した。
 銀色の細い円柱に複数の魔力水晶が埋め込まれたその装置は、ルミナスの独自設計によるものだった。
 彼は地面に膝をつき、端末の基部に指先を押し当てて静かに魔力を注ぎ込み始めた。

 青白い光の波紋が地面を這い、端末を中心に魔法陣が展開されていく。
 ルミナスの額に微かな汗が浮かんだ。
 空間の魔力濃度が高く、通常の術式ではすぐに霧散してしまうため、彼は自身の魔力を幾重にも編み込み、強靭な通信の糸を王都に向けて放った。

『術式安定。魔力波長、同調完了。これより映像と音声の転送を開始します』

 ルミナスが手元の小型水晶に向かって告げると、水晶の内部に王都の広場を映す小さな映像が浮かび上がった。
 そこには、巨大な水晶の前に集まり、息を呑んでこちらを見つめる数万人の群衆の姿があった。

「通信は無事に繋がったようだな。ルミナス、君は私の背後から絶対に離れるな」

 レオンハルトが振り返らずに短い指示を出した。

「了解しました」

 ルミナスは端末を胸の前に抱え、レオンハルトの歩みに合わせて迷宮の暗闇へと足を踏み入れた。
 松明の炎が頼りなく揺れ、石壁に不気味な影を落としている。
 入り口から数百歩も進まないうちに、暗がりの中から低く唸るような地鳴りが響いてきた。

 岩壁の一部が剥がれ落ちるように動き出し、泥と岩塊で構成された巨大な魔物が三体、巨体を揺らして姿を現した。
 泥岩のゴーレムだった。

「隊列を崩すな。私が道を切り開く」

 レオンハルトが前に出た瞬間、彼の手から放たれた銀色の剣閃が暗闇を切り裂いた。
 刃が空気を切る高い音とともに、先頭のゴーレムの太い腕が根元から両断され、重い音を立てて地面に落ちた。
 騎士たちが驚嘆の声を上げる暇もなく、レオンハルトは滑るような足運びで次のゴーレムの懐に飛び込み、その胸の奥にある魔石を正確に突き刺した。

 ルミナスは通信の魔力を維持しながら、その光景を冷静な目で観察していた。
 彼の手元にある小型水晶には、王都の視聴者たちの反応が文字として高速で流れ込んできていた。

『団長、速すぎる!』

『動きが見えなかったぞ!』

『これが王国最強の剣技か!』

 視聴者たちの熱狂が文字の向こうから伝わってくるようだった。
 しかし、ルミナスの目は別のものを捉えていた。
 独自の魔力解析能力が、迷宮の壁の奥深くを流れる不自然な魔力の脈動を視覚化していたのだ。

「レオンハルト様、上です! 天井の鍾乳石に擬態した魔物が七体、一斉に落下してきます!」

 ルミナスの鋭い声が響いた。
 レオンハルトは即座に反応し、剣を頭上に振り上げた。
 彼が床を蹴って跳躍すると同時に、天井から鋭い牙を持つ巨大なコウモリの魔物たちが雨のように降り注いできた。
 レオンハルトの剣から放たれた青い魔力の刃が空中で広がり、落下してきた魔物たちを次々と切り刻んでいった。
 黒い血の雨が降る中、レオンハルトは音もなく着地し、剣の血を払った。

「見事な索敵だ。気配は完全に消されていたはずだが」

 レオンハルトがわずかに驚きを交えた声でルミナスを振り返った。

「魔力の流れの歪みから位置を特定しました。私の目には、壁の向こうの魔石の光が透けて見えます」

 ルミナスが平坦な声で答えると、手元の水晶に視聴者たちからの新たな文字が激流のように流れ込んできた。

『おい、今の通信術師は何者だ!?』

『天井の伏兵に気付くなんてありえない!』

『ただの術師じゃないぞ、あの正確な指示!』

『団長とあの術師の連携、最高かよ!』

 王都の熱狂は一段と高まり、ルミナスの冷静な声とレオンハルトの圧倒的な武力の組み合わせに人々は魅了され始めていた。
 レオンハルトはルミナスを数秒間見つめた後、わずかに顎を引いて先を促した。

「頼りになる。このまま進むぞ」

 その言葉には、初対面の時にあった冷ややかな壁がほんの少しだけ薄らいだような響きがあった。
 ルミナスは静かに頷き、再び端末に魔力を注ぎ込んだ。
 順調な滑り出しに見えた。
 しかし、迷宮の奥へと足を進めるにつれて、ルミナスの身体に小さな異変が起き始めていた。
 深く淀んだ空気の中に混ざる、毒のような微かな瘴気。
 それが呼吸のたびに肺の奥底へと入り込み、ルミナスが必死に薬で抑え込んでいたオメガとしての本能を、冷たい指先で撫でるように刺激していた。

 指先がわずかに震え、首筋に嫌な汗がにじむ。
 ルミナスは誰にも気づかれないように深く息を吸い込み、奥歯を強く噛み締めてその感覚を無理やり胃の底へと押し込めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

