10 / 23
第9話:公爵様の独占欲
しおりを挟む
「これはこれは、クラーヴァイン公爵。ごきげんよう」
カイ王子は、シリウスの殺気にも臆することなく、ひらひらと手を振ってみせた。その態度は、火に油を注ぐだけだと何故わからないのか。
「ランカスター王子。私の婚約者に、何か用かな?」
シリウスの声は、絶対零度の冷たさだ。婚約者、という言葉がやけに強く響く。
「いやあ、アレンと少し話をしていただけさ。なあ、アレン?」
カイが同意を求めるように俺に笑いかけるが、俺は頷くこともできなかった。シリウスの瞳が、俺を射殺さんばかりに睨んでいる。
(演技……そうだ、これは演技だ!)
俺は必死に自分に言い聞かせた。シリウスは、俺という監視対象が他の権力者(カイ王子)と親しくなるのが面白くないんだ。だから、こうして「所有権」を主張して、牽制しているに違いない。さすが公爵様、演技も板についてきたな、なんて見当違いな感心をしてみる。
「アレン、帰るぞ」
シリウスは俺の腕を強く掴むと、有無を言わさずにその場から引き離した。カイ王子が後ろで「またな、アレン!」と叫んでいるのが聞こえたが、振り返る余裕はなかった。
公爵邸に帰る馬車の中は、これまでで最も重苦しい沈黙に包まれていた。
邸に着き、自室に戻ろうとする俺を、シリウスが引き止める。
「私の部屋に来い」
「え……」
断れる雰囲気ではなかった。俺は大人しく、彼が執務に使っている部屋へとついていく。
部屋に入るなり、シリウスは俺を壁際に追い詰め、ドン、と両手で壁をついた。いわゆる壁ドンというやつだが、少女漫画のような甘い雰囲気は皆無だ。
「なぜ、あんな男と二人きりでいた」
「ち、違います! あれはカイ王子が一方的に……」
「言い訳は聞きたくない」
銀色の瞳が、すぐ間近で俺を捉える。その瞳に宿るのは、俺が今まで見たこともないほど、激しい独占欲の色だった。
「お前が他のアルファの匂いをつけているのは、我慢ならない」
「匂い……?」
そう言われて初めて、カイ王子からもらった薔薇をまだ手に持っていることに気づいた。そして、彼と間近で話したせいで、彼のフェロモンが俺の服に微かに移ってしまったのかもしれない。
「これからは、私以外のアルファに軽々しく近づくな。いいな」
「で、でも、学園では……」
「返事は?」
有無を言わせぬその声に、俺は「……はい」と答えるしかなかった。
すると、シリウスはふっと表情を和らげ、俺の首筋に顔を埋めた。
「ひっ……!?」
「心配するな。少し、印をつけるだけだ」
そう囁くと、彼は俺のうなじに、ガブリと強く噛みついた。鋭い痛みが走り、思わず声が漏れる。
「いっ……! あ……!」
痛みと同時に、彼のフェロモンが体の中に直接流れ込んでくるような感覚に襲われた。体が熱い。頭がぼうっとする。
やがて彼が顔を離した時、俺のうなじには、オメガの体に刻まれる「仮の番」の徴が、くっきりと残されていた。これがあれば、他のアルファは俺に手出しできなくなるという。
「これで、お前が私のものだと誰の目にも明らかだ」
満足そうに笑うシリウスを見て、俺は恐怖で震えていた。
演技にしては、やりすぎじゃないか? この人の独占欲は、もしかして本物なんじゃないか?
そんな疑念が、初めて俺の頭をよぎった瞬間だった。
カイ王子は、シリウスの殺気にも臆することなく、ひらひらと手を振ってみせた。その態度は、火に油を注ぐだけだと何故わからないのか。
「ランカスター王子。私の婚約者に、何か用かな?」
シリウスの声は、絶対零度の冷たさだ。婚約者、という言葉がやけに強く響く。
「いやあ、アレンと少し話をしていただけさ。なあ、アレン?」
カイが同意を求めるように俺に笑いかけるが、俺は頷くこともできなかった。シリウスの瞳が、俺を射殺さんばかりに睨んでいる。
(演技……そうだ、これは演技だ!)
