地味なβのふりをする僕。ある日助けたのは憧れのαだった。記憶を失った彼は僕にだけ懐き甘えてくるが、その瞳の奥には強すぎる独占欲が宿っていて…

水凪しおん

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第20話「ひまわり畑の約束、再び」

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 夏が、再びやってきた。
 日差しは強く、空はどこまでも青く澄み渡っている。
 大学は夏休みに入り、キャンパスは少しだけ静かになった。
 そんなある日、蓮が僕に言った。

「湊、旅行に行かないか?」

「旅行? どこに?」

「決まってるだろ」

 蓮は、にやりと笑って言った。

「俺たちの、始まりの場所へ」

 僕たちは新幹線に乗って、長野へと向かった。
 窓の外を流れる景色は、緑が日に日に濃くなっていく。
 蓮と二人きりの、初めての旅行。
 僕の心は、期待でふわりと浮き足立っていた。

 長野の駅に降り立つと、都会とは違うむわりとした草の匂いが僕たちを包み込んだ。
 僕の、祖父の家。
 前回、健太と訪れた時は僕の心は不安と絶望でいっぱいだった。
 けれど今は違う。
 僕の隣には蓮がいる。ただそれだけで、見る景色すべてが輝いて見えた。

 家の掃除を済ませ荷物を置くと、僕たちは手をつないで外に出た。

「行こうか」

 蓮が僕の手を、優しく引く。
 目指す場所は、一つしかない。
 あの、ひまわり畑だ。

 田んぼのあぜ道を、ゆっくりと歩く。
 聞こえてくるのはカエルの鳴き声と、風が稲を揺らす音だけ。
 穏やかな時間が流れていく。
 やがて、僕たちの目の前に一面の黄色い絨毯が広がった。
 ひまわりだ。
 何千、何万という数のひまわりが太陽に向かって、誇らしげにその大きな花を咲かせている。

「…すごい…」

 僕は息をのんだ。
 幼い頃に見た光景よりも、ずっと美しくて壮大に見える。
 それはきっと、僕の隣に蓮がいるからだろう。

 僕たちはひまわり畑の中の細い小道を、ゆっくりと歩いた。
 背の高いひまわりに囲まれて、まるで迷路の中にいるみたいだ。

「覚えてるか、湊」

 蓮が、立ち止まって言った。

「ここで、俺たち、かくれんぼしたよな。お前、すぐに見つかっちゃうのに、全然懲りなくて」

「う…うるさいな。君が、見つけるのが上手すぎたんだよ」

 僕は少しむきになって、言い返した。
 幼い頃の記憶が、次々と鮮やかに蘇ってくる。
 二人で秘密基地を作ったこと。
 沢蟹を夢中になって捕まえたこと。
 転んで泣いた僕を、彼が慰めてくれたこと。
 すべてが昨日のことのように、思い出された。

 僕たちは畑の真ん中にある、一本の大きな木の下で腰を下ろした。
 そこは、幼い僕たちのお気に入りの場所だった。

「ここで、約束したんだよな」

 蓮が空を見上げながら、つぶやいた。

『大人になったら、結婚しよう』

 幼い僕たちが指切りをして交わした、約束。
 僕は隣に座る蓮の横顔を、じっと見つめた。
 彼は僕の視線に気づくと、こちらに向き直り僕の頬にそっと手を伸ばした。
 そして真剣な眼差しで僕を見つめて、言った。

「湊。あの時の約束、まだ覚えてるか?」

「…うん」

「俺は、本気だった。今も、その気持ちは変わらない」

 彼の言葉に、僕の心臓が大きく高鳴った。

「大学を卒業したら、俺と、結婚してほしい」

 それは、プロポーズだった。
 あまりにもストレートで、まっすぐな彼の言葉。
 僕は驚きと喜びで、声が出なかった。
 ただ涙が、後から後から溢れてくる。

「…返事は?」

 蓮が少し、不安そうな顔で僕の顔をのぞき込む。
 僕は涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、精一杯の力でうなずいた。

「…はい。喜んで…」

 その言葉を聞いた瞬間、蓮の顔がぱっと輝いた。
 彼は僕を、力強く抱きしめた。
 ひまわりに囲まれて、僕たちは何度も、何度もキスを交わした。
 ひまわりの青い匂いと、太陽の匂い、そして蓮の匂い。
 すべてが僕の、一生の宝物になった。

 ひまわり畑の約束が、今、再び果たされようとしている。
 僕たちの運命は、この場所から始まりそしてこの場所で、永遠のものとなったのだ。
 もう、何も怖くない。
 彼と一緒なら、どこへだって行ける。
 僕は彼の腕の中で、夏の太陽よりも眩しいほどの幸せを感じていた。
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