オメガだと隠して地味なベータとして生きてきた俺が、なぜか学園最強で傲慢な次期公爵様と『運命の番』になって、強制的にペアを組まされる羽目に

水凪しおん
BL
この世界では、性は三つに分かたれる。支配者たるアルファ、それに庇護されるオメガ、そして大多数を占めるベータ。 誇り高き魔法使いユキは、オメガという性を隠し、ベータとして魔法学園の門をくぐった。誰にも見下されず、己の力だけで認められるために。 しかし彼の平穏は、一人の男との最悪の出会いによって打ち砕かれる。 学園の頂点に君臨する、傲慢不遜なアルファ――カイ・フォン・エーレンベルク。 反発しあう二人が模擬戦で激突したその瞬間、伝説の証『運命の印』が彼らの首筋に発現する。 それは、決して抗うことのできない魂の繋がり、『運命の番』の証だった。 「お前は俺の所有物だ」 傲慢に告げるカイと、それに激しく反発するユキ。 強制的にペアを組まされた学園対抗トーナメント『双星杯』を舞台に、二人の歯車は軋みを上げながらも回り出す。 孤独を隠す最強のアルファと、運命に抗う気高きオメガ。 これは、反発しあう二つの魂がやがて唯一無二のパートナーとなり、世界の理をも変える絆を結ぶまでの、愛と戦いの物語。

隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました

水凪しおん
BL
※オメガバース設定。激しい戦闘描写や、執着攻めによるマーキング描写、軽度の性的な接触の描写がありますので、15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 汚染された惑星を浄化する生体兵器『機装(ギア)』。 その搭乗者は優れた能力を持つ『アルファ』に限られ、彼らの精神を安定させる鎮静剤として『オメガ』が存在する世界。 整備士のエリアンは、オメガであることを隠し、ベータと偽って軍の最前線で働いていた。 オメガは道具のように扱われるこの社会で、自由を守るための必死の嘘だった。 だがある日、軍最強のエリートパイロット・クレイドの機装が暴走する事故に遭遇する。 死を覚悟して止めに入ったエリアンだったが、暴走する機体はなぜか彼にだけ反応し、沈静化した。 それは、隠していたオメガのフェロモンが、クレイドと強烈な『共鳴』を起こした瞬間だった。 「見つけた。俺の対になる存在を」 正体がバレたと戦慄するエリアンに対し、冷徹なはずのクレイドが向けたのは、処罰ではなく執着に満ちた熱い視線で……? 孤独なエリート騎士×身分を隠した健気な整備士。 星の命運と本能が交錯する、近未来SFオメガバース!

虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした

水凪しおん
BL
貧しい村で育った隠れオメガのリアム。彼の運命は、冷酷無比と噂される『銀薔薇の公爵』アシュレイと出会ったことで、激しく動き出す。 強大な魔力の呪いに苦しむ公爵にとって、リアムの持つ不思議な『浄化』の力は唯一の希望だった。道具として屋敷に囚われたリアムだったが、氷の仮面に隠された公爵の孤独と優しさに触れるうち、抗いがたい絆が芽生え始める。 「お前は、俺だけのものだ」 これは、身分も性も、運命さえも乗り越えていく、不器用で一途な二人の成り上がりロマンス。惹かれ合う魂が、やがて世界の理をも変える奇跡を紡ぎ出す――。

繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました

こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。毎日18時50分公開予定です

捨てられΩの癒やしの薬草、呪いで苦しむ最強騎士団長を救ったら、いつの間にか胃袋も心も掴んで番にされていました

水凪しおん
BL
孤独と絶望を癒やす、運命の愛の物語。 人里離れた森の奥、青年アレンは不思議な「浄化の力」を持ち、薬草を育てながらひっそりと暮らしていた。その力を気味悪がられ、人を避けるように生きてきた彼の前に、ある嵐の夜、血まみれの男が現れる。 男の名はカイゼル。「黒き猛虎」と敵国から恐れられる、無敗の騎士団長。しかし彼は、戦場で受けた呪いにより、αの本能を制御できず、狂おしい発作に身を焼かれていた。 記憶を失ったふりをしてアレンの元に留まるカイゼル。アレンの作る薬草茶が、野菜スープが、そして彼自身の存在が、カイゼルの荒れ狂う魂を鎮めていく唯一の癒やしだと気づいた時、その想いは激しい執着と独占欲へ変わる。 「お前がいなければ、俺は正気を保てない」 やがて明かされる真実、迫りくる呪いの脅威。臆病だった青年は、愛する人を救うため、その身に宿る力のすべてを捧げることを決意する。 呪いが解けた時、二人は真の番となる。孤独だった魂が寄り添い、狂おしいほどの愛を注ぎ合う、ファンタジック・ラブストーリー。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた

雪兎
BL
あらすじ 全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。 相手は学年でも有名な優等生α。 成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに—— めちゃくちゃ塩対応。 挨拶しても「……ああ」。 話しかけても「別に」。 距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。 (俺、そんなに嫌われてる……?) 同室なのに会話は最低限。 むしろ避けられている気さえある。 けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、 その塩対応αだった。 しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。 「……他のαに近づくな」 「お前は俺の……」 そこで言葉を飲み込む彼。 それ以来、少しずつ態度が変わり始める。 距離は相変わらず近くない。 口数も少ない。 だけど―― 他のαが近づくと、さりげなく間に入る。 発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。 そして時々、独占欲を隠しきれない視線。 実は彼はずっと前から知っていた。 俺が、 自分の運命の番かもしれないΩだということを。 だからこそ距離を取っていた。 触れたら、もう止まれなくなるから。 だけど同室生活の中で、 少しずつ、確実に距離は変わっていく。 塩対応の裏に隠されていたのは―― 重すぎるほどの独占欲だった。

処理中です...