俺は必死に自分に言い聞かせた。シリウスは、俺という監視対象が他の権力者(カイ王子)と親しくなるのが面白くないんだ。だから、こうして「所有権」を主張して、牽制しているに違いない。さすが公爵様、演技も板についてきたな、なんて見当違いな感心をしてみる。
「アレン、帰るぞ」
シリウスは俺の腕を強く掴むと、有無を言わさずにその場から引き離した。カイ王子が後ろで「またな、アレン!」と叫んでいるのが聞こえたが、振り返る余裕はなかった。
公爵邸に帰る馬車の中は、これまでで最も重苦しい沈黙に包まれていた。
邸に着き、自室に戻ろうとする俺を、シリウスが引き止める。
「私の部屋に来い」
「え……」
断れる雰囲気ではなかった。俺は大人しく、彼が執務に使っている部屋へとついていく。
部屋に入るなり、シリウスは俺を壁際に追い詰め、ドン、と両手で壁をついた。いわゆる壁ドンというやつだが、少女漫画のような甘い雰囲気は皆無だ。
「なぜ、あんな男と二人きりでいた」
「ち、違います! あれはカイ王子が一方的に……」
「言い訳は聞きたくない」
銀色の瞳が、すぐ間近で俺を捉える。その瞳に宿るのは、俺が今まで見たこともないほど、激しい独占欲の色だった。
「お前が他のアルファの匂いをつけているのは、我慢ならない」
「匂い……?」
そう言われて初めて、カイ王子からもらった薔薇をまだ手に持っていることに気づいた。そして、彼と間近で話したせいで、彼のフェロモンが俺の服に微かに移ってしまったのかもしれない。
「これからは、私以外のアルファに軽々しく近づくな。いいな」
「で、でも、学園では……」
「返事は?」
有無を言わせぬその声に、俺は「……はい」と答えるしかなかった。
すると、シリウスはふっと表情を和らげ、俺の首筋に顔を埋めた。
「ひっ……!?」
「心配するな。少し、印をつけるだけだ」
そう囁くと、彼は俺のうなじに、ガブリと強く噛みついた。鋭い痛みが走り、思わず声が漏れる。
「いっ……! あ……!」
痛みと同時に、彼のフェロモンが体の中に直接流れ込んでくるような感覚に襲われた。体が熱い。頭がぼうっとする。
やがて彼が顔を離した時、俺のうなじには、オメガの体に刻まれる「仮の番」の徴が、くっきりと残されていた。これがあれば、他のアルファは俺に手出しできなくなるという。
「これで、お前が私のものだと誰の目にも明らかだ」
満足そうに笑うシリウスを見て、俺は恐怖で震えていた。
演技にしては、やりすぎじゃないか? この人の独占欲は、もしかして本物なんじゃないか?
そんな疑念が、初めて俺の頭をよぎった瞬間だった。
232
あなたにおすすめの小説
悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。
それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。
家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。
そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。
ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。
誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。
「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。
これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
「嵐を呼ぶ」と一族を追放された人魚王子。でもその歌声は、他人の声が雑音に聞こえる呪いを持つ孤独な王子を癒す、世界で唯一の力だった
水凪しおん
BL
「嵐を呼ぶ」と忌み嫌われ、一族から追放された人魚の末王子シオン。
魔女の呪いにより「他人の声がすべて不快な雑音に聞こえる」大陸の王子レオニール。
光の届かない深海と、音のない静寂の世界。それぞれの孤独を抱えて生きてきた二人が、嵐の夜に出会う。
シオンの歌声だけが、レオニールの世界に色を与える唯一の美しい旋律だった。
「君の歌がなければ、私はもう生きていけない」
それは、やがて世界の運命さえも揺るがす、あまりにも切なく甘い愛の物語。
歌声がつなぐ、感動の異世界海洋ファンタジーBL、開幕。
冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。
水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。
国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。
彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。
世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。
しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。
孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。
これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。
帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。
偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。
オメガだと隠して魔王討伐隊に入ったら、最強アルファ達に溺愛されています
水凪しおん
BL
前世は、どこにでもいる普通の大学生だった。車に轢かれ、次に目覚めた時、俺はミルクティー色の髪を持つ少年『サナ』として、剣と魔法の異世界にいた。
そこで知らされたのは、衝撃の事実。この世界には男女の他に『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性が存在し、俺はその中で最も希少で、男性でありながら子を宿すことができる『オメガ』だという。
アルファに守られ、番になるのが幸せ? そんな決められた道は歩きたくない。俺は、俺自身の力で生きていく。そう決意し、平凡な『ベータ』と身分を偽った俺の前に現れたのは、太陽のように眩しい聖騎士カイル。彼は俺のささやかな機転を「稀代の戦術眼」と絶賛し、半ば強引に魔王討伐隊へと引き入れた。
しかし、そこは最強のアルファたちの巣窟だった!
リーダーのカイルに加え、皮肉屋の天才魔法使いリアム、寡黙な獣人暗殺者ジン。三人の強烈なアルファフェロモンに日々当てられ、俺の身体は甘く疼き始める。
隠し通したい秘密と、抗いがたい本能。偽りのベータとして、俺はこの英雄たちの中で生き残れるのか?
これは運命に抗う一人のオメガが、本当の居場所と愛を見つけるまでの物語。
「禍の刻印」で生贄にされた俺を、最強の銀狼王は「ようやく見つけた、俺の運命の番だ」と過保護なほど愛し尽くす
水凪しおん
BL
体に災いを呼ぶ「禍の刻印」を持つがゆえに、生まれた村で虐げられてきた青年アキ。彼はある日、不作に苦しむ村人たちの手によって、伝説の獣人「銀狼王」への贄として森の奥深くに置き去りにされてしまう。
死を覚悟したアキの前に現れたのは、人の姿でありながら圧倒的な威圧感を放つ、銀髪の美しい獣人・カイだった。カイはアキの「禍の刻印」が、実は強大な魔力を秘めた希少な「聖なる刻印」であることを見抜く。そして、自らの魂を安定させるための運命の「番(つがい)」として、アキを己の城へと迎え入れた。
贄としてではなく、唯一無二の存在として注がれる初めての優しさ、温もり、そして底知れぬ独占欲。これまで汚れた存在として扱われてきたアキは、戸惑いながらもその絶対的な愛情に少しずつ心を開いていく。
「お前は、俺だけのものだ」
孤独だった青年が、絶対的支配者に見出され、その身も魂も愛し尽くされる。これは、絶望の淵から始まった、二人の永遠の愛の物語。
VRMMOで追放された支援職、生贄にされた先で魔王様に拾われ世界一溺愛される
水凪しおん
BL
勇者パーティーに尽くしながらも、生贄として裏切られた支援職の少年ユキ。
絶望の底で出会ったのは、孤独な魔王アシュトだった。
帰る場所を失ったユキが見つけたのは、規格外の生産スキル【慈愛の手】と、魔王からの想定外な溺愛!?
「私の至宝に、指一本触れるな」
荒れた魔王領を豊かな楽園へと変えていく、心優しい青年の成り上がりと、永い孤独を生きた魔王の凍てついた心を溶かす純愛の物語。
裏切り者たちへの華麗なる復讐劇が、今、始まる。
美人なのに醜いと虐げられる転生公爵令息は、婚約破棄と家を捨てて成り上がることを画策しています。
竜鳴躍
BL
ミスティ=エルフィードには前世の記憶がある。
男しかいないこの世界、横暴な王子の婚約者であることには絶望しかない。
家族も屑ばかりで、母親(男)は美しく生まれた息子に嫉妬して、徹底的にその美を隠し、『醜い』子として育てられた。
前世の記憶があるから、本当は自分が誰よりも美しいことは分かっている。
前世の記憶チートで優秀なことも。
だけど、こんな家も婚約者も捨てたいから、僕は知られないように自分を磨く。
愚かで醜い子として婚約破棄されたいから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる